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フェルナンダ・リラ
(クリプタ)
独占インタビュー

いろいろなトピックが
うまく混ぜ合わさっていると思うわ
社会的なもの、プロテスト、オカルト
精神的なものが少しずつ入っているの

                                   

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文:川嶋未来 Photo by Renan Facciolo / Estevam Romera

ブラジルのスラッシュ・メタル・バンド、ネルヴォサを脱退した2人が、元バーニング・ウィッチーズのソニアと手を組み新たに始動したデス・メタル・バンド、クリプタ。そのデビュー・アルバムがリリースになるということで、ベース・ヴォーカル担当のフェルナンダに話を聞いてみた。

 

 

― なぜネルヴォサを脱退したのですか。

 

フェルナンダ:うーん、ただあらゆる関係が時とともに変わってしまったというか、関係が疲弊してしまったというか。仲もあまり良くなくなってしまい、考え方も合わなくなって、向かう方向も違うものになってきたの。だけど、決して大げんかをしたとかではない。関係が弱くなってしまっただけ。友人関係や結婚も同じでしょう?時とともに変わっていくもの。関係が良くなくなっていることがわかっていたから、私がイニシアチブをとって、別々にやった方がお互いのためだと切り出したの。あなたはネルヴォサを続けて、私は別のプロジェクトをやってと。振り返ってみると、両者にとってベストな決定だったと思う。ネルヴォサの新しいラインナップも素晴らしいし、アルバムも出した。私もクリプタにとても満足している。誰にとってもベストな状況になったと思うわ。勇気をだして決断して良かった。

 

― ネルヴォサではスラッシュ・メタルをプレイしていましたが、今回はデス・メタルですね。

 

フェルナンダ:もともとクリプタは私とルアナのサイド・プロジェクトだったの。2019年の5月頃だったかしら、バンド内のヴァイブがあまり良くないと感じていたから、何か別のことをやってみようと思って。あくまでサイド・プロジェクトとしてね。他のバンドをやることで、バンド本体もまた新鮮にやれるかもしれないという考えもあった。だから、あくまで遊びでやろうと思っただけだったの。結局こっちがメインになってしまったけれど(笑)。ルアナは実はデス・メタルのドラマーなのよ。スラッシュにも適応していたけれど、実際はデス・メタル・ドラマーで、ずっとデス・メタルのプロジェクトをやりたがっていたの。オールドスクールな。彼女が「デス・メタルのプロジェクトをやらない?あなたもデス・メタル好きでしょ?」と言ってきたから、「もちろん」と。時とともにどんどんシリアスになっていった。曲を書くのも楽しかったし。デス・メタルとスラッシュ・メタルはどちらも大好きで、どちらも大切。だけど、スラッシュ・メタルを10年くらいプレイしてきたから、ルアナに誘われた時に、新しいことをやってみるのも面白そうだと思って。スラッシュとデスは、どちらも激しくて似ているジャンルのようだけれど、曲の書き方はまったく違う。新しいものを書くのはとても面白そうだと思ったの。

 

ー ギタリストに元バーニング・ウィッチーズのソニアを誘ったのは何故ですか。彼女は欧州在住ですが、ブラジルでメンバーを見つけた方が活動はしやすかったのではないかと思うのですが。

 

フェルナンダ:私たちはずっとソニアのファンだったのよ!かなり前に彼女がデス・メタル・バンドでベースを弾いていた頃から、彼女のことをチェックしていたから。彼女はとてもステージで存在感、カリスマ性があって、私はそういうのが大好きなのよ。私自身もステージでの存在感を大切にしているし。それで友達になったの。ルアナとクリプタを始めた時、最初の会話はギタリストをどうするかということだったのだけど、二人同時にソニアの名前を挙げたのよ(笑)。二人とも彼女のファンだったから。ソニアには80年代風のルックスがあるし。それで彼女にお願いすることなのよ。

 

― クリプタという名前はどのような意味なのですか。ポルトガル語でしょうか。

 

フェルナンダ:これは英語とポルトガル語のミックスみたいなもの。ポルトガル語で書くとしたら”Cripta”と、yではなくiになるわ。ポルトガル語では、女性名詞は最後”a”で終わるの。だから、全員が女性のバンドということで、英語の”crypt”に”a”を足したというわけ。覚えやすいし、発音しやすいから、この名前を選んだ。英語とポルトガル語のハイブリッドよ。

 

― クリプタはデス・メタル・バンドと考えて良いのですよね。

 

