Amorphisが名盤セカンド・アルバム『Tales from the Thousand Lakes』リリース30周年を記念し、完全再現ライヴ作品をリリース!ということで、ギタリストのエサ・ホロパイネンに、30年前を振り返ってもらった。
ー Amorphisは他のフィンランドのデス・メタル・バンドとは違い、初期の頃からメロディが豊富でした。これは何故なのでしょう。
エサ:そうだな、それは1992年にファースト・アルバム『The Karelian Isthmus』をレコーディングしたあたりから始まったと思う。自分たちの音楽に、何かもう少し欲しいと思っていたんだ。当時俺たちが聴いていたのは、デス・メタルだけではなかったからね。70年代のロックや、もちろんギター・ハーモニーのあるオールドスクールなヘヴィメタルも大好きだった。そういうものを自分たちの音楽に取り入れたかったんだ。ただのデス・メタルというのは、俺たちミュージシャンにとっては十分ではないと思って、ギター・ハーモニーなんかを取り入れていった。ファースト・アルバムからスタートして、『Tales』で花開いたと思う。あのアルバムではキーボード・プレイヤーを入れて、初めてクリーン・ヴォーカルを取り入れたりもしたし。
ー 『Tales』を作る際、どのような音楽的コンセプト、あるいは方向性にしようと思っていたか、覚えていますか。
エサ:うーん、特に音楽的コンセプトというのは考えていなかったな。ただもっとメロディックなタッチのある曲、フィンランドのフォーク・ミュージックを含む違った音楽からインスパイアされたものを書こうとは思っていた。だから、フィンランドのプログレッシヴ・ロックからもインスパイアされたんだ。彼らもフィンランドのフォーク・ミュージックから影響を受けていたからね。そういうものを自分たちの音楽に取り入れるのは、とても興味深いことだと思った。コンセプトがあったのは、カレワラを題材にした歌詞の方さ。
ー フィンランドのプログレッシヴ・ロックというと、どのあたりですか。Kingstone Wallとか。
エサ:彼らはもっとネオ・プログレッシヴ・バンドと言うのかな。彼らの大ファンだったから、とても重要な存在ではあった。92-94年頃、彼らはクラシック・アルバムをリリースしていて、俺たちにとってホームタウンのヒーローみたいな感じだったし。住んでいるところも近くて、彼らのことをとても尊敬していたよ。ライヴも素晴らしかった。彼らからの影響は間違いなく大きい。70年代のバンドということであれば、PiirpaukeやWigwamあたりが、俺たちにとってもっとも重要。Piirpaukeのサックス・プレイヤーには、アルバムにも参加してもらったし、ライヴにも出てもらったよ。
ー 先ほど言われたように、『Tales』はキーボード・プレイヤーがいて、クリーン・ヴォーカルもあって、エキゾチックなメロディも出てきます。そういう意味で、これは今日のAmorphisのスタイルを築くきっかけとなったアルバムだと言えるでしょうか。
エサ:間違いない。あのアルバムは、今も俺たちがやっていうることのスタートだったと思う。93年の時点では、特にデス・メタルのバンドにキーボード・プレイヤーを加入させるというのはとても奇妙なアイデアだったよ(笑)。当時メタルはもはやビッグなものではなく、代わりにグランジが台頭していて、キーボードというのはタブーだったと言うのかな(笑)。だけど、俺たちにとってはとても重要な要素であり、バンドとして進化するには必要なものだった。今ではもはやバンドにキーボーディストがいることは、まったく当たり前のことだろう?ギタリストがいるというのと何ら変わりない。でも、当時は違ったんだ。キーボードとクリーン・ヴォーカルは、俺たちが進化する上でとても重要なものだった。あの時からずっとAmorphisは6人編成だし。
ー しかもキーボードというのがMinimoogとHammondでしたよね。これはさらに変わったアイデアだったと思うのですが。
