ドイツを代表するスラッシュ・メタル・バンドの1つ、デストラクションがニュー・アルバム『ダイアボリカル』をリリースする。ということで、ベース・ヴォーカル担当のシュミーアに話を聞いてみた。昨年オリジナル・メンバーでもあるギタリストのマイク・ジフリンガーが脱退するという衝撃に見舞われたデストラクション。まずはその話から。
ー まずはマイクについてなのですが、彼の脱退は衝撃的でした。一体何があったのでしょう。
シュミーア:わからないんだ。なぜ彼がバンドを離れるという決断をしたのか、バンドや彼自身について問題を抱えていて、まあそういうことってあるだろう。関係が長くなると、それに満足できなくなってくることもある。彼はただ、音楽的、そして個人的な方向性の違いとしか言わなかった。多くのことで意見の相違はあったよ。でも、今に始まったことじゃないからね。それぞれが違った人間だし。それにコロナのせいで、人が変わってしまうこともある。生き方の新しい哲学、やることすべてについて新しい生き方というものが出てきたからね。もしかしたら彼にもそういう理由があったのかもしれない。俺たちにとってはショックだったよ。まさか辞めるなんて思ってもいなかったし。完璧な素晴らしいラインナップだと思っていた。その中の一人が去ってしまうのは寂しいことだけれど、それによってバンドが崩壊してしまうことはないけれど。
ー 突如バンドを辞めると告げられたのですか。
シュミーア:青天の霹靂だった。それで彼には考える猶予を与えたんだ。2月に辞めると告げられたけれど、彼の脱退を発表したのは8月のこと。その間考え直す期間があったはずなのだけど、彼からは連絡がなかったんだ。彼は頑固だからね。
ー マイクの後釜として、マーティン・フュリアが加入しました。
シュミーア:マーティンは俺たちのサウンド・エンジニアを長いことやってくれているんだ。だからファミリーの一員で、俺たちも彼のことをよく知っている。素晴らしい奴で、とてもポジティヴな人間。バンドにエネルギーをもたらしてくれるし、とても仲が良いんだ。新しいギタリストが必要になった時、まったく知らない人物は入れたくなかった。難しいからね。まず友人としてやっていけるかがあるし、それから音楽的に合うかもある。マーティンはもともと友達だし、素晴らしいギタリストだから、マーティンを試してみようということになったのさ。オーディションの状況はとても良くて、ヴァイブも素晴らしかった。バンドのメンバーも彼の加入に乗り気で、彼以外のギタリストをオーディションする必要はなかったんだ。
ー マーティン以外の選択肢はまったく無かったということですか。
シュミーア:話し合いの中で名前が出たギタリストはいるけれどね。オーディションをやったのは、マーティンだけ。彼はまさに「来た、見た、勝った」という感じだったから(笑)。
ー ニュー・アルバム『ダイアボリカル』はどのようなアルバムだと言えますか。個人的には以前よりもヘヴィメタル色が増したように感じたのですが。
シュミーア:間違いなくその通りだよ。俺たちのルーツはヘヴィメタルにあるから。ジューダス・プリーストやNWOBHMなんかを聴いて育って、それをパンクロックとミックスした。今やっていることも同じさ。俺はヘヴィメタルが大好きだし、それがバンドのルーツでもある。ファースト・アルバムの『Infernal Overkill』にもルーツのヘヴィメタルがたくさん入っているしね。今回の作品はバック・トゥ・ルーツ的な側面もあるし、より多くのギターがフィーチャーされてもいる。ソロやギター・ハーモニーがたくさん入っているよ。『Release from Agony』の時みたいに、ギタリストが2人いるから。それに今回は、曲がもっとコンパクトになっている。ライヴを想定して曲作りをしたから。曲をクランチーでタイトにするために、余計なものを排除したんだ。と言うのも、ここ何年かで長い曲を書いても、ライヴでやってみるとイマイチだということがあったんだ。なので、今回はもっとコンパクトでストレートな曲作りを心がけた。
ー やはりこういった変化はマイクが去ったことによって起こったと言えるでしょうか。
