ニュー・アルバム『ライズ・レイディアント』をリリースするオーストラリアのプログレッシヴ・メタル・バンド、カリギュラズ・ホース。ギタリストであるエイドリアン・ゴルビーに話を聞いてみた。
— オーストラリアの状況はいかがですか。(注:インタビューが行われたのは5月25日)
エイドリアン:正直、とても良いんだよ。俺が住んでいるクイーンズランドはとても広くて、ニューヨークの3倍くらいあるんだけど、今コロナの感染者は10人か11人くらいしかいない。お店も開いている。20人以上の人が集まってはいけないけどね。
— ニュー・アルバム『ライズ・レイディアント』がリリースになりますが、過去の作品と比べてどのような点が進化していると言えるでしょう。
エイドリアン:現時点でのオーストラリアの評判から考えると、俺たちのサウンドのうち、メタル・パートはハーモニー的により複雑なものへと進化したと言えるんじゃないかな。アレンジメントの力は、メタル的な衝撃度への依存が多少減っている。もちろんそういう面もいまだにあるけれど、アレンジはより繊細で、配色が濃密になり、サウンドが成熟していると言える。そうやって、様々な実験の組み合わせを表現をしようとしたんだ。とても評判はいいし、世界中の音楽ファンが楽しんでくれているみたい。素晴らしいことだよ。
— これはコンセプト・アルバムと考えて良いのでしょうか。
エイドリアン:テーマ・アルバムと言ったほうがいいかな。前作、『In Contact』は第1章、第2章、みたいになっていたけど、今回はテーマがある。アートワークを見てわかる通り、そこには忍耐、成長、成熟といったテーマがある。アルバムとしてストーリーがあるわけではないけれど、成長、そして自分が向かって行く地平に何かがあることを知っているというテーマに達するストーリーのカタログになっているんだ。
— アートワークについてもう少し詳しく教えてください。
エイドリアン:面白い話があるんだ。ヴォーカリストのジムともう1人のギタリスト、サムに会ったときに、彼らが「これがアートワークのアイデアさ。国立公園のチラシはどうだい」って。アメリカの国立公園のポスターのみたいなやつ。動物の脆さ、ストイックさ、そして俺たちが人生で直面し、ゆっくりと登って行くように感じる巨大な障害物といったものを表現したかった。これを絵画で表現したくて、『Bloom』のアートワークをやってくれたアーティストにコンタクトを取ったんだ。『Bloom』では美しい花のイメージと、繊細だけれど力強い女性が描かれていた。彼は今回も、俺たちのクレイジーなアイデアを取り入れて、最高のものを仕上げてくれたよ。(アーティストの)クリスも同じくブリスベンの出身で、結婚式やパーティなんかでも会うし、間違いなく俺たちの小さなファミリーの一員さ。とても誇りに思っているよ。俺はビデオ撮影や写真もやるのだけど、このアートワークで魅かれるのは、青の使い方。とても気に入ってる。現実とファンタジーの中間のようなもの。「もうちょっと良いものできたはず」なんて思わなくて良いものが出来上がって良かった。何て素晴らしい仕上がりなんだろう。
ー カリギュラズ・ホースの音楽を言葉で説明するとしたら、どのようになりますか。
エイドリアン:ナード・ミュージック(笑)。俺は加入する前からずっとこのバンドのファンだったからね。意気揚々とした音楽と言うべきかな。ファンとしては、常に巨大なサビに圧倒されて鳥肌が立つ。意気揚々としていてダイナミックだけれど、同時に誠実でもある。ここオーストラリアには、陳腐なものや安っぽいものにアレルギーがあるんだ。厚かましさ、大胆さの方が歓迎されるんだ。自分たちの信じているものを人に見せつけるのさ。自分たちの音楽をテーブルに乗せて、これが俺たちがやっていることだって。そしてその音楽を誠実に楽しく演奏する。まるでクリスチャン・ロック・バンドみたいなことを言っているようだけど(笑)。
— メタルをプレイしているという意識はありますか。
エイドリアン:この表情を見てもらえればわかるけど、答えはノーさ。とてもイエスとは言えないよ。君はIgorrrは聴いたことがある?フゥー、彼は本当に狂っているよね。もしあれがメタルなら、とても俺たちの音楽をメタルとは言えない。あれはレスラーが投げる椅子みたいに激しくぶつかってくるけれど、俺たちの音楽はもっともっと繊細な旅。俺たちがやっているのは最初が小文字の”p”のプログレさ。みんながヘヴィ・ミュージックとして楽しんでくれているなら、それはそれで構わないけれど、俺たちは自分たちをメタルと言うには抵抗がある。ピンと来ないよ。ただ、「このビッグな音楽を楽しんでくれ」というだけ。きちんとした回答をするのが随分と難しい質問だね(笑)。
