2019年10月、アメリカン・ハード・ロックのベテラン・バンド、ナイト・レンジャーが来日公演を行った。
ファースト・アルバム『ドーン・パトロール』(1983)とセカンド『ミッドナイト・マッドネス』(1984)という彼らの2大ベストセラー・アルバムを完全演奏するという、“DAWN OF MADNESS”とサブタイトルが付けられたツアー。「ドント・テル・ミー・ユー・ラヴ・ミー」「ロック・イン・アメリカ」「シスター・クリスチャン」などのヒット曲はもちろん、「プレイ・ラフ」「キャント・ファインド・ミー・ア・スリル」「チッピング・アウェイ」など、ライヴで滅多に演奏されないレアなアルバム・トラックの数々が披露されるというプレミアム・ライヴは、日本公演が発表されるやファンを色めき立たせた。
名盤アルバム2作が最高のナイト・レンジャー・クオリティで再現されるライヴということで、東京公演3デイズの最終日、昭和女子大学・人見記念講堂での公演は後部座席までぎっしりの盛況ぶりとなった。
まずは『ドーン・パトロール』をアルバムの曲順通り、一挙完全再現だ。もちろん1曲目は「ドント・テル・ミー・ユー・ラヴ・ミー」。ステージに上がり、それぞれの“定位置”に立つだけで絵になる5人だが、プレイを始めることで炎に包まれる。
ジャック・ブレイズはマイク・スタンドの前からステージの左右前後、お立ち台の上まで、とにかく動きまくる。ハリのあるヴォーカルで歌い、タイトなベース・プレイでバンドの低音部を支え、観衆とアイコンタクトを取り、話しかけるなど、スマイルとコミュニケーションを絶やさない。アメリカ・ロック界のスーパースターという座にあぐらをかくことがなく、65歳にして“アメリカン・ロックのナイスなお兄ちゃん”であり続けるジャックは、ファンにスリルと安心を同時に与えてくれる存在だ。
ブラッド・ギルスもまた、エキサイティングなギター・プレイで魅せてくれる。1982年、オジー・オズボーンのバンドで初めて日本を訪れて以来、彼の代名詞としてファンを魅了し続けている、フロイドローズを唸らせまくる大胆なトレモロ・アーム・プレイは健在である。
ジャック、ブラッドと共にオリジナル・メンバーの一角を占めるケリー・ケイギーは67歳と最年長だが、そのドラミングとヴォーカルはアルバム発表時のツヤ、そしてベテランならではの濃厚な味わいと説得力を兼ね備えている。
2012年にツアー・ギタリストとして加入したケリ・ケリーも、今や正式メンバーとして、バンドに欠かせない存在感を放っている。アリス・クーパー、ラット、ヴィンス・ニールなどとの活動で、実力派ギタリスト達の“後任”を務めてきたケリだが、ナイト・レンジャーにおいても初期作品でのジェフ・ワトソンのプレイを再現しながら(必殺の8フィンガー奏法を含む)、彼独自のエッジを加えたサウンドで攻める。キレのあるステージ・アクションも、バンドのライヴ・パフォーマンスをさらに刺激的にしていた。
また、2011年以来のキーボード奏者であるエリック・リーヴィは決して目立つタイプのスター・プレイヤーではないものの、楽曲のメロディを引き立て、同時に2人のフラッシーなギタリストのまとめ役として、がっちりバンドの基盤を固めている。彼に全幅の信頼を置けるからこそ、メンバー達は想いきり暴れることが出来るのだ。
観衆からの熱い反応に、ジャックは満足そうに「初めて日本でプレイしてから、36年目なんだ。初来日ライヴを見に来た人はいる?」と訊ねる。オールド・ファンが大きな声援を送ると今度は「今回初めて見に来た人は?」それに対して歓声が上がると、「36年間、どこにいたんだよ?」とジョーク交じりに不満を漏らす。だが会場には幅広い年齢層の観衆が集まっており、初来日時にはまだ生まれてすらいなかったであろう若いファンも見かけられたため、まあ仕方のないことだろう。
東京公演初日は『ドーン・パトロール』再現→『ミッドナイト・マッドネス』再現→プラスアルファ、2日目は『ドーン・パトロール』再現→アコースティック・セット→『ミッドナイト・マッドネス』再現という構成だった。『ドーン・パトロール』のラストを飾る「ナイト・レンジャー」が終わり、さあ、3日目の展開は?…とワクワクしていると、「タッチ・オブ・マッドネス」のイントロが奏でられる。続いて「ルーマーズ・イン・ジ・エア」「チッピン・アウェイ」と、なんと『ミッドナイト・マッドネス』全曲をシャッフルして演奏するという予想外の趣向だ。それによってアルバムの曲順通りの“完全再現”ではなくなったかも知れないが、演奏のクオリティが最上級であることは変わりなし。また、ライヴが尻すぼみになってしまうことがなく、「ホエン・ユー・クローズ・ユア・アイズ」「ロック・イン・アメリカ」そして「シスター・クリスチャン」というクラシックス3連打で終盤の大団円を迎えることになった。
さらにアンコールでは「ハイ・ロード」「センチメンタル・ストリート」「ザ・シークレット・オブ・マイ・サクセス」「ビッグ・ライフ」と、3作目以降のクラシックスをプレイ。もっと聴きたい!…というのがファン心理というものだが、既に2時間半近くが経っており、彼らは「グッドバイ」で我々に別れを告げたのだった。
全世界でトータル1,000万枚のセールスを誇る初期2作の全曲ライヴ演奏という、まさに切り札を出してきたナイト・レンジャーだが、それと同時に、彼らがまだまだ行ける!とファンに確信させる熱気に満ちたステージだった。
全米のヒット・チャートにおけるロックの不振が叫ばれて久しいが、ナイト・レンジャーは今もなおアメリカでロック出来る(you can still rock in America)ことを身をもって見せつける。そして彼らは日本においてもロックすることが可能であることを、高らかに宣言してくれたのだった。
文:山崎智之
写真:土居政則(Masanori Doi)
※写真は10月5日(土)マイナビBLITZ赤坂公演より
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Setlist
[DAWN PATROL]
- Don’t Tell Me You Love Me
- Sing Me Away
- At Night She Sleeps
- Call My Name
- Eddie’s Comin’ Out Tonight
- Can’t Find Me a Thrill
- Young Girl in Love
- Play Rough
- Penny
- Night Ranger
[MIDNIGHT MADNESS]
- Touch of Madness
- Rumours in the Air
- Chippin’ Away
- Let Him Run
- Passion Play
- Why Does Love Have to Change
- When You Close Your Eyes
- (You Can Still) Rock in America
Encore:
- Sister Christian
- High Road
- Sentimental Street
- The Secret of My Success
- Big Life
- Goodbye