カナダを代表するヘヴィメタル・バンド、アンヴィル。映画『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』でもお馴染みの彼らが、ニュー・アルバムをリリースする。ということで、バンドの顔でもあるギタリスト/ヴォーカリストのリップスに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『インパクト・イズ・イミネント』がリリースになります。これまでの作品と比べて、どのような点が進歩しているでしょう。
リップス:今回はプリプロをやったんだ。そこが一番の違いだよ。レコーディング前に、すべてヴォーカルを録音してみたんだ。だから完璧に準備ができていたし、すべてがダブルチェック済みだった。正しい言葉が使われているか、メロディが正しい位置に配置されているかとかね。プリプロはプロデューサーの力を借りずにやったんだ。これはうまくいく場合とそうでない場合がある。今回はうまくいったよ。自分1人で何かやって、結局プロデューサーに「ここはダメ。これもダメ」なんて言われて全部変えられてしまう可能性もあるからね。せっかくやったことがすべて無駄になってしまう。でも、今回はそういうことがなかった。おかげでレコーディング・スタジオに入ってからは素早く仕上げることができたよ。リラックスして作業ができた。歌詞を書き直さなくてはいけないのではないか、みたいな心配が一切なかったから。
ー プロデューサーと言えば、久々にマーティン・プファイファーの名前がクレジットされています。『Anvil Is Anvil』(16年)以来初です。
リップス:実は彼はずっとレコーディングに関わっているんだよ。関与の度合いはアルバムによって違うから、プロデューサーとしてクレジットしていない時もあるけれどね。クレジットされていなくても、スタジオにはいたのさ(笑)。
ー マーティンはプロデューサーとして、どのような点が優れているのでしょう。
リップス:プロデューサーは2人いて、それぞれが得意なものがある。得意なものが違うんだよ。マーティンの得意分野はヴォーカル。一方のヨルグ(ユーケン)は、ギターソロやエンジニアリングを見てくれている。バックの演奏がきちんとしているか。マイクの配置はどうかとか、ミックスも彼が手がけている。俺的にはヨルグがメインのプロデューサーだと思ってるよ。彼のスタジオで作業をしているしね。だけど、マーティンは全体を俯瞰もしてくれる。そういう役割の人物も必要なんだ。「ちょっと待ってくれ」と言える人物がね。何よりも、信頼できる人間を見つけるというのは容易なことではない。レコーディング・スタジオで働いている奴らの多くは、「お金を払ってくれれば、君らが何をレコーディングしようと知ったことじゃない」なんていう感じ。だけど、彼らは違う。きちんとレコーディングに参加してくれる、チームの一員のような感じなんだ。お金だけが目的じゃない。そこはとても重要だよ。アンヴィルの主義のために一生懸命にやってくれて、最高の結果を引き出そうとしてくれる。
ー レコーディングはコロナによるロックダウンの影響を受けましたか。
リップス:うーん、やっぱりツアーをやれないというのがロックダウンの最悪の部分だったな。結局リハーサル・ルームにロックダウンされることになって、おかげで2年間でアルバム3枚分の曲ができた訳だからね。『リーガル・アット・ラスト』、『インパクト・イズ・イミネント』、そして次のアルバム用にすでに14曲できているんだ。まだタイトルは決めていないけれど。
ー ロックダウンにも良い面があったということですね。
リップス:そう、明らかに良い面さ。数週間後にツアーがスタートするんだ。100本以上やるよ。アメリカで40、それからヨーロッパで60、休みなしさ。となると、曲を書く時間もなくなるだろ?ツアーがすべて終わるのは、おそらく来年の3月。まあ6月か7月にはレコーディングして、24年にはリリースされるだろう。
ー 今回のタイトル『インパクト・イズ・イミネント』(=衝撃は差し迫っている)には、どのような意味が込められているのでしょう。
