ブラインド・ガーディアンがニュー・アルバム『レガシー・オブ・ザ・ダーク・ランズ』をリリースする。ただし、今回はブラインド・ガーディアン・トワイライト・オーケストラ名義。オーケストラをフィーチャしたメタルではなく、純粋なクラシック、あるいは映画のサウンドトラックをバックにハンズィ・キアシュが歌い上げるという、ある種ブラインド・ガーディアンのクラシカル路線を極めつくした内容になっている。構想から完成まで20年要したというだけあり、そのスケールの大きさは、壮大などというありきたりな言葉では表しつくせない。クラシカルなアルバムを作ろうと思ったきっかけ、そしていつもと異なる作品を製作する苦労。ハンズィにいろいろと語ってもらった。
ー ブラインド・ガーディアン・トワイライト・オーケストラ名義でのアルバム、『レガシー・オブ・ザ・ダーク・ランズ』がリリースになります。このようなヘヴィメタルではない、クラシック的な作品を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう。
ハンズィ:そうだな、90年代の半ば、『Nightfall in Middle-Earth』を作っていた頃にまで話はさかのぼる。このアルバムの製作中に、突然ヘヴィメタルのギターを必要としないクラシックの曲を思いついたんだよ。その後もそういう曲が頭に浮かぶことがあったので、そこから10年間、曲を書き溜めていったんだ。もちろんその間、ブラインド・ガーディアンそのものとしてもクラシカルな方向へと傾倒していったというのもあったけど。07年か08年頃、この方向のフル・アルバムを作るのに十分なマテリアルが集まったと感じたんだ。それから結局アルバムが完成するまでに、また10年かかったわけだけど(笑)。アレンジメントや実際のレコーディングの作業などがあってね。
― 曲作りに10年、アルバム製作に10年かかったということですか。
ハンズィ:曲作りということで言えば、10年以上かかったと言えるよ。07年、08年から17年くらいまでも、この特別なアルバムに向けての曲作りは続けていたからね。ほとんどの曲の基礎は07年ころには出来上がっていたけれど。今回アルバムには収録しなかった曲もあるんだよ。まあ、このアルバムで聞ける曲のほとんどは、10年かけて書かれ、さらにアルバムの製作に10年かかったということ。製作の10年には、この作品を演奏するのにパーフェクトなオーケストラを探すという作業も含まれていた。いくつかの他のヨーロッパのオーケストラも試してみたんだ。だけど、どれもピンとこなくてね。まずは、自分たちと近いマインドセットを持つオーケストラを探した。それで08年ころかな、『At the Edge of Time』をレコーディングする際、「Sacred Worlds」はオーケストラが必要だったので、プラハに行ったんだ。そのときにも『Dark Lands』用のテストをやって、確か「War Feeds War」だったと思うのだけど、プラハ・フィルムハーモニック・オーケストラにプレイしてもらったんだよ。そしたら素晴らしい演奏でね。ブッとんだ。それで、彼らこそがこのプロジェクトに俺たちが求めていたオーケストラだと確信したのさ。
― 20年に渡る作業の中で、一番大変だったのはどの部分でしょう。
ハンズィ:やっぱりオーケストレーションかな。基本的にはアンドレがオーケストラのアレンジメントを手がけていたのだけど、最近はディジタル・レコーディングの技術も進歩してきているからね。たくさんのトラックを使うこともできるし、前もってオーケストラ・ライブラリーを使って実験してみることができた。だけど、俺もアンドレも、クラシックの教育を受けているわけではないから、あくまで自分たちの勘に頼らなくてはいけなかった。ここはヴァイオリンだと思ってプログラムしてみると、実にうまくいくこともあったけど、例えばフルートの予定で書いたメロディが、実はフルートでは出ない音域だったなんていうこともあってさ。それで楽器を変えなくちゃいけなかったり。でも、なるべくもともとの構想からは離れたくないというのもあった。ブラインド・ガーディアンとしてやっていることから、遠く離れたくはなかったからね。なのでオーケストレーションにはとても時間がかかったし、クラシック音楽について、俺たちの(音楽的)言語を理解してくれる人たちを見つけるのにも、とても時間がかかった。オーケストラとの仕事にしても、いつもとは違った人と話し、作業しなくてはいけなかったからね。演奏した結果、ピンと来ないということもしょっちゅうだった。