エサ:(笑)。キーボーディストのカスパーが、MoogやHammondみたいな古いオーガニックなサウンドが好きでね。彼のアイデアだったのだけれど、俺たちもDeep Purpleやジョン・ロードのハモンドが好きだったから。正直最初は奇妙に思ったけれど。ギターのサウンドはブルータルというか、デス・メタルらしいものだったから、そこにハモンドやMinimoogを混ぜるのは少々変だと思ったけれど、奇妙なアイデアというのは得てしてうまくいくものさ。
ー キーボーディストのカスパーからのインプットは大きなものだったのでしょうか。
エサ:間違いなく大きかったよ。彼は今もライヴでもっとも演奏している曲である「Black Winter Day」も書いたし。音楽的バックグラウンドも、他のメンバーよりも強力なものだった。音楽理論がわかったから、アレンジなどとても助かったよ。ハーモニーを考えたりね。『Tales』から始まった方向性に関して、彼からの影響はとても大きかったと言える。
ー しかし、彼はわりとすぐにバンドを抜けてしまいましたよね。
エサ:そうなんだよ。一番の理由は、ツアーが好きではなかったことじゃないかな。彼は兵役に行ってね、フィンランドでは18歳になると兵役の義務があるから。他のメンバーは、策を講じて兵役には行かなかったけれど。人生の大事な時期に1年間、森の中を走り回って時間を無駄にはしてくなかったから(笑)。医者に行って、「精神的にとても兵役にはつけない」って言ったり。これは個人的な考えだけれど、銃が国を守るとは思わないし、軍隊も支持しない。ともかくカスパーは兵役に行って、彼が帰ってくる頃にレーベルから連絡があって、EntombedとのUSツアーの話だった。初めてのUSツアーで、Amorphisとして色々と動き出した感じだったから、当然俺たちはやるつもりだったのだけれど、彼は乗り気ではなく、バンドをやめるという決断をしたんだ。それで代わりにキム・ランタラを加入させた。彼とは次の『Elegy』を一緒に作ったよ。
ー 当時どのようなメタル・バンドからインスピレーションを受けていましたか。
エサ:そうだな、当時俺はいまだ初期のデス・メタルを聴いていたな。Carcassの『Symphonies of Sickness』、Morbid Angelの『Altars of Madness』、それからもちろんEntombedの『Wolverine Blues』みたいな素晴らしいアルバム。一方で、Jethro TullやPink Floyd、Deep Purpleみたいなクラシックなものも聴いていた。Amorphisとして集まると、いつもクラシックなメタルを聴く。これは今も変わらなくて、今でもツアーで何かかけるとなると、Deep Purpleの『Perfect Strangers』や古いIron Maidenのクラシックとかね(笑)。18-20歳くらいに聴いているものが、その人の基本的な音楽の好みを作って、40歳、50歳になっても同じものを聴き続けているんだと思う。素晴らしいことだよ。そういう音楽が、俺たちの音楽的バックグラウンドを作った訳だし。
ー アルバムではVille Tuomi という人物がクリーン・ヴォーカルを担当しています。
エサ:Villeは俺たちの友人で、Kyyriaというバンドをやっている。Amorphisのキーボーディスト、サンテリも参加しているバンドさ。ストックホルムのスタジオでレコーディングをしていて、そこからVilleに電話をしたんだ。彼が優れたヴォーカリストだと知っていたから。いくつかの曲で何か足りない感じがして、クリーン・ヴォーカルが欲しいと思ってね。だけど、バンドのメンバーは誰もトライしようとしなかったので、Villeに連絡をして、スウェーデンまで来られるかと。ヘルシンキからストックホルムまで一晩かけて来て、次の日にクリーン・ヴォーカルを録音した。すごく自然なレコーディングで、ヴォーカル・ラインはスタジオでアレンジされた感じだったよ。
ー 歌詞はカレワラを題材としていますが、全体的にフィンランド的なアルバムにしようというプランだったのでしょうか。
