ゴシック・デス・メタルとでも言うべきオリジナリティあふれるスタイルで人気を集めるスウェーデンのトリビュレーション。この度5枚目のアルバム、『ホエア・ザ・グルーム・ビカム・サウンド』がリリースになるということで、ギタリストのアダム・サースに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『ホエア・ザ・グルーム・ビカム・サウンド』がリリースになります。過去の作品と比べてどのような点が進歩していると言えるでしょう。
アダム:良い質問だね。うーん、何か進歩しているところがあればいいけど。どうだろう。俺はあまり何かが良くなっているという見方はしないんだ。変化はしていると思うけどね。それが悪い方向でないと良いけれど(笑)。変化の一つは、全体的なフィーリングかな。俺にとって今回のアルバムはもっと簡明というか、『ダウン・ビロウ』よりも完成されたアルバムだと思う。もちろん『ダウン・ビロウ』も完成されたアルバムだったけれど、何というか今回のアルバムの方がよく出来ているように感じるよ。
ー レーベルのインフォメーション・シートで、あなたは「少々新しいことを試したかった」と言っていましたが、具体的にはどのあたりが新しい要素なのでしょう。
アダム:俺たちは、同じことを繰り返すタイプのバンドではないからね。時にその変化はとても露骨なものだ。最初の2枚の違いはとても大きくて、まるで別のバンドのようさ。最近のアルバムでは、それほど露骨な違いはないけれど、常に小さなバリエーションは存在している。サウンドのコアな部分は保持しているから、トリビュレーションらしいサウンドであることに変わりはないけれど、マイナー・チェンジは常に行なっているよ。今回はちょっとだけスウェーデン語も試したし。以前も試したことはあったんだけどね。うまく行かなかった(笑)。今回はうまくいったよ。それからエレクトロニックっぽい要素も入れた。最初の曲、「In Remembrance」で聴ける。スウェーデン語を使ったのも、この曲なんだ。最初の一節だけだけど(笑)。V-Drumsではないけれど、エレクトロニック・ドラムを使ったんだ。こういった新しい要素を取り込んではいるけれど、バリエーションという意味では今回はもっと微妙なものになっているよ。
ー アルバムのタイトルは、ドイツのダークウェイヴ・ユニット、Sopor Aeternus & the Ensemble of Shadowsの歌詞から取ったとのことですが。
アダム:その通りだよ。彼ら、というか彼にとってこれがどういう意味なのかはわからないけれど、この歌詞が出てくる「Hades “Pluton”」という曲は、ライヴの前にいつもかけているし、Spotifyなどでやった俺たちのプレイリストにも入れた。だから、この曲のことはもう数年前から頭にあったのだけど、これはまさに俺たちがバンドでやろうとしていることを捉えていると思うんだ。俺たちは常にある種の雰囲気、フィーリングを音楽で伝えようとしていて、暗闇、といっても絶望的な闇というわけではなく、もちろん絶望的にもなりうるけれど、夜の美しさ、闇の美しさを描きたいんだ。「Down, further down, where the gloom becomes sound」という一節がずっと頭にこびりついていてね。これが俺たちのやろうとしていることだから。このアルバムでも、それが成功していると良いけれど(笑)。
ー アートワークは何を表しているのでしょう。
アダム:これはシビュラの彫刻なんだ。これを使った理由は、スタジオに入った時点では、まだカバーをどうするか決まっていなくて、これはいつもそうなのだけれど、俺たちはレコーディングをしてから、カバーをどういう方向性にすれば良いかというのを考える。カバーよりも先に音楽を作る。音楽を表すカバーになるようにね。今回も同じで、何も決まっていなくて、ある日スタジオでシンガーのヨハンネスがポスターを持って来たんだ。スタジオ内で、何かインスピレーションになるようなものが欲しかったから。とても良いスタジオで居心地が良くて、一ヶ月半くらいそこで過ごしたのだけれど、もっとトリビュレーションらしいものが欲しいと思ってね。スタジオに貼ってあったのは、ロックやメタルのポスターばかりで。もちろんそれはそれで構わないのだけれど、コントロール・ルームに”トリビュレーションネス”が欲しくてさ。それで、この彫刻の写真のポスターを貼った。レコーディング中、これがずっと俺たちを見つめていたのさ(笑)。しばらくすると、誰が言い出したのかは忘れたけれど、ヨハンネスだったかな、「これをカバーにしたらいいんじゃないか?」って。それでみんな同意した。パーフェクトに思えたから(笑)。大変だったのは、これのきちんとした写真を見つけることだった。というのも、この彫刻はすでに存在していないんだ。俺たちの調べたところによると、第二次世界大戦中に破壊されてしまったらしい。世紀の変わり目に、このリトグラフィーというのかな、写真が作られていて、だから100年も昔のものなのだけど、それが唯一見つけられたきちんとした写真だったんだ。タイトルやバンドの文字ともよくフィットしていると思うよ。
