昨年のライヴを収録した『ライヴ・イン・ジャパン2018』も大好評のライオットが、再び日本にやってきた。マーク・リアリの遺志を継ぎ、八面六臂の活躍を続ける彼らだが、今回の来日ではアコースティック・セットという意外な面も披露。現在バンドの舵取りをしているベーシストのドン・ヴァン・スタヴァンは、ライオットに加入する以前、スレイヤーという伝説的なパワー・メタル・バンドでプレイしていた。アラフォー以上のメタル・ファンであれば、80年代当時輸入レコード屋で、S.A.スレイヤーというバンドのアルバムを見かけた記憶があるかもしれない。あのスレイヤーと同名であったため、「S.A.」、すなわち出身地のサン・アントニオの頭文字をバンドにつけなくてはいけなくなってしまったS.A.スレイヤーであるが、このバンドの出身で後に大成したのはドン・ヴァン・スタヴァンだけではない。ドラマーはデイヴ・マクレイン。そう、マシーン・ヘッドのドラマーとして名を馳せ、現在はセイクレッド・ライクに出戻っているあのデイヴだ。彼はスレイヤーののち、マーク・リアリのソロ・プロジェクト及びナリタ名義になるまでは、ドンと行動を共にしていた。ギタリストのロン・ジャーゾンベクについても、多くの説明は不要だろう。後にウォッチタワーやスパスティック・インクなどで活躍する凄腕ギタリストだ。S.A.スレイヤーはごく最初期のパワー・メタル・バンドの1つであり、ドンが目指したそのスタイルは、マーク・リアリと出会うことで、『Thundersteel』として結実したと言える。そんな伝説的なバンドであるS.A.スレイヤーであるが、当時CDはブートでしかリリースされておらず、14年にやっとオフィシャルCDが出たものの、これもすでに入手困難という残念な状況にある。今回はそのS.A.スレイヤーにスポットを当ててみたい。USパワー・メタルの先駆者であるドン・ヴァン・スタヴァンに、どのようにしてあの革新的スタイルたどりついたのかを聞いてみようと待っていると、彼は偶然にもL.A.のスレイヤーとS.A.スレイヤーが84年にテキサスで一緒にプレイしたときのフライヤ―をプリントしたTシャツを着て現れた。
― このインタビューでは、ちょうどスレイヤーの話を聞きたいと思っていました。
ドン:心を読んでいたのさ(笑)。
― 今回はスレイヤーのことを中心に、あなたの音楽的バックグラウンドをお伺いしたいと思います。
ドン:そうなると一日がかりになるよ(笑)。
― そもそもの音楽との出会いはどのようなものだったのですか。
ドン:親父が音楽好きでね。レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ドゥービー・ブラザーズなどをよく聴いていたんだ。親父は楽器屋で働いていたから、俺もお店に行って音楽をかけて、ギターで遊んだりしていたんだよ。俺がとても小さい頃、親父がクリスマスにギターを買ってくれてね。それで「Smoke on the Water」なんかを弾いていた。親父が聴かせてくれた中で、俺に最も大きな影響を与えたレコードは、『メイド・イン・ジャパン』だった。ディープ・パープルのね。俺はリッチー・ブラックモアが大好きでさ。今はベースを弾いているけれど、もともとはギターから始めたんだ。俺もディープ・パープルやレッド・ツェッペリンが大好きになって、やがてもっと激しいバンドを聴くようになっていった。ブラック・サバスとか、ジューダス・プリースト、シン・リジィとか。このあたりはディープ・パープルと並んで、俺に大きな影響を与えたバンドたちさ。初期のアイアン・メイデンも。クラシック・ロックから聴き始めて、NWOBHMへと進んで行ったんだ。
― スレイヤーがあなたの最初のバンドだったのでしょうか。
ドン:テキサスでスレイヤーを始める前に、カバーバンドはやっていたけどね。NWOBHMとか、まだアイアン・メイデンなんて誰も知らないころの話だよ。のちにスレイヤーのメンバーになるやつらとね。マシーン・ヘッドでもプレイしてたデイヴ・マクレインとか。彼は今セイクレッド・ライクにいるけれど。スレイヤーは俺にとって最初のプロフェッショナルなバンドだったと言える。俺とデイヴはいつも良いチームで、2人のギタリストもエンジェルウィッチとか、クレイジーな曲を演奏したいという同じヴィジョンを共有していた。スレイヤーはそういうバンドから影響を受けていたんだ。ライオットからも影響を受けていたよ。ライオットのカバーもやっていた。やがてオリジナルの曲も書くようになっていって、レコード・ディールも得た。それで『Prepare to Die』と『Go for the Throat』という2枚のレコードも出した。