エサ:うーん、そんなことはなかったな。カレワラはあくまで歌詞のインスピレーション源で、確かに音楽的にもフィンランドのフォーク・ミュージック的な部分もあるから、文化的にフィンランドっぽい作品になったとは思うけれど。アートワークは青が貴重で、アメリカ人がフィンランドの風景をイメージしたのだろうけれど、何だか月か架空の場所みたいになってるよね(笑)。青という色以外はフィンランドっぽくない(笑)。まあAmorphisのハンマーが描かれていて、とても神秘的なアートワークにはなっている。みんな気に入ってくれているようだし、音楽や歌詞のコンセプトをうまく捉えているんじゃないかな。
ー このアルバムはサンライト・スタジオという当時デス・メタルの聖地的な場所で録音されています。これはやはり特別な経験だったでしょうか。
エサ:当時はきっと広い大きなスタジオだろうと思っていたんだよ。色々噂を聞いていたし、たくさんのクラシックなアルバムがあそこで録音されていたからね。ところがファースト・アルバムのレコーディングの時に行ってみたら、普通の家の地下室だった。しかもとにかく狭くて。トーマスは素晴らしい奴だったけれど、少々変でね(笑)。まあ、だからこそ良いプロデューサーたりえたのかもしれないけれど。ファースト・アルバムの時は、エレクトリック・ドラムしか置いてないって言われて。「エレクトリック・ドラムしかないのか?」って聞いたら、「そうなんだよ、みんなエレクトリック・ドラムを使いたがるんだ」って。奇妙なことがたくさんあった。だけど、彼との仕事はやりやすかったし、だからこそ『Tales』もサンライトで録ったのさ。一度一緒にやっていたから、トーマスも俺たちのことをよくわかっていたし。ファースト・アルバムから音楽的にかなり進化していたから、彼はその点少々心配していたようだけれど。レーベルはどう思うだろうって。スタンダードなデス・メタル・アルバムではないから。「心配しなくていいよ、大丈夫」なんて声をかけたよ。実際大丈夫だった。
ー 現在の目で振り返って、『Tales』をどのように見ますか。改善したい点はありますか。
エサ:当時はサンライトの象徴的なギター・サウンドが好きではなかった。あのギターの音は、何と表現すればいいかな、リズム・ギターの音がパンキッシュと言うか。だけど、あれはサンライトのトレードマークでもある。後に考えを変えてね。あのギター・サウンドも、あのアルバムをユニークなものにしている要素の一つだと。あの音を聴けば、すぐに『Tales』だとわかる。時間の試練にしっかりと耐えたアルバムだと思うよ。今もプレイする曲が多く入っているし、自分たちのキャリアを振り返ってみると、おそらく俺たちにとってもっとも重要なアルバムの一つだろう。多くの扉を開いてくれて、インターナショナルに活躍するチャンスを与えてくれたアルバム。日本に行けたのは『Elegy』の後だったけれどね。
ー 当時30年後もバンドを続け、さらにあのアルバムを完全再現するだろうと思っていましたか。
エサ:もちろん思っていなかったよ(笑)。時間が経つのはあっという間さ。さっきも言ったように、『Tales』は多くの扉を開いてくれて、その後たくさんのアルバムを作ったけれど、当時誰かに「君たちは2024年にバンドを続けていて、『Tales』の曲もやっているよ」なんて言われても、まったく信じなかっただろうね(笑)。
文:川嶋未来
【Blu-ray収録曲】
- サウザンド・レイクス
- イントゥ・ハイディング
- ザ・キャスタウェイ
- ファースト・ドゥーム
- ブラック・ウィンター・デイ
- ドラウンド・メイド
- イン・ザ・ビキニング
- フォーガットン・サンライズ
- トゥ・ファザーズ・キャビン
- マジック・アンド・メイヘム
- ヴァルガー・ネクロラトゥリー
- マイ・カンテレ
【CD収録曲】
- サウザンド・レイクス
- イントゥ・ハイディング
- ザ・キャスタウェイ
- ファースト・ドゥーム
- ブラック・ウィンター・デイ
- ドラウンド・メイド
- イン・ザ・ビキニング
- フォーガットン・サンライズ
- トゥ・ファザーズ・キャビン
- マジック・アンド・メイヘム
- ヴァルガー・ネクロラトゥリー
- マイ・カンテレ
【メンバー】
トミ・ヨーツセン (ヴォーカル)
エサ・ホロパイネン (リードギター)
トミ・コイヴサーリ (リズムギター)
オーリ=ペッカ・ライネ (ベース)
サンテリ・カリオ (キーボード)
ヤン・レックベルガー (ドラムス)