ライヴ・アルバム『ボーン・トゥ・スラッシュ』をリリースしたドイツのデストラクション。なぜ、この時期にライヴ・アルバムをリリースするのか。コロナ収束後に音楽業界はどう変わるのか。バンドの顔であるシュミーアに、色々と聞いてみた。
— 昨年『ボーン・トゥ・ペリッシュ』をリリースしました。評判はいかがですか。
シュミーア:最近の中で一番良かったんじゃないかな。とても驚いたよ。新しいギタリストやランディも迎えた作品で、まるで赤ん坊が生まれたようなスペシャルな作品だったのだけど、とてもリアクションは良くて、こんなに良かったのはおそらく『Antichrist』以来20年ぶりくらいじゃないかな。
— そもそもレビューは気になりますか。
シュミーア:レビューを気にしないのなら、音楽に情熱がないということだと思う。一方で、評論家というものを無視することも学ぶ必要がある。クソみたいなことを書く奴も多いからね。もちろんレビューが良いにこしたことはないけれど、結局はファンに気に入ってもらうことが一番さ。評論家のためじゃなく、あくまで自分たち、そしてファンのためにアルバムを作るわけだから。多くの若いバンドは、悪いレビューと格闘しているようだ。ジャーナリストというのは、若いバンドのことを悪く書きがちだからね。そういうのは音楽にとって良いことじゃないよ。そういうのは好きじゃない。俺はある種のレビューは無視するということを学んだ。俺たちのことを気に入らない奴は必ずいるから。俺たちの音楽はみんなを満足させるものではないからね。スラッシュ・メタルをプレイしているわけだし、みんなに気に入ってもらおうとは思っていない。レビューや評論家とうまく対応するのもミュージシャンシップの一部なのさ。
— ギタリストが2人になりましたが、それによってライヴのセットリストは変わりましたか。
シュミーア:もちろん新曲はたくさんプレイしている。一番フィットするものを選んでいるよ。「Butchered for Life」も試しているけど、これは以前はプレイしていなかった曲だ。それから『Release from Agony』のタイトル曲も復活させた。あれは中間にツインリードが入っているからね。他にも復活させようと思っている曲もある。「Reject Emotions」あたりは次のツアーのセットに入れたいね。ギターが2本になれば、どんな曲でもやれるから。過去にできなかった曲を色々復活させたい。ダブルリードもできるし、よりパワフルだし。俺としてもギター2本とプレイするのは楽しいよ。
— このタイミングでライヴ・アルバムをリリースしたのは何故でしょう。
シュミーア:コロナのせいさ。もともとライヴ・アルバムをリリースする予定はなくて、この時期はツアーをしているはずだったんだ。だけど、ほとんどすべてのコンサート、フェスティヴァルがキャンセル、延期になってしまった。150本ほどやるはずだったんだけどね。残っているのは25本だけ。120ものショウが無くなってしまったんだ。ファンはコンサートに来られず、俺たちは行きたい国にも行けず、であれば、ファンにライヴ・アルバムを届けようと考えたのさ。ニュークリア・ブラストが去年のパーティ・ザンでの素晴らしいライヴ・レコーディングを持っていたから、この時期にファンにライヴを聞いてもらうことが重要だと思った。ツアーができないのだから。ニュークリア・ブラストも、最初はライヴをリリースすることに懐疑的だったのだけど、最終的にはこんな時期だからこれは例外だと認めてくれた。とても素晴らしいショウだけど、唯一残念なのが54分しかないということ。フェスティヴァルだったから持ち時間がこれしかなくて、何曲かクラシックが欠けている。さっきも言ったみたいに最近プレイしている「Release from Agony」や「Thrash Attack」とか、入っていればよりクールだった曲もあるけれど、55分というのはとても凝縮されたピュア・スラッシュのコンサートとも言えるからね。ファンからの反応もとても良いよ。
— デストラクションは過去にライヴ・アルバムを3枚リリースしていますよね。
シュミーア:うーん、『Alive Devastation』はワールドワイドでのリリースではなかったからね。あれはあくまで日本でリリースされたもので、『Live without Sense』や『The Curse of the Antichrist』みたいなものとは違う。なので、今回のは3枚目のライヴ・アルバムだと考えているよ。『Alive Devastation』はあくまで日本のファンへのスペシャル・リリースで、世界中のファンが簡単に手に入れられるものではなかったから。
— なるほど。3枚のライヴ・アルバムというのもわりと多いと思うのですが。
シュミーア:まあでも30年で3枚だからね。10年に1枚ライヴをリリースしているだけだよ。ライヴ・アルバムというのは以前のような人気が無くなってしまった。レコード会社もライヴをリリースしたがらないしね。というのも、普通のアルバムの20%程度しか売れないから。
— そうなんですか?
