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デイヴィッド・エレフソン
(Dieth)
独占インタビュー

自分たちの中にこんな音楽があったとは
知らなかったものを作り出したのさ
どれもこの1年で作り上げられた
まったく新しい音楽だよ

                                   

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文:川嶋未来 写真:MaciejPieloch

元メガデスのデイヴィッド・エレフソン(B, Vo)、元エントゥームド A.D.のギリェルメ・ミランダ(G, Vo)、元ディキャピテイテッドのミハル・リセイコ(Dr)が結成した新バンド、ダイエス がデビュー・アルバムをリリース!ということで、エレフソンに色々と話を聞いてみた。

 

 

ー まず、バンド名の発音を教えてもらえますか。ダイエスで良いのでしょうか。

 

デイヴィッド:そう、ダイエス。シェイクスピアとか、キングス・イングリッシュで言うダイエス(笑)。

 

ー つまり”die”の古い活用形である”dieth”?

 

デイヴィッド:そう、その通り。そのコンテクストは、去年の4月に「 イン・ザ・ホール・オブ・ザ・ハンギング・サーペンツ」のビデオを録った時に、空に向かってシェイクスピア風に言ったんだよ。「人は生まれ変わるために死ななければならぬ!」って。つまり、先に進むためには古い自分を捨て、過去の扉を閉めなくてはならない。新しい人生を始めるためにね。そもそもこのバンドの成り立ちが、そういうものだったんだ。ギリェルメが最初に俺に曲を送ってきた時に、俺たちは3人とも人生の過渡期にあるということがわかった。それぞれエントゥームド A.D.、ディキャピテイテッド、メガデスを辞めててね。22年の1月は、俺たち3人全員にとって新しい始まりだったんだ。”dieth”という言葉は、実はポジティヴな意味で使われている。過去を捨て、生まれ変わるという意味でね。

 

ー そもそも新しいバンドをやろうというのは、ギリェルメのアイデアだったのでしょうか。

 

デイヴィッド:もともとはそう。最初の曲を書いたのは彼だし、彼がバンドのメイン・コンポーザーだと考えているよ。俺も曲や歌詞を提供しているけれど、彼がメインで曲を書いているし、バンドのサウンドのまとめ役なんだ。彼が最初の曲を送ってきて、実際どのような出来になるか想像もつかなかったのだけれど、ミックスしてみたら、とても素晴らしい結果になってね。それでもっと曲を書こうと。正直俺としては「また新しいバンド、プロジェクトか」という感じだった。と言うのも、その時点でLucidをやっていたし、エレフソンのソロ作品も出るところだったから。だけど2002年にAl Pitrelliから、「いつでもYesと言うべきだ」と教えられたから(笑)。最初はインターネットで曲を書いてレコーディングをしていたのだけれど、集まって「イン・ザ・ホール・オブ・ザ・ハンギング・サーペンツ」のビデオの撮影をしてから、リアルなバンドになったと思う。そこでこの3人でうまくやっていけそうだと思い、お互いを気に入って、そして3人とも真剣でプロフェッショナルであることがわかった。3人とも同じレベルのプロだったのさ。22年7月に俺のFacebookで曲を発表したら、一気に大騒ぎになってね。2日で10万回も再生され、ナパーム・レコードが興味を示し、8月にはディールが決まった。そこからかな、本物のバンドという感じになったのは。趣味、友達とのジャムセッションという感じだったのが、シリアスなバンドに変わったのさ。時間を投資できるもの、みんなに聴いてもらえるものになった。インターネット上にさっと現れてさっと消えてしまうものではなくね。最近の音楽の多くは、そんな感じになっているだろう?今は誰でも音楽を作れて、それ自体は良いことさ。問題は、その多くが使い捨てになっていること。俺は音楽には使い捨てになって欲しくないんだ。

 

ー ギリェルメとはどのように知り合ったのですか。メガデスとエントゥームド A.D.というと、音楽性も遠いですし。

 

