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ジェレミー・ヒーバート
(カムバック・キッド)
独占インタビュー

今回のアルバムは7枚目で
俺たちのキャリアの長さから考えると少々少ないけれど
その分ファンはじっくりと
アルバムを消化することができるから

                                   

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文:川嶋未来 Photo by Bethan Miller

カナダが誇るハードコア・バンド、カムバック・キッド。結成は02年にまでさかのぼるから、そのキャリアはほぼ20年に及ぶ。これまでに6枚のアルバムをリリース。初期はハードコア色が強かったが、ここ数作ではメタリックでヘヴィなアプローチが目立つようになってきた。17年の前作『Outsider』からドイツの大手、ニュークリア・ブラストに所属。今みなさんが手にしているのが、5年ぶり7枚目のアルバム『ヘヴィ・ステップス』である。一体これはどんなアルバムなのか。バンドの創始者の1人であり、ギタリストのジェレミー・ヒーバートに話を聞いてみた。

 

 

ー 最新アルバム『ヘヴィ・ステップス』がリリースになりましたが、過去の作品と比べてどのような点が進歩していると言えるでしょう。

 

ジェレミー:みんなが最初に気づくであろう一番の違いは、全体的なサウンドだろう。Will Putneyにミックスとマスターを頼んだのだけど、彼のアプローチは低音を強調したヘヴィなサウンドで、俺はずっとカムバック・キッドにはそういうサウンドが必要だと思っていた。他のアルバムのサウンドが嫌いだと言っている訳じゃないよ。だけど、今回のアルバムは低音が効いていて、ブレイクダウンのパートになると、本当にヘヴィだよ。おそらくみんなすぐにそのことに気づくんじゃないかな。

 

ー 前作から5年ぶりと、カムバック・キッドのキャリアの中で一番のブランクとなっていますが。

 

ジェレミー:それには大きく分けて2つの要因があると思う。バンドとして年を重ねてくると、以前のように新作を早く出さなくてはという焦りみたいなものが無くなってくるんだ。若い頃は、アルバムをリリースしても、すぐに次の作品を出したくなる。3枚目、4枚目くらいまではそんな感じ。だけど年をとってくると、俺が恐れているのは、あまりにどんどんアルバムを出してしまって、15枚、20枚もアルバムがあると、ファンは迷ってしまうんじゃないかと思って。どれを聴けば良いのかとか、ライヴを見に行くにしても、どのアルバムを聴き直せばいいのか、みたいにね。今回のアルバムは7枚目で、俺たちのキャリアの長さから考えると少々少ないけれど、その分ファンはじっくりとアルバムを消化することができるから。それからコロナの影響ももちろんあった。もっと早くレコーディングを始めるつもりだったのだけど、去年の春にパンデミックが始まって、どうやらこれは数週間や数ヶ月じゃ収まりそうにはない、1年から2年はかかりそうだという感じだったから、レコーディングに関しても急ぐ必要はないと思ったんだ。それで作業をスローダウンして、より時間をかけて曲を書き、リハーサルをやって。いつもならかなりヘヴィなツアー・スケジュールが入っていて、さらにメンバーがみんな違う街に住んでいるから、なかなか時間をかけて曲をアレンジしたりが難しいのだけれど、今回はもっと集中してアルバムを作れたよ。

 

ー 歌詞のテーマはどのようなものですか。抽象的な内容も多く、一体何について歌われているのか特定するのが難しい曲も多いですが。

 