プラハのオーケストラと出会ったころ、マティアス・ウルマーとの出会いもあった。彼はそれ以来、ブラインド・ガーディアンのキーボードのオーケストレーションなどをやってくれているのだけど、彼は俺やアンドレのスピリットを理解してくれるんだ。彼はスコアを書いてくれるだけでなく、指揮者としてオーケストラと、彼らが理解できる言語でコミュニケーションをしてくれる。俺たちの定義する音楽は、やはりロックやヘヴィメタルと強いつながりを持っているから、クラシックの指揮者がそれを理解してくれるとは限らないのさ。例えばダイナミクスを語るにしても、俺たちの定義の仕方と、クラシックの奏者たちのそれとは違うものだろ。生のオーケストラが一斉に演奏するとどんなサウンドになるのかについて、俺たちは専門家でもないから、俺たちが信用している人物に指揮をお願いする必要があった。ものすごく長い話を思いっきりはしょって言うと(笑)、俺たちの作品を正しく演奏してもらえる人物を探すのは大変だったということ。もちろんレコーディング自体も時間がかかったけどね。曲を書いてプラハに行って、まあ、2日で2−3曲録るというなかなかのペースではあったのだけど、その後が大変だった。非常にプロフェッショナルなレコーディングであれば、今誰でもやることではあるけど、ファイルをきれいにする作業が必要だから。これは本当に時間がかかる作業さ。
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「ポイント・オブ・ノー・リターン」OFFICIAL LYRIC VIDEO
― まずはMIDIでプリプロをやったのですね。
ハンズィ:そう、少なくとも2回プログラムしたよ(笑)。基本的にはアンドレがプログラムしたんだ。その後マティアスが参加するようになって、追加のプログラミングをやってくれた。それをオーケストラの指揮者に送ってね。彼らが自分たちの奏者の数に合うように調整してくれたんだ。
ー ではレコーディングをする前に、曲の仕上がりがどのようになるのかは見えていたということですか。
ハンズィ:そういうこと。アンドレが打ち込んだ基本的なアレンジメント、いや、基本的じゃないな、とてもリッチなプログラムを聴けば、最終的にどんな曲になるのかすぐにわかるよ。もちろんダイナミクスが違ったり、楽器が変わっていたりはするけどね。
― 最終的な仕上がりについてはいかがですか。当初の構想通りに仕上がったと言えるでしょうか。
ハンズィ:言えるよ。オーケストラを実際にレコーディングする前の構想が、ほぼ100%実現したと思う。頭に描いていたものに可能な限り近づけたと思うので、95%か96%構想通りと言えると思う。
― お二人ともクラシックの作曲やオーケストレーションなど、一切勉強していないということなのですね。
ハンズィ:俺もアンドレもしていない。そういうことを勉強してしまうと、純粋さを失ってしまうというのかな。俺たちの音楽に対するイデオロギーというのは、それがクラシックであったとしても、音楽にルールはほとんどないということ。もちろん俺たちはハーモニーの知識はあるし、それをどう使えばいいのかも知っている。だけど、譜面の書き方などは知らない。読める音符もあるけどね。
― さすがにフルのオーケストラ用の曲を書くというのは大変だったのではないですか。
ハンズィ:いや、そんなことはなかったよ。ブラインド・ガーディアンにおいても、本能的にそっちの方向へと向かっていたしね。それでスキルも向上していたし。フリースタイルというのが俺たちの持ち味で、クラシックを作る場合でも例外ではないのさ。もちろん、例えばヴォーカルのラインに関して、メジャーとマイナーがぶつかってしまってその音は使えず、修正しないといけないというようなことはあったし、楽器についても音を変えなくてはいけないというケースもあった。ブラインド・ガーディアンでも長いことやってきたから、ほんの少しで済んだけどね。ダイナミクスでも多少あったよ。ダイナミクスを変更されるというはちょっと苦痛だったな。俺がとても激しい演奏を意図していたところをソフトにされてしまうと、俺のヴォーカルのアプローチも変えないといけなかった。レンジによってね。高音のスクリームのような音域だと、落ち着いて歌うのは容易ではないから。そういうときはとても注意をして、時間もかけて取り組んだよ。結果うまく行ったと思う。
― このアルバムの主なインスピレーションはクラシックなのでしょうか。それとも映画のサウンドトラックでしょうか。