デイヴィッド:そう、音楽性もまったく違う。実は彼のことは知らなくて、Dead by Wednesdayのドラマー、クリスチャン・ローレンスに紹介されたんだ。彼らの作品を俺のレーベル、コンバットから何枚か出していてね。彼がギリェルメに関するバックグラウンドを教えてくれて、紹介してくれた。彼の経歴に興味を惹かれて、それで彼が送ってきた曲を聞いてみたら、セパルトゥラみたいでさ(笑)。ローファイで、俺としてはそれが天才の作品なのか、教育を受けていない人間が書いたものなのか、判別がつかなかった。(80年代)当時の作品というのは、何と言うか、俺たちはみんな自分たちのスキル・レベルを超えたことをやろうとしていたからね。送られてきた曲は、プリコーラスからコーラスに入ると、転調しているんだよ。デズモンド・チャイルドとボン・ジョヴィ、マット・ランジとデフ・レパードがやっていたみたいな素晴らしい手法さ。ギリェルメがこれを故意にやったのか、それともとにかく曲を書いたらこうなったのかはわからないけれどね(笑)。それでとにかくやってみることにした。その後一緒にアルバムを作ってみて、彼の曲を作り上げる時の全体像の捉え方を高く評価するようになっていった。彼がエントゥームド A.D.で、どのくらい力を発揮できていたかはわからない。というのも、俺たち3人は、常にバンド内では副司令官という立場だったから。これも俺たち3人の共通点。メインのビッグ・バンドで、フラストレーションを抱えていたということ。それらのバンドは、俺たちがいなければ存在はできなかった訳だけれど、俺たちは常にフラストレーションを抱えなくてはならなかった。だから、ダイエスは3人にとってバンド内のナンバーワンになるというギャップを埋めるバンドなのさ。同じ物語を共有する3人の経験豊富なプロフェッショナルなミュージシャンが集まったのさ。だから俺たちには絆があるし、お互いをきちんとサポートできる。特に新しいサウンドを作り出すという点においてね。「イン・ザ・ホール・オブ・ザ・ハンギング・サーペンツ」、「ザ・マーク・オブ・ケイン」、そして「フリー・アス・オール」、「ウォーク・ウィズ・ミー・フォーエヴァー」と、その音楽的スコープはかなり広いだろう?もちろんこれらの曲は同じバンドの書いた曲として、一つのアルバムにしっくりと収まっているけれど。

 

 

 

ー ドラムのミハルはギリェルメが連れてきたのですか

 

デイヴィッド:そうだよ。もちろん俺は彼らのつきあいをすべて知っている訳ではない。ギリェルメはブラジル出身で、スウェーデンによく行っているけれど、現在はリスボン在住なんだ(笑)。ミハルはポーランドの北部出身で、スウェーデンの国境に近いところ。だから、おそらく共通の音楽言語があったり、同じ友人のグループみたいなものがあるんじゃないかな。ドラマーとして、素晴らしいチョイスだったと思う。ブラジル、アメリカ、そしてポーランドのミュージシャンが集まったというのは、音楽的だけでなく、そのバックグラウンドとしても面白いと思うんだ。3人で集まると、歴史の話などになって、たいてい俺が一番質問をするんだ。アメリカは、200年程度の歴史しかない新しい国だからさ(笑)。ポーランドのスターバックスが入っているビルの方が、アメリカの歴史より古かったりするんだよ(笑)。俺は世界史に興味があるんだ。特にポーランドなどは、ホテルの窓から景色を眺めて、ここはスターリンやヒットラーの支配を受け、共産主義や独裁者などをすべて経験してきたんだ、なんて考えるとね。こういう歴史が、バンドの歌詞にも影響を与えていると思う。俺たち3人には共通の部分がありつつ、多様なバックグラウンドもある。だからこそ、俺たちが集まるととても生産的になれるのだと思うよ。

 

ー ダイエスの音楽スタイルをどう描写しますか。先ほど言われたように、非常に音楽的スコープは広いです。デス・メタル、スラッシュ・メタルもありながら、「ウォーク・ウィズ・ミー・フォーエヴァー」などはとてもメロディックです。

 

デイヴィッド:うーん、そうだな、たいていデス、スラッシュと呼ばれてきたけど、おそらくデス、スラッシュ、そしてクラシック・ロックじゃないかな(笑)。例えば「フリー・アス・オール」には、オールマン・ブラザーズの要素がある。あの2本のギターとかね。俺はエアロスミスの「Sweet Emotion」のヴァイブをベースでコピーしたよ。ベースやドラムにはジャズ、スイングもあるし、ただ「メタル」と呼ぶのでは狭すぎるだろうね。それ以上のものがあるから。デス、スラッシュ、クラシック・ロック、ジャズじゃないかな(笑)。

 

ー すべてですね(笑)。

 

デイヴィッド:そうさ(笑)。

 

ー 曲作りはどのように行われたのですか。メールでのやりとりが中心でしょうか。

 

