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ヴィトリオール
(アナール・ナスラック)
独占インタビュー

「エンダーケンメント」というメタファーは
資本主義と関係はある
最も重要なのは俺にとって「啓蒙主義」というのは
簡単に言えば迷信や無知というものを
捨て去ることだった

                                   

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文:川嶋未来 Photo by:Marie Korner

ブラック・メタル、グラインドコア、エレクトロニック・ミュージック。様々な音楽スタイルを飲み込み、独自の世界観を作り出しているイギリスのアナール・ナスラック。何度も来日を果たしているので、その圧倒的なステージングを体験した方も多いことだろう。ニュー・アルバム『エンダーケンメント』がリリースになるということで、ヴォーカリストのヴィトリオールことデイヴ・ハントに色々と話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバムはどのような作品になっていると言えるでしょう。

「以前よりももっと明るく、オープンでダイレクト」という発言をされていましたが。

 

ヴィトリオール:うーん、明るい感じになっているとは言わないけど、そうだな、もっとダイレクトで聴きやすく、は合っているかもしれない。もっと光があるというのか。だけど、それは必ずしもハッピーとは言えないけれど(笑)。フラワーパワー時代のザ・ビートルズに突如なったわけではないよ(笑)。だけど、以前よりもわかりやすくはなっている。今回はそういう方向性が正しいと感じたから。「こういう方向性にしよう」と計画はしないけれど。音楽というのはスポンテイニアスであることが重要だと思っているし、そうすることによってエネルギーや生が生まれるからね。あまり考えすぎると、それが失われてしまうよ。座って「こういうアルバムにしよう」と話し合ったわけではなく、単にそういう方向性が正しいと感じたということ。この方向性については、音楽だけでなく、歌詞にもあてはまると言える。今回は、いつもより歌っている内容がわかる。俺が何を歌っているか、聞き取れると思うんだ(笑)。それから、歌詞についても一部オープンにした。これまでは歌詞はプリントしてこなかったからね。俺が書いたライナーノーツにも、かなりの量の情報が含まれている。リリックビデオも1曲作るしね。そういう意味で、オープンさがあるアルバムになっていると言える。歌詞、音楽ともにね。ハッピー・ピープルになったわけではないよ(笑)。

 

— 今回もドラムはすべてマシンですか。

 

ヴィトリオール:そうだよ。以前はハイブリッドだったこともある。一部ミック(ケニー)が本物のドラムを叩いたりもしたのだけど、あまり意味がないという結論に達したんだ。ただ面倒になるだけで。少なくとも俺たちのスタイル、俺たちのやり方にとってはね。俺たちにとっては本物のドラムでも、マシンでも大きな違いがない。

 

— 一方ライヴでは本物のドラムを使用していますよね。このあたりの線引きはどのようなものなのでしょう。

 

ヴィトリオール:ライヴとなると、2つはやはり大きく違うと思う。ステージに2人だけで、あとはサンプリング、みたいなライヴを見たことがあるけれど、そういうスタイルが合う音楽ももちろんあるだろう。エレクトロニック・ミュージックとかね。だけど、グッド・パンチというか(笑)、肉体的体験を求める音楽、つまり俺たちがやっているような音楽では、やはり生のドラム、フルのバンドであるべきだと思う。そうでないと、インパクトや運動エネルギーというものを与えられないと思うんだ。生のドラムでライヴをやる時も、アルバムと同じようにサウンドエフェクトなどは加えているしね。やっぱりライヴとなると、4−5人がステージに並んでいる方がインパクトがあるよ。もちろんドラムマシンでライヴをやることも不可能ではないけれど、やっぱりライヴではオーガニックにやりたい。

 

— アートワークも随分とインパクトがあるものになっていると思います。これは「リビディナス(ア・ピッグ・ウィズ・コックス・イン・イッツ・アイズ)」の内容をヴィジュアライズしたものですよね。「保守系ニュースメディアはポルノだ」という解説がつけられていますが、これはどういうことなのでしょう。

 

 

 

