ナパーム・デスのヴォーカリスト、マーク・“バーニー”・グリーンウェイを輩出したイギリスのデス・メタル・バンド、
ベネディクションが12年ぶりのニュー・アルバムをリリース。オリジナル・メンバーであり、ギタリストのダレン・ブルックスに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『スクリプチャーズ』がリリースになります。前作と比べてどのような点が進歩していると思いますか。
ダレン:必ずしも進歩がある必要はないと思っているんだ。ベネディクションは新たな境地を切り開こうとは思っていないし、新しいバンドでもないから、新しい音楽をやろうとも思っていない。ただ、ベネディクションの音楽をやるだけだからね。そういう意味で、進歩しているのはプロダクションだろう。より良い、よりタイトなプロダクションになっているよ。音楽に関しては、ベネディクションはベネディクションからしか影響を受けていないようなものだから。他の音楽はあまり聴いていないんだ。ただやりたいことをやっているだけ。だから音楽的な進歩はない。いつものベネディクションだけれど、より良いベネディクションという感じさ。
— 前作からなぜ12年もの間があいていますが、これはなぜなのでしょう。
ダレン:俺たちが怠け者のファッカーだからさ(笑)。まあ、真面目な話をすると、ベネディクションじゃ生活できないから。俺やルー、デイヴは年もとってきて、仕事や家庭もある。ベネディクションでは生活ができないから、仕事をする必要がある。俺たちはあちこちの国をツアーしているし、デイヴはコペンハーゲンに住んでいて、ルーもバーミンガムから引っ越した。だから、集まるのも一苦労なんだよ。集まると言えば、ギグをやる時くらい。12年間、なかなかアルバムをレコーディングできる環境にならなかった。やっと2年前に、「ニュー・アルバムを作ろう」ということになったのだけど、残念ながらその時デイヴ・ハントが勉強に専念したいということで、レコーディングは難しいということになった。それでデイヴ・イングラムがバンドに戻って来たんだ。
— デイヴ・イングラムに声をかけた理由は何だったのでしょう。新しいヴォーカリストを入れるという選択肢はなかったのですか。
ダレン:いくつか理由はあるけれど、新しいシンガーを入れるとまた一からやり直しになるからね。ベネディクションは少々変わったバンドなんだ。俺たちはベストなミュージシャンではないし、俺たちが探していたのはミュージシャンというより友人さ。長い時間を一緒に過ごす訳だし、ギグに別々の車でやって来て、なんていうことはしたくない。だから、何よりもまず友人になれなくてはいけない。デイヴ・ハントが抜けたときに、ルーと話したんだ。例えば、1年間限定でデイヴ・イングランドに戻って来てもらったらどうかと。ライヴが色々と決まっていたからね。そこから話が始まったのだけど、1度目の会話から、デイヴ・イングラムはフルタイムでバンドに戻りたいとはっきりわかったよ。20年間その機会を待っていたようだ。だから簡単なプロセスだったよ。彼はベネディクションのやり方やサウンドがよくわかっているからね。俺たちとしてもとてもやりやすかったよ。それに彼はバンドを抜けるときに、きちんとファンにグッバイも言えなかった。
— そもそもイングラムが抜けた理由は何だったのでしょう。
ダレン:一番の理由は、ボルト・スロウワーから、より少ないギグでたくさんのお金を払うとオファーされたからだよ。ベネディクションはずっとライヴをしてレコーディングをして、だけど昼の仕事をやめられなくて、それがデイヴにとっては厳しくなっていったんだ。それにツアーの途中、彼はデンマークでガールフレンドを見つけて、彼女と結婚してデンマークに引っ越すことにもなった。ボルト・スロウワーは、3年に一度1月にツアーをするだけだったし、歌詞や音楽もすべて他のメンバーが書いていたから、彼は3年に一度6週間ツアーをすれば良いだけ。彼にとってはとても楽だったんだ。あっという間にバンドを抜けてしまったこともあって、しばらく仲違いしていたのだけど。俺たちはもともと一緒に暮らしていたり、兄弟みたいだったから。もちろん彼のことを責めようとは思わないよ。彼にとっては良い話だった訳だから。
— タイトルの『スクリプチャーズ』にはどのような意味が込められているのですか。アルバムには「スクリプチャーズ・イン・スカーレット」という曲が収録されていて、これは『死霊のはらわた』についてですよね。