デイヴィッド:最初はそうだった。だけど、ナパームとのディールが決まると、ドイツのKohleKeller Studiosに集まって、2-3週間曲作りをしたんだ。本当に生産的だったよ。おそらく最初の半分をインターネット上で、残りの半分をスタジオで一緒に書いたんじゃないかな。「ウォーク・ウィズ・ミー・フォーエヴァー」、「ドント・ゲット・マッド…ゲット・イーヴン!」、「ザ・マーク・オブ・ケイン」、「セヴェランス」などは、チームとして一緒に書いた曲。あと「ヘヴィ・イズ・ザ・クラウン」も。最初「ヘヴィ・イズ・ザ・クラウン」をピアノで書いていて、だけど完成させられなくて、結局ESPギターをマーシャルのミニ・スタックにつないでダウンチューンして弾いてみたら、ヴォーカルのメロディに至るまで出来上がったんだ。それを送ったら、ギリェルメが「これは『ヘヴィ・イズ・ザ・クラウン』の歌詞が完璧にマッチする」って。それでギリェルメのことをミュージック・ディレクターと考えるようになってね。それぞれのピースをうまくはめて作品にしていくのがとてもうまいんだ。それからギリェルメがおずおずと「バラードを入れてはどうか」と言ってきてね。俺は「いいね。ぜひやろう」と答えた。4thアルバムまで待つ必要はないからね(笑)。ファンが気に入ろうがそうじゃなかろうが、とにかくやってみようと。彼が曲を書いて、何となくヴォーカルのメロディも決まっていて、俺がとりあえずヴォーカル・メロディを歌ってみたら、ミハルとギリェルメが2人とも、「ぜひあなたが歌ってください」って。俺は「どのゲストに歌ってもらおうか?」なんて考えていたんだけど、2人に「あなたのキャラクター、声質がこの曲にピッタリだ」って言い張られて(笑)。エンジニアのクリスチャンはとても良い仕事をしてくれて、俺のキャラクター、サウンドを正しく捉えてくれたよ。あの曲のおかげで、アルバムはとても緩急があるものになったと思う。10曲全部激しいデス・メタルというのではなくね。それに、アルバム・タイトルの『トゥ・ヘル・アンド・バック』というのは俺たち3人の物語をとてもよく表している。お互いそんなことは知らなかった訳だけれど。そんな俺たちが集まって、自分たちの中にこんな音楽があったとは知らなかったものを作り出したのさ。どれもこの1年で作り上げられた、まったく新しい音楽だよ。音楽も歌詞も、まったく新しい集団的思考の結果さ。このレコードで聴けるのは、ただの曲のコレクションではなく、3人が団結した兄弟愛。2年前はお互いのことを知りもしなかったのに、今では一緒に素晴らしい物語を伝えているんだ。

 

ー 『トゥ・ヘル・アンド・バック』というタイトルも、やはりバンド名と同じメッセージを持っているということですか。

 

デイヴィッド:そうさ。ギリェルメがタイトル曲を書いてきて、これこそがアルバム・タイトルだと思った。『トゥ・ヘル・アンド・バック』というタイトルは、「ダイエス」というバンド名に続く最高の叫び声だと思った。バンド名が意味することを裏打ちするものさ。このアルバムの素晴らしいところは、あらゆる要素が自然と仕上がった点。俺が「ドント・ゲット・マッド…ゲット・イーヴン!」の歌詞を書いて、ギリェルメが書いた曲に乗せた。ドイツのスタジオで、これはサッカーやホッケーの試合で歌われる、戦闘準備の曲みたいだと思ってね。それでそういうアレンジにしたんだ。「We Will Rock You」みたいなイントロにして。とてもエキサイティングだったよ。無理矢理作り出すのではなく、自然と仕上がっていったからね。曲の大部分は自然と書き上がった感じだった。本物というのは、得てしてそうやって生まれるのだと思う。無理強いする必要がないからね。多様だけれども、とても一貫性のあるアルバムになったよ。ただ適当にアイデアを投げ込んだものではなくね。

 

 

 

ー 今回あなたも数曲歌詞を提供していますが、これを読むと、過去にいたバンドへの気持ちを表明したともとれるように思うのですが、いかがでしょう。

 