最初のレコード『Prepare to Die』を作り終わったころかな、電話がかかってきてね。「LAにもスレイヤーというバンドがいる」と。俺たちの方が先だって言ったんだけどさ、彼らはメタル・ブレイドと契約をしていると。決してバンド同士でもめたわけじゃないよ。あくまでビジネス上の話さ。(Tシャツを示して)こうやって一緒にライヴもやったわけだし。「Slayer vs Slayer」なんていうタイトルにしたのもジョークさ。当時俺たちも彼らもただのキッズだったからね。一緒にライヴをやって、「同じ名前だね」なんて話していたのだけど、マネージャーは「君らはスレイヤーという名前は使えないぞ」なんていう調子だった。スレイヤーのライヴ、スペシャル・ゲストもスレイヤー、なんていう具合でさ。俺たちはパワー・メタルをプレイして、彼らはヴォーーって、彼らのスタイルでプレイしていて。面白かったしクールだった。バンド同士の喧嘩なんて一切なかったよ。その後マーク(リアリ)がニューヨークからやってきてね。スレイヤーに混じってライオットの曲をプレイしたり。それで俺はマークのソロ・プロジェクト、そしてナリタに参加をして、「Thundersteel」を含むいろんな曲を録音した。それでスレイヤーを抜けてしまったわけだけど。これがそのライヴのTシャツだよ(笑)。
― LAのスレイヤーが実際に訴えて来たという話も聞いたことがあるのですが。
ドン:いやいや、そんなことはなかったよ。マネジメントは怒ってたけどね。当時(メタル・ブレイドの)ブライアン・スレイゲルはスレイヤーとか色々なバンドとサインしていてね。バンドはとてもフレンドリーだった。名前のことなど気にしていない感じで。そもそも音楽のスタイルが全然違ったからね。俺のスレイヤーはパワー・メタルで、ハイトーン・ヴォーカルで多少テクニカルだったけど、彼らはもっとハードだったから。
― 現在あなたのスレイヤーはパワー・メタルやスピード・メタルにカテゴライズされていますが、82年当時はまだパワー・メタルという言葉自体存在していなかったと思います。バンド結成時は一体どのようなスタイルのバンドをやろうと考えていたのでしょう。
ドン:俺たちはただジューダス・プリーストやアイアン・メイデンといった影響を受けたバンドみたいな音を出したいと思っていただけさ。ジューダス・プリーストみたいな強烈なハイトーン・ヴォーカルのね。確かに当時までパワー・メタルという言葉もなかったし、俺たちはただアグレッシヴな音楽をやりたかっただけ。アグレッシヴだけれども、ハイトーンで素晴らしいメロディを持ったヴォーカルでやりたかった。スラッシュみたいに何を歌っているのかわからないものではなく、音楽的なことをね。俺たちはライオットやサクソンから影響を受けていたから。彼らもヘヴィだったけれども、素晴らしいサウンドを持っていただろ。今ではライオットのような音楽がパワー・メタルと呼ばれているけど、俺たちはその先駆者だったのさ。マークがやってきて、ライオットになって、今のパワー・メタルをプレイし始めたわけだから。
― スレイヤーからインスピレーションを受けて、マークはライオットをスピードアップさせていったということですね。
ドン:マークはスレイヤーのアグレッシヴさを見て、リハーサルにやってくるようになった。ライオットではツーバスは使っていなかったからね。サンディやピーターのスタイルは、もっとロックに根ざしたものだったし、二代目のヴォーカリストの時代はサザン・ロックっぽかったしね。それでリハーサルを重ねて行くうちに、マークも俺たちから影響を受けるようになったんだ。俺たちのサウンドを気にいっていたし、当時アイアン・メイデンやジューダス・プリーストといったバンドが非常にビッグになっていたから、サウンドをもっとアグレッシヴな方向へと変えようとしていたのさ。『Fire Down Under』にツーバスを足して速くてヘヴィにしたかったんだと思う。そうやって『Thundersteel』ができたんだ。これがマークのヴィジョンだったわけだけど、基本的には両者のヴィジョンを融合したというのかな。マークの持っていたメロディのあるロックンロールのスタイルと、俺のアグレッシヴなリフが融合したものが『Thundersteel』というわけさ。マークからの影響は大きいよ。何しろバンドに入る前から俺はマーク・リアリのファンだったわけだからね。一緒に曲を書いて行く中で、彼は良い曲を書くにはどうすれば良いか、色々と教えてくれた。今もその通りに曲を書いているよ。確かに俺たちはアグレッシヴでファストだけど、良いメロディというものは失いたくない。みんなが口ずさめるようなメロディ。「Shine on〜」という具合にね。今でもマークの教えを守っているよ。『Thundersteel』はライオットにとって重要なポイントとなったアルバムだね。パワー・メタルのムーブメントを起こして色々なバンドに影響を与えたのだから。ハロウィンやハンマーフォールとか。俺たちにとって変化をするのにちょうど良いタイミングだったのさ。ライオットにとって、『Fire Down Under』と『Thundersteel』の2枚が重要な作品だったと言えるね。ライオットは何度もスタイルを変えているから(笑)。シンガーも変わって、スタイルも変わって(笑)。