シュミーア:そうだよ。うまくいって、せいぜい30%。80年代はライヴ・アルバムというのはよく売れたんだけどね。ラッシュの『Exit…Stage Left』やジューダス・プリーストの『Unleashed in the East』あたりとか、キッスの『Alive』も大ヒットしたし、アイアン・メイデンのライヴも売れたよね。だけど最近はYouTubeなんかのせいで、ライヴ・アルバムはもはや興味深いものではなくなり、売れなくなってしまったんだ。それでレーベルも出したがらない。だけど、俺たちはライヴ・バンドだし、ライヴが好きなんだ。スラッシュ・メタルにとってライヴは欠かせないものだからね。だからレーベルを説得してリリースしたんだよ。もちろんコロナがなければ、これはリリースされなかったけれど。
— 今何枚かライヴ・アルバムのタイトルが挙がりましたが、お気に入りのメタルのライヴ・アルバムはどのあたりでしょう。
シュミーア:そうだね、さっき挙げた作品は、俺にとって欠かせないものさ。ジューダス・プリーストが79年にリリースした『Unleashed in the East』は大好きだし、それからスコーピオンズの『Tokyo Tapes』は伝説的な作品だ。あとはラッシュからも影響を受けたし、最初に買ったライヴ・アルバムはステータス・クォーだった。あれも70年代の終わりに出た。当時ハードロックにハマっていってね。AC/DCとか。ステータス・クォーも大好きだった。当時ライヴ・アルバムはホットだったんだよ。残念ながら、もはやそうではなくなってしまったけど。今は、ライヴでスタジオみたいにプレイできないバンドも増えてきたというのもあるだろうし。色々な要因が重なって、ライヴ・アルバムというのが難しいものになってしまったんだと思う。いつかまた復活することもあるかもしれないけど、このコロナの時期にライヴ・アルバムをリリースすることが良いアイデアだと思ったのさ。
— なるほど、スタジオで磨き上げすぎて、ライヴで再現ができなくなっているということですね。
シュミーア:あまりに多くのトラック、ヴォーカル、様々なアイデアを詰め込みすぎると、バッキング・トラック無しではライヴで再現できなくなるからね。それに、スタジオでトリックを使うミュージシャンもいるだろ。ドラマーがツーバスを速く踏めなくても、スタジオでは簡単に修正できてしまう。昔はそんなことできなかったからね。ミュージシャンはスタジオでもライヴと同じように演奏するしかなかった。今ではスタジオのレコーディングが容易なものになって、簡単にプロフェッショナルでタイトなサウンドを得られるけど、ライヴになると現実に直面せざるを得なくなり、本当のクオリティが露見するんだよ。
— ライヴとスタジオ、どちらがお好きですか。
シュミーア:それは難しいな。ライヴはライヴであって、アドレナリン、汗、ファンとの交流。これらはお金で買えるものではない。それからライヴで得られるエモーション。これは一生忘れられないものになるし、お金よりも何よりも大事なものさ。そういう意味でライヴというのは最高のもの。一方で、スタジオでの作業も、非常にクリエイティヴなプロセスだ。頭を使って何かを作り出す作業。とてもユニークなやり方でね。さっきも言ったみたいに、赤ん坊を持つみたいなもので、作品に誇りを持ち、感激するというとても特別な感情。多くのバンドは長くやっていると、スタジオの作業を好まなくなっていくようだけど、俺は今でも音楽を作ったりスタジオに入ったりが大好きだよ。どんな作品に仕上がるかわからないというのも素晴らしいチャレンジだし。常にベストなアルバムに仕上がるという保証もないからね。スポーツと同じさ。常にトップを目指しているけれど、いつもトップになれるわけではない。
— ここからはコロナについてお聞きしたいと思います。現在ドイツの状況はどのような感じでしょう。
シュミーア:しばらく暗い道が続いている感じだね。多くの人が感染して、ロックダウンがあって、ドイツもとても危険な状況だった。フランスの北部はとても状況が悪かったのだけど、俺たちの住んでいるところはそこからわずか50分のところ。スイスとの国境も近いし、イタリアからもわずか3時間のところなんだ。多くの感染者が出たところから、とても近いんだよ。だけど、ドイツの人々はうまく対応したと思う。家にいて、まあルールも他の国に比べるとそれほど厳格ではなく、スポーツやジョギング、サイクリングなんかのためや、食料品買い出しのための外出もできたのだけど、ほとんどの店が閉まっていてね。