アントン・カバネンはバトル・ビースト〜ビースト・イン・ブラックでしばしば三浦建太郎の漫画『ベルセルク』を楽曲のモチーフにしてきた。さらに“METAL WEEKEND 2019”でのステージで1曲目にプレイされた「クライ・アウト・フォー・ア・ヒーロー」が武論尊&原哲夫の『北斗の拳』からインスパイアされた曲だったり、日本のカルチャーから多大な影響を受けてきたことで知られている。
そんなアントンの日本への傾倒ぶりを語ってもらおう。
ー 日本の漫画やアニメにはいつから興味を持ったのですか?
初めて好きになったアニメは4、5歳のときに見た『銀牙 -流れ星 銀-』だった。犬たちが命を賭けて戦う姿に感銘を受けたよ。まだ『銀牙』をテーマにした歌は書いたことがないけど、いつか書いてみたいね。あと子供の頃は『ムーミン』を見ていたけど、あれもアニメの部類に入るよね?フィンランドの原作を日本でアニメ化した作品だよ。それから成長するにつれ、『バブルガムクライシス』とか『アモンサーガ』とかを見て、こんな凄いものがあるのか、とショックだった。その後、ヘルシンキに引っ越したとき、近所の店でアニメの中古ビデオが大量に売られていたんで、思い切り買い占めたよ。その中に『北斗の拳』があったんだ。すごい衝撃を受けたよ。「YOUはSHOCK!」という主題歌もインパクトがあった(クリスタルキング「愛をとりもどせ!!」)。サイバーパンクっぽいアニメが好きだし、次のアルバムでは『電脳都市OEDO808』からインスパイアされた曲をレコーディングするかもね。
ー ちなみに実写映画版『ゴースト・イン・ザ・シェル』についてどう思いましたか?
もちろん原作の『攻殻機動隊』の方が好きだけど、頑張ったと思うね。俺は2000年以降に作られた映画やTVシリーズはほとんど見ないんだ。見ることはあるけど、結局1980年代や1990年代の、より生々しいものに戻っていくんだよ。ピカピカのCGで作られた2019年のリメイクよりも、オリジナルを見たいんだ。
ー 三浦建太郎の『ベルセルク』は現在も連載中ですよね。
『ベルセルク』は俺の中では1990年代の作品なんだよ(漫画の連載開始は1989年/初アニメ化は1997〜98年)。肉体と血の匂いがするし、ファンタジー的な要素も嘘臭くない。すごくリアルで哲学的な作品だから、時代を超えて愛されてきたんだ。
ー 実写映画版『北斗の拳』にフィンランド出身のプロレスラー、トニー・ホームが出演していましたが、彼はフィンランドで人気だったのですか?
実写版『北斗の拳』は見たけど正直、何度も見たいと思う出来ではなかった。トニー・ホームが出ていたのは気付かなかったよ。彼はフィンランドで有名だったけど、どちらかといえば“悪名高い”存在だった。国会議員でありながらナチ疑惑や同性愛者差別発言があったし、クレイジーなセレブリティという感じだったよ。俺は彼のファンではなかった。
ー 江戸川乱歩の小説もお好きと聞きましたが、どのようにして知ったのですか?
姉が短編集をくれたんだよ。戦争で四肢を失った夫の世話をする妻の話とか…。
ー その「芋虫」は、メタリカ「ONE」の元ネタになったダルトン・トランボの『ジョニーは戦場へ行った』より前に書かれた短編です。
うん、確かに似ていると思った。「芋虫」の方がエクストリームだけどね。それから「鏡地獄」「人間椅子」…「ミステリー小説だ」と言われて読んだけど、いわゆる“推理小説”とはまったく異なっていた。日本文学はもっと掘り下げなくてはならないと考えているんだ。ツアーとレコーディングの連続の生活だと、なかなか読書に時間を割けなくてね(溜息)。音楽の人生は、他の多くのことを犠牲にするということなんだ。シンジュクのロボット・レストランに行きたかったけど、時間がなかったり、予約でいっぱいになっていたりね。でも音楽をやってきたからこそ日本に来て、ライヴをやることが出来るんだし、文句を言うことは出来ないよ!
ー “METAL WEEKEND 2019”会場のZepp DiverCityの外には実物大のユニコーンガンダムの立像がありますが、『機動戦士ガンダム』シリーズを見たことはありますか?
会場の外にあるガンダムとは記念写真を撮ったよ。ガンダムは知っているけど、見たことはないんだ。理由があるわけではなくて、単に機会がなかったんだよ。姉の息子がロボット好きなんで、おもちゃのロボットを日本土産に買うつもりなんだ。ガンダムを買っていったら喜ばれるかもね。
ー ロシアは歴史的にフィンランドの植民地化を狙ってきましたが、日露戦争で日本が互角以上にロシアと戦ったことで、フィンランド国民が溜飲を下げた…というのは本当でしょうか?
うーん、当時のフィンランド人だったらそう思ったかもね。俺はロシア人の友達もいるし、日本人の友達もいる。どちらかに加勢することはないよ。でも日本が世界で一番好きな国のひとつであることは間違いない。もちろん日本のカルチャーは好きだけど、町がきれいで、食べ物も素晴らしいところも好きだ。ヘルシンキの俺が住んでいる近所に東京館という日本食の食料品店があって、よく買い物をするんだ。お米や緑茶を買っているよ。
文:山崎智之
写真:Takumi Nakajima