― 当時、親近感を感じるアメリカパワー・メタル・バンドはいましたか。
ドン:うーん、当時のアメリカはロック・バンドやいわゆるヘヴィメタル・バンドばかりだったからね。フィフス・エンジェルやサンクチュアリみたいなバンドもいたけれど、基本的にはY&Tとか、あとはヘアメタルのバンドばかりだった。パワー・メタルのバンドは少なかったよ。
― 現在スレイヤーのCDは入手が容易ではありません。再発の予定はありますか。再結成の話などはないのでしょうか。
ドン:色々な人と話はしているよ。実際再発されたこともあったのだけど。ハイローラー・レコードも『Prepare to Die』を再発したりとか。リユニオンについては、スレイヤーのヴォーカル、スティーヴ・クーパーがだいぶ前に亡くなってしまっているからね。やるとしたら誰か別のヴォーカリストを探さないといけない。例えばジェイソン・マックマスターとか。ウォッチタワーやデンジャラス・トイズのメンバーだったジェイソンだよ。他のメンバーはやろうと思えばやれるんだ。Keep it Trueのオリヴァーや、Bang Your Headから話はあるんだけどね。デイヴはマシーン・ヘッドをやめてセイクレッド・ライクにいるし、ギタリスト2人も声をかけてリハーサルもしなくてはいけないから、ある程度時間はかかるだろうけど、話はしているよ。俺は参加できなかったけど、テキサスのミュージシャンが色々と参加しているサウス・テキサス・メタル・リージョンがKeep It Trueでプレイしたし。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ドン:ディープ・パープルの『Machine Head』、もしくは『Made in Japan』。スタジオ盤としては『Machine Head』だけど、『Made in Japan』の「Highway Star」で観客が熱狂しているのを聴くと鳥肌が立つからね。このどちらかだけど、やっぱり1位は『Made in Japan』かな。次点はサバスだね。俺のお気に入りのサバスのアルバムは、意外かもしれないけど『Sabotage』。普通は『Vol.4』あたりをあげるものかもしれないけど、「Symptom of the Universe」や「Megalomania」、「Hole in the Sky」あたりは俺に訴えかけるものがあるんだ。このアルバムについてはまだまだ色々と語れるけど、とりあえず第3位に行こう。シン・リジィやアイアン・メイデンもいるけれど、やはりジューダス・プリースト。俺は初期の作品が好きでね。『Sin after Sin』、『Sad Wings of Destiny』、『Hellbent for Leather(原題:Killing Machine)』、『Stained Class』。一枚となれば『Stained Class』かな。「Exciter」とかの名曲が入っているからね。その後僅差でシン・リジィの『Live and Dangerous』、アイアン・メイデンの『Killers』あたりかな(笑)。
ー シン・リジィの名前をよく挙げていますが、やはり「Thunder and Lightning」あたりのスピード感からの影響は大きいのですか。
ドン:フィル・リノット(とドンは発音)は俺のアイドルなんだ。彼は俺と同じように、ベーシストでありながらバンドのリーダーで、ほとんどの曲を書いていた。俺もライオットでマネジメントもやって、ベースを弾いていて、曲もほとんど書いている。それから彼の音楽に対する情熱は素晴らしいよ。彼はまるで詩人だっただろ。曲を書いて歌っていたけど、まるで詩人のように感情を込めていた。それに彼はタフガイだったし。アイルランドの黒人だからね。それに彼の音楽もとてもタフだった。バンドのアティテュードも大好きだったけど、もちろん曲もいいだろ。さっき君が言っていた「Thunder and Lightning」や「Warriors」、「Emerald」とかは名曲さ。
― ありがとうございました。
ドン:もう終わりなのか!(笑)
― すみません、持ち時間がここまでなものでして。
