ライヴ・ストリーミングを収録した映像作品『ライヴ・アタック!』をリリースするデストラクション。30年以上スラッシュ・シーンの最前線を走り続けてきたシュミーアに話を聞いた。
ー ドイツの状況はいかがですか。(2021年6月14日現在)
シュミーア:クレイジーな時期だけど、状況は少し良くなっているよ。もうロックダウンを7ヶ月も続けていたからね。スーパーロックダウンと言えるほどのものではないけれど、ロックダウンは続いていて、だけどショッピングや外でもスポーツなんかは許されていた。レストランやジムなんかは閉まっていて、大変ではあったよ。やっとレストランやジム、他のお店も開くようになって、俺たちのライヴも7月に決まった。もっとライヴも増えてくると良いのだけど。日本はラッキーだよね。島国だから、ヨーロッパほど状況は悪くなっていないだろう?
― そうですね。ただワクチン接種の進みは非常に遅いです。
シュミーア:それはそれほどの脅威にはなっていないから、政府が他の国の様子を見ているんじゃないかな。もちろんワクチンは重要だけれどね。それにオリンピックもあるだろ?
― 本当にあるのか、いまだ誰もわからないんですよ。政府はやると言っていて、だけど医師会が反対していたり。まあ、もはや止められないという雰囲気ではあるのですが。
シュミーア:ヨーロッパでもサッカーのヨーロピアン・チャンピオンシップがあって、入場するにはワクチン接種を義務付けたり、収容人数の1/3しか入れないみたいなことをやっているんだ。だから可能だとは思うよ。ライヴも復活してきて、ワクチンをしてマスクをして野外であればわりと問題がなさそう。スペイン、オランダ、ドイツでは5000人、10000人規模のスタジアムでテストをやっているんだ。サッカーも野外で観客はマスクをしてテストをやっているけれど、結果は良いみたいだ。マスクをしないと良くないみたいだけど、日本人はね。
― 慣れてますからね(笑)。
シュミーア:だから大丈夫じゃないかな。
― もうワクチンは打ったのですか。
シュミーア:打ったよ。
― 2回?
シュミーア:うん。俺のかかりつけの医者が少々便宜を図ってくれたんだ。俺は色々なところへ行くし、ミュージシャンだからということで。普通だったら7月か8月だったんじゃないかな。最初に高齢者と基礎疾患のある人、警察、政治家たちが打って、今それ以外の人たちの接種をやってる。
― 副反応はありました?
シュミーア:まったく無かった。注射を打ったところは、殴られて青アザが出来た時みたいに、動かすと多少の違和感はあったけれどね。それ以外は何も無かったよ。熱が出たとか、酷い頭痛、頭の圧迫感があったという友達もいたけれど、俺は大丈夫だった。
― 私は明後日1回目なんですよ。
シュミーア:どこのワクチン?
ー ファイザーです。
シュミーア:ファイザーがベストなんじゃないかな。俺もファイザーだった。だから大丈夫。何てことないよ(笑)。これが普通の生活に戻る第一歩さ。
ー ヨーロッパでは今年後半にかけてたくさんのツアーやフェスティヴァルの開催が発表になってきていますよね。
シュミーア:ヴァッケンはキャンセルして、9月に規模を小さくして開催するみたいだよ。9月にはワクチン接種が進んで、もっと色々なことが許可されるだろうからね。もうすぐ正式に発表されるんじゃないかな。
― では本題に入りましょう。『ライヴ・アタック』がまもなくリリースになります。前作もライヴ盤『ボーン・トゥ・スラッシュ』で、ライヴが2作連続ですが。
シュミーア:今回はライヴ・アルバムというよりも、Blu-rayだからね。CDもつけるけれど。前作はパンデミックが始まった時期で、ライヴ・アルバムを出すにはちょうど良いタイミングだったけれど、多くのファンが映像が無いことを不満に思っていた。それで、ライヴ・ストリーミングをやる時に、これを映像作品にできないかと考えたんだ。そういうリクエストもあったし。個人的にはDVDとBlu-rayで出したかったのだけど、レーベルにDVDはもう誰も買わないと言われてね。Blu-rayだけになったのだけど、俺としてはこれを2枚目のライヴ・アルバムという見方はしていないよ。パンデミックはいまだ続いているし、ライヴ・ストリーミングで2時間ものショウをやったからね。こんなに長いショウをやったことは無かった。長くてもせいぜい90分だったから。2時間はビッグ・チャレンジだったし、普段は演奏しない曲もプレイしたし。