ダレン:確かにあの曲は『死霊のはらわた』さ。デイヴが曲のタイトルのリストを持って来た時に、その中からアルバムのタイトルを選びたくはなかったんだ。それがメイントラックな訳ではないからね。全部の曲が良いし。修道女が聖書を持っていて、そこにベネディクションの12曲の曲目が書かれている。そういうアイデアなんだ。確かにタイトル自体は『スクリプチャーズ・イン・スカーレット』からインスパイアされているけれど、曲の中身とは関係がない。あくまで修道女が持っている聖書にベネディクションの曲が12曲書かれているということ。
— 歌詞は非常に抽象的なものが多いですが、どのような内容なのでしょう。
ダレン:デイヴ・ハントはシリアル・キラーなんかに興味があって、何について歌っているかわかりやすかったのだけど、イングラムはSFの本を読むのが好きだからね。SF的な内容が多い。「ザ・クルーキッド・マン」は彼自身についてだけどね。彼が経験した精神的な問題とか、そういうものを切り抜けて、より良い人間になっていくという内容。「イテレイション・オブ・アイ」は、自分の人生でやれるだけのことをやるというもの。その他はだいたい本が元になっている。「ウィー・アー・リージョン」はシェイクスピアの「十二夜」に基づいているけれど、同時にベネディクションとベネディクション・ファンについてでもある。デイヴはとても賢い歌詞を書くんだよね。ちょっと俺にはSFすぎるけど(笑)。
— 「ネヴァーホエン」は『Dr. Who』ですよね。
ダレン:そう、彼は『Dr. Who』が大好きなんだよ。まあ、俺もサッカーが大好きで、デイヴはそれが理解できないみたいだからね。俺たちはみんな違う人間なんだよ。彼は『Dr. Who』のスピーカー・ブックみたいな奴さ。とにかくSFが大好きなんだ。
— マサカーのカム・リーがゲスト参加しています。どのような経緯で彼が参加することになったのですか。
ダレン:フェイスブックを通じてだよ。俺はフェイスブックをやっていないし、パソコン自体やらないのだけど、デイヴはフェイスブックで色々な人と話していてね。カム・リーともやりとりをしていて、彼から「アルバムに参加したい」という話があって、即決したよ。デイヴはカムから大きな影響を受けているし。彼は素晴らしい仕事をしてくれたよ。本当に良かった。
— ヘヴィな音楽との出会いはどのようなものだったのでしょう。メタル、パンクどちらに先にハマったのでしょう。
ダレン:両方だね。バーミンガムにはたくさんのメタル・バンドやパンク・バンドがいたけれど、なぜかクラスにはそういうのを聴いている友人がいなくてね。俺は人とは違って、孤独だった。俺は10−11歳の頃からジューダス・プリーストやサクソンに加入して、ギターを持って大勢の人の前に立ちたいと思っていたんだ。だからバンドを組むチャンスが来たとき、ルーとまだあまり知られていなかったデス・メタルをやろうと、何か違ったものをやろうと思ったんだ。メタルも、パンクも同じように好きだったよ。その2つのフュージョンというか。俺が人と違ったというのが、デス・メタルを始めた理由だと思う。他の人と同じものをやりたくはなかったからね。それは今も変わらないよ。デス・メタル・シーンを見ればわかる通り、俺たちは他のデス・メタル・バンドとは違うだろ。俺たちは速くもないし、テクニカルでもない。一切の競争に加わっていないんだ。パンクのエッジ、メタルのギター、そしてグルーヴのあるデス・メタルをプレイするだけ。スピードにもこだわらないし、ステージでプレイしていて楽しい、そしてステージの前のファンがエア・ギターをしたり、エア・ヴォーカルできるようなものさ。
— デス・メタルやエクストリームなメタルにハマるきっかけは何だったのですか。