今週(5月19日)からレストランが再開になったし、2週間前から他の店も開いている。人々はみんなマスクをしているし、色々なルールはあるけれど、おそらく6月15日にはヨーロッパの国境も開くはず。イタリアやスペインのような状況の悪い国はもう少し長い間閉鎖されるかもしれないけれど。少しずつ状況は改善しているよ。通常の生活に戻っていかないといけないからね。多くの人が影響を受けていて、会社が倒産したり、お金や、最悪命を失った人もいる。ちょっとしたルール、例えばソーシャル・ディスタンスや手洗いといったちょっとしたことに気を配ることで、少しずつ通常の生活へ戻っていけると思う。こんなに速く疫病が世界中に蔓延するなんて初めてのことだから、学ばなくてはいけないことは多いけれど。色々な影響はあったけど、だいぶんコントロールできるようになってきているんじゃないかな。
— ライヴはいつ頃復活すると思いますか。
シュミーア:デンマークは俺たちより少し先を行っているんだ。デンマークは小さな国で、人口も少ないからね。ここ数週間のうちに、200人規模のライヴは再開されるみたいだよ。それがうまくいけば次は500人規模で。もちろんコペンヘルのような大規模なフェスティヴァルはキャンセルになっているけれど。デンマークが最初にライヴの再開をするんだ。それから、確か東欧の国々だったと思うけど、小規模なライヴの再開を考えているみたい。キャパの40%までしかお客さんを入れてはいけないというようなルールを設定して。だから、夏には何かあるんじゃないかな。ドイツでは夏はまだ無理だと思うけど。ドイツも、夏のホリデー・シーズンには旅行などを認める方向みたいだよ。そうじゃないとみんな発狂するからね。お店も少しずつ再開しているし、少しずつでも通常の生活に戻っていかないと。昨日スイスに行った。スイスの歯医者に通っているから。国境を越えるには特別な許可が必要なんだ。スイスに行って驚いたのだけど、みんな普通に生活しているんだよ。誰もマスクをしていないし。ここからわずか数分のところなのにね。みんな普通に生活していて、とても不思議な感じがした。ここドイツではいまだに色々なところが閉まっていて、色々なルールが設定されていて、国境も閉じているのに、5分行けばみんな普通の生活をしているのだから。レストランも開いていた。もちろん全部のお店が開いているわけじゃないだろうけど、一番危なそうなフードコードが普通に営業していたよ。スイスというのはイタリアとドイツに挟まれている国なのに、それほど深刻な事態になっていなくてラッキーだったんだろうね。早い段階で国境を閉鎖したし、そもそもスイスは人口が少ないから、うまくコントロールできたんだろう。ライヴ・アルバムのためのインタビューで、世界中の人たちと話せて興味深かったよ。日本もそんなに状況は悪くないんだよね。基本的に島国はそれほど状況が悪くないみたいだけど。車や電車で行けない国というのは、コントロールがしやすいんだろうね。
— 不思議と日本は感染者が少ないのですが、その理由はよくわからず、色々なことが言われています。もともとマスクが好きな国民であること、手洗い・うがいを徹底していること。最近は、過去に日本では新型コロナに近いウィルスによる風邪が流行していて、抗体を持っている人がそこそこいるのではないかという説も出て来ました。しかし、何が本当なのかはわからない状況です。
シュミーア:そうかもしれないね。理由がわかるといいな。コロナについてはもっと色々な知識が必要だから。国によって色々な経験をして違った知見を得ていくのは大切なことだよ。スウェーデンは違ったリスキーな方法をとっている。高齢の人やリスクのある人たちだけを隔離して、他は通常通りのままで。ある時点でレストランやバーを閉鎖したみたいだけど。このウィルスにどう対処するのが一番なのか、興味深いよ。ロックダウンは確かに有効だったかもしれないけど、思ったほどの効果はなかったように思う。みんなが家にいれば、もっと効果があると思ったのだけど。それにロックダウンは人を惨めにするしね。仕事を失ったり。こんなことになるなんて、誰も予見していなかっただろうけど。
— 21世紀にまさか疫病が蔓延するとは思いませんでした。
シュミーア:ヘルス・システムも高度に発達しているしね。病気に対する知識もあるし。こんなに速く広まるとは。
— やはりグローバリゼイションによるところが大きいのでしょうね。
