WARD LIVE MEDIA PORTAL

オロフ・ヴィクストランド
(Enforcer)
独占インタビュー

時間はいずれ自分の体を食い尽くし
知っていたことなどすべてが消えてしまう
つまり、過去への思い、自分の周囲のものは
すべて変わってしまうのだ

                                   

ご購入はこちら

文:川嶋未来

スウェーデンのヘヴィメタル・バンド、エンフォーサーがニュー・アルバムをリリース。ということで、リーダーで

ヴォーカル/ギタリストのオロフに話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『ノスタルジア』がリリースになります。特に前作『ゼニス』と比較した場合、どんなアルバムになっていると言えるでしょう。

 

オロフ:それはとても面白い観点だな。『ゼニス』はそれぞれの曲が突出していて、どれも違っているというアルバムだった。だから、寄せ集めみたいな感じがあったけれど、今回はアルバムを作り始める前から、すべての曲がシングルとして発表できるような、一貫性のある作品にしたいと思っていた。どの曲もヒットになるような、激しいアルバムにしたかったんだ。前作ではアルバム全体の構成が考えられていて、山や谷があって。映画みたいにね。だけど今回は、ドカン、ドカン、ドカンみたいな感じ。どの曲もパンクっぽいヴァイブがある、短いものばかり。展開は3つだけでドカン、ドカンって。そこが一番の違いかな。だけど、どちらのアルバムもエンフォーサーらしいし、どちらも誇りに思っているよ。確かに2枚のアルバムは少々違うけれどね。

 

ー 前回のインタビューでは、EPを何枚かリリースし、それを集めてアルバムとしてリリースすることも考えているということでしたが。

 

オロフ:そう、最初はそういうアイデアだった。だけど、途中でレコード会社から、普通のアルバムを作って欲しいと言われてね。EPとしてリリースするために、何曲かは録音したのだけど、それらをEPにする代わりにアルバムの基盤とした。それからたくさんの曲を録音して、アルバムになったんだよ。

 

ー これらのレコーディングはパンデミック中に行われたと思いますが、何か影響はありましたか。

 

オロフ:うーん、スウェーデンの状況はそれほどでもなかったからね。ロックダウンもなかったから、他のメンバーと会うこともできた。だけど、ドラマーである俺の弟はアメリカに住んでいるからね。彼は大変だったと思う。レコーディング自体はパンデミックが終わってからやったのだけれど、曲作りはパンデミック中にやったから、前作とは違うやり方になった。前回はリハーサル場所にみんなで集まって、曲を作っていったから。今回はデモを作ってそれを他のメンバーに送ってフィードバックをもらうという形。どちらのやり方が有利、不利ということはないのだけれど、今回はもっと曲全体として仕上げられたというのかな。これまでのアルバムでは、まず曲を最初に仕上げて、そこにヴォーカル・ラインを乗せるというやり方だった。だけど、今回は極初期の段階からヴォーカル・ラインを乗せることができたから、「この曲はどんなヴォーカルが合うだろう?」みたいに、よく考えることができたよ。だから、今回のアルバムではヴォーカル・パートも多い。それぞれの展開でヴォーカルを考えることができたからね。曲が出来上がった後に、曲全体としてヴォーカル・ラインをどうしようと考えるというやり方ではなかったから。とてもヴォーカル中心の作品になっていて、フックがあってキャッチー。仕上がりには凄く満足しているよ。

 

ー 今回のアルバムに何かまったく新しい要素はあると思いますか。

 

オロフ:いや、ない。『ゼニス』には以前やったことない要素が色々と入っていたけれど、今回はもっと安全サイドというか、新たなサウンドというのは求めていなかった。だけど、エンフォーサーのサウンドというのはとても広いもので、バロック音楽、ジャズ、ポップス、カントリー、ブルーグラスと、どんなものからもインスピレーションを受けているからね。もちろんその基盤となるのは75年〜85年のヘヴィメタルだけれど。すでにあらゆるサウンドの実験をしてきたから、今回新しい要素というのはないと思うな。