ジェレミー:正直なところ、俺もテーマを知らないことはしばしばあるんだ。初期はアンドリューはヴォーカルでなくギターを弾いていたので、曲はたいてい俺たち2人で書いて、当時のシンガーのスコットが歌詞を書いていた。その後アンドリューがシンガーとなって、それからは彼がすべての歌詞を書いているんだ。ここ2枚のアルバムではステューが新しいギタリストとして加わっていて、と言ってももう10年も一緒だけれど、曲作りには彼も参加しているよ。歌詞については、アンドリューは全般的にそれが何についてなのかはあまり語らないんだ。非常にパーソナルなものもあれば、世界でどんなことが起こっているのかを描写するものもあるだろう。例えば今回のアルバムでは、自殺というものに触れている曲がある。実は、このアルバムのレコーディング中、俺たちの友人の1人(ディーズ・ナッツのショーン・ケネディ)が自殺をしてしまったんだ。それですでに出来上がっていた歌詞を完全に破棄して、最初から書き直したんだ。俺たち全員にとって大きな衝撃だったし、歌詞にすることで、それを乗り越えるという感じでもあった。様々な感情が湧き上がってきたからね。他の曲については、アンドリューの視点から見た世界の描写さ。彼の歌詞は、あまり具体的なものではない。これは彼だけでなく、そういう歌詞を書く人は多いだろうけれど、歌詞の中で多くの説明はしないんだ。まるで粘土のように、リスナーたちが個人的に好きな形にしてくれて良いのさ。画家などもそうだろう。常にそれが何なのか、詳細を説明する訳ではないよね。キャンバスに自分の感じていること、感情を描きつけて、それを見るものはそれぞれの解釈をするのさ。だから、俺もアンドリューに多くのことは質問しない。面白い関係なんだ。彼の書く歌詞がそういうものであることは理解しているし、必要以上に深入りしたくない。もしアンドリューが俺に伝えたいことがあるのなら、それは聞く。だけど、たいていは何も質問をしないんだ。変わっているかもしれないけれど(笑)。

 

ー アートワークには死神や犬などが描かれています。これは何を表しているのでしょう。

 

ジェレミー:アルゼンチン出身で今はバルセロナに住んでいるタトゥーのアーティストに描いてもらったんだ。アンドリューが彼に「ヘヴィ・ステップス」の歌詞を送って、これもさっきの話と同じで、歌詞の内容については多くを説明せず、アーティストに内容を読んで解釈をしてもらったのさ。”Heavy steps on hollow ground”という歌詞を読んで、どう感じるかって。好きなように解釈してもらった。「犬を描いてくれ。それからあれとこれと」みたいなお願いをした訳ではなく、「君のアートワークなのだから、君のやり方でやってくれ」という感じでね。

 

 

ー 今作から新ベーシスト、チェイスが参加しています。

 

ジェレミー:彼はもともとリヴィング・ウィズ・ライオンズとか、いくつかのバンドでプレイしていたのだけれど、ギタリストでベースは弾いたことがなかったんだ。ベースでのレコーディングは初めてということだったので、正直少々心配していたのだけれど、何の問題もなかった。ギタリストがベースを弾くと、ギターのようにベースを弾くことが多いと思うのだけど、2つは違う楽器だよね?彼はベースの弾き方をきちんと学んでいたよ。カムバック・キッドにきちんと合うベースを弾いてくれた。

 

ー ゴジラのジョー・デュプランティエ、ディーズ・ナッツのJJピータース、マレヴォレンスのジョッシュ・ベインズらがゲスト参加しています。どのような経緯で参加が決まったのでしょう。

 

ジェレミー:バンドの全員が今回参加してくれた人たちのファンだからね。マレヴォレンスやディーズ・ナッツ。彼らとは何度もツアーをしたことがある。ゴジラとはまだツアーをしたことがないけれど、ぜひやってみたいね。俺たちはこれらのバンドのファンなんだ。それで、曲の中に彼らのスタイルを感じるパートがあったので、連絡してみようと。どの曲も素晴らしい出来になったよ。JJにはさっき話した自殺についての曲に参加してもらったんだ。というのも、彼もその自殺をしてしまった人物の友人だったから。

 

 

 

ー 自分たちの音楽を言葉で説明するとしたら、どうなりますか。モダン・オールドスクール・ハードコアというような言い方をされることも多いですが。

 