— しかし今は、ネイ・オブリヴィスカリスのTシャツを着ていますよね。
エイドリアン:彼らとはいつも一緒に仕事をしているんだ。「イントラ・ヴィーナス」のビデオもやったし、ロックダウンの前に彼らのところに行って2本ビデオを作る予定だった。彼らとは同じシーンで育って、ライヴも一緒にやって、確かに音楽のスタイルは違うけど、どちらも、完璧主義とは言わないけど、濃さがあるからね。Thick Metal。Thick Metalという呼び方はどうかな(笑)。
— カリギュラズ・ホースはどのようなバンド、あるいはジャンルから影響を受けたのでしょう。
エイドリアン:ジャンルとしては、メタルからだけではないと簡単に言える。最近は(フランツ)リストとか、クラシックをよく聴いている。クラシックの規則は違ったメタルのサウンドにインスピレーションを与えてくれるからね。俺はそんな感じ。ネイ・オブリヴィスカリスのTシャツを着てはいるけれど。サムはアレンジやコンセプトが大好きだから、古いプログレ好きな一方、最近のクリーンな音作りも楽しんでいるようだ。ジムはシンガー・ソングライターが好きで、ジョッシュはグルーヴィなプレイヤーで、強烈なグルーヴがあるものは何でも聴く。俺たちはメタルのTシャツを着ているバンドじゃないんだ。まあ今日の俺のTシャツの選択は間違っていたかも。どんなジャンルでも、衝撃を与えてくれるものは聴く。ダーティ・ループスのような後半倍速でメタルのグルーヴになるようなエクストリームなアレンジをしているフュージョン・ジャズ・バンドとか。俺たちはみんな長いことマキシマム・ザ・ホルモンも好き。グルーヴのあるバンドはどれも好きだけど、ただ座ってメタルだけを聴いているメンバーはもはやいない。メタルだけでは、パレットに彩りが加わらないからね。
— あなたの音楽的バックグラウンドはどのようなものなのでしょう。
エイドリアン:俺の家族は音楽的ではなかったんだ。だから自分でレッド・ホット・チリ・ペッパーズやAC/DCを見つけた。あと、ある日兄貴が座って「これを聴いてみろ」と、メガデスの「Angry Again」を聴かせてくれてね。それ以降振り返ることなく、何年もメガデスを聴き続けて、そこからスティーヴ・ヴァイに行ってギターオタクの道に入ったんだ。10年か15年くらいギターの演奏に取り憑かれて、最終的にプログレに到達した。Between Buried and Meには「カントリー・ミュージックは聴いたかい?俺たちの音楽にカントリーも入れてみたのだけど。そしてここにはブラストビートもあるよ」なんて言われたみたいで、おかげで色々と聴くようになった。プログレはそういう点でとても役に立つ。だから、最初はハードなスラッシュからスタートして、時とともに成長していった感じかな。
— バンド名の「カリギュラの馬」とはどういう意味なのですか。
エイドリアン:サムとジムはローマ史やギリシャ神話なんかが大好きでね。カリギュラはローマ時代の皇帝で、他の多くの皇帝同様、狂っていた。彼は自分の馬を執政官にして、自分の代表としてテーブルにつかせようとしたんだ。俺が加入するずっと前からこのバンド名だったわけだけど、彼らのユーモアのセンスを知って入れば、この名前を選んだ理由がわかる。俺たちは真面目にやっていることを楽しみたいから、結局プロジェクト全体が素晴らしい出来栄えになるのさ。ジムとサムは歴史オタクで年号なんかも良く覚えている。ジムは大学で古代史を学んだんじゃないかな。確かに曖昧な名前だけど、俺の知る限りシャレだよ。
— 影響を受けたメタル・バンドとなるとどのあたりでしょう。
エイドリアン:どこから始めよう。俺たちは幸いにもインサイド・アウトの所属だからね。レプロスと比較されることは多い。デヴィン・タウンゼンドもインサイド・アウトの所属だし、彼らのやっていることも遠くない。あと、ドリーム・シアターもいる。だから俺たちのまわりにいる仲間、俺たちにはとても良い仲間がいるからボサっとしていられないよ。高校の頃、「誰が一番か?」なんて競争したことを覚えてる?そういう競争があっただろう?インサイド・アウトやプログ・メタル自体の素晴らしいところは、環境自体が励みになるということ。フェスティヴァルでレプロスと一緒になれば、彼らと一緒にいること自体がインスピレーションになる。バルセロナで彼らを見たときは、一歩引いて「俺たちももっと練習しなくちゃな」って。そのくらい彼らは素晴らしかった。レプロスが新作を出すたびに、例えそれがヘヴィでなくても、必ずチェックする。オーストラリアのメタル・シーンのことは詳しい?オーストラリアのバンドは、コミュニティ内での影響の与え合いに限界はないんだ。