ヴィクトリオール:日本のニュースメディアがどんなものであるかはわからないけれど、ここイギリス、そしてアメリカや一部のヨーロッパでは、政治がリアリティTVショウみたいになってしまっているように思える。これは、どうすることがベストなのかということに基づいているのではなくて、一体誰が見出しにのっているかによっている。政治家が何をしているかが日々報道されて、まるで奇妙なリアリティTVショウさ。ニュースにも一部責任があるだろうが、ニュース自体がそれを反映している感もある。ニュースが人々に怒りを与えているというか、ニュースが人々の感情をたかぶらせているんだ。それは性的な意味である必要はない。それに凄く入り込んで、エキサイトして、怒って、感情的にたかぶって。ニュースは人々にそういうことを求めている。これは、俺たちの動物としての脳と関係があると思う。つまりセックスと関係がある(笑)。人がニュースを読んで物凄く怒って大声をあげている時、文字通りの意味ではないが、比喩、メタファーとして、その人が勃起しているのがわかる(笑)。考えて楽しいものではないが、心理的に見て、それが今のニュースの役割なのさ。俺たちはジョージ・オーウェルの『1984』から大きな影響を受けているのだけれど、俺の記憶違いという可能性もあって、もしかして俺が勝手に頭の中で付け加えてしまったかもしれないのだけど(笑)、本の中にこういう会話があったことを記憶している。この本は全体主義国家に支配された国についてのフィクションなのだけど、この話の中に「二分間憎悪」というのが出てきて、これはこの国家が作り出した社会に適合するために重要な役割を果たしている。俺の頭の中では(笑)、登場人物が、この「二分間憎悪」が「失敗したセックス」だというセリフがあるんだ。必ずしもセックスである必要はないけれど、人々のフラストレーションや怒りというものが噴出されるんだよ。性的なフラストレーションとか、人に無視されているとか、そういうネガティヴな感情が、ニュースへのリアクションとしてすべて出て来るみたいだ。これが、人々が、ニュースを読んで、会ったこともない人の代わりに激怒したりする理由なのではないかと思うんだよ。すべてのものが、そういうレンズを通じて見られるようになった。セックスではないけれど、失敗したセックスというレンズを通じて世の中を見ているんだ。これが俺が表現したかったメタファーさ。豚は人々を表し、目はチンコになっていて、失敗したセックスというレンズを通じて世界を見ているということ。とてもわかりにくい話だけど(笑)。

 

— 「保守系メディア」というのはどのあたりですか。

 

ヴィトリオール:イギリスには、聞いたことがあるかわからないけれど、デイリー・メールみたいな、怒りに満ちているタブロイド紙があって、これは俺たちも読むことはあるけれど、一般的に50−60代の、多少レイシスト的な(笑)男性が読んでいるイメージのものなんだよ。

 

— 「エンダーケンメント」というのは、「啓蒙主義」の反対、「反啓蒙主義」ということですよね。今は「反啓蒙主義」であるというのは、具体的にどのようなことなのでしょう。世界の問題は何だと思いますか。突き詰めると、その根源は資本主義なのでしょうか。

 

ヴィトリオール:資本主義だと一言で言ってしまうのはシンプルすぎると思う。世界を支配している資本主義の中の特定のフォームが問題である可能性はあるけれど。もちろんアフリカの村では違うかもしれないけれど、アメリカやヨーロッパ、おそらく日本も、少なくとも多くの国で。資本主義というのは、基本的に人々が物々交換をすることで始まったものだよね。経済活動を通じて、人々が必要なものを手に入れる。そういう見方をすれば、特に問題があるようには思えない。だけど、実際は超金持ちをさらに金持ちにすることに終始している(笑)。何十億円の価値のある土地でも持っていない限り、自分には関係ないものさ(笑)。俺はそういう風に感じている。つまり、俺たちはその下に参加をしていて、実際それは機能しているとは思う。俺たちのほとんどはそれで生きていけている訳だからね。だけど、それは現行の資本主義の副産物でしかないのさ。億万長者の数を、数年前、さらにその数年前と比べてみるといい。大きな変化が起こっているけれど、俺たちはそんなことを考えもしない。世界の問題の一部は資本主義ではあるだろう。君や俺は、何が起こっているのかを知らされていない訳だし。俺たちみたいな人間たちが理解するためのものではない。世界が俺たちの利益のために動いていないとしても、そうだと教えてくれる人間はいないのだから。そういう意味で、「エンダーケンメント」というメタファーは、資本主義と関係はある。最も重要なのは、俺にとって「啓蒙主義」というのは、簡単に言えば、迷信や無知というものを捨て去ることだった。代わりに科学的手法を取り入れたり、教育を広く行き渡らせるという考え方。人々は、そういう考え方に背を向け始めているように思える。真実を得たと思っている人々は、彼らの意見を変えるかもしれない情報に興味を持っていないということ。真実を得たと思うと、「もうこれで十分だから放っておいてくれ」みたいな感じで(笑)。これは、物の見方として、まったく啓蒙主義に反しているよ。これについては何時間でも説明できるけど(笑)、言いたいことの一部はわかってもらえたと思う。