シュミーア:そうだろうね。グローバリゼイションで人があちこちに行きすぎなんだよ。あとは、さっき君が言ったように、日本人はとても清潔で、手をきちんと洗ってマスクをして、人との距離も近くない。文化が違うんだ。イタリアに行くと、それほど清潔でないし、人々はいつもハグをして距離も非常に近い。日本人はそうじゃないよね。文化の違いでウィルスの広まる速度も違うんだろうね。こういうことは、人類にとってもチャンスではあるよ。過ちから学ぶという点でね。環境のことを気にせずグローバリゼイションを進めるというのは良くないことだし、やり方を変える必要があるのさ。今回の危機が、そのきっかけになると良いのだけど。
— コロナの収束後、音楽業界は変わっていると思いますか。
シュミーア:間違いなく変わるよ。多くのフェスティヴァルやコンサートのプロモーターは倒産するだろうし、生き残った人たちも、来年は以前と同じギャラは払えないという話もすでに出ている。それに、今までのような大きなフェスティヴァルの保険もかけられなくなるだろう。保険会社は今回のことで大きな額を支出するはめになったからね。バンドはギャラが下がり、プロモーターは減るからプレイする機会も減る。倒産する航空会社もある。ミュージシャンはあちこちに行かなくてはいけないからね。ここ数年のような安い値段で飛行機のチケットは買えなくなるだろう。航空会社が減れば、値段は上がるから。これらはすべて音楽業界に影響があることさ。収入は減り、支出は増えるということだよ。どうなるだろうね。満員になるまでお客さんを入れてはいけないということにもなるだろうし。みんなマスクをして、スペースを確保して、とか。アメリカでは座席ありのコンサートになるみたいな話もある。昔の日本みたいにね。覚えてる?
— 87年にヴェノムを座席ありで見ましたよ。
シュミーア:ヘッドハンターズで初めて日本に行った時も席ありだったよ!91年だったかな。
— 今後の予定を教えてください。次のライヴは決まっていますか。
シュミーア:今やっているはずのヨーロッパ・ツアーの一部が11月、12月に延期になっている。その頃になれば大丈夫だと思っているのだけど。それ以外はわからない。アメリカも南米も延期になったし、フェスティヴァルもキャンセルや延期になった。まだキャンセルになっていないフェスティヴァルもあるけどね。小さなフェスティヴァルはやれるかもしれないけど、どうだろう。9月のオファーが来ているので、9月からライヴを再開して、そこから少しずつ通常に戻っていければ良いけど。今年はあまり予定はないよ。コンサートには準備期間が必要だから。その分来年は忙しくなるだろう。今年の予定がみんな来年に延期になっているから。夏くらいからは新曲を書こうとは思っているけれど、来年アルバムを出すかはわからない。世の中の状況次第さ。まったくライヴをやれなければ、曲を書いてレコーディングをするかもしれないけど、2021年にはアルバムを出したくないんだよ。というのも、今こういう状況化で、すべてのバンドが曲作りをしているだろうから、来年地球上のすべてのバンドがアルバムをリリースするということだろ(笑)。ファンもそんなにお金があるわけではないだろうし。状況がどうなるか次第だね。フェスティヴァルもすべてなくて、そのフラストレーションを、曲を書くというクリエイティヴィティに向けているから。俺たちはわずか8ヶ月前にニュー・アルバムを出したばかりで、まだ新曲も十分にプレイできていないのに、新作を作り始めなくてはいけないという状況なのはとても奇妙なことさ。まだ輪が完成していない感じがするよ。いつもは2年間ツアーして、それから新曲を書き始めるのに。状況に順応していくしかないね。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
シュミーア:幸運なことに、日本の状況はそれほど悪くないみたいだけど、やはり複雑な状況にあることは変わりないだろう。今年日本に行けなかったことはとてもショックだよ。仕方がないことだとわかっているし、来年にはぜひ行きたいね。日本はいつでも最優先の国だし、俺たちにとって日本は特別な国なんだ。来年必ず日本に行くと約束するよ。
Please stay safe!
文 川嶋未来
- カース・ザ・ゴッズ
- ネイルド・トゥ・ザ・クロス
- ボーン・トゥ・ペリッシュ
- マッド・ブッチャー
- ライフ・ウィズアウト・センス
- ビトレイヤル
- トータル・ディザスター
- ザ・ブッチャー・ストライクス・バック
- スラッシュ・ティル・デス
- ベスティアル・インヴェイジョン
【メンバー】
シュミーア(ベース/ヴォーカル)
マイク(ギター)
ランディ・ブラック(ドラムス)
ダミア(ギター)