ー ニュー・アルバム『One and Only』がリリースになります。過去のAnvilの作品と比べ、違っている点はあるでしょうか。
リップス:そうだな、今回はより準備万端だった。レコーディングする前に、いつもよりも時間をかけた。何をやりたいか完全に把握するために、事前に計画したんだよ。すべて一度録音してみたから、スタジオでは何をすべきかがわかっていた。そこが一番の違いかな。おかげで素早く効率的にやれたよ。
ー 今回もエンジニアリングはヨルグ・ウケンとマーティン・プファイファー、アートワークはヴォルフガング・クネーゼといつもの布陣です。これはもう決まったチームという感じなのでしょうか。
リップス:そうだな、変えようとは思わない。変える理由がないんだ。何も問題がないから。
ー ヨルグはどのような点が優れたエンジニアなのでしょう。
リップス:ヨルグもマーティン・プファイファーも、ファンが求めているものをわかっているのさ。俺たちのやっていることをきちんと理解しているし、彼らは自分たちの仕事のエキスパートなんだよ。それに2人ともドラムをプレイするんだ。つまりスタジオには3人のドラマーがいることになる。レコーディングにおいて、ドラムというのはもっとも重要な基礎になるからね。ドラマーが素晴らしい基礎を作って、その上に素晴らしい曲のテイクを乗せていく。その基礎がいかに素晴らしく、一貫性があるか。俺たちはとてもオールドスクールだから、3人で一斉に演奏をして録音する。別々にではなくね。本当のレコーディング、本当のバンドさ。まず3人で基礎となるトラックを作って、そこにレイヤーを重ねていくんだ。基礎のあとはほとんど俺の仕事だけれど。
ー アートワークはアンヴィル=金床が描かれたシンプルなものですが、これは何を表現しているのでしょう。
リップス:正直なところ、今回アートワークの制作にはほとんど関わらなかったんだ。おそらくステージにアンヴィルがあって、それがワン・アンド・オンリーだということじゃないかな。とてもシンプルでストレートで、まったく大袈裟なところはない。俺たちの作品の中で、一番シンプルなんじゃないかな。みんなが気に入ってくれるはわからないけれど、良いカバーだと思うよ。
ー アーティストによるワン・アンド・オンリーの解釈ということでしょうか。
リップス:そう、言いたいことは『Anvil Is Anvil』と同じさ。言い方を変えただけなのだと思う。俺たちはワン・アンド・オンリー。初期からの俺の哲学だよ。俺のやることは、個性的でユニークでなくてはならない。でなければ、どうやって抜きに出るんだ?ギターをバイブレーターで弾くなんて、他の誰もやっていなかったし、今も誰もやっていない。もしやったとしても、それは俺の真似ということになる。ギターのピックアップを通して歌うというパフォーマンスもある。あれも普通のことじゃない。そういうことが、俺を俺にしているんだ。人のコピーをするのではなく、自分らしいことをやる。それをずっと哲学としてきたのさ。もちろん自分が受けた影響については明らかだけれど、それも俺なりのやり方でやっている。誰が聴いてもAnvilの曲になっているだろうけれど、俺たちがBlack Sabbathを聴いていたことは明らかだろう?影響が聴こえるはずさ。だけど、それでも俺たちのサウンドにはAnvilらしいユニークさがあるのさ。
ー あなたの歌詞はいつも非常に興味深いものです。タイトル曲の「ワン・アンド・オンリー」はあなたの哲学であると同時に、若いアーティストへのメッセージでもあるのでしょうか。
リップス:もちろんそうさ。人はワン・アンド・オンリーでなくてはならない。そう、これは俺自身と俺の哲学についてであるけれど、同時にアドバイスでもあるよ。明白で一般的なアドバイス。ミュージシャンになろうとしている人、何かを成し遂げようとしている人は、他と違うユニークなことをしなくてはならない。そうじゃないと埋もれてしまうからね。他の誰もやったことがないようなことをやったり、自分だけが書ける曲を書かなくちゃいけない。
ー 「Fight for Your Rights」は、あなた自身がレコード会社から搾取された話でしょうか。
リップス:その通り。Attic Recordsの社長と副社長が死んでね。それにインスパイアされたんだ。まず、社長は酷い病気にかかって安楽死したんだ。癌で、自ら死を選んだんだよ。それから副社長は自分の住んでいる町を歩いていて喉を切られた。状態は非常に悪くて、やはり安楽死を選んだ。それが彼らが俺にしたことについて、彼らと交わすことのなかった会話のように思えたんだ。「お前たちは俺に一度も〜」みたいな会話を交わすことなく、彼らはどちらも死んでしまった。感情的に言って、この曲を書くことで俺の怒りも少しおさまったよ。フラストレーションを吐き出したと言うのかな。