ジェレミー:巨大なシチューみたいなものさ。パンクを少々、ハードコアを少々、メタルを少々煮込んでね(笑)。バンドを始めた頃は、ポジティヴなオールドスクール・ハードコアという感じだったけれど、常に少々メロディック・パンクからの影響はあったし、メタリックな影響もあった。まあ自分たちはメタル・バンドではないけれどね。ここ何枚かのアルバムでは、初期の何枚かに比べるとヘヴィなトーンも増えた。俺たちを知らない人たちにそのサウンドを説明してくれと言われることもあるのだけど、難しいよ。ストレートなハードコア・バンドではないからね。もちろんハードコアから一番大きな影響を受けていることは間違いないけれど、パンク、メタル、ハードコア3つを混ぜ合わせたものが俺たちだよ。

 

ー では影響を受けたバンドとなるとどのあたりでしょう。

 

ジェレミー:それは非常に良い質問だね。あらゆる音楽からインスピレーションを受けているよ。例えばアンドリューは、歌詞的に、というか音楽的、リズム的にもそうだと思うけれど、ヒップホップから影響を受けている。作曲家としての俺は、本当に色々なものから影響を受けるよ。ポップス、エレクトロニカ、時にブルータルなメタルから影響を受けることもある。何かを聴いていて、ふとアイデアを思いつくんだ。自分たちと同じジャンルのバンドだけでなく、様々なスタイルからインスピレーションを受ける。AIRというバンドは知ってる?

 

ー フランスのアーティストですよね。

 

ジェレミー:そう、エレクトロニカっぽいことをやっている。メロディという点で、彼らから大きな影響を受けているよ。曲の展開やコード進行とか。ああいうスタイルの音楽にはとても引き込まれてインスピレーションを受けるよ。

 

ー 影響を受けるアーティストというのは、年とともに変わっていくものですか。

 

ジェレミー:そう思う。年々増えている。どんどん普通でないジャンルからの影響が増えているね。それからTerrorやBaneといった仲間のバンドたちからも。Baneは解散してしまったけれど。彼らの古い作品を聴くと、エネルギーが感じられる。こういうバンドを聴いていると、20年も同じジャンルでプレイし続けているけれど、新しいやり方に挑戦してみようという気になるんだ。

 

ー そもそも激しい音楽を聴くようになったきっかけは何だったのですか。

 

ジェレミー:俺は非常に保守的なクリスチャンの家で育ったんだ。だからロックやメタルは「ノーノーノー」って聴かせてもらえなかった(笑)。10代になると、それでも聴くようになってね。惹かれるのはいつもギターだった。あの激しいサウンドに感じるものがあった。今45歳だけれど、その気持ちは変わらないよ。ライヴを見に行って、ギターの音にブチのめされたいんだ。こういう気持ちは俺の体に染み付いているんだろうね。他のメンバーのことは断定できないけれど、俺たちはみんなパンクロック側からこの世界に入ってきた。みんなファット・レコードの作品を聴いて育って、もちろんヘヴィな音楽からの影響もあるだろうけれど、基本的にみんなスケート・パンクとかを聴いて育ったんだ。

 

ー 激しい音楽にハマるきっかけとなったバンドを1つ挙げるとすると誰でしょう。

 

ジェレミー:Trouniquetは知ってる?クリスチャン・メタル・バンドなのだけど、90年代の初めにサンプラーに入ってる曲を聴いて「ワオ!」って思って。それで速くてアグレッシヴな音楽をやりたいと思ったんだ。何か感じるものがあったんだよ。さっきも言った通り、俺はクリスチャンの家庭に育ったから、色々なものを聴くことができなかった。それで10代後半になって、自分で音楽が聴けるようになって、そこから色々なものを探索していったんだよ。

 

ー お気に入りのギタリストは誰ですか。

 

