18年のアルバム『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』ではヘイトブリードのジェイミー・ジャスタをプロデューサーに迎え、現代的なヘヴィメタルを聴かせたディー・スナイダー。今回、ライヴ作品を新たにリリースするということで、ベリーズで執筆活動に専念中のディーに色々と話を聞いた。
— このタイミングでライヴDVDを出したのは何故でしょう。随分前から計画されていたものなので、コロナとは無関係なのですよね。
ディー:私は超能力者でも預言者でもないし、映像が見えたわけでもないのだけど、昨年の夏、マネージャーに2020年はライヴをやらないと伝えたんだ。書くのに専念するためにね。結局、今年はロックダウンになって、誰もがライヴをやれないという状況になった。だから、私は書くことに、書くことというのは小説や脚本の執筆のことなのだけど、それに専念しているよ。去年の夏にライヴを撮影して、ニュー・アルバムを作るまでの間にそれをリリースしようとマネージャーに言ったんだ。というわけで、これは2020年はオフという壮大な計画から生まれた作品なんだ。
— 本作品の見どころを教えてください。
ディー:そうだね、編集のされ方がとりわけ特別だと思う。通常は、私が過去にリリースしたものもそうだけれど、一本のライヴを録音、撮影したものだろ。今回の作品は、夏中撮影をして、さまざまな国、昼もあれば夜もあって、晴れの日や雨の日もある。しかも1曲の中で、シチュエーションが変わっていく。1曲の中で、世界中の国の様子が見られるんだ。ディー・スナイダーのショウを経験するというのがどういうものなのかを示し、共有するというアイデア。それが南米であれヨーロッパであれ、あるいはアメリカであれ、みんなが音楽を共有して体験し、私のやることを愛してくれる。非常に興味深い作品に仕上がっていると思うよ。君は見た?
— 見ました。土砂降りのシーンが印象的でした。
ディー:そう、天気が悪い方が印象にも残る。俺は、まあどんなバンドでもそうだと思うけど、雨が降ってきてもオーディエンスがどこへも行かないということに、とても感動するんだ。雨が降っても彼らはどこにも行かず、ロックし続けている。テントに逃げたり、帰ってしまったりもしない。まったく気にしていないんだよ。だから、私もオーディエンスと一緒に雨にずぶ濡れになりながら、ロックし続けるのさ。
— セットリストはどのように決めるのでしょう。特にトゥイスティッド・シスターの曲については、ベストヒット的なものにもできる一方、マニアックな選曲を望むファンもいるかと思いますが。
ディー:当然プレイしなくちゃいけない曲というものがある。プレイしないと、ファンがゲートで待ち受けていて私をステージに連れ戻して、なんていうことになる曲が(笑)。「I Wanna Rock」なんかはそういう曲だよね。しかし、それ以外については、私の新しいサウンド、そして新しいバンドはずっとヘヴィになっているからね、トゥイスティッド・シスターの曲の中でもメタリックなものを選ぶようにしている。「Under the Blade」、「Burn in Hell」、「Fire Still Burns」とか、ウィドウメイカーの「Ready to Fall」とかね。これらの曲を、バンドがさらにヘヴィに演奏する。選ぶ曲は、最もメタリックなものばかりだよ。
— バンドのメンバーはどのようにして決めたのですか。ニックとチャーリーのベルモア兄弟は、トキシック・ホロコーストにも参加していましたよね。トキシック・ホロコーストのリーダー、ジョエル・グラインドも『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』に参加し、ギターやベースをプレイしました。彼らはアンダーグラウンドのカルト・ヒーローだったので、あなたのようなビッグ・アーティストのバンドに参加するというのは大きな驚きだったのですが。