ー トリビュレーションのようなバンドは他にいないように思うのですが、具体的にどのようなアーティストから影響を受けているのですか。
アダム:良い質問だね。影響を受けたアーティストというのは、時とともに変わって行く。トレンドがあるからね。トレンドと言っても、どんなものが流行っているかという意味ではなく、バンドの中でインスピレーションとなるバンドのトレンドということだけれど。だけど、時が経ってもずっと変わらない、一番の大きなバックグランドは、アイアン・メイデン。最初からずっとね。それからモービッド・エンジェルからの影響も大きい。音楽的にも、創作へのアプローチの仕方という点においても。フィールズ・オブ・ザ・ネフィリムからの影響も大きいね。他に何があるだろう。ポポロ・ヴー。彼らからの影響も、ファースト・アルバムからずっとある。俺の記憶が正しければ、彼らの音楽とはヴェルナー・ヘルツォークの『ノスフェラトゥ』を通じて出会ったんだ。今思いつくのはこのあたりのアーティストだね。
― あなたたちはゴシック・デス・メタルというような言い方をされることもありますが、自分たちではトリビュレーションのスタイルをどう表現しますか。
アダム:いや、わからないな(笑)。正直、そういうことは考えないし、気にしていないよ。以前は自分たちをデス・メタルと言っていたけれどね。ファースト・アルバムは間違いなくデス・メタルだし、セカンドもおそらくそう。ブラック・メタル的要素もあるけれどね。だけど、サード・アルバム以降は、デス・メタルのルーツを持ちつつ、それは今でも感じられるとは思うけれど、そもそもデス・メタルというジャンルも広いからね。デス・メタルの中にも、様々なバンドがいる。モービッド・エンジェルもカンニバル・コープスもデス・メタルだけれど、彼らと比べると、『ホエア・ザ・グルーム・ビカムズ・サウンド』のサウンドは全然違うよね(笑)。ではどう定義するか、となるとよくわからないよ。メタルであり、エクストリーム・メタルだけれど、それ以上のものがあるのがわかるはず。さっきも言ったようにゴシックの影響もあるし、ヘヴィメタルの影響もある。俺たちがインスピレーションを受けたものすべてのコレクションと言えばいいかな。トリビュレーションにすべてがハマるわけではないけれど、俺たちにとって、何がうまくいき、何がそうでないかを区別することはとても重要なことだけれど、インスピレーションとなるものは、どんなものでも試すことはできる。新しいことに関しては可能な限りオープンでいる一方、俺たちは同時にトラディショナルで、頑固でもあるのだけれど(笑)。バランスが難しいんだ。
ー ホラー映画やホラーのサントラからの影響はありますか。
アダム:どちらからもあるよ。子供の頃からホラー映画は見ているからね。俺もヨハンネスも、13歳、14歳くらいからホラー映画を借りて来てよく見ていたし、その音楽にも馴染みがある。ホラー映画を通じて生まれたサブカルチャーからインスパイアされることもあるし。最近ずっと言っているのは、トリビュレーションの音楽を恐ろしいものにしようとは思っていないということ。そして、俺はホラー映画を怖がるために見るわけではない。もちろん、結果的に怖がることはあるけれどね。俺がホラー映画に求めるのは別のことさ。個人的にはB級のホラーやストレンジなのも好きだけれど、それはトリビュレーションとは関係がない。トリビュレーションにインパクトを与えた数少ないホラー映画というのは、さっきも言った『ノスフェラトゥ』。2本ある『ノスフェラトゥ』どちらも好きだけれど、さっき挙げた方はサウンドトラックも大好きだし、映画の雰囲気も良い。これらの映画や、イタリアのホラー映画からは大きなインスピレーションを受けているよ。ルチオ・フルチとかね。ファビオ・フリッツィやゴブリンのサンドトラックからの影響も大きい。
ー ではダークウェイヴからの音楽的影響はありますか。
アダム:あるよ。
― 「イン・リメンブランス」のエレクトロニクス的なものは、ダークウェイヴからの影響なのでしょうか。
