ベテラン・デス・メタル・バンド、Abortedがニュー・アルバム『Vault of Horrors』をリリース!すべての曲がクラシック・ホラー映画に捧げられているという本作について、リーダーのスヴェン・ド・カルヴェに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『Vault of Horrors』がリリースになります。以前のアルバムと比べ、どのような点が進化、変化していると言えるでしょう。
スヴェン:激しさという点で、前作が9だとしたら、今回は12。ヴィジュアルや曲のインパクトにおいてもね。今回曲はコンパクトにまとめたけれど、とてもエクストリームでヘヴィなアルバムになっている。もちろんメロディがあって、ただのノイズの壁ではないよ。
ー 前作はギタリスト1人で制作されましたが、今回はセカンド・ギタリストとしてダニエルが加入していますね。
スヴェン:前作をレコーディングした時、しばらくツアーができないことは明白だった。パンデミックのせいでね。当時ライヴではセカンド・ギタリストがいたのだけれど、彼はアルバムに関しては、何も書かなかった。だから、彼にはアルバムには関わってほしくなかったんだ。何の関係もないからね。ドラムのケンがすべて書いていたんだ。パンデミックが終わって、またツアーができるということになると、セカンド・ギタリストが必要になって、それでダニエルに入ってもらったんだ。彼は半分の曲を書いてくれて、とても助かったよ。特にケンはね。ライヴは常にギタリスト2人でやってきた。曲がとても複雑だから。
ー ダニエルはアイスランド出身ですよね。どのようにして彼を見つけたのですか。
スヴェン:実は、彼は以前にバンドのオーディションを受けたことがあるんだ。確か『Retrogore』の前だったかな。あの時は、イアンがドラムの友達で、以前に2人は一緒にバンドもやっていたことがあったから、イアンに決まったのだけど。ダニエルも素晴らしかったのだけれど、イアンはすでに個人的なつながりがあったからね。今回ギタリストを探している時に、ダニエルから連絡があったんだ。彼のバンドはうまく行っていなかったようで、「やあ、君たちは前回のアルバムをギタリスト1人で作ったみたいだね」って、デモが送られてきた。それが超素晴らしくて。俺もちょうど頭の片隅で、「あの時のオーディションで素晴らしいギタリストがいたけれど、彼は誰だっけ。また探さなくては」って思っていたんだよ。
ー 今回10曲すべてにゲスト・ヴォーカリストが参加していますね。参加者はどのように決めたのですか。
スヴェン:みんな友達で、CryptopsyのマットやDespised Iconのアレックス、Fleshgod Apocalypseのフランチェスコなんかとは長いつきあいなんだ。一方で、最近知り合った人たちもいる。Corcosaのジョニーとか、Shadow of Intentのベンとかね。みんな最高のヴォーカリストたちで、しかもみんな違ったスタイルだから、すでに違いのあるそれぞれの曲にさらに違いを与えてくれたと思う。
ー 全曲にゲストを迎えようと思ったのは何故ですか。
スヴェン:これはアンソロジーみたいなレコードだと思っているんだ。一つの映画の中に複数のストーリーが入っている、ホラー映画のアンソロジーみたいなやつ。『Vault of Horrors』は、それぞれの曲がそれぞれ別の映画についてで、つまり一つ一つが違ったストーリーを持っている。それぞれの曲、ストーリーがそれぞれのアイデンティティを持っていて、そこにさらに違ったシンガーが参加することで、より興味深いものにできると思ったのさ。レベルアップすると言うのかな。
ー Spencer Creaghanがオーケストレーション担当としてクレジットされています。
スヴェン:彼はカナダの作曲家で、主にホラー映画やテレビのサウンドトラックを作っている人物。プロモーション担当が紹介してくれてね。曲に映画的、ドラマチックなサウンドを付け加えてくれる人を探していて、SpencerはすでにCarnifexとも仕事をしていたということで、紹介された。最初にコンタクトした時、「Dimmu BorgirやCarnifexではなく、ホラー映画みたいなサウンドが欲しい」と伝えたんだ。彼はすぐに理解してくれたようで、Carnifexとはまったく違ったものにしてくれたよ。彼は俺たちがテーマとしたそれぞれの映画のサウンドトラックがどんなサウンドを使っているかを研究して、それを曲にどうマッチさせられるか、うまく考えてくれたよ。