 

ー 前作がバラエティに富んでいた作品なのに対し、今回安全サイドを志した理由は何かあるのでしょうか。

 

オロフ:安全サイドというか、今回は6-7分もあるエピックでプログレッシヴな楽曲ではなく、ヒットソングという形態を目指したということ。前作ではアルバム全体としての構成にフォーカスしていたけれど、エンフォーサーを聴く多くのファンは、シングルになるような曲が好きみたいなんだ。それで、「12のシングル曲を作って、アルバムとしてリリースしよう」みたいな感じになった。

 

 

ー 「アンシャックル・ミー」などは、80年代のLAのバンドを彷彿とさせると思いました。

 

オロフ:あの曲を書いた時、どんなことを考えていただろう。メインのリフはPokolgépで、それからデフ・レパードの『High ’n’ Dry』があって(笑)。むしろ1982年のNWOBHMみたいな感じだと思うよ。エンディングのシンセの雰囲気は、LAっぽいかもしれないけれど、もともとのアイデアはイギリス風さ。あ、でもヴァン・ヘイレンからのインスピレーションはあったな。

 

ー 今回ベーシストが交代になっています。トビアスは何故バンドを抜けたのでしょう。

 

オロフ:おそらくレコーディングをしてツアーをしてという繰り返し以外のことをやりたくなったのだと思う。以前はそういう生活が好きだったみたいだけれどね。それは理解できるよ。それにエンフォーサーはほぼ俺のクリエティブなアウトプットだから。長い目でみれば、何らかのリターンが無ければ、自分の人生を他人のアウトプットのために捧げたくはないだろうし。

 

ー 新ベーシストのガースについてはいかがですか。

 

オロフ:彼は最高のベーシストだよ。バンドにポジティブなエネルギーをもたらしてくれるし、ベーシストとしてのテクニックも物凄い。トビアスも素晴らしいベーシストだったけれど、彼と同じくらい素晴らしいよ。エネルギーがとてもあって、彼が加わったことでバンドがこれまでにないくらい楽しくなったよ。

 

ー アルバムのタイトル『ノスタルジア』にはどのような意味が込められているのでしょう。

 

オロフ:これは年をとってきたことに関係がある。今年で47になるのだけれど、人生のある時点に達した時に、自分の人生は無限ではないということに気づく。20代の初めの頃は、自分は永遠に生きて不死身のように感じているものだけれど、ある時「もう人生の半分を過ぎてしまったんだ。時間はどんどんなくなっていく」と気づくんだ。時間はいずれ自分の体を食い尽くし、知っていたことなどすべてが消えてしまう。つまり、過去への思い、自分の周囲のものはすべて変わってしまうのだ、ということがこのタイトルには込められている。

 

 

 

ー 歌詞を読んでいて、死への恐怖というものを強く感じましたが、それがテーマの一つだと言うことでしょうか。

 

オロフ:そう言えるだろう。「ハートビーツ」でもそのテーマを扱っているし。他にも存在について問う曲もある。まあ、多くの曲は相変わらずヘヴィメタル・アンセムだけれどね(笑)。つまり、ハイとロウがある内容ということさ。

 

ー 「ホワイト・ライツ・イン・ザ・USA」などは典型的なヘヴィメタル・アンセムですね。

 

オロフ:そう。アメリカ・ツアーの話さ。アメリカはさんざんツアーをしたけれど、ショウをやって、バスに荷物を積み込んで、次の街ヘ行ってと、同じことを何度も何度も繰り返す(笑)。まるで終わりがないみたいにね。

 

ー 「メタル・スプレマシア」はスペイン語で歌われていますが、何故スペイン語を使ったのでしょう。

 

オロフ:スペイン語で歌ってみるのも面白いと思ってね。スペインの音楽をたくさん聴いていた時期もあったし、数年間スペイン語も勉強しているんだ。英語以外の言語で歌ってみるのもチャレンジだと思って。ありきたりの内容を、ありきたりでなく歌えるから興味深いよ。