ー 「Heartbroken」についてはいかがでしょう。
リップス:あれは、ロブの妹の娘さんがコロナで亡くなったことで書いた。彼女はまだ31歳で、俺たちみんなに深い影響を与えたよ。家族だし、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったから。コロナなんて存在しない、コロナで死ぬ人なんていないなんていう奴らがいるけれど、そうじゃない。そこからインスパイアされた、一般的な喪失に関する曲さ。
ー 「Gold and Diamonds」も非常に興味深い歌詞になっています。
リップス:正直なことを言うと、この曲はThin Lizzyに影響されて書いたんだ。具体的には「Emerald」。それで歌詞を書く段階になって、エメラルドからダイアモンドを連想したというわけ(笑)。それからデビアスという会社のことを考え始めた。南アフリカの大きなダイアモンド会社。奴らがダイアモンドの価格を「発明」したんだよ。ダイアモンドだって、実際はただの石だろ。そこに値段を設定して、何百万ドルものの価値にしたのさ。それが真実だよ。実際はレアでもなんでもない。毎年際限なくダイアモンドは掘り出されている。終わりなんてないんだよ。「俺たちは騙された」という歌詞は、そういうこと。
ー それでは「Dead Man’s Shoes」は?
リップス:あれは『トワイライト・ゾーン』から。「Dead Man’s Shoes」というエピソードがあって、迷信についての回さ。死んだ人間の靴を履くと不運なことが起こるとか。ロブがいくつもタイトル候補を持っていて、どれがうまくハマるか考えていてね。曲が出来上がった時に、「Dead Man’s Shoes」というフレーズがうまくハマったんだ。で、そのタイトルからはしごの下を歩くとか黒猫とか、迷信について書いていった。
ー 「Run Away」の歌詞も面白いですね。
リップス:あれはいつものAnvil流ロックンロール。アルバムに必ず一曲は入っているやつさ。歌詞の内容は俺自身について。俺は口論の苦痛に対峙するよりも、逃げる方を好むタイプなんだ。
ー 人生においてはそうする方が良いという考えですか。
リップス:いや、あれは良くないことだよ。嫁さんに聞いてみてもらえばわかるけど、彼女が俺と口論しようとすると、俺が逃げるから、何事も解決しやしない。
ー まあ男ってそういうものですよね。
リップス:確かにね。俺は喧嘩を避ける。嫁さんが銀食器を投げつけてくるのをよけてさ。投げ返す訳にはいかないし。
ー 「Condemned Liberty」はキャンセル・カルチャーについてですね。現在のキャンセル・カルチャー的な兆候についてはどう見ていますか。
リップス:憂慮すべきものさ。歴史を書き換えるなんて、まったくバカげているよ。過去を変えたら、どうやって未来のために何かを学ぶんだ?俺たちの国には、初代首相の銅像があったんだ。ジョン・マクドナルドの。その銅像が市内の先住民族も住むエリアに立っていてね。まあ確かにそれを撤去したいというのはわかる。ユダヤ人のコミュニティの中にヒットラーの銅像を立てるようなものだからね。こういうケースに関しては、俺も反対はしないよ。もっと適した場所に移せば良いのさ。彼が先住民たちに何をしたのかを記憶しておくためにもね。ああいうことが二度と起こらないためにも。俺たちの街では、場所の名前を変更するというケースもある。200年も前に起こった出来事のせいでね。トロントのダウンタウンには、ダンダス・スクエアというところがあるのだけれど、その名称を変更すると。何に変えるのかは知らないけれど、ダンダスは先住民の子供たちを分離学校に入れて、白人化する政策に関わったからだよ。だけどさ、当時の誰もがそれに関わっていたんだよ?なぜ一人のせいにするんだ?そういう時代だったんだ。白人が北米に来た時、先住民は追い立てられ虐待された。戦争や他の国を占領する時に起こることさ。それが世界の歴史であり、それを変えることはできないし、変えるべきではないよ。そう言えば、靴に爆弾を仕込んで飛行機に乗ろうとしたやつがいただろ?そのせいで、ここ10年飛行機に乗る前に靴を脱がなくてはいけなくなった。かつては靴を履くという自由があったのに、法を破り俺たちの自由を乱用したやつのせいで、それがなくなった。この曲の歌詞の1行目にある「自由の乱用が愚か者どもがルールを変える言い訳になる」というのは、そういうこと。そうやって民主主義が最終的に独裁に変わっていく。どうしてそんなことが起こるのか?一般大衆というものがいて、彼らは支配を必要としている。