デイヴィッド:いや、自分がいたバンドに対する悪感情は一切ないよ。過去35年、ほとんど40年に渡って俺があのバンドでやって来たからこそ、今ここにこうやって座っていられる訳だからね。だから、悪い感情はまったくない。02年にバンドが解散した時は、まだ道半ばという感じだった。だけど、10年に再びバンドに入って、その後11年間活動をして、それで俺はすべてを成し遂げたんだ。そして、今は新たな道を進む時。それにもう一つ学んだことは、人生においては、奇妙な形でまた過去が戻ってくることがある。だから、自分と反対側にいる人に対しても石を投げつけるのは良い策ではない。それに、俺にとってあのバンドをディスることは、自分をディスることになる。だって、俺はあのバンドの一部だったのだからね。それが俺の考え方。俺が書いた歌詞に込めた感情というのは、歌詞を書く時、俺は自分の経験、あるいは想像から書く訳で、それが実話にせよ創作にせよ、俺にとって完璧な歌詞というのは、リスナーがその中に自分を見つけられるものなんだ。だから、俺はその歌詞が何ついてなのか、どういうシチュエーションなのかをピンポイントで明確にはしない。誰かのことを歌詞に書けば、それは自分にもあてはまる。メガデスの「Breakpoint」でも書いたけど、”You point your finger, three pointing back”(=人を指差せば、3本は自分を向いている)なんだよ(笑)。「お前はこんなことをした、あんなことをした」って、特に怒りに満ちた歌詞を書く。その怒りには、自分自身に関する気に入らない点が映し出されているのさ。だからこそ、こういう歌詞というのは、相手が自分の鏡となることで、とてもカタルシスを感じさせるんだ。鏡から目を背けて逃げるか、それとも鏡を見つめてステップアップをするのか。「ヘヴィ・イズ・ザ・クラウン」は、”Heavy is the head that wears the crown.”(=王冠をかぶっている頭は重い)という言い回しで、王様は色々な期待や責任を背負わなくてはならないということ。特に今の若い人たちは、みんなボスになりたがっているだろう?SNSで良いところを見せようとしたり。だけど、素晴らしいリーダーであっても、たくさんの過ちを犯すもの。俺は日本の「七転び八起き」という言葉が大好きなんだ。俺にとって、「ヘヴィ・イズ・ザ・クラウン」の意味するのはそういうこと。滑ったら、また立ち上がって、歩き続ければいいのさ。

 

 

ー アルバムのアートワークは、バンド名やアルバム・タイトルと関係したものなのですか。

 

デイヴィッド:そうだよ。何人かアーティストの候補はいたのだけれど、メンバーみんなが合意していたのは、このジャンルでは、たいてい読めないロゴとダークであるためだけにダークなアートワークというものが多いだろう?ラッキーなことに、俺はアートワークがアイコニックであるバンドで育ったからね。アートワークが必ずレコードの中身に繋がっているもの。今回も、このジャンルのありきたりのものは避けたかった。あのイメージは、2つの腕がそれぞれ”to hell”と”and back”を表している。”to hell”から”and back”への、悪から善への遷移の二分法さ。俺たち誰もが”to hell and back”(=人生において非常につらい経験をしてきた)なのだから。これも歌詞やコンセプト同様、誰もが共感できるもの。人間誰しも経験するものさ。もちろんダークなアートワークではあるけれど、そこにはメッセージがある。ランダムにAIで生成したものではなくね(笑)。それに、このバンドのロゴはとても強力だから、ロゴだけのジャケットでも良かったくらいさ。

 

 

ー ダイエスの今後の予定はどうなっていますか。ライヴ活動なども決まっていますか。

 

デイヴィッド:現時点で、4つのヨーロッパのフェスティヴァルと2回のヘッドライナー・ショウが決まっている。これがバンドとして最初のプレゼンテーションみたいなものになるだろうね。大きなショウと小さめなショウをやることで、ファンと繋がりが持てる。22年に「イン・ザ・ホール・オブ・ザ・ハンギング・サーペンツ」を発表した時も、ファンとの繋がりはあった。インターネットを通じてね。今度はステージでファンと繋がり、そこからさらに発展していくのさ。とても荒々しくてライヴにふさわしいサウンドを持ったバンドだから。レコードで聴ける獰猛なサウンドを、ステージにも持ち込むよ。ステージで次のステップ、未来を見つけられることを期待しているよ。

 

文 川嶋未来

 


 

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2023年6月2日

Dieth

『To Hell and Back』

CD+直筆サインカード

CD

【CD収録曲】

  1. トゥ・ヘル・アンド・バック
  2. ドント・ゲット・マッド…ゲット・イーヴン!
  3. ウィキッド・ディスデイン
  4. フリー・アス・オール
  5. ヘヴィ・イズ・ザ・クラウン
  6. ウォーク・ウィズ・ミー・フォーエヴァー
  7. デッド・インサイド
  8. ザ・マーク・オブ・ケイン
  9. イン・ザ・ホール・オブ・ザ・ハンギング・サーペンツ
  10. セヴェランス

 

【メンバー】
ギリェルメ・ミランダ (ギター、ヴォーカル)
ミハル・リセイコ (ドラムス)
デイヴィッド・エレフソン (ベース、ヴォーカル)