ディー:彼らのことは、ジェイミー・ジャスタが紹介してくれたんだ。『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』のレコーディングの時に。彼らは私のプロジェクトを受け入れ、スラッシュのエネルギーをもちこんでくれた。私はメタルヘッドだからね。トゥイスティッド・シスターのサウンドは、メタルとグラムのコンビネーションだけれど、私自身はもともとメタルヘッドなんだ。新しいメタルのサウンドも大好きだし、あのレコードでもそういうフレッシュでヘヴィなサウンドが欲しかった。だから、彼らが持ち込んでくれたサウンドもとても気に入ってね。彼らはディー・スナイダーを21世紀に連れて行くことに、とてもエキサイトしていたみたいだよ(笑)。アルバムでも、彼らは本当に素晴らしい仕事をしてくれたからね。私のバンドに入らないかと言ったら、彼らはそのチャンスに飛びついたんだよ。最初はただのバックバンドだった。だけど、ニックやもう1人のギタリスト、タズ、ラッセルと2年間一緒にプレイした結果、本当のバンドになってきたんだ。トゥイスティッド・シスターのメイクアップなどもやっていて、私のことを44年間見てきた妻も、彼らはクソ素晴らしいと(笑)。そんな訳でどんどんと実際のバンドになっていって。彼らのギターは本当にレベルが高い。彼らはシュレッダーだよ。タズには本当にビックリさ。「Under the Blade」をやるたび、私がスクリームする横でタズが速弾きをして。本当にやっていて楽しいよ。
— 確かに今言われたように、『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』にはスラッシュなエッジがあります。そもそもあなたはスラッシュ・メタル、あるいはデスやブラックのようなエクストリーム・メタルは聴くのですか。DVDでもMCでクレイドル・オブ・フィルスについて触れていましたが。
ディー:私はとても恵まれているんだ。メタルヘッドの子供達がメタルを聴かないということは珍しくない。だけど、私の4人の子供達は全員メタルヘッドなんだよ。これまでずっと子供達をライヴやフェスティバルに連れていっているのだけど、彼らは私に新しいサウンド、新しいバンド、どんなことが起きているかを教えてくれるんだ。一番下の娘、唯一の娘なのだけど、彼女のことはステージでも「This is Cheyenne Dirty Breakdown」と紹介している。彼女はとにかくブルータルでヘヴィでね。ジェイミー・ジェスタが彼女のiPhoneのプレイリストを見て、「オーマイゴッド!彼女は俺よりもブルータルだ!」って言ったほど。レコーディングしたものすべてについてジェイミーは、「Shyは何て言ってる?」なんて聞いていた。彼は娘のことをShyって呼んでいたんだ。だから曲をShyに聴かせて、そうすると彼女が「これはいいわね」なんていう感じで。彼女はトキシック・ホロコーストも大好きなんだ。ブルータルでヘヴィなバンドが大好きで、私にも色々教えてくれるんだよ。「フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル」のレコーディングの時も、彼女がジェイミーに”I need one dirty breakdown”と言ってね。だからあの曲の最後がブレイクダウンのパートになっているのさ。そういう訳で、私はずっと新しいメタルに接してきているんだ。それからもう1つ言わせてくれ。私と同じ年、あるいは年上の多くのミュージシャンが、「ロックンロールは死んだ」なんて言っているけど、彼らは自分たちが何を言っているのか、まったくわかっちゃいないのさ。彼らはライヴハウスやコンサート会場、フェスティバルに足を運んで、興奮、エネルギー、才能というものに触れるべきなんだ。そういう訳で、私は新しいバンドにずっと接して来て、新しいオーディエンスにアピールする新しいサウンドをやりたかったんだよ。
— 『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』が成功した秘訣は何だったと思いますか。あなたもMCで言っていましたが、ベテラン・アーティストの場合、ライヴでは新曲がトイレタイムになりがちです。しかし『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』はそうはならなかったですよね。
ディー:ありがとう。これは私の初めてのソロ・アルバムではない。以前にも、デスペラード、ウィドウメイカー、ヴァン・ヘルシングズ・カースといったソロ・バンドもやって、ソロ・アルバムも何枚も作った。色々と実験もして、これらの内容は首尾一貫したものではなかった。私に価値を見出して、新しいサウンドを受け入れ、若いミュージシャンと共演し、他のミュージシャンの書いた曲を歌うという、私がこれまでにやったことのなかったことへと挑戦させてくれたジェイミー・ジャスタのおかげさ。実際私はこれらの人々からの助けが必要だったし、ジェイミーは私のすべての楽曲を研究していたからね。与えられた曲を心から歌うことができた。曲が私に語りかけてくるのを感じた。曲に共感を得られなければ歌えないから。そういう訳で、ジャスタが私を導き、現在のメタルシーンと私を繋げてくれたんだ。私の世界に彼がいてくれたことに心から感謝しているよ。これこそ私のいたい場所さ。