リップス:もともとは、「パンデミックのインパクト」という意味。パンデミックによる最悪のインパクトは、まだやって来ていない可能性があるから、覚悟をしておけということさ。これは何もコロナにかかるということに限らない。世界中で、さまざまなビジネスがロックダウンの影響を受けた。解散してしまったバンドもいる。無くなってしまったレコード会社もある。何千とは言わなくても、何百ものレストランが閉店したよね。失業して、いまだに新しい職を探している人もたくさんいる。物価の上昇も凄まじい。ガソリンの値段を見ると、目玉が飛び出してしまうよ。パンデミックによる最大のインパクトは、まだやって来ていないんだ。まだ回復の時期に入ってすらいないのに、いまだにパンデミックの影響は続いているのだから。タイトルにはそういうフィーリングを込めているのだけど、一方で、これは「アンヴィルのインパクト」についてでもある。俺たちのやってきたことが、ついにホームランになるということ。80年代初頭のように、再びアンヴィルが大きなインパクトを与えるということさ。『インパクト・イズ・イミネント』というタイトルと、「ファイア・レイン」という曲はもちろんつながっていて、「ファイア・レイン」は隕石、というか災害のこと。「ファイア・レイン」は空から星が降ってくるということで、アルバムのカヴァーもそれを表現している。パンデミックに関する違った見方という意味では、「ザ・ラビット・ホール」は陰謀説にハマってしまうことについて。インターネットでバカげた話を読んで、それを信じてしまうということ。体内にマイクロチップを埋め込まれて、それを5Gネットワークで操作するとかさ。『スタートレック』でもそこまで面白くないよ(笑)。
ー アルバムの一曲目にタイトル・トラックを持ってくるというのは、アンヴィルのお家芸の一つですが、今回はタイトル・トラックがありません。
リップス:それは自然に決まることなんだよ。「こうしよう、ああしよう」と事前に決めはしない。『Pounding the Pavement』(18年)は、インストの曲があって、突如「これを『Pounding the Pavement』というタイトルにしたらどうだろう?」って思いついて、それがタイトル・トラックになった。だから、あの時インストの曲がなかったら、あのアルバムもタイトル・トラック無しになったかもしれないな。そう言えば、今回のアルバムにはインストが2曲入っているのだけど、実は同じ曲なんだよ。気づかない人もいるかもしれないけれど。曲自体は同じで、アレンジメントが違う。「ティー・バッグ」、「ゴメス」というタイトルは、実はどちらもアンヴィルの映画を監督したサーシャ・ガヴァシのニックネームなんだ。82年に初めて彼に会った時、彼のことを「ティー・バッグ」って呼んでいた。イギリス出身だから(笑)。映画が成功した後、彼はとてもエキサイトしていて、「みんな俺の電車セットで遊びたがるんだ」なんて訳のわからないことを言ってるから、「電車セット?まるで『アダムス・ファミリー』のゴメス・アダムスだな」って。それであだ名が「ゴメス」になった。もともとはスウィングするロカビリーやロックンロールみたいな曲が欲しくて「ティー・バッグ」を書いたんだ。だけど、ホーンは無しでね。『Juggernaut of Justice』(11年)ですでにやったから。ところがスタジオに入るとマーティンが、どうしてもホーンが必要だと。実は彼はミリタリー・ドラマーなんだ。それで彼の同僚を集めて、ホーンのアレンジをして、「いいかいリップス、仲間にホーンのレコーディングをしてもらう。だけど、君が気に入らなかったら、使わなくていいし、お金もいらない。もし気に入ったのなら、使ってくれ。費用も俺が半分持つから」って。使わないならお金もかからないし、使うとして半額ということさ(笑)。それならやってみようと(笑)。それでやってみたら素晴らしくてね。2つのヴァージョンがあまりに違うので、両方収録したんだ。ホーンを加えただけで、曲の聴こえ方がここまで変わるとはね。それで両方を収録して、それぞれにサーシャのあだ名をつけたという訳さ(笑)。
ー 歌詞の内容は非常に多岐にわたっていますが、どのようなところからインスピレーションを得るのでしょう。