ジェレミー:まあ、俺は速弾きギタリストではないからね。だけど、エクストリームのヌーノ・ベッテンコートは好き。演奏そのものだけでなく、ステージでの振る舞いもカッコ良かった。難しいフレーズを、いとも簡単にプレイする様子がね。もっとモダンなところだと、デヴィン・タウンゼンド。彼はステージで、完全にメタルのキャラクターになりきったりもしているけれど、いつも楽しんでいるのがわかるし、とてもイカした興味深いギターを弾くよね。とても尊敬している。俺は他の速弾きギタリストみたいには弾けないけれど、影響というか、彼らみたいに弾けるようにならないのはわかってるけれど、もっとうまくギターを弾きたいという気持ちにさせられるんだ。あんなとんでもない速度のソロは弾けやしないけど(笑)。

 

ー カムバック・キッドというバンド名は新聞の見出しから取ったとのことですが、このフレーズを気に入った理由は何だったのでしょう。

 

ジェレミー:バンドを始めた頃は、ポジティヴなメッセージを与えたいというアイデアがあって、誰しも人生においてつらい時期というのがあるよね。人生なんて最悪だって。だけど、そこからカムバックするという、バンドの求めるポジティヴなエネルギー、元気付けを表現していると思ったんだ。音楽とはパワフルなもので、さっき俺たちにとって具体的な歌詞は必ずしも必要ではないと言ったけれど、全体的なポジティヴさを伝えたかった。気分を切り替えるために音楽に頼る人は多いよね。そういうポジティヴさの一部になりたかったんだよ。カムバック・キッドという名前には、その種のマインドセットがあると思ったんだ。

 

ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。

 

ジェレミー:そうだな。さっきTrouniquetの名前を出したから、彼らのアルバムから『Psycho Surgery』。まあアルバム全体が好きという訳でなく、良くない曲も入っているのだけど、彼らからの影響は大きいよ。それからヘヴィなハードコアだと、ヘイトブリードの『Satisfaction Is the Death of Desire』。1997年の作品だけど、あれにはヤラれたね。とにかくヘヴィだった。ヘヴィなハードコアからもう1枚、100 Demonsの『In the Eyes of the Lord』。これもただただヘヴィだよ。おそらく短期間でレコーディングされて、彼らもタイトにやろうとしたのだろうけれど、生々しいヘヴィなエネルギーがあって大好きなんだ。

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

ジェレミー:日本にはこれまで5回ほど行った。確か前回はミザリー・シグナルズと一緒で、すでにもう何年も経ってしまったよ。日他の国々とはまったく違うところの1つ。この間も早くまた日本に行きたいと話していたところさ。次回いつ行けるのかはまだわからないけれど、日本はまた必ず行きたい国だよ。もう1人のギタリストは奥さんと一緒に日本文化を楽しもうと長めに滞在したのだけれど、俺はそれができなかった。いつか子供たちを連れて日本に行きたいよ。本当にクールな国だからね。

 

 

文 川嶋未来

 


 

 

 

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2022年1月21日発売

カムバック・キッド

『ヘヴィ・ステップス』

CD

 

【CD収録曲】

  1. ヘヴィ・ステップス
  2. ノー・イージー・ウェイ・アウト
  3. フェイス・ザ・ファイア
  4. クロッスド feat. ジョー・デュプランティエ [ゴジラ]
  5. エヴリシング・リレイツ feat. JJ [ディーズ・ナッツ]
  6. デッド・オン・ザ・フェンス
  7. シャドウ・オブ・ダウト
  8. トゥルー・トゥ・フォーム
  9. イン・ビトウィーン
  10. スタンドスティル
  11. メナシング・ウェイト

 

【メンバー】
アンドリュー・ニューフェルド(ヴォーカル)
ジェレミー・ヒーバート(ギター)
ストゥアート・ロス(ギター)
チェイス・ブレンネマン(ベース)
ローレン・レガーレ(ドラムス)