トビアス・サメット率いるアヴァンタジアの東京公演を見てきた。会場となったマイナビBLITZ赤坂は超満員。今年2月にリリースされたニュー・アルバム、『ムーングロウ』も絶好調の彼ら。その人気の高さが伺える。開始予定時刻の19時を数分過ぎたところで、BGMがAC/DCの「You Shook Me All Night Long」に切り替わる。ショウ・スタートの合図だ。そしてベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章「歓喜の歌」へ。超満員のお客さんの大歓声の中、メンバーが続々とステージに登場。まずは『ムーングロウ』のオープニング・ナンバー、いきなり10分に及ぼうかという長尺の「Ghost in the Moon」からスタート。トビアスの歌声は絶好調。とても調子が良さそうに見せていたが、実をいうと彼の体調は最悪。長旅の疲れ、時差ボケに加え、風邪も引いていたようで、開演前は一言発するたびに咳込んでしまうことも。しかし、「ステージが始まれば大丈夫。俺は一度もショウをキャンセルしたことがないんだ。以前、声が出なくて喋れない状況になってしまったときでも、ステージに上がればきちんと歌えたから」という言葉に一切の偽りはなかった。体の不調など、まったく感じさせないそのパフォーマンスは見事というほかない。(歌っていないときは、頻繁に後ろを向いて咳込んでいる様子に気づいた人もいるかもしれない。)「今日のショウは3時間だ。新しいのも古いのも、早いのも遅いのも、全部やるぞ!」という全力投球すぎるMCに続いて「Starlight」。ここでプリティ・メイズのロニー・アトキンスが登場し、トビアスと見事な掛け合い、そしてハモりを聞かせる。やはり新譜からの「Book of Shallows」では、女性コーラス担当、今回アヴァンタジアのツアー初参加となるエイドリアン・コワンが大活躍。アルバムにおけるKreatorのミレ・ペトロッツァに負けぬデス声、というかミレ声を聴かせる。続いては、シングルとしてもリリースされた「The Raven Child」。シングルとはいえ、12分に及ぼうかという大曲。MCでも、「ドイツのラジオがかけてくるのは3分以内の曲だ」と、ニュークリア・ブラストからクレームがついたことを明かしていた。「最近ラジオのスイッチを入れたことがあるかい?今のラジオではクソしかかからない。曲の長さなんて関係ないよ!」とやり返したのだとか。この曲のバックでは、木が擬人化された不気味なアニメーションが流されていた。今回のステージでは、しばしば曲のイメージ映像的なアニメーションが流されていたが、いずれもほとんど動きのない静的なもの。これは、「演出が音楽の妨げになるようなものになってはいけない」というトビアスの意向を反映したものだ。この曲ではヨルン・ランデが登場。パワフルな歌唱で会場を圧倒する。続く「Lucifer」は、ヨルンによれば、「才能あるトビアスが自分のために書いてくれた曲」とのこと。喉のコンプレッションを効かせたヨルンと、澄んだ歌声のトビアスのコントラストが面白い。再び新譜からの「Alchemy」では、ジェフ・テイトが登場。会場からはひときわ大きな歓声があがる。ウルトラマンなんて言われていたころのジェフからすると、ずいぶんと見た目は変わった気がするが、声の方は相変わらずの切れ味。ヨルンと比べると、ジェフの声質はトビアスにかなり近いなどと思ったり。やはり新譜からの「Invincible」は、ジェフの個人的お気に入りとのこと。ピアノをバックにジェフとトビアスの2人が切々と歌い上げる美しいバラードに、心が洗われる。この時点ですでに1時間が経過。しかし、まだ登場すらしていないメンバーが複数いるというのに!