リップス:基本的には自分の周りで起こっていること。そして歌詞のほとんどは、あくまで起こっていることを客観的に伝えるだけで、そこに判断は入れない。特別な意見でもなければ、音楽の中で人々やその行動について審判を下すことは好ましくないからね。例えば「アナザー・ガン・ファイト」でも、銃の所持が合法か否かというティベートにはしたくなかったけれど、違法な所持をした場合は刑務所に行くべきだという見解は入れた。それが俺の銃所持に関する見解なんだ。ライセンスや許可無しに銃を所持することは、間違いなく違法だよ。この見方は妥当だろう?犯罪者に銃を持たせるなということ。法を遵守する人々は、他人を打ったりしないのだから。結局法を制定しても、それに影響を受けるのは法を守る人たちだけ。悪い奴らは法ができても悪いことをし続けるんだからね(笑)。これはすべてにあてはまる哲学に展開できる。カナダではマリファナが合法になったけれど、合法になったから新たにマリファナを吸い出したなんていう奴は1人もいない。マリファナを吸う奴は、それが合法だろうと違法だろうと吸う。逆に吸わない奴は、合法だろうと違法だろうと吸わないんだよ(笑)。何も変わりはしない。究極的には、合法か違法かなんて何の意味もないということになる。もし、アルコールに関して、自分を律して適度に飲むことができると思うのなら、マリファナも同じということだよ。そもそもアルコールの方が、致命的で危険で中毒性のあるドラッグなのだから。実際毎年何千人もがアルコールが原因で死んでいる。なのに合法なんだよ?そういう意味では、マリファナが違法だったというのも訳がわからない。それはともかく、目の前にあるトピックから歌詞を作り出すのが一番やりやすいんだよ。経験や観察を通じてね。
ー 「ゴースト・シャドウ」は何についてなのですか。
リップス:あれは究極的には、つきまとってくる人物について。精神的、パラノーマルなレベルでも。ストーカーというか(笑)。そう言えば、マイケル・シェンカーは俺のことを「フレンドリー・ストーカー」と呼んでるらしいけど(笑)。俺は彼の息子や妹と友達で、家族と仲良くしているからってストーカーという訳ではないはずなんだけどね(笑)。
ー それは普通の友人ですよね(笑)。
リップス:そう。彼も良い意味で言っているのだろうけどね。とても良い奴だし。クリス・グレンが教えてくれたんだよ、「君のことをフレンドリー・ストーカーって呼んでるよ」って(爆笑)。スコットランドでライヴをやった時に、クリス・グレンが来ていて、話をしていたら、「そうそう、マイケル・シェンカーが君のことをフレンドリー・ストーカーって呼んでるよ」って(爆笑)。
ー 先ほど「ファイア・レイン」は隕石についてだというお話でしたが、隕石について歌おうと思ったきっかけは何だったのですか。
リップス:歌詞を書いていた頃に、ミサイルで小惑星を破壊する実験をやっていたんだよ。もし小惑星が地球に衝突しそうになった時に、核爆弾か何かで破壊できるかという実験をね(なぜか大爆笑)。それで何でそんなことをしているのかと考えてね。実は何かが衝突しそうなのか、とか。それに『インパクト・イズ・イミネント』というコンセプトにもピッタリの内容だとも思ったし。
ー 「バッド・サイド・オブ・タウン」の歌詞は、70年代のハードロックっぽい内容ですよね。
リップス:あの曲は、音楽的には俺たちの極初期のスピード・メタルへの回帰。アルバムには収録されず、『Backwaxed』(85年)に収録された「Pussy Poison」を思わせる曲さ。あの曲は、俺たちの極初期の曲で、最初のインスト。テンポや演奏のテクスチャーが、あの曲みたいなんだ。歌詞については、ロブが提案したタイトルに基づいている。「バッド・サイド・オブ・タウン」というのがサビにピッタリだったから、そこから歌詞を書いていった。基本的には俺のご近所についてさ(笑)。
ー 治安が悪いのですか。
リップス:結局誰もが他人の住んでいるところを「あそこは治安が悪い」と言いたがるということさ。自分が住んでいるところが治安が悪いとは認めたがらない。もちろんトロントにも、犯罪率が高めのところはあるけれどね。実際泥棒が狙うのは、街で一番の高級住宅地さ。被害にあっていない家などないほど。となると、「治安が悪い」とはどういうことなのか。俺が住んでいるところでは、自転車に鍵をかけていなくても、誰も盗まない。ところが高級住宅地には、泥棒が集まってくる訳だからさ(笑)。この曲では「治安が悪いのはどこだ?」って、半分笑い飛ばしている。つまるところ、メッセージはどこに行っても注意を怠るなということ。何が起こるかわからないからね。
