デス・メタルの帝王Cannibal Corpseがニュー・アルバムをリリース!ということで、ベーシストのアレックス・ウェブスターに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『Chaos Horrific』がリリースになります。音楽的にどのような作品だと言えるでしょう。
アレックス:そうだね、『Violence Unimagined』と『Chaos Horrific』が作られた状況は、少々普通ではなかった。パンデミックのせいで、そしてそれが引き起こした音楽業界全体のスケジュール、やり方の変更のせいで。今回のアルバムの曲は『Chaos Horrific』の直後、じゃなかった、『Violence Unimagined』の直後、ごめん、この2枚のアルバムは俺にとってどちらも新しいものだから混乱してしまった(笑)、『Violence Unimagined』の直後から書き始めたんだ。だから、直前に『Violence Unimagined』でやったことを繰り返さないような努力を少々した。例えば『Violence Unimagined』でとあるグルーヴ、テンポ、スケールを使って、それらはまだ記憶の中に新鮮に残っていたから、それらとは違うものを書こうとした。曲を書いたメンバー全員が、やったばかりのことを繰り返さないようにということを、念頭に置いていたよ。いくつかのリフ、曲は2020年の中頃には書き始めていた。『Violence Unimagined』がリリースされる以前から。と言うのも、俺たちはみな家にいるという普通でない状況だったから。いつもなら、アルバムを作って、数ヶ月後にそれが出て、それから3年間ツアーをするのだけれど。いつもと状況が違ったからね。
ー 本作はエリック・ルータンがバンドに加わって2作目となります。
アレックス:バンドのメンバーが入れ替わると、多少なりとも変化はある。特に俺たちのように、すべてのメンバーに何らかの貢献を求めるバンドだとね。エリックは非常にたくさんのエネルギーを持った人物で、いつも仕事をしている完璧主義者なんだ。彼がプロデュースした作品、ギタープレイ、書いた曲を聞けば、それがわかると思う。彼には俺たちも背中を押されているよ。これまでも高いクオリティの作品を作り続けてきたし、できる限りのことをしてきたと思うけれど、エリックみたいな人間がバンドにいると、もっと頑張れという気持ちにさせられるんだ。とても良い影響を受けているよ。彼は本当に一生懸命仕事をするから。彼の仕事に対する倫理のおかげで、俺たちもさらに一生懸命やろうという気持ちになる。俺たちはハードワークをやるバンドだと思っていたけれど、エリックのおかげでさらに上のレベルに達していると思う。エリックのエネルギーが、他のメンバーにも伝染しているんだよ(笑)。彼が加入してくれて良かった。
ー 先ほど言われたように、Cannibal Corpseはメンバーのほとんどが曲作りに貢献しています。曲は1人のメンバーが書き上げるのですか。バンド全体で作り上げるのではなく。
アレックス:そう、お互いを信頼しているからね。例えばエリックの書いた曲ならば、良い曲であることは間違いない。ロブも同じ。だから、それぞれが曲を書くことを許容しているんだ。みんなこのバンドの曲がどういうものであるべきかを理解しているから。曲を書くメンバーが1人しかいないという状況より、クリエイティヴだよ。エリックは家で1人で曲を書いて、ロブはポールと一緒に作業をするのを好んでいる。エリックと俺が家でデモを作って、他のメンバーは出来上がった曲を聴くという感じ。ポールは過去には曲を書いていたけれど、最近は歌詞の方に専念している。PVの3曲の歌詞も、すべてポールが書いたんだ。タイトルトラックも、曲は俺が書いたけれど、歌詞はポール。メインのソングライターが1人しかいなくて、それでうまくやっているバンドもいるけれど、俺たちがうまくやれているのは、ソングライターが複数いてバラエティを作り出して、アルバムを最初から最後まで興味深いものにしているからさ。それぞれの曲にキャラクターがあるんだ。
ー やはり書く人間によって曲に特徴があると思いますか。
アレックス:あると思う。ファンも違いがわかるんじゃないかな。俺は確実にわかる。例えばエリックが書いた「Blood Blind」の次は、ロブの「Vengeful Invasion」だけれど、どちらもCannibal Corpseらしい一方、スタイルは大きく違う。俺が書いた曲は、やっぱりロブやエリックが書いたものとは違う。それらに俺たちの楽器の演奏の仕方、特にポールのユニークなドラミングとジョージのヴォーカルが一貫性を与えるんだ。だから、曲作りのやり方が違っても、どれもCannibal Corpse・スタイルになる。
ー 歌詞も各メンバーが書いていますが、面白いことにシンガーであるジョージは1曲も書いていません。
