何とあのTNTのギタリスト、ロニー・ル・テクロがデス・メタル・バンドに加入!ということで、現在そのロニーを擁する
カダヴァーのリーダー、アンダース・オデンに色々と話を聞いてみた。
ー まずはTNTのロニーがバンドに加わった経緯を教えてください。
アンダース:とても奇妙な話なんだ。新しいアルバムで何をやろうかと考えていて、TNTのトリビュートというのを思いついた。彼らこそノルウェー初のヘヴィメタル・バンドだからね。12歳の頃に初めてバンドをやって、その名前がデッドリー・メタルだった。TNTの曲名から名前を取ったのさ。TNTはエクストリーム・メタル界では陰の英雄と言うのかな。俺たちの世代は、みんなエクストリーム・メタルを始める以前、初期TNTのファンだったから。特にロニーのギター・プレイは尋常ではなく、超ファストにプレイしていた。それで「デッドリー・メタル」のカバーをやったのだけど、初期のデモを作った段階で、モダンにエクストリームにアレンジをして、原曲を破壊したから、ロニーの許可を得ようと思ってね。それで彼に電話をして、デモを聴いてみたいかと尋ねると、ぜひというので、ラフなデモを送った。すると到着した当日に電話がかかってきて、「これは素晴らしい、ぜひギター・ソロを弾きたい」と。これが始まりだった。それから出来上がった曲を持って彼のスタジオに行ったら、彼はとても興奮してね。ソロだけでなく曲全部を弾いてくれた。さらに「もっと弾きたい。もっと他に曲はない?」と言うので、12曲あると。それで1曲1曲チェックして、結局彼のスタジオに1週間いたのかな。すべての曲を弾いてくれることになったんだよ。それで、このアルバムは俺たちにとって突如アーティストとして重要なものになったのさ。彼は写真やビデオにも参加したいということでね。とても光栄なことだよ。ロニーがここまで深く関わったバンドは、TNTの他にない訳だから。メタルをずっと聴いてきた人たちにとっても、ロニーがこのバンドに参加するなんて、想像もつかなかったことだと思うけれど、俺は彼がこういうスタイルの音楽も好きであることは知っていたからね。彼のスタジオでは、メイヘムや1349がレコーディングをしているから、彼はこういう音楽にも馴染みがあるんだよ。こういうシーンにも詳しくて、みんなロニーを知っているのさ。だけど、彼をバンドのメンバーにするというのは、まったく別次元の話。彼の参加がバンドにとって新しい扉を開けることになることを期待しているよ。彼の音楽性や技術というのは、通常エクストリーム・メタルのバンドが持っているものではないからね。
ー つまり、彼は正式なメンバーということでしょうか。
アンダース:そう、彼はメンバーだし、ライヴにも参加してもらう計画になっている。彼は俺たちが向かっている次のステップの重要な一部さ。
ー 今回ロニーは曲は書かず、すでに出来上がっていた曲を演奏した感じですか。
アンダース:もちろん「デッドリー・メタル」は書いたけどね(笑)。だけど、他の曲に関しては、すでに出来上がっていた曲に彼のスタイルを追加したという感じ。将来的にはもっとクレイジーなことができるかも。楽しみだね。
ロニー・ル・テクロ (ギター)
ー ニュー・アルバム『ジ・エイジ・オブ・ジ・オフェンデッド』の音楽性をどう説明しますか。前作はピュアなデス・メタルでしたが、今回はもっと幅広いスタイルのように思えます。
アンダース:今回はもっとプログレッシヴと言うのかな。アヴァンギャルドでプログレッシヴ。このバンドがずっと進化しようとしていた方向性。俺やバンドの音楽的ヴィジョンをより広く反映している。最近では突出した作品を作るのは容易ではないけれど、俺たちはまったく違ったエキサイティングなものを創りたいんだ。自分自身の音楽に退屈したくないからね。今回のアルバムでは、エクストリーム・メタルという世界でさらなるヴァラエティを表現したと思う。
ー ダブル・ベースも使用していますね。
アンダース:ダブル・ベースを演奏しているのは、90年から93年までカダヴァーにいたオリジナル・ベーシストさ。だから、過去を復活させたというのもある。ダブル・ベースを持ち込んだのは、特にライヴにおいて、あれはまったく違った体験になるから。普通のメタルとは違った音の体験を開くというのかな。普通のベースは、ロー・エンドのギターという感じだけれど、ダブル・ベースだと、音楽的、音的、リズム的に違ったものになる。他のバンドとは違うことをやるというバンドの遺産を復活させたんだ。自分自身の世界を持ったバンドをやるというのが、俺の狙いだから。