ー 先ほども話が出ましたが、「ザ・ラビット・ホール」は陰謀論についてとのことでした。
リップス:本当にクレイジーなことが起こっているからね。地球平面協会とかさ。地球は平らだって言って回って、人々と議論してるんだぜ?どういうことだよ(笑)。ある意味非常に煩わしいことさ。だってこういうことを本気で信じている人がいるんだよ?これ以上バカげていることなんてないよ。「コロナ以前にワクチンは作られていた」なんて吹聴して回ったり。パンデミックは計画されたものだってね。まったくクレイジーだよ。正しい情報や真実に基づくのではなく、ただ話をでっち上げているだけ。「ウサギの穴に落ちていく」という元ネタは、『不思議の国のアリス』。ウサギがアリスに「ついておいで、見せたいものがある」って、穴に連れて行く。パンデミックについてでっち上げられた話を人々が信じてしまい、ウサギの穴に入っていくのさ。まったく馬鹿げた陰謀論を信じてしまって。ビル・ゲイツのような大金持ちがパンデミックを引き起こしたとか。ビル・ゲイツとパンデミックに何の関係があるんだ?ワクチンの開発に大金を投じた?それは人道主義に基づいたものなのに、それが原因でパンデミックを引き起こしたなんて言われてしまうんだからね。まったく理解できないよ。彼らはナノテクノロジーと聞いた途端に、それを『スタートレック』やボーグに結びつける。それでワクチンを通じて小さなロボットを体内に入れて、5Gネットワークを利用してリモートで人々を殺すなんて言い出すんだからさ。どうやってこんなコンセプトを思いつくんだよ。映画よりもよくできてるね(笑)。「ザ・ラビット・ホール」は、一体どうやってそんな嘘ができあがるのか、何故そんなことをする必要があるのかということ。すべては恐怖さ。「ワクチンは打たない。ワクチンは悪だ」なんて言う人もいるけど、ワクチンがなかったら大変なことになるよ。コレラ、チフス、風疹。ワクチンが使われてきた病気はいくらでもある。天然痘も。「2回もワクチンを打つことはない」なんて言う奴もいるけど、俺は帯状発疹のワクチンを2回打ったよ。あのワクチンは、子供の頃に水疱瘡にかかった人向けのもの。水疱瘡にかかっていると、大人になって帯状発疹にかかる可能性があるからね。だから、それを防ぐために2-3ヶ月の間に2回のワクチン接種をするんだ。「ワクチンは打ちたくない」という人やミュージシャンは理解できないよ。南米や中国に行く時にどうするんだ?黄熱のワクチンを打たないと行けないところはたくさんあるのに。ワクチンは新しいテクノロジーでも何でもない。きちんと調べればわかることなのに、Facebookで誰かが書いたことをそのまま鵜呑みにしてしまう。Facebookにいるお医者さんさ(笑)。医学を学んだこともないお医者さん(笑)。他には、「エクスプローシヴ・エナジー」は、ロックンロールのスピリットについて。曲にぴったり合う内容にするんだよ。「ウィザーズ・ワンド」は夢の世界。もし魔法使いがこの世界に現れたら、俺は一体何をお願いするだろう。人種差別を無くして、もっと住みやすい世界にする。憎しみをなくして人々を平等に。そんな感じのピース、ラヴみたいな内容。子供時代に体験したものの残り香さ。56年生まれだからね。60年代のヒッピー文化に触れていたんだ。当時のコンセプトの多くが消えてしまったのは、とても残念なことさ。だから、当時感じたこと、当時持っていた希望なんかを、時々自分の音楽の中に取り込んで、呼び覚ますんだ。
ー 「ショックウェイヴ」は何についてなのでしょう。
リップス:あの曲は、何か悪いことが起こっている時に、正しい情報は伝えられないということ。手遅れになるまでね(笑)。パンデミックへの対処への、俺なりの不満表明だよ。音楽的には、俺なりのマウンテン・ミーツ・ブラック・サバス。レスリー・ウェストが亡くなった時に、マウンテンのようなフィーリングの曲を書こうと思ってね。
ー 曲はどのようにして書いているのですか。外側からのインスピレーションは必要なのでしょうか。
リップス:終わりなきリフ製造だよ。午後は毎日ギターを弾いて、それを録音する。俺がギターだけで基本となる曲を作って、それをリハーサル・ルームに持っていけば、15分で新曲ができあがる。