― 観客無しのライヴはやはりやりづらかったですか。
シュミーア:多少難しかったよ。だけど、リハーサルをやりながら入念に準備したからね。それに変な感じであろうことは予想していたから、プレイに集中し、ショウに没頭して、観客がいないということを忘れるように努めた。うまく行ったよ。観客がいないのは難しいと言っていたミュージシャンも多いけれどね。お客さんがいないということで気が散ってしまうと。お客さんとのエネルギーのやりとりが無いし。変な感じはあったけれど、プレイできてよかったよ。ずっとステージに立てていなかったから、ただプレイできるだけでも楽しかった。世界中の人にライヴ・ストリームを見てもらえたしね。俺たち自身はあまりライヴ・ストリーミングというものが好きではないけれど、これを映像作品としてリリースをするなら意味があるし、何年か後に振り返ってみると、コロナの時の本当に奇妙なコンサートとしてのドキュメントにもなるだろうし。
― 『ライヴ・アタック!』というタイトルにはどのような意味があるのでしょう。「スラッシュ・アタック」への言及なのでしょうか。
シュミーア:もともとはライヴ・ストリーミングが『ライヴ・ストリーム・アタック』というタイトルだったんだ。もちろん「スラッシュ・アタック」への言及でもあるし、人々にこれがライヴ・ストリーミングのBlu-rayだということをはっきり示すという意味もある。
ー セットリストはどのように決めたのですか。先ほど言われたように、2時間もプレイするというのは特別なことだったと思うのですが。
シュミーア:ファンにライヴでどんな曲を聴きたいかと尋ねると、「リジェクト・エモーションズ」、「サイン・オブ・フィア」、「リリース・フロム・アゴニー」なんかがよく挙がる。この辺りの曲はほとんどプレイしないからね。「リジェクト・エモーションズ」をフルにプレイしたのは、1989年以来だと思う。7-8分ある長い曲だからね。これらの曲を覚え直してまたプレイするというのはビッグ・チャレンジだったよ。やり直してみると、レコーディングした当時の記憶が蘇ってくるんだ。楽しかったよ。ファンもこの辺りの曲を気に入ってくれているし。という訳で、セットリストは基本的にインターネットを通じてファンの声を聞いて決めたんだ。
ー デストラクションは4人編成になりましたから、『Release from Agony』期の曲も演奏できるようになったということですね。
シュミーア:その通りだよ。これらの曲は、ギター1本でプレイしても意味が無かった。もともとギター2本で作られた曲だったから、プレイして欲しいと頼まれても、ギター1本ではやる意味が無かったんだ。今は4人編成になったから、80年代終わりのクラシックな作品をプレイできるようになったのさ。
― 将来的に『Release from Agony』の他の曲もやる予定はありますか。
シュミーア:どうだろう。前に「Unconscious Ruins」や「Dissatisfied Existence」はやってみたことがあるから、この2曲はまたやるかもしれない。時々セットリストを変えるのは良いことだけれど、みんなが聴きたがるクラシックもあるからね。活動歴が長くなると、そういうクラシックも多くなってくる。セットを長くすれば良いのだろうけれど、毎晩2時間のスラッシュ・ショウをやるのは容易ではないよ。
― 古い今日を久々にプレイする場合、曲を聴き直して、改めて耳コピしたりするのですか。
シュミーア:多くの曲は、今でも頭に入っているよ。驚いたことに、曲を聴き直してみると、あっという間に記憶が蘇るんだ。まあ今回演奏した3曲は、演奏も難しいし、ハーモニー・パートとか、歌詞の一部とか、覚え直さなくてはいけなかったから、少々時間がかかったよ。
― 『Infernal Overkill』からは5曲と、圧倒的に多くの曲が演奏されていますが。