フェルナンダ:面白いことに、もともとはオールドスクールなデス・メタルに特化した曲を書こうとしていたの。私も80年代から90年代始めのフロリダのバンドが大好きだし、ルアナもオールドスクールなスウェーデンのバンドが大好きだから。ところが、曲を書き始めていると、さまざまなデス・メタルのハイブリッドなものになっていった。オールドスクールなフロリダ・スタイルなものもあれば、メロディもある。だから、今となってはどんなデス・メタルをプレイしているのかを描写するのはとても難しくなってしまって(笑)。ロウなもの、テクニカルなもの、メロディックなもの、ヴェイダーみたいなポーランドのデス・メタルを思わせるアグレッシヴなもの。こういうサブジャンルが全部ミックスされているわ。

 

― だけど、デス・メタルであることに変わりはない?

 

フェルナンダ:それは間違いないわ。

 

― 具体的にはどんなバンドから影響を受けたのでしょう。

 

フェルナンダ:私自身はデスやカンニバル・コープス、モービッド・エンジェル。彼らが私のトップ3。もちろんヴェイダーみたいなとても速いデス・メタルからもインスピレーションを受けるけれど。ギタリストのタイナは、デスやゴジラみたいなテクニカルなものが好き。ルアナはオールドスクールなスウェーデンのバンドが好きで、あれ、彼女がいつも口にしているバンドって何だっけ?あー、思い出せないわ。ともかく、彼女はネクロフォビックとか、そういうバンドが大好きで、ソニアはもっとメロディックな、エントゥームドとかが好き。彼女はベヒーモスからも曲作りのインスピレーションを受けている。さまざまなバンドから影響を受けているから、一口で言うのは難しいわ。一つの曲でも多くのバンドから影響を受けているのよ。

 

― ブラジルとヨーロッパと、メンバーが離れていますが、曲作りはどうやってやったのですか。やはりファイル交換でしょうか。

 

フェルナンダ:基本的にインターネットを通じてよ。ブラジルとオランダに分かれている以前に、ブラジル国内でも、違う州に住んでいるというだけで、お互いに会うために3時間飛行機に乗ったりなんていう状況だから。それに今はパンデミックもあって、リハーサルのために集まることも容易ではないし。だから、一番早く効率的にやる方法が、インターネットなのよ。私やソニアがリフを思いついて、それを他のメンバーがそれを発展させたり、ルアナがリフを思いつくこともある。ファイル交換でやっているけれど、とても集中して注意深くやったから、アルバムをリリースするまでに結構な時間がかかった。細部にまでこだわったから。曲をすべて書き上げたあとも、一曲一曲細かく見直して。仮にみんなが近くに住んでいたとしても、やっぱりこのやり方でやると思うわ。これが一番うまくいくやり方だから。

 

 

 

― 歌詞は社会的なものからオカルトまで幅広いトピックになっていますよね。

 

フェルナンダ:それに気づいてくれて嬉しいわ。とても苦労して書いたから(笑)。10年間、主にプロテスト・ソングを書いてきたわけだけれど、それが私のやりたかったことだし、スラッシュ・メタルにもぴったりだった。だけど、今やっているのはデス・メタルでしょう?それで何か違うことを試そうと思って。歌詞も含めてあらゆることで違うことを試したかったの。社会的なものも少々入れて、というのも私は社会的なことや政治にとても興味があるから、まったく入れないわけにはいかないから、ただ今回はもうちょっと詩的な内容にしたけれど。多くの曲は、精神的な視点を持っている。自分自身についての知識、成長についてとか。それから、オカルト的なものもある。何しろデス・メタルだから(笑)。いろいろなトピックがうまく混ぜ合わさっていると思うわ。同じことばかり歌っていると、退屈なアルバムになってしまうでしょう?社会的なもの、プロテスト、オカルト、精神的なものが少しずつ入っているの。

 

― 「ブラッド・ステインド・ヘリテージ」は人種的民主主義についてですよね。これはとてもブラジル的なトピックだと思いますが。

 

フェルナンダ:これに気づいてくれたのは嬉しいわ。私は人種的民主主義についてずっと調べてきていて、そういうものが存在していると言われているけれど、それはただの押し付けだわ。異種族混交のプロセスについてのとてもヘヴィな内容の記事を読んで、とてもショックを受けた。多くの殺戮やレイプがあったと。人々もこのことについて知るべきだと思ったの。植民地化のプロセスについてね。この歌詞を書くのはとても難しかった。とてもヘヴィな内容だから、言葉も慎重に選んだ。人々がこの問題について考えるようになってくれるといい。とても重要な問題だから。