アダム:ダークウェイヴもあるし、「イン・リメンブランス」については、スウェーデンのアーティスト、Thåströmからの影響が大きい。彼はEbba Grönというパンク・バンドをやっていて、80年代にはImperietという、もっとニュー・ウェイヴなんかに影響を受けた、エレクトロニックっぽいのをやっていて、その後自分のバンド、Thåströmを始めたんだ。時にはただのポップをやったりロックをやったりしているのだけど、エレクトロニックな要素は非常に多い。彼は間違いなく闇からも影響を受けていて、ゴシック・アーティストと言われることはないけれど、とても暗い音楽をやっているんだ。この曲は彼から大きなインスピレーションを受けているよ。
― 日本公演では胸の谷間を描いて女性っぽいメイクをするという演出をやっていましたが、あれはどのようなインスピレーションなのでしょう。
アダム:それはおそらくヨナタンだと思う。彼はメイクも変え続けているからね。最新のものが、俺のお気に入りだよ(笑)。彼はアニメから大きなインスピレーションを受けているんだ。あれはおそらく修道女とかのイメージだったんじゃないかな。よくわからないけれど。俺たちは初期の頃からメイクをしていて、ライヴもたくさんやっているからね。メイクも変わって行くし、進化もしていく。200回もやっていると、飽きてくるということもあるし(笑)。
― トリビュレーション(=苦難)というバンド名にしたのは何故ですか。
アダム:正直に言うと、俺たちはまだ16歳で、もっと若かったかな、それでただクールなメタルっぽい単語を選んだだけなんだ(笑)。この単語を、えーと、どこでだったかな、あれは何と言う曲だっただろう、確かモービッド・エンジェルの『Altars of Madness』に入っている「Visions from the Dark Side」だったと思う。ただ、クールなサウンドの言葉を探していたんだ。モービッド・エンジェルが使っていて、サウンドもクールで、意味もわりとかっこよかったからね。それで選んだ。まあこのバンド名にしたせいか、俺たちも浮き沈みがあって、「苦難」に会うことがあった。呪いなのかもしれないよ(笑)。
― お気に入りのギタリストを教えてください。
アダム:個人的なお気に入りということであれば、アイアン・メイデンのエイドリアン・スミス。バンドの初期の頃は、モービッド・エンジェルのトレイ・アザトホースから大きなインスピレーションを受けていた。だけど、今の俺のスタイルで言うと、エイドリアンからは初期の頃も、そして今も大きな影響を受けているよ。
― あなたはトリビュレーションの前にハザードというバンドをやっていましたよね。このバンドがトリビュレーションになったと考えて良いのでしょうか。それともハザードとトリビュレーションは別のバンドなのでしょうか。
アダム:うーん、良い質問だね。実際どちらでもあるんだ。ハザードは13歳の時に始めて、ヨナタンはまだ12歳だった。とても昔の話だよ。俺とヨナタンとヨハンネスの3人がいて、他にオロフとヨナスがいた。彼らは今エンフォーサーをやっているよ。俺とヨハンネスは、ハザードをもっとエクストリームな方向に持って行きたくて、デス・メタルっぽい曲を書いていたんだ。だけど、彼らはそれが気に入らなくて、バンドを辞めてしまったんだ。クビにしたのではなくね。それで、心置きなくデス・メタルをやっていけることになったんだよ。ドラマーを見つけて、ヨハンネスがヴォーカルをとるようになって。そういう意味では同じバンドさだけれど、音楽性は大分違った。同じバンドであり、同じバンドではないというのはそういう意味さ(笑)。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
アダム:ワオ、それは難しいな。そうだな、アイアン・メイデンから1枚選ばないと。どれでも良いのだけれど、最近は『Somewhere in Time』を良く聴いているよ。だからそれにしよう。それから、困ったな、不意を突かれたよ(笑)。15年前なら簡単だったんだけど。前ならキッスとかね。今も聴いているけれど。『Hotter than Hell』、『Destroyer』とか。俺にとってとても重要な作品、トリビュレーションへの影響という意味だと、ディセクションの『Reinkaos』かな。あと1枚か。モービッド・エンジェルの『Covenant』。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
アダム:早くまた日本に行きたいよ(笑)。バンドとしてはまだ一度しか行っていないけれど、とても楽しかった。俺はその前にも一度行ったことがあったし、とても楽しみだったよ。2−3日しかいられなくて残念だった。ヨナタンは先に行って、富士山に行ったんだよ。俺は新幹線の中から見ただけ。とにかくまた日本に行きたいね。次回はもっと長く滞在したい。日本に行くことをずっと夢見ていたから。日本でプレイする時は、ぜひ見に来てくれ。
文 川嶋未来