シュミーア:ファンが一番聴きたがるアルバムだし、俺たちはあれでブレイクした訳だし。それに『Infernal Overkill』の曲は、どれもライヴ映えするんだ。あのアルバムの曲は全部プレイできる。実は2年前、コロナの前に、スウェーデンで最初の3枚のアルバムの曲だけをプレイするというライヴが予定されていたんだ。コロナのせいで中止になってしまったけれど、『Infernal Overkill』は全部プレイできるよ。最初の3枚のアルバムの曲はほとんどプレイできる。ああいうクラシックはみんな聴きがたるし、決して古くならないからね。
― 「ファーストこそがベスト」と言いたがるファンも少なくないですが、そういう意見について、アーティストとしてどう感じますか。
シュミーア:思い出というものがあるからね。若かった時のことを思い返して、1枚のアルバムを賛美するというのはよくあることさ。初めてライヴを見に行った時のこととか。人々は特別なやり方で過去を振り返るものだからね。ファーストの曲にも好きなものはあるし、そういうものはライヴでもやる。まったくライヴでやったことがない曲もある。好きじゃない曲はやらないんだ。「Devil’s Soldier」なんかはプレイしてくれと言われるし、試してみたこともあるんだけど、うまく行かなかった。人々にはノスタルジーがあって、初期の作品が好きだというのは理解できる一方、俺たちは進み続けていて、未来を見ているからね。すでにニュー・アルバムの曲は書き終えているし、個人的にはミュージシャンとしてクリエイティヴであることが大切なんだ。
― 答えられる範囲で構わないのですが、長年ホームとしてきたニュークリア・ブラストを離れた理由は何だったのですか。
シュミーア:変化の時が来たということさ。ニュークリア・ブラストは大きな会社に買収されて、システムが変わってしまい、俺たちと親密な関係を保っていた人たちがみんな去ってしまった。雰囲気が変わってしまったんだよ。もともとはメタルヘッドのファミリーみたいな感じで、とてもプロフェッショナルでバンドに対して真剣だった。それが今ではただの大きなレコード・レーベルという感じになってしまったんだ。メタルヘッドのレーベルという雰囲気がなくなってしまったんだよ。あと2枚の契約が残っていたのだけど、契約書に抜け道があったから、辞めさせてくれと伝えた。裁判とかにならず、抜けられたから良かった。とにかく変化の時が来たんだよ。新しいレーベル、新しい人たちと仕事をすることが、新たなモチベーションにもなるし。ニュークリア・ブラストと契約した時にもそれは感じたし、今それをナパームに感じているよ。
― 新しいホームとしてナパームを選んだ決め手は何だったのですか。
シュミーア:ここ数年、いくつかのレーベルの仕事ぶりを見てきて、ナパームにとてもポジティヴな印象を持ったんだ。過去10年間で急激に成長しているからね。最初はとても小さなレーベルだったけれど、今では大きなレーベルになっている。実はニュークリア・ブラストと再契約をした時に、ナパームからもアプローチがあって、それ以来連絡を取り合っていたんだ。彼らはパーフェクトなパートナーだと思うよ。交渉中も、俺たちが何を必要としているかにとても注意を払ってくれたし。ナパームが最適のレーベルだということに疑いはなかったから、わりとストレートに彼らに決めたんだ。もう1つ候補はあったのだけど、ナパームこそがパーフェクトなデストラクションの新しいホームだと思った。
― 現在のスラッシュ・メタル・シーンをどう見ますか。若いバンドの音源を聴いたりはしますか。