取材・文 川嶋未来
写真クレジット:野田雅之
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<ライヴ映像作品>
ライオット『ライヴ・イン・ジャパン2018』
【100セット直筆サインカード付き初回限定盤Blu-ray+2枚組CD】 ¥9,000+税
【100セット直筆サインカード付き初回限定盤DVD+2枚組CD】 ¥9,000+税
【初回限定盤Blu-ray+2枚組CD】 ¥8,000+税
【初回限定盤DVD+2枚組CD】 ¥8,000+税
【通常盤CD】 ¥5,500+税
【日本盤限定ボーナス映像収録/日本語解説書封入】
【Blu-rayまたはDVD収録予定内容】
〈2018年03月11日公演〉
- アーマー・オブ・ライト
- ライド・ハード・リヴ・フリー
- オン・ユア・ニーズ
- メタル・ソルジャーズ
- フォール・フロム・ザ・スカイ
- ウィングス・アー・フォー・エンジェルス
- ランド・オブ・ザ・ライジング・サン
- テイク・ミー・バック
- メサイア
- エンジェル・アイズ
- メタル・ウォリアー
- サンダースティール
- ファイト・オア・フォール
- サイン・オブ・ザ・クリムゾン・ストーム
- フライト・オブ・ザ・ウォリアー
- オン・ウィングス・オブ・イーグルス
- ジョニーズ・バック
- ブラッドストリーツ
- ラン・フォー・ユア・ライフ
- ベリード・アライヴ
- ロード・レイシング
- ソーズ・アンド・テキーラ
- ウォリアー (feat. 山下昌良 / LOUDNESS)
《日本盤限定ボーナス映像》
〈2018年03月10日公演〉
- スティル・ユア・マン
- ブラック・レザー・アンド・グリッタリング・スティール
【2枚組CD収録予定曲】
〈2018年03月11日公演〉
[CD1]- アーマー・オブ・ライト
- ライド・ハード・リヴ・フリー
- オン・ユア・ニーズ
- メタル・ソルジャーズ
- フォール・フロム・ザ・スカイ
- ウィングス・アー・フォー・エンジェルス
- ランド・オブ・ザ・ライジング・サン
- テイク・ミー・バック
- メサイア
- エンジェル・アイズ
- メタル・ウォリアー
[CD2]
- サンダースティール
- ファイト・オア・フォール
- サイン・オブ・ザ・クリムゾン・ストーム
- フライト・オブ・ザ・ウォリアー
- オン・ウィングス・オブ・イーグルス
- ジョニーズ・バック
- ブラッドストリーツ
- ラン・フォー・ユア・ライフ
- ベリード・アライヴ
- ロード・レイシング
- ソーズ・アンド・テキーラ
- ウォリアー (feat. 山下昌良 / LOUDNESS)
【メンバー】
トッド・マイケル・ホール(ヴォーカル)
ドン・ヴァン・スタヴァン(ベース)
マイク・フリンツ(ギター)
ニック・リー(ギター)
フランク・ギルクリスト(ドラムス)
http://wardrecords.com/page/special/riot_jp2018/
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<スタジオ・アルバム>
ライオット『アーマー・オブ・ライト』
【初回限定盤CD+ライヴCD】 ¥3,000+税
【通常盤CD】 ¥2,500+税
【日本語解説封入/歌詞対訳付き】
【収録曲】
- ヴィクトリー
- エンド・オブ・ザ・ワールド
- メサイア
- エンジェルズ・サンダー, デヴィルズ・レイン
- バーン・ザ・デイライト
- ハート・オブ・ア・ライオン
- アーマー・オブ・ライト
- セット・ザ・ワールド・アライト
- サン・アントニオ
- コウト・イン・ザ・ウィッチズ・アイ
- レディー・トゥ・シャイン
- レイニング・ファイア
- アンビリーフ ※ボーナストラック
- サンダースティール (2018 ヴァージョン)
【ボーナス・ライヴCD収録曲】
《キープ・イット・トゥルー・フェスティヴァル 2015》
- ライド・ハード・リヴ・フリー
- ファイト・オア・フォール
- オン・ユア・ニーズ
- ジョニーズ・バック
- メタル・ウォリアー
- ウィングス・アー・フォー・エンジェルス
- サイン・オブ・ザ・クリムゾン・ストーム
- ブラッドストリーツ
- テイク・ミー・バック
- ウォリアー
- ロード・レイシング
- ソーズ・アンド・テキーラ
- サンダースティール
【メンバー】
トッド・マイケル・ホール(ヴォーカル)
ドン・ヴァン・スタヴァン(ベース)
マイク・フリンツ(ギター)
ニック・リー(ギター)
フランク・ギルクライスト(ドラムス)