どんどんと法律が増えていく。共産主義に行き着くまで。そこが着地点だよ。悲しいことに、これが俺たちがいる世界の民主主義さ。自由を乱用する人々がいる。それは事実。俺が「Our liberties are condemend = 俺たちの自由は死刑を宣告される」と言うのはそういうこと。俺たちは自分たちをめちゃくちゃにして、ものごとは悪化する一方。世界は人々の意見であふれている。世界中の人々の間でのコミュニケーションは増え続け、現在の世界では、かつてよりもあらゆるものが拡大され刺激される。南ルイジアナで起こったことが、10分後には日本で知られている。俺の言いたいことはわかるかな?それが今現在世界で起こっていることであり、誰もがあらゆることに意見を持っている。そしてその意見を声を大にして言える。何の意味がないことでもね。時には真の権威が、何ら権威のない人間によって黙らされすらする。一度何かを学んでしまうと、それを忘れるのは容易ではない。誤った情報を学習すると、それが真実のようになってしまう。実際真実ではないのに。今回のアルバムでは、いくつかの曲でそういうことを歌っているよ。
ー Anvilはツアーを多く行っていますが、パンデミック後の状況はいかがですか。
リップス:国が貨幣価値を切り下げた、つまりパンデミック中にお金を刷って人々に配った結果が現在の状況さ。今そのツケを払っているんだよ。本当にシリアスな状況だよ。その結果、すべてのものの価格が上昇した。と言うか、価格が上がったのではなくて、お金の価値が下がったんだ。政府がみんなに年間2万ドルだかを支出して、結果突然1ドルは50セントの価値しかなくなった。だから物の価格がみんな倍になったのさ。マクドナルドに行くと、ビッグマックは15ドル。パンデミック以前は5ドルとか7ドルだったのに。今は倍だよ。お金の価値が下がったから。ギターを買おうと思っても、価格は倍。これは世界中で起こっていること。アメリカをツアーした時は、本当に酷かったよ。アメリカでもビッグマックは15ドル。これはカナダドルだと20ドル。アメリカの状況はさらに酷いということ。当然こういうことはツアーにも影響する。飯代が倍になり、移動費も倍。だけど、ギャラは倍にはならない。ショウの値段はどうだ?会場費も倍になっているからね。プロモーターは金がなくなる。バンドも金がない。ファンもそう。彼らも倍のチケット代を払わなくてはいけないから、見に行く回数が半分になる。その結果集客が減り、彼らはますますチケットを買わなくなる。キャンセルが怖いからね。プロモーターはビビってショウをキャンセルするから。ファンたちはショウ当日までチケットを買うのを控える。何ヶ月も前に買って、ショウがキャンセルになって、返金に数ヶ月かかるなんて嫌だから。だから、俺たちは最近はドア・ディールにしている。(一定のギャラではなく)チケット代で得た収入を一定の割合で受け取るという形にするのだけど、90%のケースでもともとのギャラよりもたくさんのお金がもらえるよ。たいていはプロモーターが想定したよりも多くのお客さんが来るから。彼らは損をすることを恐れてドア・ディールにしようと言うのだけど、たいていその方がお金になるんだ。以前とは変わってしまったんだよ。パンデミックは世界中を大混乱に陥れた。どこか1箇所ではなく、あらゆるところ、あらゆるものが影響を受けて、ロックダウンが終わるとすぐに誰もが値上げを始めてあらゆるものの値段が上がり続けている。みんな燃料やガソリンの値上げを理由にして、「運送費がこれだけ上がると」なんて言って値上げして。みんなが値上げを他人のせいにしているけれど、結局誰もが事態の悪化に加担しているんだよ。
ー 一刻も早く自体が改善してくれると良いのですけどね。
リップス:逆戻りすることはないよ。マクドナルドが値下げすると思うかい?
ー ないでしょうね。
リップス:そう、もうみんな15ドル払うことに慣れてしまっているのに、値下げをする必要はないからね。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
リップス:今いろいろと交渉しているところなんだ。どうなるかを確定しているところ。3月か4月に行けるかな。シンガポール、日本、オーストラリア以外を手助けしてくれる人もいる。ベトナムや韓国、ハワイにも行くとかね(笑)。エリア全部を回るツアーさ。うまく行くといいな。俺たちの準備はできているからね。調子も最高で、たくさんのショウもやってきているから。きちんと油をさしたマシーンのようさ。日本が大好きだよ。俺の歴史の中で、とても重要なパート。47年間緊密な関係を保っているのだからね。素晴らしいよ。なるべく早く日本に行く。楽しみだな。