 

ー アートワークは何を表しているのでしょう。

 

フェルナンダ:うーん、なかなかシンプルに説明できないのだけど、色々なことを表していて、棺桶というのは通常死を表している。生から死への変容、一つの状態から別の状態への変容。歌詞では変容や変質、再生などを扱っている。アートワークではモンスターと棺桶が描かれていて、これはとても視覚的でオールドスクールなものにしたかった。目玉とか、ホラーっぽい。棺桶からモンスターが出てこようとしていて、よく見ると下に切れた鎖が描かれているの。最初の曲で、実際に鎖が切れる音も聴けるわ。棺桶からは光と煙が出ていて、つまり何かが蘇ろうとしているということ。再生を表しているの。死んだものが棺桶から蘇ってくるという描写。もちろんこれは比喩、哲学的な生まれ変わり、変容のことだけれど。これをホラー的タッチで描きたかったの。

 

ー ネルヴォサからクリプタへの生まれ変わりという意味と捉えて良いのでしょうか。

 

フェルナンダ:うーん、それだけという訳ではないわ。私とルアナだけが元ネルヴォサだし。再生や変容についての歌詞を書く時、私たちは誰もが日々そういう経験をすると思うの。私の歌詞を読む人は、愛する人を失った女性かもしれないし、恋人との別れを克服しようとしている男性かもしれない。さまざまな変容や再生を経験している人が共感できるように、歌詞を書いた。みんなにインスピレーションを与えられるようにね。一方で、ネルヴォサからの再生という部分もあるかもしれない。というのも、ネルヴォサを抜けるという経験は、私にとって容易なものではなかったから。10年間も続けて来たことをやめるということがどれほどつらかったかは、私自身にしかわからない。色々な思いが頭の中を駆け巡って、そのすべてが健康的なものではなかったから、とてもつらかった。いまでもまだ完全には立ち直っていないわ。正直なところ、人生おしまいだと思った。これで私のキャリアはおしまい、もう曲を書いたり音楽を演奏したりすることもないかもしれない、なんて思ったの。だけど、時が経つにつれ、自分のアートや仕事について生まれ変わり始めた。とてもハードなプロセスだったから、これは私の個人的なプロセスとも言えるかもしれない。結局こうやって私は戻ってきた訳だけど、ありきたりに、傲慢に「私は灰の中から生まれ変わった!」なんて言うつもりはないわ。私が生まれ変わったことは間違いない。だけど、アートワークや歌詞が、そのことだけを表しているわけではない。誰でも共感できるものになっているわ。

 

 

ー エクストリーム・メタルとの出会いはどんな感じだったのですか。

 

フェルナンダ:それに関しては、とても良い思い出がある。そもそもは父がメタルヘッドだったのだけど、彼はエクストリームなものは好きでなくて、もっとNWOBHMとか、ヘヴィメタルやパワーメタル好きなの。それで父の影響でメタルを聴き始めたのだけど、エクストリーム・メタルについてはまた別で、10代の頃、メタルのコミュニティの影響で色々と聴くようになって、まずスラッシュ・メタルと出会った。スレイヤーのコンサートに行って衝撃を受けて。「メタルってこんなにヘヴィなの!」って。それからなぜかニュークリア・アソートを聴いて、それでスラッシュ・メタル・バンドをやりたいと思った。アグレッシヴなものを聴きたくて、まあ10代の頃ってみんな怒っているでしょう?色々とアグレッシヴなものを探していたら、友達がデスを色々と録音してくれたの。聴いてみたのだけど、その時はあまりに複雑で、よく理解できなかった。だけど、それでデス・メタルというものがあることを知って、モービッド・エンジェルを好きになったの。モービッド・エンジェルが大好きな友達がいて。今もモービッド・エンジェルは大好き。そこからオビチュアリー、ディーサイド、カンニバル・コープスなんかを聴いて、それからデスを聴き直してみたら、ピンと来たのよ!