「マイケル・キスクは来ていないけど」とプレイされたファースト・アルバム『Metal Opera』からの「Reach Out for the Light」は、イントロから大合唱。これぞジャーマン・メタルという感じのこの曲に、場内はさらにヒートアップ。マイケル・キスクがいない分を、エイドリアンと、アヴァンタジアを創成期から支えるオリバー・ハートマンが十分以上に埋めてみせる。続く新譜のタイトル曲「Moonglow」は、トビアスとエイドリアンのデュエット。トビアスが「ナイチンゲールのように歌い、悪魔のようにグロウルする」と形容していたエイドリアンは、まだ24歳。恐ろしいシンガーである。エリック・マーティンが登場して披露されたのが、マイケル・センベロのカバー「Maniac」。エリックはジョークを交えたメンバー紹介で、場内を爆笑の渦に巻き込む。そして、『Wicked Symphony』収録の「Dying for an Angel」へ。バイオリンを弾く骸骨のアニメーションが不気味。続いてトビアスが「大好きなイギリスのシンガー」として呼び込んだのが、マグナムのボブ・カトレイ。それにしても何人のシンガー出てくるんだ!トビアス、ロニー、ヨルン、ジェフ、エリック、ボブで6人。さらにバックコーラスのエイドリアンとハービー・ランハンス、さらにギターのオリバーもリード・ヴォーカルをとれるわけだから、全部で9名!それも全員が超一流のシンガーだ。ボブは「Lavender」、「The Story Ain’t Over」を披露。登場人物が全員揃ったところで、やっとショウの半分に到達。
もともとはアルバム2枚で終了の予定であったアヴァンタジア。復活作としてリリースされた『The Scarecrow』のタイトル曲は、エスニックのイントロから大きな歓声と手拍子が巻き起こる。ヨルン・ランデが再び登場。ここから二週目のスタートだ。そんなヨルンが「俺がかつてあこがれていたシンガー。初めて車を運転したときに聴いていたのも彼の歌声。つまり俺は若いんだよ」とエリック・マーティンを呼び込むと、そこからの2人の掛け合いはほとんど漫才。続いて披露された「Promised Land」でも、2人の息はぴったり。後半は、基本的にトビアス以外のシンガー2人の組み合わせが楽しめる構成なのだ。ジェフ・テイトが登場すると、エリックは再び日本語も交えた掛け合い漫才を始め、場内はまたまた大爆笑の渦へ。ドヘヴィなリフが印象的な「Twisted Mind」は、トビアス抜き、エリック+ジェフという斬新な組み合わせで披露された。ジェフが「初めて耳にしたアヴァンタジアの曲」と紹介したのが「Avantasia」。なんとなく昭和歌謡を彷彿させるそのメロディは、日本人にはたまらない。バンドのテーマ曲とも言えるナンバーに、場内はますますヒートアップ。ほとんど大団円の様相を呈してくるが、まだこの時点で2時間を過ぎたところ。3度目の登場のヨルンにロニー・アトキンスという北欧コンビで披露されたのが、「Let the Storm Descend Upon You」。これまた10分超えの長尺ナンバーだ。続いては同じく『Ghostlights』から、東京では初披露という「Master of the Pendulum」。続く「Shelter from the Rain」は、オリバー、エイドリアン、ハービーのコーラス勢がメイン。そこにボブ・カトレイが再登場。ボブ+トビアスで披露された「Mystery of a Blood Red Rose」はシングルにもなった曲で、まるでジャーニーかと思うようなポップなナンバーだ。「次が最後の曲。でもガッカリする必要はないよ。クソみたいな曲は演奏しないから」と、本編最後を締めたのは、やはりこちらもシングル曲「Lost in Space」。こちらはトビアスの単独ヴォーカル。
わずかなブレイクで再びトビアスが登場すると、割れんばかりのトビー・コールが。「美しいバラードを」と演奏されたのが、デビュー作から「Farewell」。じっくりとメンバー紹介をしたあとは、本当のラスト、「Sign of the Cross」~「The Seven Angel」。全シンガーが登場し、ワンフレーズずつ歌っていくゴージャスすぎるエンディング。大盛り上がりの中、ふと正気に戻ると、時計はすで22時を回っている。正真正銘3時間超の濃すぎるステージ。総勢12名の超一流ミュージシャンによるメタル・オペラに、会場に集まった全メタル・ファンが酔いしれた一夜となった。