ー 最近はどのような音楽を聴いているのでしょう。新しい作品も聴きますか。
リップス:古いのばかりだね(笑)。そう言えば最近ジャズ・サバスというのを発見したな。ブラック・サバスをジャズにアレンジしたものさ。ピアノとかを使って。「フェアリーズ・ウェア・ブーツ」のジャズ・ヴァージョンとか、聴いてみるといいよ。凄いから。
ー ではお気に入りのアルバム3枚となるといかがでしょう。
リップス:ブラック・サバスの『Masters of Reality』。レインボーの『Rising』。それから、うーん、おそらくジミ・ヘンドリクスの『Are You Experienced?』かな。
ー では最後に日本のアンヴィル・ファンへのメッセージをお願いします。
リップス:ワオ。また日本に行くのが待ちきれないし、絶対にまた行くよ。アンヴィルにとって、ずっと日本は重要なところだからね。日本とイギリスというのは、クソバンドは行けないところ。イギリスや日本に行くには、良いバンドでなくちゃいけない。基準を満たさないと行けないところなのさ。だから、俺にとってバンドの歴史に日本があるということは、大きな栄誉なんだ。多くのバンドはそれができない。わずかなバンドだけが成し遂げられることで、アンヴィルはその中の1つ。本当に誇りに思うよ。さらに別の見方をすると、日本のファンはギター・ミュージックに非常に見識が深い。まさに俺が人生をかけて愛している音楽さ。俺のお気に入りのバンドは、日本でも人気がある。アメリカで人気があるからといって、日本のファンが気に入ってくれるという訳ではない。日本ではミュージシャンシップがとても重要視されるんだ。ミュージシャンシップだけでなく、ユニークさも非常に重要さ。イギリスもそう。彼らも極端にユニークなものを好む。スペシャルなものでなければ、気にもとめない。十把一絡げのバンドに用はないのさ。アンヴィルが認知された理由の一つは、ヴァイブでプレイするギタリストがいたから(笑)。他にそんなことをやっている奴はいなかったからね。日本に連れてきてくれ、ぜひ見てみたい、なんていうことになったんだろう。ユニークであることは、アンヴィルの映画の焦点にもなっていた。実はあの映画は奇跡的なものだったんだ。みんなは知らないかもれないけれどね。アンヴィルは1984年くらいから2006年の間、日本に行っていなかった。クリエイティブマンが、アンヴィルを(ラウドパークの)早い時間に出演させたのは、無名のバンドだからではなく、25年以上ぶりの来日公演ということで、みんなに早い時間からショウに来てもらうことを目的にしていたからなんだ。「朝の11:30から会場に来るお客さんなんているのか?」なんて戦々恐々としていたのだけど、蓋を開けてみれば満員だった。まるでマジックさ。もう一つのマジックは、映画のディレクターが、映画のために日本でのショウが必要だと言い出した時のこと。その頃たまたま俺の友人の1人、マイクが日本に行っていた。彼はクリエティブマンにツテがあって、LOUDNESSのライヴでたまたま彼らに、「アンヴィルのショウをやらないか」って話をしてくれたんだ。そしたらクリエイティブマンがぜひやりたいと。ちょうど映画のディレクターが日本のショウをやれないかと画策している時にだよ?それで(ラウドパークへの出演が)完璧なタイミングで行われて、映画用に撮影することができたんだ。まさにマジックさ。何かが起こり、そして他のことも同時に突然実現する。ほんのちょっとしたマジックがきっかけで、アンヴィルはまた日本に行くことができたんだ。25年以上ぶりのライヴに、オーディエンスは大喜びしてくれた。そしてそれが映画として撮影された。まるで夢みたいな話だよ。あのマジックがなければ、映画の成功もなかっただろう。そして、こうやって君と話していることもなかっただろう。本当にありがたいことだよ。日本のファンたちと友人でいられることに、本当に感謝しているよ。心の底から言っていることさ。君たちが俺の人生を救ってくれたんだ。君たちがアンヴィルを救う手伝いをしてくれたんだ。日本はアンヴィルの歴史にとってとても大きな部分なのさ。日本なしではアンヴィルの歴史もなかったようなもの。感謝をしてもしきれないよ。俺たちのベースプレイヤーのガールフレンドも日本人だしね。日本とのつながりは深いし、それは今後も変わらないよ。
文 川嶋未来