ハンズィ:俺としてはクラシックというよりサウンドトラック風だと思ってる。クラシックも好きだし、ドイツ人だから大作曲家についての知識もある。グリーグやチャイコフスキーがお気に入りだよ。だけど、クラシックよりもファンタジックなサウンドトラックのほうをよく聴くね。このオーケストラのプロジェクトに関しても、クラシックというよりも、『スターウォーズ』とか、ハンス・ツィマーとか作品のようなものが頭にあった。もちろんこれらのサウンドトラックと違って、俺たちの作品には映画は存在していない。代わりに俺が歌を歌ったわけだけど、それはかなりメタル・サイドのものだよね。この部分が、俺たちが冒険したところさ。
ー ハンス・ツィマー以外にも、お気に入りのサウンドトラック・コンポーザーはいますか。
ハンズィ:それほど詳しいわけではないのだけど、ジョン・ウィリアムズはもちろん(笑)。ステュワート・コープランドの作品も大好き。ハワード・ショアももちろん。大好きだけど、作曲者が誰なのかは知らないサウンドトラックはたくさんあるよ。
― ヴォーカルのアプローチはいかがですか。ヘヴィメタル・バンドをバックにしたときとは、やはり違ったでしょうか。
ハンズィ:違ったね。曲を書いてスコアをプログラムしたときは、わりと簡単にヴォーカルのアプローチができた。だけど、実際のオーケストラでやってみると、ダイナミクスの幅が広くてね。その幅に声を対応させるのに時間がかかった。レコーディングの前にも十分時間をかけて準備をしたのだけど、いざスタジオに行き、ヘッドフォンでオーケストラに合わせて歌うというのはまったく違う作業だったよ。オーケストラは、なんと言うのかな、もっとライヴっぽい環境で演奏しているからね。プラハの大きなコンサートホールのステージで、マイクを100本か200本立てて、みんな一斉に演奏をしたんだ。だから、コンサートホールが持つアンビエンスなども全部そのまま録音されていて、それを取り去ることはできない。だから、俺の方がオーケストラに合わせるようにして歌わなくちゃいけなかった。俺だけオーケストラから完全に孤立して歌うわけだよ。これはバンドのレコーディングとはまったく違う。バンドとやるときは、どの楽器も自由に聴くことができるという、ある意味人工的な空間にいるわけだから。ところが今回オーケストラというのは、ヘヴィメタル・バンドとは違うオーガニックな存在だったからね。ヘヴィメタルのバンドで歌っているヴォーカリストとしては、当然声を歪ませる必要もあるけど、これはオーケストラにとっては馴染みのあることではない。その辺のバランスをとる必要もあったし、激しさの調節をする必要もあった。俺のルーツやもともとの意図を否定することなく、一方でオーケストラの雰囲気も壊すことないアプローチをしなくてはいけなかった。とても時間をかけて取り組んだよ。最初のころは、クラシック風とは言わないけど、とても注意深い、ロック・オペラっぽい歌い方から始めていったんだ。それからブラインド・ガーディアン・レベルの激しさまで持って行って、どのパートにどの歌い方がしっくりくるか探って行ったのさ。俺やアンドレ、プロデューサーのチャーリーが満足するこれだという歌い方を見つけるまでに、4−6ヶ月かかったよ。そういう意味で、とても難しかったと言える。だけど、次やるときは、もっと簡単にできると思う。実を言うと、またこういうアルバムを作るつもりなんだ。今回は初回だったから、可能な限り時間をかけたかったんだよ。今回アルバムに収録しなかった曲もあるしね。次やるときは、何に気をつけなければいけないか、もうすでにわかっているから、もっと素早く適応できるよ。今回がとても厳しいレッスンになったおかげで、新しい自分を発見することができたから。
― 次のアルバムはいつ頃を予定しているのですか。
ハンズィ:これを作るのにすごく長い時間をかけてしまったからね。なかなか次がいつというのは難しいのだけど(笑)。6−7年のうちには作りたいな。今回のアルバムをライヴでやりたいという構想もあって、これも間違いなく時間のかかる作業になるだろうし。ライヴは2年くらいのうちにやりたいね。ステージでは、ゲスト・ヴォーカリストを何人も呼んでやりたいとも考えている。ミュージカルみたいな感じになるように。
― この作品をステージで再現する予定があるのか、ちょうどお聞きしようと思っていました。フル・オーケストラが必要になりますが、どのような形式になるのでしょう。フェスが中心になるのか、それとも通常のツアーでやるのでしょうか。