— 今回のライヴ作品には、新曲「プルーヴ・ミー・ロング」が収録されています。これは『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』時の未発表曲でしょうか。それとも新たにレコーディングをしたものですか。
ディー:新しくレコーディングしたんだ。チャーリーは曲の製造機でね。「ディー、準備ができたら教えてください。次のアルバム用の曲のリフを書いていますから」と彼が言っていたのを覚えていてね。ナパーム・レコードが、DVD用に人々の興味をさらに引くようなちょっとしたボーナスを入れたいということで、「『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』の未発表曲はないか」と聞いてきたのだけど、無くてね。それでチャーリーと話したら、新しいリフがあると。それで曲を書き上げたんだ。この仕事を長くやっているけれど、私が何かをやるたびに「それは無理だよ」と言われてきた。新しいサウンドのレコードを作るということも同じだった。古いアーティストだから古いサウンドというのは、私はやりたくなかった。だけど、人々は「新しいサウンドのレコードを作るなんて無理だよ」と言っていた。『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル』で、私は彼らが間違っていることを証明した訳さ(proved them wrong)。「プルーヴ・ミー・ロング」(=俺が間違っていることを証明してみろ)というのは、こういうことに対するステートメントだよ。人々が「それは無理だ」と言ってくるのなら、私は彼らが間違っていることを証明してやるしかないのさ。
— 今後の予定を教えてください。コロナ収束後は再びツアーに出る予定でしょうか。
ディー:私の今の生活は、とても素晴らしく興味深いものだ。さっきも言ったように、今は色々と執筆活動をしていて、本来はこの5月に私が脚本を書いた映画『My Enemy’s Enemy』を監督するはずだった。延期になってしまったけどね。それから古いホラー映画のリメイクの脚本の依頼も受けていて、それも今書いているんだ。執筆活動は色々やっていて、初のフィクション小説も書き上げたところ。すでに出版社に届けてあるから、まもなく発売されるだろう。次にやるのは映画の監督だね。音楽の方は臨機応変にやっていくしかないけれど、私にとって1つ確実なことがある。ライヴ・コンサートというのは、たくさんのオーディエンスとバンドの繋がりだということ。ライヴ・コンサートとは、密集して曲、バンド、そしてオーディエンスが1つになるゾクゾクするような瞬間なのさ。わかるだろう?これが私にとってロックンロールがスペシャルな理由なんだ。最初はファンとして、そしてパフォーマーになった後もそれは変わらない。もしソーシャル・ディスタンスというものが必要であるならば、もちろん私もソーシャル・ディスタンスのことは理解しているけれど、もしみんなが肩を並べて合唱をすることができず、もし私が手を伸ばして最前列のファンに触れることができないのなら、私はショウをやりたくない。私にとって、そんなのはロックンロールではない。もちろん難しい局面にいることはわかっているし、解決策が見つかってライヴも元のようになるだろうと期待しているし、楽観的に見ているけれどね。私はその瞬間を共有するロック・ファンみんなの前に立ちたいんだ。だから、元のようにやれるようになるまでは、ショウをやる予定はないよ。
— やはりコロナ収束後の音楽業界は大きく変わっていると思いますか。
ディー:間違いなく今現在は大きなダメージを受けている。だけど、私はワクチンが開発されることを期待しているだけでなく、私たち自身がさらにスマートにならなくてはいけないと思っているよ。全世界がスマートにならなくてはね。こういうことが2度と起こってはいけないし、今回のことを真面目に受け止めるべきだ。ワクチンができることを期待しているだけでなく、今回のことから学ぶことで、オーディエンスが病気になることを恐れずにいられる状況に戻れると良いのだけど。
— 人生を変えたアルバムを3枚教えてください。