アレックス:90年代彼がバンドに加わった頃、『Vile』や『Gallery of Suicide』ではいくつか歌詞を書いていたのだけれど、その後は俺たちに任せるようになった。彼は素晴らしいパフォーマーで、素晴らしいシンガーだけれど、歌詞に関しては俺たちに任せる方を好んでいるんだよ。ポールが一番多くの歌詞を書いているかな。俺もたくさん書いているけれど。ロブやエリックも歌詞を書くから、曲と同じように歌詞に関してもバラエティがあるんだ。ジョージがまた歌詞を書きたいというのなら、もちろん歓迎するよ。
ー 通常シンガーは自分で歌詞を書く方が簡単ですよね。他人が書いたものを一から覚えるよりも。
アレックス:そう、確かに普通ではない状況なのだけど、それがうまく行っているんだよ。
ー タイトルを『Chaos Horrific』としたのは何故ですか。
アレックス:このタイトルは、あまり具体的ではないだろう?「Pestilential Rictus」なんかは、露骨に疫病のこと。「Chaos Horrific」だと、抽象的だから、アルバム全体の内容を包括できる。確かに曲のタイトルでもあるけれど、一般的な内容でもあるから。これまでもゾンビについてはたくさん書いてきたけれど、おそらくゾンビ・アポカリプス的内容をタイトル・トラックにしたのは初めてのことじゃないかな。何枚もアルバムを出しているから、間違っているかもしれないけれど。ポールが言っていたんだ。ゾンビについてたくさん書いてきたけれど、それをタイトル、アートワークにするのは初めてじゃないかって。
ー そのアートワークは、再びヴィンセント・ロックが手がけています。彼にはどのようなアートワークにしたいのか等、具体的な指示を伝えるのですか。
アレックス:基本的にはポールがやりとりをして、おそらく曲の歌詞をヴィンスに送ったんじゃないかな。それでラフスケッチがいくつか送られてきて、それをメンバーで見て、どれが一番好きかを伝えた。ほとんどはヴィンスに任せているよ。少々のガイダンスは伝えるけれど、ほとんどは彼のアーティストとしてのクリエイティヴィティに依っている。歌詞を読んだ彼の想像力に任せるのさ。ジャケットだけでなく、各曲にちょっとしたアートワークも描いてもらっているよ。『Violence Unimagined』でもやってもらったように。必要があればガイドをするけれど、たいていは何も言う必要がない。何も言わなくても、俺たちが望んでいるものそのものを描いてくれるんだ。
ー 歌詞のインスピレーションはどのようなところから得ていますか。
アレックス:メンバーによって違うだろうけれど、俺の場合は非現実的、超常現象的な内容が好き。今回はあまりそういうものを書かなかったけれど。「Pestilential Rectus」はポスト・アポカリプス的内容で、非現実的、超常現象的ではないけれど、ホラーSFみたいな感じ。実際には存在しない疫病が描かれているけれど、もちろん悪い疫病が地球規模で蔓延するかもしれないということは、みんなの頭の中にあるよね。なるべく現在起きている出来事については書かないようにしているのだけれど。と言うのも、俺たちの作品を聴く人たちには、現実社会から逃避してもらいたいからね。俺が書く歌詞は、基本的にファンタジー・ホラーさ。他のメンバーは違うかもしれないけれど。ロブの歌詞はもう少々現実的なものという気がする。「Vengeful Invasion」は、ヒューマン・トラフィッキングで虐待された人間が捕獲者に復讐をするというもの。これはゾンビ・アポカリプスよりは現実的な内容だよね。現実的なもの、かなり非現実的なものと、さまざまなタイプのホラーを書くことで、興味深い内容になるようにしているんだ。
ー 「Fracture and Refracture(骨折、再骨折)」はどのような内容なのでしょう。
アレックス:あれは狂った外科医が人間を監禁する話。監禁した人間を殺しはせず、骨折させて、それを通常とは違うやり方で治癒させる。最近、骨切り手術というものが存在することを知ってね。実際に骨を切ることで、症状を改善させるやり方。だけど、このバンドで歌詞を書くとなると、症状を悪化させるという方向にしないとね(笑)。邪悪な外科医がこの手術を使って、生きたまま患者を自分の彫刻作品にするんだ。実際に起こり得ることだけれど、実際には起こっていないこと祈るよ(笑)。誰かを監禁するという内容の歌詞は、これまでもたくさん書いてきた。『Violence Unimagined』の「Slowly Sawn」も似たような内容さ。監禁して、のこぎりで体を切断していくというもの。どれも気分が悪くなるような内容だけれど、こういうのがこのバンドが歌っていることだからね(笑)。
ー なるほど、映画や本に基づいたものではなく、完全にあなたの想像から書かれたものなのですね。