ー アルバムのアートワークについても説明してもらえますか。
スヴェン:アーティストのダンには、俺が別にやっているCoffin Feederでも描いてもらったことがある。通常はお互いアイデアを出し合ったところで彼がスケッチをして、そこから詰めていくという感じ。今回のアイデアは、ただ映画についての参照ではなく、デス・メタルとホラー映画のマニアと言うものだったんだ。よく見ると、ホラー映画だけでなく、メタルについての参照がたくさんある。例えば、ビデオデッキの時計は11時58分。つまり「2 Minutes to Midnight」(笑)。右にいる死体はCannibal Corpseの『Vile』にインスパイアされたもの。DismemberやCarcassとか、俺たちが大好きなバンドのカセットやLPもたくさん描き込まれているよ。これらのアイデアは、ダンが出したものもある。俺たちはたくさんの共通の趣味があるんだ。彼はとてもクリエイティヴで、いつもアイデアを出し合うのだけど、彼はたくさんの隠れキャラを思いついてね。一緒に考えていく中で、とても自然にたくさんのアイデアが出てきたのさ。
ー 今回取り上げた10本のホラー映画は、あなたのトップ10ということでしょうか。
スヴェン:もちろんどれもお気に入りではあるけれど、半分は名作、もう半分はもう少々マイナーなものという基準で選んだんだ。5本は言うまでもなく誰でも知っているもので、残り5本は、もしこの曲や内容が気に入ったのなら、ぜひ映画の方もチェックしてみて欲しいという感じでね。
ー 今回はいつものKristian “Kohle” Kohlmannslehnerではなく、Dave Oteroがプロデュースをしています。
スヴェン:Kristianとは長い間一緒にやって来て、同じサウンドが続いてしまったように感じたから、変化の時だと思ってね。さっきも言ったように、レベル9ではなく12のサウンドが欲しかったから。それでDaveが最近やったArchispireやCattle Decapitationを聴いて、彼しかいないと思ったんだ。彼はどうすればヘヴィになるかを知っているし、同時にテクニカルなリフもはっきりと聴き取れるようにしてくれる。それに、こういう種類の音楽の大ファンでもあるので、基本的に俺たちを初期から気に入ってくれていたようだし。どういうサウンドにするべきか、はっきりとしたヴィジョンを持っているんだ。
ー 今作からCentury Mediaを離れ、Nuclear Blast所属となりました。
スヴェン:これもやはり15年同じレーベルでやって来て、契約も終了したので、新しいことをやってみようということさ。Nuclear Blastは、こういうスタイルの音楽の世界では大きなレーベルだし、所属しているバンドもよく知っているし、大好き。Century Mediaには一切問題がなかったし、今でも関係は良好だけれど、15年も一緒にやったからね。何か違ったことをやる時だったんだ。
ー お気に入りのホラーを3本教えてください。
スヴェン:そうだな、『エルム街の悪夢3 惨劇の館』。それから『死霊のはらわた』。もう1本は『遊星からの物体X』か『ザ・フライ』。『ザ・フライ』にしよう。
ー やはり80年代くらいまでのホラーがお好きですか。最近のCGはとてもよくできていますが、そのせいでかつてのマジックが失われたようにも思います。
スヴェン:まあ、初めてあれらの映画を見た時のノスタルジアのようなものもあるからね。それに当時の作品には、多くのオリジナリティがあっただろ。最近は、何か一つ映画がヒットすると、しばらく同じようなものが続く。80年代にはたくさんのクレイジーなアイデアがあったと思うんだ。それから、最近は象徴的な悪役がいないよね。あの頃はフレディ、ジェイソン、チャッキー、マイケル・マイヤーとたくさんいた。最近はリメイクばかり。CGは確かに色々なことができるけれど、やはり見るとCGだとわかってしまう。時に出来の悪い人形よりも、リアルに見えないことすらあるからね。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
スヴェン:ニュー・アルバムが出て、また日本に行けるといいな。しばらく行けていないからね。日本が大好きなんだ。いつ行っても素晴らしい。アルバムを気に入ってくれるといいな。それからアートワークの隠れキャラを探してみてくれ。たくさんあるよ。
文 川嶋未来