シュミーア:もちろんマイクがいなくなったことによる変化もある。もちろん彼も曲を書いていたからね。今回曲作りはとてもスムーズで、と言うのもみんなが同じ方向を向いていたから。マイクは俺とは違う方向を望むことがよくあった。俺はヘヴィメタルやスラッシュ・メタル、パンクが好きだけれど、彼は70年代のクラシック・ロックが好きなんだ。あとはプログレも。80年代にも、その違いのせいで一度決別したのだけれど、ここ20年間はそれでもうまくやってきていた。もしかすると彼も年齢を重ねてきて、もっと彼自身を表現したいと思ったのかもしれない。スラッシュ・メタルをプレイすることがハッピーでなくなってしまったのかもしれない。過去を振り返ってみると、年齢を重ねてメロウになるという例はたくさんあるよね。典型的なパターンは、年をとるとブルーズのアルバムを作るというやつ。今、ロブ・ハルフォードがブルーズのアルバムを作っているだろう?俺はジューダス・プリーストの大ファンだけれど、ブルーズのアルバムなんてまったく聴きたくないよ!!ファックさ。だけど、ロブ自身はハッピーな訳だし、年を取ってくると、落ち着いて他のことを試したくなるというのは普通のことなのだろう。だけど、俺はそうじゃない。バンドはストロングでパワフルにしておきたい。マイクはそうではなくて、ここ数年ではそれが曲作りにも現れていたけれど、今は俺がメインのソングライターだからね。バンドを引っ張っていく上ではやりやすいよ。もう少々ヘヴィメタルっぽくて、ダイレクトでブルータル。ギターソロも少々多め。一方で、バンドの信念を貫くことも重要さ。デストラクションの強み、トレードマークは、やはりライヴだよ。
ー マーティンがバンドに新たにもたらしたものは何だと言えますか。
シュミーア:ダミアはシュレッダーでたくさんの音符を弾くタイプな一方、あ、ちょっと待って、荷物が来た。(ここでしばらく中断)ごめん、うちはペントハウスなのだけど、郵便屋はいつも荷物を持って来ず、呼び鈴だけ鳴らして下の階まで逃げちゃうんだよ(笑)。だから下まで荷物を取りに行かなくちゃいけない。今日はピックアップだったのだけど、やっぱり下まで逃げられちゃったから、荷物を持っていかなくちゃならなかったんだ。それはともかく、マーティンはもっとメロディックなスタイル。今回のアルバムでも、曲に根ざしたメロディックなリードを弾いているよ。彼はプロデューサー業もやっているから、曲作りの細かい部分やプロダクションなどでもとても助かった。今回のプロダクションは、ずっとナチュラルなものになっている。ドラムをサンプルに置き換えたり、拍子にガッチリ合わせたりもしていない。オーヴァープロデュースせず、とても正直でホンモノのサウンドになるようにしたんだ。
ー パンデミック下のレコーディングはいかがでしたか。
シュミーア:俺たちが使っているスタジオはスイスにあるからね。スタジオに行く度に国境を越えなくてはいけない。国境が閉じられている時は、特別なインヴィテーションが必要になるんだ。レコーディングは何日かやって、また少し休んで、それからまた何日かやって、みたいな感じだったから、時に面倒なことはあったよ。夏頃には国境を通るのも問題がなくなってきたけれど。まあでも落ち着いて作業できたよ。アルバムのリリースをアナウンスしていなかったから、時間的なプレッシャーもなくて。レコーディング中は、まだレーベルを探している状態だったからじっくり時間をかけようと。1年かかるなら1年かけようと。結局そんなに時間はかからず、曲作りとレコーディングで2ヶ月程度。それからミックスなどでもう2ヶ月という感じだった。とてもスムーズなレコーディングだったよ。他にやることもなかったし、時間の制約もなかったから。良いアルバムを作ることが何より大事で、時間は問題じゃなかったからね。
ー G.B.H.の「シティ・ベイビー・アタックド・バイ・ラッツ」のカヴァーが入っていますが、これはどのようなチョイスだったのでしょう。