終焉後、トビアスは控室にも寄らず、倒れこむように車に乗り込み、ホテルへと帰っていった。まさに疲労困憊、声を出すのもやっとという様子。そのくらい彼の体調はギリギリだったのだ。だが、そんな様子をおくびにも出さず、3時間を超えるステージを完遂してみせた彼のプロフェッショナリズムには、ただただ頭が下がる思いだ。
文 川嶋未来
写真クレジット Takumi Nakajima
【セットリスト】
- Ghost in the Moon
- Starlight
- Book of Shallows
- The Raven Child
- Lucifer
- Alchemy
- Invincible
- Reach Out for the Light
- Moonglow
- Maniac (Michael Sembello cover)
- Dying for an Angel
- Lavender
- The Story Ain’t Over
- The Scarecrow
- Promised Land
- Twisted Mind
- Avantasia
- Let the Storm Descend Upon You
- Master of the Pendulum
- Shelter from the Rain
- Mystery of a Blood Red Rose
- Lost in Space
Encore:
- Farewell
- Sign of the Cross / The Seven Angels
————————————————————————-
【最新スタジオ・アルバム】
2019年2月15日発売
トビアス・サメッツ・アヴァンタジア『ムーングロウ』
【初回限定盤CD+インストゥルメンタルCD】 GQCS-90676〜7 / 4562387208494 / ¥3,200+税
【通常盤CD】 GQCS-90672 / 4562387208302 / ¥2,500+税
【日本語解説書封入/歌詞対訳付き】
【メンバー】
トビアス・サメット(ヴォーカル、ベース、キーボード)
サシャ・ピート(ギター、ベース)
フェリックス・ボーンケ(ドラムス)
オリヴァー・ハートマン(アディショナル・リードギター)
マイケル・ローデンバーグ(キーボード、ピアノ・オーケストレーション)
[ゲスト・ヴォーカル]
キャンディス・ナイト(ブラックモアズ・ナイト)※初参加
ハンズィ・キアシュ(ブラインド・ガーディアン)※初参加
ミレ・ペトロッツァ(クリエイター)※初参加
マイケル・キスク(ハロウィン、ユニソニック、パンプキンズ・ユナイテッド)
エリック・マーティン(MR.BIG)
ロニー・アトキンス(プリティ・メイズ)
ジェフ・テイト(元クイーンズライク)
ヨルン・ランデ
ボブ・カトレイ(マグナム)
【CD収録曲】
- ゴースト・イン・ザ・ムーン
- ブック・オブ・シャロウズ(feat. ハンズィ・キアシュ、ロニー・アトキンス、ヨルン・ランデ、ミレ・ペトロッツァ)
- ムーングロウ(feat. キャンディス・ナイト)
- ザ・レイヴン・チャイルド(feat. ハンズィ・キアシュ、ヨルン・ランデ)
- スターライト(feat. ロニー・アトキンス)
- インヴィンシブル(feat. ジェフ・テイト)
- アルケミー(feat. ジェフ・テイト)
- ザ・パイパー・アット・ザ・ゲイツ・オブ・ドーン(feat. ロニー・アトキンス、ヨルン・ランデ、エリック・マーティン、ボブ・カトレイ、ジェフ・テイト)
- ラヴェンダー(feat. ボブ・カトレイ)
- レクイエム・フォー・ア・ドリーム(feat. マイケル・キスク)
- マニアック(feat. エリック・マーティン) [映画『フラッシュダンス』テーマ [マイケル・センベロ] カヴァー]
- ハート(ボーナストラック)
【インストゥルメンタルCD収録曲】
- ゴースト・イン・ザ・ムーン
- ブック・オブ・シャロウズ
- ムーングロウ
- ザ・レイヴン・チャイルド
- スターライト
- インヴィンシブル
- アルケミー
- ザ・パイパー・アット・ザ・ゲイツ・オブ・ドーン
- ラヴェンダー
- レクイエム・フォー・ア・ドリーム
- マニアック(映画『フラッシュダンス』テーマ[マイケル・センベロ] カヴァー)
トビアス・サメッツ・アヴァンタジア オフィシャルページ
https://wardrecords.com/products/list_artist718.html