ダレン:テープトレードをやっていたからね。やっぱりマスターやマサカーあたりだね。あのあたりのバンドは、スピード・メタルともっとスローでヘヴィなもののクロスオーバーだっただろう?俺はスピードよりヘヴィネスに興味があった。とは言え、ドゥーム・メタルはあまり好きではないのだけど。もちろんケルティック・フロストは忘れる訳にはいかないね。構成のきちんとしたものが好きで、マスターやマサカーのデモなどは大好きだった。その辺のバンドがデス・メタルをやろうと思ったきっかけだね。それからナパーム・デスやボルト・スロウワー、カーカスなどと友達だったから。毎晩飲んで毎晩話して。この辺の影響だよ。フロリダのバンドではなくて。俺はオビチュアリー以外、フロリダのバンドはあまり好きじゃなかった。テープトレードで手に入れたものを、普段ジューダス・プリーストやモーターヘッドを聴いている友人に聴かせても、「何これ?何このヴォーカルは?」ってまったく理解してもらえなかった。だけど、俺たちにとっては最高だったよ。こういうのをやりたいと思った。子供の頃、70年代、80年代のメタル・バンドから受けたのと同じ感触だった。他のものとは違う、もっとエネルギッシュなもの。
— 当時のイギリスのシーンの雰囲気はどうでしたか。
ダレン:とても良かったよ。3000人のヘヴィメタルのコンサートを見た翌日に、50人くらいの小さなクラブでグラインドコアを見る。当時のシーンはとても素晴らしかった。変わってしまったのが残念だけどね。最近はオールドスクール・デス・メタルが復活してきているみたいではあるけれど。個人的にはデス・メタルは速く、テクニカルになりすぎたと思う。競争みたいになってしまって、みんな飽きてしまったんじゃないかな。俺自身は飽きてしまったよ。俺たちはただ自分たちのやりたいことをやっているだけで、それが俺たちには一番なのさ。
— やはりオールドスクール・デス・メタル復活が起こっていると思いますか。
ダレン:間違いない。俺はパソコンをやらないけど、他のメンバーがフェイスブックだとかを見てみると、若いバンドがピュアなオールド・スクール・デス・メタルをやろうとしているようだ。当時みたいに、色々なバンドが小さなライヴハウスでプレイして。俺はそういうのが好きだからね。
— ベネディクションを始めたときに影響を受けたバンドはどのあたりでしょう。すでにマサカーなどの名前が挙がっていますが。
ダレン:スピード・メタルというよりも、やっぱりデス・メタルから影響を受けた。当時デイヴィッド・ヴィンセントがミック・ハリスに会いにバーミンガムにやってきたりしていて、彼のデモを聴いたりしたものさ。俺はテクニカルなものよりも、ただステージに立って、狂ったようにヘッドバンギングするようなものが好きだった。俺はデスの大ファンで、2度一緒にツアーをしたんだ。俺たちの出番では、キッズたちは狂ったように暴れていて、ステージダイヴをしたりね。ところがデスが出てくると、みんなただ立ってじっと見ているだけだった。俺はチャックが大好きだけれども、そういうバンドをやりたい訳ではなかった。みんながじっと見ているようなバンドをね。お客さんには暴れてもらいたいよ。
— 以前アンヴィルのカバーをやっていましたよね。アンヴィルからの影響もあるのですか。
ダレン:アンヴィルは大好きだよ。83年に彼らがモーターヘッドのオープニングをやるのを見たんだ。リップスがフライングVを持ってステージに上がってきて、「俺たちはカナダのアンヴィル。俺たちのことを気に入らなければ、ファックユー!」といってプレイを始めた。自分たちのお客さんではないのに、凄い度胸だよ。「Forged in Fire」が大好きなんだ。あのカバーをレコーディングした後、どこかの雑誌でリップスが俺たちのカバーを誇りに思っていると言ってくれてね。それにリップスがサインをしてくれて、俺に送ってくれたんだ。本当に嬉しかった。それから友人になって、アンヴィルが来ると必ず見に行っている。彼らのアティテュードも好きだし、曲も素晴らしいし。
— パンクからの影響は大きかったですか。例えばディスチャージとか。
ダレン:ディスチャージからの影響は大きいよ。特にドラム・ビートはね。俺たちはディスチャージ・ビートと呼んでいるのだけど、パンクから影響を受けない訳にはいかないよ。ジ・エクスプロイテッドとか、あとG.B.H.などは今も良い友達だし。色々と影響を受けているけれど、それは主にビートという面でね。アティテュードや中身ではなくて。俺たちはポリティカルなバンドではないから。パンクと違ってね。音楽のスピードやエネルギーが大好きなだけで、それをヘヴィメタルやスピード・メタルと混ぜたのさ。パンクのライヴを見に行って、次の晩はメタルのギグに行って、なんていう具合だったから。それが俺たちのルーツなのさ。
— アナーコ・パンクやクラストはいかがでしょう。