シュミーア:あの曲は、俺が若い頃のパンク・アンセムだったからね。10代の頃、メタルヘッズの中で俺だけがパンクの友人とも仲良くしていた。当時ポップスが人気だったけれど、同時にパンクもトレンディで、パンクスの友達もたくさんいたんだ。まだ80年代初めで、ヘヴィメタルは花開いていなかった。『City Baby Attacked by Rats』がリリースになった時、あれは82年だったかな、パンクスにとってはアンセムで、俺も本当にパンクが大好きだった。過去にエクスプロイテッドやデッド・ケネディーズもカヴァーした。この3バンドが俺にとって重要だったんだ。自分のルーツへのトリビュート、自分の出自をファンに示すことは大切だと思う。NWOBHMも色々カヴァーしているしね。アイアン・メイデン、サクソン、モーターヘッド、タンクとか。俺たちにとってはメタルからの影響と同じくらい、パンクの影響も重要なんだ。
ー 今回歌詞の内容はどのようなものですか。例えば「ゴースト・フロム・ザ・パスト」などはどのような内容なのでしょう。
シュミーア:これは死人が蘇って自分を悩ませるというようなこと。例えば元カノや元友人、あるいはストーカー、俺は何度もストーカーの被害に遭っているのだけど(笑)、多くの人が経験していること。もう戻ってきてほしくない人間が、現れることさ。
ー Facebookでガールフレンドとの破局も報告していましたが、こういった経験も歌詞に影響を与えていますか。
シュミーア:そうなんだよ。パンデミック下で、彼女は不安を募らせるようになって、母国のノルウェーに帰ってしまったんだ。国境の閉鎖で国を出るのも面倒な状況になってしまって。ノルウェーに帰ってから、さらに不安が酷くなり、ドイツに戻って来なかった。俺にとってはつらい時期さ。時に悪いことというのは重なるだろ。コロナに加え、新しいレーベルを探さなくてはいけなかったし、それからマイクがバンドを去って、さらにガールフレンドもドイツを去ってしまった。俺はたった一人で残されたから、音楽に集中することができたのは良かったけれど。「世界なんてファック!俺は音楽を作るぞ」ってね。音楽こそが俺のベスト・パートナーだと思った。今回の歌詞は、どれも「希望」についてさ。「ホープ・ダイズ・ラスト」という曲も入っている。歌詞は人生の価値、不安や鬱についてもあるし、「ホアフィケイション」ではインターネットについても書いている。SNSで、色々と見栄を張っている人間についてさ。俺が気になること、俺が対処しなくてはならなかったことについて書いているよ。だけど、俺は常にこういうものをポジティヴに捉えるようにしている。「ノー・フェイス・イン・ヒューマニティ」などは、とてもダークな内容に聞こえるかもしれない。今のまま行けば未来は暗いだろうけれど、この曲の最後の言葉は「連帯」さ。この曲で言いたいのは、俺たちはみんな同じ人間だということ。皮膚の色やバックグラウンドなど関係なく、みんなが連帯すべきだということ。自分たちの星、人類を救うためにね。
ー 今言われた「ホアフィケイション」は面白い内容で、やはりあなたはインフルエンサーみたいなのが大嫌いなのだと再確認したのですが。
シュミーア:俺が子供の頃、みんなパイロットや消防士になりたがったものさ。それが今はインフルエンサーになりたいって。インフルエンサーって何だよ(笑)。誰かに影響を与えたいって、どうかしてるよ。人生で出会った素晴らしい人から影響を受けたいというのならわかるけれど、インターネット上のバカから影響なんて受けたくねえよ(笑)。インフルエンサーとして働きたいなんて、本当笑っちゃうね。
ー アートワークは何を表現しているのでしょう。
シュミーア:今回はとてもイージーなものにしたかったんだ。深い意味などなく、ただバンドやサウンドをそのまま表現しているようなもの。15-16歳の頃、レコード屋に行くと、ジャケットを見て「これはブルータルだ!このバンドを聴いてみたいな」なんて思ったものさ。今回はそういうものにしたかったんだ。ジャケットを見て、「これはスラッシュ・メタルに違いない。デストラクションに違いない」って思うようなもの。デストラクションを知らない人であっても、このカヴァーを見ればどんなサウンドかわかるようなものにしたかったのさ。それでゾンビのメタルヘッドが切った腕でホーンのサインをしているところにしたんだ。少々面白くて、実にメタルらしいカヴァーだろ。音楽性をとてもよく表しているカヴァーさ。
ー アートワークはずっとGyulaに任せています。