ハンズィ:いろいろとアイデアは出し合っているのだけど、基本的にはフェスティヴァル中心になると思う。03年にやったブラインド・ガーディアン・フェスティヴァルをまたやろうとも考えている。ああいう環境でないと難しいからね。クラシックのオーケストラだけでやるから、通常のフェスティヴァルでというのは大変だよ。ブラインド・ガーディアン・フェステヴァルという形式でやれば、大きな会場も埋められるし、ファンにとって一生の思い出になるようなものにできると思うんだ。一方、クラシックの楽器でクラシカルな音楽をプレイするのだから、それほど大きくないクラシック用のホールで、最高の環境でやってみるという案も出ている。規模の小さいツアー、つまり1つの国で1つのコンサートホールでやってみるとかね。ただ、このやり方だともの凄く費用がかかるから、俺たちにとっては大きな冒険となる。今、いろいろと話し合っていて、一番良い方法を考えているところなんだ。
― バンド形態としてのブラインド・ガーディアンの今後の予定はいかがでしょう。
ハンズィ:もちろんクラシックばっかりやっていたわけではなくて、ブラインド・ガーディアンとしての新作用の曲も基本的に出来上がっているよ。20年の初めには製作にとりかかりたい。完成するには8−10ヶ月くらいかかるから、20年中には仕上げて、21年の初めにはリリースできればと思ってるよ。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください
ハンズィ:さっきサウンドトラックの話のときに言い忘れたのだけど、俺はミュージカルも大好きなんだよ。『ジーザス・クライスト・スーパー・スター』は最高だね。この作品からもとても影響を受けている。あとは、ジェネシスの『The Lamb Lies on Broadway』。3枚目は、クイーンズライクの『Operation: Mindcrime』だね。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ハンズィ:随分と待たせてしまったね。時間がかかったのは、ただクラシックの作品を作っていたからというだけでなく、さっきも言ったとおり、通常のブラインド・ガーディアンの曲も書いていたからなんだ。21年には日本に行けるチャンスがあるかもしれない。だから希望を捨てないでくれ。Love you.
文・取材 川嶋未来
写真クレジット Dirk Behlau
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11月22日発売予定
ブラインド・ガーディアン・トワイライト・オーケストラ『レガシー・オブ・ザ・ダーク・ランズ』
【100セット限定 ハンズィ・キアシュ/アンドレ・オルブリッヒ 直筆サインカード付きCD+インストゥルメンタルCD】 WRDZZ-930 / ¥4,500+税
【CD+インストゥルメンタルCD】 GQCS-90803〜4 / 4582546590710 / ¥3,200+税
【CD】 GQCS-90805 / 4582546590727 / ¥2,500+税
【日本語解説書封入/歌詞対訳付き】
【メンバー】
ハンズィ・キアシュ(ヴォーカル)
アンドレ・オルブリッヒ(オーケストラル・コンポジション)
【CD収録予定曲】
- 1618オーヴァーチュア
- ザ・ギャザリング
- ウォー・フィーズ・ウォー
- コメッツ・アンド・プロフェシーズ
- ダーク・クラウズ・ライジング
- ザ・リチュアル
- イン・ジ・アンダーワールド
- ア・シークレット・ソサイエティ
- ザ・グレイト・オーディール
- ベス
- イン・ザ・レッド・ドワーフズ・タワー
- イントゥ・ザ・バトル
- トリーズン
- ビトウィーン・ザ・レルムズ
- ポイント・オブ・ノー・リターン
- ザ・ホワイト・ホースマン
- ネフィリム
- トライアル・アンド・コロネーション
- ハーヴェスター・オブ・ソウルズ
- コンクエスト・イズ・オーヴァー
- ディス・ストーム
- ザ・グレイト・アサルト
- ビヨンド・ザ・ウォール
- ア・ニュー・ビギニング
【インストゥルメンタルCD収録曲】
- 1618オーヴァーチュア
- ウォー・フィーズ・ウォー
- ダーク・クラウズ・ライジング
- イン・ジ・アンダーワールド
- ザ・グレイト・オーディール
- イン・ザ・レッド・ドワーフズ・タワー
- トリーズン
- ポイント・オブ・ノー・リターン
- ネフィリム
- ハーヴェスター・オブ・ソウルズ
- ディス・ストーム
- ビヨンド・ザ・ウォール