ー タイトルの「ジ・エイジ・オブ・ジ・オフェンデッド=ムカついている奴らの時代」というタイトルには、どのような意味が込められているのですか。
アンダース:このタイトルは、今の時代、みんなろくに知りもしないことに関して意見を持っているということ。そして、どうでも良いことに腹を立てている。みんな、「I agree to disagree.(=意見の不一致を認める)」という古い言い回しを忘れてしまっているようだ。俺が子供の頃は、違った視点の人間がいても構わなかったものだけれど、今は「これを信じるべきだ。そうでないならお前はまったくのバカだ」なんていう感じでさ。俺は俺の気に入らないことをやっている人間にムカついたりはしない。何か間違っていると思われることをしている人たちに、いちいち構うべきではないと思うんだ。もっと自分が良いと思うことを気にするべきで、自分と違うことをしている人たちのことを気にすべきではない。俺はずっとアウトサイダーだったから、俺がイカしていると思うものを、多くの人がそうは思わないことをわかっている。なのに今の時代、すべての人が同じものに同意しなくてはいけないみたいな感じで、そんなことでは新しいものは生まれない。自分とはまったく違った見方をする人がいるから、新しい知識を得ることができ、興味深いものが生まれるんだよ。狭い世界を信じていると、人間の状態はとても制限されたものになってしまう。自分の信じているものだけが正しく、他は間違っているなんていう考え方はバカげているよ。そういうことについて考えたのが、このタイトルさ。
ー こういう傾向は、やはりインターネットやSNSの影響だと思いますか。
アンダース:それらがこの問題を顕在化させたのは間違いないだろうね。今の世界では、非常に危険で不愉快なことがたくさん起こっている。ジェンダーなどの問題を気にする人も多いけれど、自分と関係のない問題に、なぜ構うのか。ただ日々の生活を送れば良いのではないか。違った信条を持った人間に邪魔をされたことでもあるのだろうか。それともただ記事を読んだだけなのか。宗教にしろ政治にしろ、かつては見なかったような感じで、人々が気にかけているように思えるんだ。これは間違いなくSNSと関連がある。今のニュースの作られ方は、センセーションや極端な物の見方ばかりだからね。俺の両親は75歳と77歳なのだけど、彼らですら俺が聞いたこともないような陰謀論の話をしているよ。何でそんなものに構うんだ。Qアノンやイルミナティだとか、くだらないことを。地球平面説を信じている奴らもいるけれど、まあ地球が平面な訳はないのだけど、それを信じている奴らのことなんてどうでもいいよ。勝手にバカをやっていてくれればよくて、俺の知ったことではない。
ー 他の歌詞の内容はどんな感じなのでしょう。
アンダース:いくつかの曲は、さっき言ったような内容で、他にはサイケデリックな体験についてのものもある。俺は癌を経験していて、回復した理由の一つ、そして心の平穏を得るのに役立ったものの一つがサイケデリック・セラピーだったから。ロニーの音楽的アプローチもあって、俺にとってはこれは音楽的にもサイケデリックなレコードになっている。サイケデリック・デス・メタルというものがあるならば、これはその一枚だと思うよ。精神を探求すること、自分自身を違った見方をすること対して己を開くこと、一般的な生の見方、死に対して心の平穏を得ること、これは俺にとって非常に重要なんだ。俺はもはや、あまり死と言うものを恐れていない。死は環の一部であって、どうということはない。死ぬ時は死ぬのだから、生きている時にベストを尽くせば良いんだ。毎日を常に人生で一番重要な日だと思って生きるんだよ。長期の計画を持つのではなく、まあ長期の計画は持っても良いのだけど、その瞬間を生きなければ、長期の計画を立てるのも不可能だから。
ー サイケデリック・セラピーというのは、マジック・マッシュルームの摂取などですか。
アンダース:そう、具体的に言えばマッシュルームさ。
ー プログレッシヴ、サイケデリックなものに関しては、どのようなバンドからインスピレーションを得ましたか。