シュミーア:彼自身メタルヘッドだしね。アイデアを伝えると、すぐにイメージ通りのスケッチを送ってくれる。スケッチを見た途端に「最高だぜ!」って思うんだ。歌詞やアイデア、手描きの絵などを送るだけで、俺の欲しいものを完全に理解してくれるんだよ。彼はメタルヘッドだし、ミュージシャンでもある。本当に素晴らしいアーティストで、さまざまなスタイルを使い分けることもできる。絵でも漫画でも、オールドスクールなものでも、何でもできるんだよ。人間的にもとても丸くて、エゴもないしね。アートが何より優先というのではなく、アーティストのためにアートを作るという姿勢なんだ。彼とはずっと一緒にやってきているから、バンドの一部のような存在だよ。
ー プロデューサーもずっとV.O.プルヴァーですよね。
シュミーア:そう、結果に満足しているのなら、わざわざ変える意味はないから。それにヴァイブも良いし。一時期他のプロデューサーとも仕事をしていたのだけど、結局プルヴァーに戻ってきた。彼とは長年の友人だし、彼のスタジオは最新のもの。それにうちからも遠くない。だから自然と足が向くんだ。いつかまた別のプロデューサーと仕事をすることもあるかもしれないけれど、結局プルヴァーに戻ってくるんじゃないかな。さっきも言ったように、今回はいつもと違うセットアップをして、オールドスクールなサウンドにした。そのために彼は昔のスレイヤーや昔のデストラクションを聴いて、どういう点が良いか、どういう点が良くないかなどを話し合って、すぐに適応してくれたよ。
ー 今後の予定はどうなっていますか。今年は普通にツアーやフェスティヴァルは行われるでしょうか。
シュミーア:4月と5月はアメリカに行って、その後フェスティヴァル・シーズンに合わせてヨーロッパに戻ってくる。オミクロン株はどうやらそれほど強力ではないようだから、もうすぐ通常の状態に戻ると思うよ。ワクチン接種も進んでいるし。9月にはラテン・アメリカに行って、10月、11月はヨーロッパ・ツアー。来年頭にはアジアに行きたいな。アジアは23年の方が良いのではないかと思って。いずれにせよ、予定されているこれらのツアーは実現すると思っているよ。今それに向けて色々と準備をしているところだけど、物事が動き出して良かったよ。この2年は何も起こらないデッドゾーンだったからね。年末から来年の頭には日本に行きたいよ。
ー ヴァッケンなんかも全部ありそうですか。
シュミーア:ヴァッケンはある。今日アナウンスがあるんじゃないかな。ヘルフェスとやコペンヘルとか、大型フェスは全部やると思う。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
シュミーア:バンドはファンがいなければ意味がない。今回のパンデミックで、ファンとのつながりによるヴァイブ、エネルギーこそが、俺たちを突き動かしているものであることを再確認させられたよ。スタジオでジャムをしたりはできるけれど、ファンがいなければ100%満足することはできないんだ。だから、ツアーを再開してファンに会うことはとても重要。コンサート無しの生活は、誰にとってもキツいものだから、早くまた日本にも行きたいよ。またライヴがやれるようになるというのは、とてもスペシャルなことさ。
ー ありがとうございました。
シュミーア:ありがとう。ところで『ダイアボリカル』はどうだった?
ー とても良かったですよ。私のルーツもオールドスクール・ヘヴィメタルですから。
シュミーア:それは良かった。「ヘヴィメタル寄りだと思った」という指摘はとても興味深かったからね。だけど、今でも十分ブルータルだろ?
ー ええ、それにとてもデストラクションらしくもあります。
シュミーア:それは良かった。ありがとう。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- アンダー・ザ・スペル
- ダイアボリカル
- ノー・フェイス・イン・ヒューマニティ
- リペント・ユア・シンズ
- ホープ・ダイズ・ラスト
- ザ・ラスト・オブ・ア・ダイイング・ブリード
- ステイト・オブ・アパシー
- トーメンテッド・ソウル
- サーヴァント・オブ・ザ・ビースト
- ザ・ロンリー・ウルフ
- ゴースト・フロム・ザ・パスト
- ホアフィケイション
- シティ・ベイビー・アタックド・バイ・ラッツ
【メンバー】
シュミーア(ベース/ヴォーカル)
ランディ・ブラック(ドラムス)
ダミア(ギター)
マーティン・フュリア(ギター)