チュニジア代表として“METAL WEEKEND 2019”に参戦したのがミラスだ。
2016年に“ラウド・パーク16”で日本初上陸、2018年のオーファンド・ランドとのジョイント・ツアー以来となる来日だが、シンガーのザヘル・ゾルガティは「クロサワ・アキラの国に来ることが出来て嬉しい!」と興奮を隠すことすらせず、日本愛を語ってくれた。
ー 日本で最もよく知られているチュニジア人は、おそらくカルタゴの名将ハンニバルでしょう。近年では小説や映画のせいで、ハンニバルというと殺人鬼のハンニバル・レクターが連想されるのが非常に残念ですが、彼はとても敬意を持たれています。
ハンニバル将軍はチュニジア人が誇りにしている人物だし、その名が日本にまで拡がっているのは嬉しいよ。ハンニバル・レクターは、俺は将軍とはまったく別のものと考えている。『羊たちの沈黙』は良い映画だね。
ー あとチュニジアといえば映画『スター・ウォーズ』のロケ地で有名ですね。
うん、タトゥイーン星のシーンのほとんどがチュニジアで撮影されたんだ。しかも撮影後、セットを解体しなかったから、映画で使われた住居がそのまま残っている。俺は2回行ったよ。ロケ地ではないけど、タタウィンという町もあるんだ。
ー 『スター・ウォーズ』のオビ・ワン・ケノービ役の候補に三船敏郎が挙がっていたそうなので、もし彼が受けていたら、ロケでチュニジアを訪れていたのでしょうね。
それが実現しなかったのは残念だね。もちろん俺はまだ生まれていなかったけど、世界のミフネが俺の母国を訪れてくれたら最高だったよ!
ー 三船敏郎の映画を初めて見たのは、どの作品ですか?
『七人の侍』だよ。黒澤明監督のモノクロで奥行きのある映像は、ひとつの芸術作品だった。十代の頃に見たけど、日本という国に憧れを持つには十分だったね。それからクロサワの作品は近所のレンタルDVDで借りられるものはすべて見た。『隠し砦の三悪人』はプリンセスをデコボココンビが守って、これも『スター・ウォーズ』の元ネタのひとつだと思ったよ。それからモノクロなのに、血が流れるとカラー以上に鮮明で、ハッとさせられる。えーと、タイトルは何だっけ?
ー …それは『椿三十郎』ですね?
それだ。クロサワの映画はどれも素晴らしいけど、日本語のタイトルを覚えるのが大変なんだ(笑)。俺が好きなのはサムライの時代を描いた作品が多いけど、ミラスで日本に来て、「なるほど!」と納得することが多かった。これから何度でも日本に来て、東京以外の都市でもライヴをやりたいね。そうして俺たち自身も日本について、より深く知りたいと考えている。
ー ぜひまた日本でライヴをやって下さい!
チュニジアと日本には、もうひとつ絆があるんだ。第二次世界大戦で日本が原爆投下されたとき、チュニジアはアメリカに正式に抗議した国のひとつだった。それ以来、両国は友好関係にあるんだ。これからも俺たちは音楽を通じて、この素晴らしい関係を続けていきたいと考えているよ。
文:山崎智之
写真:Takumi Nakajima