ディー:それは本当に難しいな!3枚?オーマイゴッド!時間を遡っていこう。まず、『If You Want Blood You’ve Got It』。ボン・スコットのAC/DC。ブライアン・ジョンソンも好きだけどね。シンガーとして最後に私に影響を与えたのがボン・スコットなんだ。私の声には、ボン・スコットからの影響がある。アリス・クーパーを少々、ディオを少々、そしてボン・スコットを少々。そうやって私は自分の声を見つけた。バンドとしてのAC/DCには、ロックンロールは音数が多い必要も、複雑である必要もないことを教えてもらった。ロックンロールは3−4つのコードで十分。AC/DCがいなければ、「We’re Not Gonna Take It」は生まれなかっただろう。それからブラック・サバスの『Black Sabbath』。私はブラック・サバスの最初期からのファンなんだ。それにあのタイトル曲。レコードをかけて、あのコード進行を聴くだけでも恐ろしかった。悪魔の音程。ブラック・サバスからも大きな影響を受けたよ。「Burn in Hell」や「Destroyer」とか、トゥイスティッド・シスターの曲の多くには、ブラック・サバスから影響を受けた暗さがある。それに彼らはヘヴィメタルのオリジネイターだしね。3つ目のバンドは、ホーリー・シット、どうするかな、ディオも挙げたいし。でもアリス・クーパーにしよう。『Killer』。いや、やっぱり『Love It to Death』。「I’m Eighteen」には、歌詞的にもヴォーカル的にも人生を変えられた。あの曲は、私が18歳になる時にリリースされたんだ。他のアーティストやバンドは、例えば私はレッド・ツェッペリンの大ファンだけれども、彼らはヒッピーっぽいというかスピリチュアルで、”Does anybody remember laughter?”なんて言われても、意味がさっぱりわからないだろ。だけど、アリス・クーパーは、シンプルな言葉でオーディエンスに語りかける。”I’m a boy and I’m a man. I’m eighteen and I like it.”ってね。それで、アリス・クーパーがオーディエンスとコミュニケーションするように、私も私のオーディエンスとコミュニケーションしたいと思ったんだ。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ディー:日本のファンのみんな、80年代にトゥイスティッド・シスターで行って以来、ずっと日本に行けていなくて申し訳ない。だけど、これまで日本のオーディエンスにとって欠けていた部分が、今の新しいバンドにはある。日本のオーディエンスは速弾きギタリスト、ギター・ゴッズが好きだよね。トゥイスティッド・シスターにも2人の素晴らしいギタリストがいたけど、彼らはヴァン・ヘイレンではなかったし、ランディ・ローズでもポール・ギルバートでもなかった。あのレベルのプレイをするギタリストではなかった。だけど、タズとチャーリー・ベルモアはシュレッダーさ。ギター・ヒーローとディー・スナイダー。やっと日本に戻ってロックする時が来たということさ。
文 川嶋未来
2020年7月31日 世界同時発売
ディー・スナイダー
『フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル・ライヴ』
- ライズ・アー・ア・ビジネス
- トゥモローズ・ノー・コンサーン
- ユー・キャント・ストップ・ロックンロール
- ザ・ビースト
- アメリカン・メイド
- アンダー・ザ・ブレイド
- ザ・キッズ・アー・バック
- ビカム・ザ・ストーム
- ウィアー・ノット・ゴナ・テイク・イット
- アイ・アム・ザ・ハリケーン
- バーン・イン・ヘル
- アイ・ワナ・ロック
- フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル
- ハイウェイ・トゥ・ヘル (AC/DCカヴァー)
- プルーヴ・ミー・ロング *スタジオ録音 新曲
【DVD/Blu-ray収録曲】
- ライズ・アー・ア・ビジネス
- インタビュー:ペイン・オブ・トラベリング
- トゥモローズ・ノー・コンサーン
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- インタビュー:ニュー・レコード
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- アイ・ワナ・ロック
- フォー・ザ・ラヴ・オブ・メタル
- インタビュー:AC/DC
- ハイウェイ・トゥ・ヘル (AC/DCカヴァー)
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