 

— アナール・ナスラックの音楽には様々なスタイルがミックスされています。無理やりカテゴライズするとしたら、どうなりますか。自分たちはブラック・メタル・バンドだと思いますか。

 

ヴィトリオール:通常自分たちの音楽を言葉で表現することはしないのだけど、無理にでも言うとしたらエクストリーム・メタルかな。ブラック・メタル的要素は多いけれど、自分たちがブラック・メタル・バンドだとは思わない。俺にとってのブラック・メタルとは、メイヘムやダークスローンなどで、俺たちのサウンドは彼らとは違うから。もちろん重要なパートではあるけれどね。グラインドコアやパンクっぽい部分もあるし、現代的な要素もある。エレクトロニックな要素もあるし、なかなか1つに特定するのは難しいよ。誰かに「こういう要素を感じる」と言われると、「そうだね、君の言う通りだね」と言うようにしている(笑)。色々なもののミックスだよ。ブラック・メタルの占める割合は大きいけれど。

 

— 影響を受けたバンドはどのあたりですか。

 

ヴィトリオール:それは答えるのが難しいな。バンドを始めた頃はわりと明白で、当時はメイヘムから大きな影響を受けていたし、あとはキング・ダイアモンド。

 

— キング・ダイアモンドというのは少々意外です。

 

ヴィトリオール:彼は俺たちのヒーローだよ。ライヴをやる時は、時々キングをゲストリストに入れておくことがある。彼が来てくれることを期待している訳ではなく、万が一のためにね(笑)。俺が様々なヴォーカル・スタイルを使い分けている理由の一つは、キングからの影響だよ。ハイトーンをやっているのも、彼の影響さ。メシュガーからの影響もあるかもしれない。『Chaosphere』あたり。あれは素晴らしいアルバムだ。ただその後は、他のバンドから影響は受けていない。少なくとも意図的、意識的にはね。自分たちから影響を受けているだけで。これらのバンドから影響を受けてバンドを始めて、その後は特に何かに注意を払うことなく進化してきたんだ。現在の影響というと、「しっくり来るもの」という言い方になるね。

 

— 先ほど「パンクっぽい部分もある」と言っていましたが、パンクからも影響を受けているということですか。

 

ヴィトリオール:初期はね。エクストリーム・ノイズ・テラーとか、初期のナパーム・デス、『From Enslavement to Obliteration』の頃の。ディスチャージからの影響も少々あるし、日本のバンド、ウォーヘッドとか。今でもスウェーデンのスキットシステムとかをよく聴いているよ。

 

— お気に入りのヴォーカリスト、影響を受けたヴォーカリストは誰でしょう。

 

ヴィトリオール:影響を受けたとなると、やっぱり難しいな。誰かの真似をしようというより、しっくり来る歌い方をやっているだけだから。特に初期は、聴いたことがあるいかなるものよりもハーシュでナスティな声を出そうとしていた。もちろんキング・ダイアモンドからの影響もあるし、メイヘムのアッティラとかも。彼のように歌っているかは別だけれども、とにかくクレイジーで聴いたことないようなものをやるという意味においては、ライナー・ランドフェルマン。ベスレヘムの『Dictius Te Necare』で歌っていたシンガー。あれは素晴らしいアルバムだよ。クリーンな、メロディックな部分については、エンペラーっぽいという人がいるけれど、そうじゃない。あれはウルヴァーのガルムからの影響だよ。特にアルクチュラスの頃の。ボルト・スロウワーのカールからの影響もあるかもしれない。全体ではなく、あくまで一部についてだけれど。

 

— メタル以外からの影響となると、どのようなものがあるでしょう。

 

ヴィトリオール:今回の作品でも「レクイエム」は、部分的にヴェルディの『レクイエム』からインスピレーションを受けている。俺はモーツァルトの大半の作品は好きではないのだけど、ミックも俺も、『レクエイム』は大好き。エレクトロニック・ミュージックからの影響もあるよ。ノイジアの『Split the Atom』には、俺もミックも大きな影響を受けている。あとはブロークン・ノート。何年か前に『Terminal Static』というアルバムと『Black Mirror』というEPを出していている。こんなあたりかな。俺たちはただメタルばかりを聴いているわけじゃないから。それが悪いわけではないけれどね。

 

 

— あなたたちは1-2年ごとにアルバムを出していますよね。これは現在の基準からすると非常にハイペースだと思うのですが、ポリシーなのでしょうか。

 