— オーストラリアのシーンはいかがですか。より良くなってきていると言えるでしょうか。
エイドリアン:間違いないね。俺は他のバンドとも仕事をしているから、ユニークな位置にいるのさ。メタル・バンドと仕事をするためにパースに行って、バンドの家のソファーで寝て撮影をして。大きな都市にはたいてい友達のバンドがいるから、好きなだけ家に泊まって仕事をやれるんだよ。みんなそういう繋がりを持っているんだ。人口が少ないから、オーストラリアのバンドはお互いのことをよく覚えている。だから悪い印象を与えてしまうと、それはまずい。社交的で、ライヴハウスのスタッフにも親切に接して評判を獲得して、そうやってオーストラリアのシーンに物凄く才能のある人たちが残って、そういう奴らが音楽的に色々な冒険をしているのさ。だから、オーストラリアのシーンは成長しているだけでなく、将来の音楽となるものへの瞬間を刻んでいるのさ。俺たちが頂点だとは思わないけど、俺たちはとても密接に結びついているんだよ。日本のシーン、バンドはどう?グラム・メタルはすごく人気があるんじゃない?
— いや、80年代は人気がありましたが、今はそんなことはないと思います。
エイドリアン:何で80年代は人気があったんだろう?今グラム・メタルをやるというのも、スティール・パンサーを見ればわかるけど、ああいうのをジョークとしてみんな面白がれるという証拠だからね。そうそう、オーストラリアにはオオサカ・パンチというとても良いバンドがいる。ファンキーでふざけていて、歌詞もまったく日本語ではないのだけど。大阪で彼らが受け入れられるのか興味深いよ。とても面白いバンドさ。
— どんなスタイルのバンドなのですか。
エイドリアン:Toolから影響を受けているけど、ポップなんだ。ポップなToolという感じ。日本で受け入れられるか見てみたいね。オオサカ・パンチは他と違うことをやっているよ。人々が聴きたがるような音楽をリコメンドするのは簡単だけど、オーストラリアらしいサウンドというのはないと思うんだ。
— あなたのお気に入りのアルバムを3枚教えてください。
エイドリアン:お気に入りの3枚か。今日のNo.1はメガデスの『Countdown to Extinction』だね。あのアルバムは大好き。このアルバムには俺の成長のすべてが詰まっている。それからドリーム・シアターの『Metropolis Part2』。あと、今はニュートン・フォークナーというイギリスのフォーク歌手。彼の『Hand Built By Robots』というアルバムはとてもスイートでメランコリックなんだ。激しさ、複雑さのあとにこういうシンプルなものも新鮮なんだ。何年もハードコアなメタルを聴いてきた今、「いや、今はただリラックスしたいんだ」なんて言いたくもなる。
— お気に入りのギタリストは誰ですか。
エイドリアン:カリギュラズ・ホースのもう1人のギタリスト、サム・ヴァレンと言わざるをえない。そうじゃないと怒るだろうから(笑)。それからスティーヴ・ヴァイ。彼の音楽は俺にとってあまりに異質で、そこが大好きなんだよ。ジェイソン・ベッカーも本当に才能があって、彼がギターでやったことの凄さと言ったら。それからオーストラリアのギタリストのプリーニの名も挙げたい。素晴らしいギタリストだよ。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
エイドリアン:簡単なことさ!日本のみんなに会って、君たちのためにプレイをしたい。
どこか違ったところに行って、まったく違う暖かくフレンドリーな文化に遭遇するなんて、最高の機会だしね。
なるべく早く日本に行きたいね。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- 1. ザ・テンペスト
- 2. スロウ・ヴァイオレンス
- 3. ソルト
- 4. レゾネイト
- 5. オーシャンライズ
- 6. ヴァルキリー
- 7. オータム
- 8. ジ・アセント
《ボーナストラック》
- 9. ドント・ギヴ・アップ
- 10. メッセージ・トゥ・マイ・ガール
《日本盤限定ボーナストラック》
- 11. ウォーターズ・エッジ(ライヴ・イン・ブリスベン)
【メンバー】
ジム・グレイ (ヴォーカル)
サム・ヴァレン (ギター)
エイドリアン・ゴルビー (ギター)
デイル・プリンス (ベース)
ジョシュ・グリフィン (ドラムス)