ダレン:スキンヘッド・ミュージックなども同じで、彼らが歌っている内容に同意できる訳ではなくて、もちろん言論の自由は理解しているけれど、俺はいかなる政治的メッセージにも影響されたくない。俺は政治家ではなく、音楽を作るのが好きだからね。だから、音楽のスタイルという意味では好きだけどね。クラスト・パンクなどから影響も受けているけれど、あくまで音楽的にね。俺は人に説教はしたくないし、俺が音楽をやるのは人を楽しませたいからさ。
— 「ベネディクション=祝福」というバンド名にした理由は何ですか。
ダレン:(笑)。秘密を教えてあげるよ。「ベネディクション」というバンド名が選ばれたのは、ただ最後が「ション」で終わるから。「ion」で終わるバンド名にしたかったんだよ。クレイジーで馬鹿げた話だろ?デフィケイション、サフォケイションみたいな単語が欲しかった。それでロゴを作ってみたら、修道女のデザインともしっくり来てね。良い修道女と悪い修道女。だけど、元々は、ただ「ion」で終わるバンド名にしたかっただけ(笑)。本当に馬鹿みたいな話だけど、良いバンド名になったと思うよ。他のバンド名は思いつかないしね。ロゴのバックドロップなんかも良い感じだし、このバンド名で良かったよ。とは言え、この名前になったのは完全に偶然なんだ。
— 今後の予定はどうなっていますか。コロナのせいで、ツアーなども難しいかと思いますが。
ダレン:今年はたくさんのツアーの予定があったんだけどね。素晴らしいフェスティヴァルへの出演や、アイ・アム・モービッドとのツアーとか。だけどコロナ騒ぎになって。まあ2021年の予定は、2020年のコピー・アンド・ペーストなんだけどね。今年の終わりから来年初頭にかけてのスペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツ、スウェーデンは、今のところキャンセルになっていない。ぜひやりたいのだけど、もしダメならば、可能な限り早くまたツアーを再開したい。できるだけたくさんのところでプレイしたい。俺たちはライヴが大好きなんだよ。
— スタジオワークよりもライヴの方が良いですか。
ダレン:間違いない。100%ライヴの方が良い。俺たちは一緒にいるのが好きだし、仲が良いんだ。レコーディングやビジネスはストレスだしね。俺はあんまり好きじゃない。ただステージに上がって、子供みたいにプレイする方が好きなんだ。
— お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ダレン:おー、それは難しい。難しいよ。サバス、プリースト…。聞いたことないかもしれないけど、カーディアックスというバンドも大好き。まあでも、『Painkiller』を入れない訳にはいかないだろうね。『Vol.4』も。あとは何があるだろう。モーターヘッドも入れるべきだろうし。いずれにせよ全部80年代のバンドだよ。俺は80年代から成長していないんだ。バンド3つということであれば、ジューダス・プリースト、サバス、モーターヘッドだろうね。アルバムとなると選べないけれど。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ダレン:日本にファンがいるのかわからないけれど。日本に呼ばれたことがないからね。もちろん日本にはぜひ行きたいし、日本のベネディクションのファンにも会いたい。実は2ヶ月くらい市ヶ谷にいたんだよ。今年の3月。
— そうなんですか?
ダレン:そうだよ。新宿にも行ったよ。だけど個人的な仕事でね。オリンピック関連の。メタル・バーにも行って、「なぜベネディクションは日本に来ないのですか?」なんて聞かれたけど、答えられなかった。いずれにせよ、ぜひ日本でもプレイしたいね。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- イテレーションズ・オブ・アイ
- スクリプチャーズ・イン・スカーレット
- ザ・クルーキッド・マン
- ストームクロウ
- プロジェニターズ・オブ・ザ・ニュー・パラダイム
- ラビッド・カーナリティ
- イン・アワー・ハンズ、ザ・スカーズ
- テア・オフ・ジーズ・ウィングス
- エンブレイス・ザ・キル
- ネヴァーホエン
- ザ・ブライト・アット・ジ・エンド
- ウィー・アー・リージョン
【メンバー】
デイヴ・イングラム(ヴォーカル)
ダレン・ブルックス(ギター)
ピーター・リュー(ギター)
ダン・ベイト(ベース)
ジョヴァンニ・ダースト(ドラムス)