 

ー 具体的にスペインのメタル・バンドから影響はあったのですか。

 

オロフ:歌詞の面ではね。まあでも、スペイン語で歌うと、曲自体が普通であってもユニークなサウドになるから。スペイン語で歌うことが、ありきたりな曲を作る言い訳になるのさ(笑)。これが英語だったら、「ふーん」という感じだろうけれど、スペイン語で歌うことで少々スペシャルなものにできるんだ。

 

ー アートワークは何を表現しているのでしょう。

 

オロフ:タイトルの『ノスタルジア』と関係しているもので、死神が宇宙の入った砂時計を持っている。砂時計は、宇宙がいつか最期を迎えるということを表現しているんだ。それに、死神自体も空間の中に消えかかっていっているのがわかるだろう。

 

 

ー 2021年のインタビューでは、あなたはヘヴィメタル・シーンのあり方にとても悲観的な感じでした。それは今も変わらないでしょうか。

 

オロフ:長い目で見た場合、ヘヴィメタル・シーンを破壊してしまうようなトレンドがあることは確かだ。最も問題なのは、ヨーロッパではベテラン・バンドが若いバンドにチャンスを与えないこと。音楽自体ではなく、ただノスタルジーばかりが重要視される。大きなフェスティヴァルでは毎年毎年同じようなバンドばかりがプレイして、若いバンドはチャンスをもらえない。俺たちはアルバムの売り上げも、ストリーミングの数も多い。だけど、そんなことは関係なくて、若いバンドはヨーロッパでは真剣に受け止めてもらえないのさ。誰もフォローしていなかったような80年代のバンドが再結成して、突如あらゆるフェスティヴァルなんかに参加し始める。完全にノスタルジーだよ。とても腹が立つ。こんなことをしていたら、ヘヴィメタルはいずれ死に絶えてしまう。プロモーターが若いバンドにもチャンスを与え、ヘヴィメタルをメインストリームに復活させる手助けをしなければね。今俺たちはアンダーグランドに押しやられている。それはそれで構わないのだけれど、今の俺たちは80年代のメタリカやアイアン・メイデンに負けないバンドだと思う。だけど、誰もそれを見ようとせず、過去ばかり振り返っている。それが問題なんだよ。一方で、前回のインタビュー以降、俺たちもブレイクしている。すべてのショウ、ツアーが大成功なんだ。去年ヨーロッパ・ツアーをやって、今ちょうど南米ツアーから帰ってきたところだけれど、どのショウも満員だった。これはポジティブな面。こうやってアンダーグラウンドで人気になるのは素晴らしいけれど、自分たちにふさわしいもっと大きなロック・シーンで認知をされたいという気持ちもあるよ。

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

オロフ:また日本に行くのを楽しみにしているよ。前作がリリースされた時は、パンデミックのせいで行けなかったからね。ぜひまたみんなに会えるのを楽しみにしている。

 

文 川嶋未来


 

ご購入はこちら

2023年5月5日発売

Enforcer

『Nostalgia』

CD

【CD収録曲】

  1. アルマゲドン:
  2. アンシャックル・ミー
  3. カミング・アライヴ
  4. ハートビーツ
  5. デーモン
  6. キス・オブ・デス
  7. ノスタルジア
  8. ノー・トゥモロー
  9. アット・ジ・エンド・オブ・ザ・レインボー
  10. メタル・スプレマシア
  11. ホワイト・ライツ・イン・ザ・USA
  12. キープ・ザ・フレイム・アライヴ
  13. ホエン・ザ・サンダー・ロアーズ (クロス・ファイア)

 

【メンバー】
オロフ・ヴィクストランド (ヴォーカル/ギター)
ジョナサン・ノルドウォール (ギター)
ガース・コンディット (ベース)
ヨナス・ヴィクストランド (ドラムス)