ヴィトリオール:いや、何の意図もない(笑)。俺たちのプロフェッショナルさを表しているようではあるけれど(笑)。確かに定期的にアルバムは出しているけれど、「よし、ニュー・アルバムを作ろう」というフィーリングに従っているだけなんだ。いつ作るかということは気にしていなくて、あくまでフィーリング次第。何の計画もしてないし、意図して定期的にしているわけでもない。このアルバムも3月には出来上がっていたんだけどね、世界がクレイジーな状況になってしまったから、リリースは10月になった。何年か前、アルバムがリリースされた3ヶ月後くらいに、「ニュー・アルバムを作リ始めようと思う」とレーベルに伝えたら、「いや、さすがにそれはやめてくれ!」なんて言われたこともあるよ(笑)。結果として定期的にアルバムが出ているように見えるけど、あくまで偶然さ。

 

— エクストリームな音楽との出会いはどのようなものだったのでしょう。80年代、90年代のバーミンガムのシーンはとても面白かったと思うのですが。

 

ヴィトリオール:何しろグラインドコアは今俺が座っているここから少し離れたパブで誕生したわけだからね(笑)。当時をリアルタイムで知っている訳ではないけれどね。変な話だけど、俺は頭の中で音楽が鳴っていたんだよ。そういう音楽を聴きたくて、色々と探し回った。どういうものだったかを説明するのは難しいのだけど、イーヴルなデス・メタルみたいなやつ。そんな音楽を実際に耳にしたことはなかったけれど、頭の中で鳴っているノイズみたいな音楽を聴いてみたかったんだ。それでアイアン・メイデンのカセットやメタリカ、スレイヤーなどを手にして聴いてみたけれど、しっくりこなかった。ある時Tシャツ屋さんで、おそらくあれはディーサイドだったと思うのだけど、それがかかっていて、「俺の頭の中の音楽は実在してるじゃないか!」って思ったんだ。そこから始まって、どんどんエクストリームなものを探していったんだ。どのくらいまで行ったかな、一番エクストリームなのって何だろう、そうだ、ブラスフェミーあたり。あれはさすがに聴けなくて、そこでよりエクストリームなものへの探求は終わったんだ(笑)。

 

— お気に入りのアルバムを3枚教えてください。

 

ヴィトリオール:うーん、アナール・ナスラックとの関連で言うと、色々なムードがあるから難しいけれど、エクストリーム・メタルで考えると、『De Mysteriis Dom Sathanas』。それからキング・ダイアモンドは入れなくちゃいけないから、そうだな、『Abigail』。あとは、うーん、ナパーム・デスから何かを入れるべきだろう。彼らは音楽性がとても変わったからね。『Apex Predator – Easy Meat』かな。影響を受けたとかではないけれど、素晴らしいアルバムだよ。

 

— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

ヴィクトリオール:普段そう言われると、「ファンのみんな、ありがとう」なんて言うんだけど(笑)、今回は俺の言いたいことをきちんと理解してもらいたいからね。俺たちにとって日本はとてもエキゾティックなところで、もちろん君たちにとってはそうじゃないだろうけれど(笑)、俺たちからするとね。だから、子供の頃からゲームなんかをプレイしていたこともあり、ずっと日本に行きたいと思っていた。実際日本に行ってプレイをして、お客さんのリアクションを見て、本当に素晴らしくて、温かくて、フレンドリーで、同時にリスペクトしてくれて、とても圧倒されたよ。本当に本当にありがとう。サポートしてくれてありがとう。ニュー・アルバムを気に入ってくれるといいな。そしてまた日本に行ってプレイしたいよ。世界がこんな状況では、次いつ行けるかわからないけれど、ぜひまた日本に行きたい。

 

 

文 川嶋未来

 


 

 

 

2020年10月2日 世界同時発売

アナール・ナスラック

『エンダーケンメント』

CD

【CD収録曲】

  1. エンダーケンメント
  2. ザス、オールウェイズ、トゥ・タイランツ
  3. ザ・エイジ・オヴ・スターライト・エンズ
  4. リビディナス(ア・ピッグ・ウィズ・コックス・イン・イッツ・アイズ)
  5. ビヨンド・ワーズ
  6. フィーディング・ザ・デス・マシーン
  7. クリエイト・アート、スルー・ザ・ワールド・メイ・ペリッシュ
  8. シンギュラリティ
  9. パニッシュ・ゼム
  10. レクイエム
    《日本盤限定ボーナストラック》*収録予定変更の可能性有り
  11. リビディナス(ブローケン・ノート・リミックス)

 

【メンバー】
ヴィトリオール(ヴォーカル)
イルメイター(ギター、プログラミング)