シュミーア:するよ。最近も若いバンドをチェックしたところで、興味深いものがいくつかあった。ドイツのVultureとか。ドルトムントの。彼らはスピード・メタルとスラッシュ・メタルのミクスチャみたいな感じで、ヴォーカルはポール・ベイロフに似ているけれど、ハイ・スクリームもきちんとできる。オールドスクールでありながら、新鮮なサウンドに感じられるのが良いね。それからまだあまり知られていないけれど、ドイツのメロディックなスラッシュ・バンド、Septagonも良いよ。ベラドナのアンスラックスのようなメロディックなスラッシュをやっていて、キャッチーで、ヴォーカルのメロディラインも素晴らしい。初期のアンスラックスのベラドナを思い起こさせるスピード・メタルというか、とてもメロディックなヴォーカルなんだけど、ダサくないんだよ。パワー・メタルみたいにはならず、スラッシュなんだ。とてもユニークだよ。こういう若いバンドもきちんとチェックしているんだ。大切なのは自分のスタイルを見つけることさ。最初はどうしても他のバンド、例えばエクソダスをコピーしたりスレイヤーのリフをパクったりになってしまい、オリジナリティが無いものだけれど、そういうバンドも最近は自分たちのスタイルを見つけるようになっている。とても興味深いし、素晴らしいことだと思うよ。
― 今後の予定はいかがですか。先ほどニュー・アルバムの話も出ましたが。
シュミーア:ニュー・アルバムの曲はすでに書き上げられていて、6月の終わりにスタジオに入る予定。7月にはすべて終わらせて、マスターテープを8月には提出するよ。曲はすべて出来ているのだけど、今ちょうど最終的な手直しをしているところさ。とても良いアルバムになるよ。ギタリストが2人になってやれることが増えたから、前とは違った作品になる。ストレートになる部分もあれば、もっとテクニカル、スラッシーになる部分もある。前作からのロジカルな進化だよ。前作の方向性も正しいものだったけれど、まだダミールが入ったばかりだったからね。今は彼ももっとバンドに溶け込んでいるし、とても良い作品になるよ。8月の終わりか9月の初めには最初のシングルを発表するつもりさ。アルバム自体は来年の4月に出ることになると思う。シングルを聴いてもらえれば、アルバムの方向性がわかるはず。
― 最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
シュミーア:日本でプレイするという話もあったのだけど、コロナのせいで実現しなかった。来年アメリカのツアーとか、フルのスケジューリングが始まっているけれど、ぜひ日本にも行きたい。日本に行くのは楽しいよ。日本にはわりとしょっちゅう行けていたから、コロナで行けなくて寂しいね。日本は俺にとってアジアのホームみたいな感じなんだ。ファンもたくさんいるし、ファンからの愛も感じる。日本に行くというのはとてもスペシャルなことで、アジアのホームに帰るようなものなんだ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
[CD1]
- ボーン・トゥ・ペリッシュ
- デス・トラップ
- ネイルド・トゥ・ザ・クロス
- アルマゲドナイザー
- トーメンター
- ロッテン(ファオラド)
- マッド・ブッチャー
- リジェクト・エモーションズ
- ビトレイヤル
- サイン・オブ・フィアー
- ダミアズ・シュレッド
- インスパイアード・バイ・デス
- リリース・フロム・アゴニー
- ライフ・ウィズアウト・センス
- アンチクライスト
- インヴィンシブル・フォース
- アンダー・アタック
- ベスティアル・インヴェイジョン
- ザ・ブッチャー・ストライクス・バック
- カース・ザ・ゴッズ
- トータル・ディザスター
【Blu-ray収録曲】
- ボーン・トゥ・ペリッシュ
- デス・トラップ
- ネイルド・トゥ・ザ・クロス
- アルマゲドナイザー
- トーメンター
- ロッテン
- マッド・ブッチャー
- リジェクト・エモーションズ
- スラッシュ・ティル・デス
- ビトレイヤル
- サイン・オブ・フィアー
- ダミアズ・シュレッド
- インスパイアード・バイ・デス
- リリース・フロム・アゴニー
- ライフ・ウィズアウト・センス
- アンチクライスト
- インヴィンシブル・フォース
- アンダー・アタック
- ベスティアル・インヴェイジョン
- ザ・ブッチャー・ストライクス・バック
- カース・ザ・ゴッズ
- トータル・ディザスター
- プレ・ショー
- アフター・ショー
【メンバー】
シュミーア(ベース/ヴォーカル)
マイク(ギター)
ランディ・ブラック(ドラムス)
ダミア(ギター)