アンダース:オールドスクールな、70年代、60年代のサイケデリックなバンドが好きなんだ。クラシックなアーティスト、例えばビートルズにもサイケデリックなものがあるし、ジミ・ヘンドリクス、ジェファーソン・エアプレーン、ピンク・フロイドとか。他にもインストゥルメンタル・ミュージックも好きだし、フォークとか、あらゆるものが好きなんだ。俺がサイケデリックというのは、精神に新たな次元をもたらしてくれるもの、違うところへ連れて行ってくれるもの全般のこと。俺にとって最も重要なデス・メタルで、サイケデリックなことを色々とやっていると思うのが、モービッド・エンジェル。彼らからのインスピレーションは大きいよ。彼らのことをサイケデリックという人はいないかもしれないけれど、俺にとっては、特にトレイのギターはこの世のものとは思えない。サイケデリックというのは音楽的表現で、色付けやフィーリング。俺はただブルータルでクッキーモンスターみたいなヴォーカルのバンドはあまり好きじゃない。カンニバル・コープスとかね。もっと音楽的なものが好きなんだ。ケルティック・フロストとか、もっとヴァリエーションがあるだろ。ブラック・サバスも。
ー アルバムのアートワークは何を表しているのでしょう。
アンダース:アナログらしいカバーが欲しかったから、写真を撮って、アーティストに80年代のようなコラージュにしてもらったんだ。これもやはりサイケデリック・セラピーと関連があって、自我が溶解していく、自分自身がイメージの中でどのように見えるか。他人は俺のことをそれぞれのやり方で見ている訳だけれど、写真の破れているところは、外面では完璧に見えていたとしても、内面ではどう感じているのかということを象徴している。内面はまったく平穏ではないかもしれない。外面の上に、内面をどう見るのかということを表しているんだ。
ー バンドの今後の予定を教えてください。ツアーの予定などはありますか。
アンダース:今のところツアーの予定はない。まずはこのアルバムをリリースして、プロモーションをしていきたい。前作から音楽スタイルが少々変わっているからね。みんなにこれがバンドとしての次のステップなのだとわかってもらいたい。現状ツアーのコストが上がってしまっているから、実際にツアーを始める前に、カダヴァーを見たいという需要を増やさないといけない。日本にも行けたら素晴らしいだろうな。日本に行くことは、俺のバケットリストに入っている。特にロニと一緒に。TNTは日本でもとても有名だろう?今のところ、ツアーをする目的のためだけに激しいツアーをやることに興味はない。かつてはそうやってお金を稼ぐしかなかったけれど、今は経済的状況がめちゃくちゃだからね。飛行機代も含め、以前とは状況が違う。高いギャラを要求しているのではなく、コストのせいで、きちんと考えてやらないと大きな損失を被ることになるんだ。世界中を飛び回って演奏をするより、もっとスタジオで作品を作りたい。フェスティバルや小規模なツアーはやるつもりだけれどね。とりあえず様子を見る必要がある。
ー オールタイムのお気に入りのアルバムを3枚教えてください。
アンダース:それは難しい質問だな。3枚とも80年代の作品になるよ(笑)。まずは『Reign in Blood』。スレイヤーね。メタリカの『Master of Puppets』。モービッド・エンジェルの『Altars of Madness』。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
アンダース:君たちはカダヴァーのライヴを見たことがないかもしれないけれど、ずっとサポートしてくれてありがとう。十分な要望があれば、日本に行けるかもしれない。日本盤が出ることを嬉しく思っている。日本盤を自分のコレクションに加えるだけでも特別なことさ。日本の文化も好きなんだ。ケルティック・フロスト、サティリコンのメンバーとして、これまで2度日本に行ったことがあるけれど、いつかカダヴァーとして行くという夢が叶うといいな。ぜひ日本で会いたい。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- サイコファンツ・スウィング (イントロ)
- ポストアポカリプティック・グラインディング
- スカム・オブ・ジ・アース
- ジ・エイジ・オブ・ジ・オフェンデッド
- デス・リヴィールド
- ザ・シュリンク
- クロウル・オブ・ザ・カダヴァー
- ザ・ドロウニング・マン
- ザ・シッカー、ザ・ベター
- ディゾルヴィング・ケイオス
- デッドリー・メタル (TNT カヴァー)
- ザ・クレイヴィング
- フリージング・アイソレイション
【メンバー】
アンダース・オデン (ギター / ベース / ヴォーカル )
ダーク・ヴェルビューレン (ドラムス)
ロニー・ル・テクロ (ギター)
アイラート・ソルスタッド (ベース)