 

― 最近のテクニカルなものではなくて、オールドスクールが好きなのですね。

 

フェルナンダ:最初に聴いたのが、そういうものだったからだと思うわ。ノスタルジックというか。ロウなものが好きだし。なぜかわからないけれど、ロウなスラッシュ、ロウなデスが好きなのよ。もちろん最近のものが好きではないということではないわ。クレイジーな素晴らしいバンドは、ブラジルにも他の国にもいるし。ただ、個人的な好みとしてロウなものが良いというだけで。

 

ー ブラジルは昔からロウで激しいバンドが多いですよね。初期のセパルトゥラとかサルコファゴとか。

 

フェルナンダ:そうなのよ。そういう意味で、私はこの国をとても誇りに思っているわ(笑)。とてもアグレッシヴなバンドがたくさんいる。アグレッシヴなメタルを聴き始めた時にハマっていたのがTorture Squad。初期のセパルトゥラを聴くよりも前に、Torture Squadを聴いたの。スラッシュとデスのパーフェクトなミックスで、テクニカルではるけれど、テクニカルすぎもしない。Torture SquadやClaustrofobiaはよく聴いたわ。それから初期のセパルトゥラやサルコファゴ、Chakal、Atomicaとか、ブラジルのオールドスクールなバンドを聴くようになった。クリジウンは最初はアグレッシヴすぎると思ったけれど、今では大好き。ブラジルには素晴らしいデス、スラッシュ、クロスオーバーのバンドがいる。今お気に入りはクロスオーバーのスラッシュなのだけど、Eskrota。素晴らしいトリオのバンド。友人のバンド、Surraも大好き。彼らもクロスオーバーで、最近はこの2バンドを聴いているわ。ブラジルはアグレッシヴなバンドが尽きることなく出てくるのよ(笑)。

 

― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。

 

フェルナンダ:3枚?それは難しいわ(笑)。トップ30じゃないと不公平になってしまう(笑)。そうね、アイアン・メイデンはすべて好きだけど、『Powerslave』にしましょう。アイアン・メイデンにはロック、ヘヴィメタルの見方を変えられたわ。もともとキッスなどを聴いていたのだけど、アイアン・メイデンを聴いて、「ちょっと待って、これは凄いわ!」なんて思った。それにスティーヴ・ハリスの存在は私がベースを始めた理由だし。『Powerslave』は彼らのベストのアルバム。ファースト・アルバムも素晴らしいけれど。次はニュークリア・アソートね。『Game Over』と『The Plague』がカップリングされた作品。これには人生を変えられた。クリエイターやデストラクションなどは聴いていたけれど、ニュークリア・アソートを聴いたときは、これこそ私がやりたいことだと思った。あふれるエネルギー、そしてあのサビ。今も書いている曲に、彼らからの影響がある。こんアルバムを聴いて、スラッシュ・メタルをやりたいと思って、それでネルヴォサが生まれたようなもの。このアルバムを挙げないわけにはいかない。それからデスの『Individual Thought Patterns』。デスはあまりに複雑で、最初は理解できなかったのだけれど、一旦わかるとこのアルバムは本当に素晴らしくて、今でも大好き。「どうやってこんな風にデス・メタルの曲を書けるの?」という感じで、とてもインスピレーションを受ける。デス・メタルでアグレッシヴだけど、テクニカルで目を開かせられる。インスピレーションを受けたいときは、デスをたくさん聴くわ。実は『Individual Thought Patterns』は、デスで一番好きなアルバムではなく、『Leprosy』の方が好きなのだけど、『Individual Thought Patterns』の方が、曲作りの上でのインスピレーションになるということ。あんな曲を書ける訳ではないけれど(笑)。あれは無理よ。でも人生を変えられたアルバムだわ。

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

フェルナンダ:まず、いつもサポートありがとう。日本でプレイした時のことは忘れられないわ。とてもお気に入りの国に行けて良かった。どんなところなのか想像もできなかったけれど、行ってみてとても驚いわ。みんな物凄く温かく迎えてくれて、みんな親切で、良い意味でいろいろ心配してくれて。私たちの居心地が良いように。一方で、ギグではとてもアグレッシヴだった。人生観を変えられたわ。サポートしてくれてありがとうとしか言えない。みんなクリプタも気に入ってくれると嬉しいわ。また一緒ヘッドバンギングできる日を楽しみにしているわ。

 

 

文 川嶋未来

 


 

 

 

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2021年6月11日発売

クリプタ

『エコーズ・オブ・ザ・ソウル』

直筆サインカード付CD

CD

【CD収録曲】

  1. アウェイクニング
  2. スターヴェーション
  3. ポゼスト
  4. デス・アルカナ
  5. シャドウ・ウィズィン
  6. アンダー・ザ・ブラック・ウィングス
  7. カーリー
  8. ブラッド・ステインド・ヘリテージ
  9. ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル
  10. フロム・ジ・アッシズ

 

【メンバー】
フェルナンダ・リラ(ヴォーカル、ベース)
ルアナ・ダメット(ドラムス)
ソニア・アヌビス(リードギター)
タイナ・ベルガマシ(ギター)