アレックス:そう、俺の想像だよ。だけどさっきも言ったように、骨切り手術というものがあって、骨を切って骨の形を変える手術というのが、犬などにも行われているんだよ。骨を切ることで、歩けなかった犬が歩けるようになったりするんだ。完全に治癒するには長い時間がかかる。こういう話を聞いて、もしこれを邪悪な連続殺人鬼がネガティヴなやり方で利用するとしたらどうなるだろうって考えてね(笑)。Cannibal Corpseの曲にするために。実際は良いことに利用されるものを、フィクションのキャラクターが悪用するんだ。
ー 30年以上のキャリアを持つ今、音楽的インスピレーションはどのようなところから得ているのですか。
アレックス:難しいな、俺たちはいろんな音楽を聴くからね。エクストリーム・メタルも聴くし、まったく違うものも聴く。座って曲を書く時、これはもちろん俺自身についてで、ロブやエリックは違うだろうけれど、俺は自分が聴いてきたものとは違うものを書こうとする。もちろん何らかの曲からインスピレーションを受けることはあるけれど、それをコピーしようとは思わない。古いスレイヤーの曲とかね。俺たちにとって、素晴らしいと思える音楽は、やっぱり10代の頃に聴いていたもの。新しい素晴らしい曲も作られているのだろうけれど、一番大きなインスピレーションは、最初に聴いたものだよ。Slayer、Kreator、Dark Angel、Possessed、初期のDeath、初期のMorbid Angelとか、古いデス、スラッシュ。彼らをコピーしようとは思わないけれど、ルーツはここにある。新しいバンドからインスピレーションを受けるのではなくね。一方で、白紙の状態から曲を書くようにも心がけている。「オーケー、まずテンポを決めよう。最近BPM180の曲を書いてないからこれにしよう。ハーモニック・マイナー・スケールを長いこと使っていないから使ってみよう。7/8拍子はしばらく使っていないから使ってみよう」みたいな感じで、いくつかの設定を決めるんだ。他のバンドの曲のことを考えるのではなく、こういうパラメーターを設定するのさ。こうすることで、クリエイティヴに、他人のアイデアから距離を置くことができる、というかそう願っているよ(笑)。たまに何も考えずに曲を書いていると、結局それはお気に入りの曲にそっくりなんていうことがあるからね。だから、テンポやスケール、拍子みたいな制限を課すのも良いことなんだ。知らないうちに他人の曲をコピーしてしまわないように。
ー 具体的には最近どのような音楽を聴いているのでしょう。
アレックス:色々聴いているよ。もちろんメタルも。多くの場合はAutopsyの『Severed Survival』、Morbid Angelの『Altars of Madness』、それか最初の4-5枚、と言うかMorbid Angelのアルバムはどれも好きなのだけど、こういういつものやつを聴くことが多い。それからまったく違うもの、例えば新しめのブルーグラスも聴く。ギタリストは速弾きをするのだけど、俺たちがやっているものとはまったく違った音楽さ。Billy Stringsは非常に興味深くて、お気に入りのブルーグラス・アーティストさ。ジョージはカントリーをたくさん聴いているよ。古いのも新しいのも。おそらくブルーグラスも。俺はジャズ/フュージョンやファンクも聴くし、ポールは70年代のロックが大好き。とても荒々しいサウンドの。誰も知らないレッド・ツェッペリン風のバンドが大好きで、俺は名前も知らないとか、1曲しか聴いたことがないみたいなバンドのアルバムを全部知っていたりする。エリックはクラシックが好きだし、ロブはハードコアが好き。最近のデス・メタルやエクストリーム・メタルにもついていこうとしているけれど、それ以外のものも色々と聴いているのさ。
ー では最後に日本のCannibal Corpse・ファンへのメッセージをお願いします。
アレックス:サポート本当にどうもありがとう。日本にはしばらく行けていないから、『Chaos Horrific』で行けるといいな。もう前回から9年、次行く時には10年、11年になってしまっているかもしれないけれど、早くみんなに会いたい。サポートありがとう。『Chaos Horrific』ツアーで会えることを楽しみにしているよ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- オーヴァーローズ・オブ・ヴァイオレンス
- フレンズィド・フィーディング
- サモンド・フォー・サクリファイス
- ブラッド・ブラインド
- ヴェンジフル・インヴェイジョン
- ケイオス・ホリフィック
- フラクチャー・アンド・リフラクチャー
- ピッチフォーク・インペイルメント
- ペスティレンシャル・リクタス
- ドレイン・ユー・エンプティ
【メンバー】
ジョージ “コープスグラインダー” フィッシャー (ヴォーカル)
エリック・ルータン (ギター)
ロブ・バーレット (ギター)
アレックス・ウェブスター (ベース)
ポール・マズルケビッチ (ドラムス)