あのスレイヤーが引退してしまう。すでに40年近い歴史を持つスラッシュ・メタルだが、これは間違いなくスラッシュ史上最大の事件だろう。そんな一大イベントを見逃すわけにはいかない。ということで、彼らの地元ロサンゼルスで行われたラスト2回の公演を見てきた。場所はThe Forum。収容規模約1.5万人クラスの大きなアリーナだ。スラッシュ・メタルのコンサートがこんな大きな会場で行われるというのが驚きである一方、世界中のスラッシュ・ファンが集ってもおかしくないスレイヤーの見納めということを考えると、1.5万人というのは少ない気も。会場にはテスタメントのチャック・ビリーの姿も見える。スレイヤーのファイナルともなれば、仲間のミュージシャンたちが集合してきて当然。バックステージへと向かうと、初めて来た会場にもかかわらず既視感が。そう、最新ライヴ映像作品『リペントレス・キロジー』に収録されていた短編映画のラストで殺し屋がスレイヤーを狙っていたのがここのバックステージだ。そもそも『リペントレス・キロジー』が、ここThe Forumで収録されたライヴ作品なのだ。
フィリップ・H・アンセルモ&ジ・イリーガルズ、ミニストリー、プライマスという豪華すぎるオープニング・アクトが次々と登場していく。(ステュワート・コープランドがプライマスと一緒にいたので、てっきり飛び入り参加するのかと期待したのだが、残念ながら何も起こらなかった。)いよいよスレイヤーだ。巨大なパイロ・マシーン、大量のアンプを、クルーたちが手際よくセットしていく。
ライヴはいつも通り、「Delusions of Saviour」がイントロ。だが、ここで異変が起こる。『Repentless』(15年)リリース以降、そのタイトル曲をライヴのオープニングとしてきたスレイヤー。それはこの前日まで変わらなかった。ところが、この日はいきなり「South of Heaven」からスタート!多くのファンが、「今日は特別なセットなのでは?」という予感を感じたのではないだろうか。そして、そんな予感は的中。ここから「Die by the Sword」、「Evil Has No Boundaries」、「Show No Mercy」、「Black Magic」と、ファーストから4連発!これはヤバい。いくらなんでもヤバすぎる。特に「Evil Has No Boundaries」は、記念すべきデビュー・アルバムのオープニング・ナンバーであり、オールド・ファンの中にはこの曲が一番好きという人も少なくないだろう。だが、なぜかスレイヤーがライヴでこの曲を演奏することはほとんどなかった。これは「Show No Mercy」についても同じ。ファースト・アルバムのタイトル曲であり、こちらも超名曲なのだが、なぜかライヴで披露される機会は少なかった。90年の初来日の際も、いずれの曲もプレイされていない。その2曲が今年セットリストに乗るようになり、この日ついにファースト4連発という爆弾として炸裂したのだ!!2019年の現在、『Show No Mercy』の衝撃は伝わりづらいかもしれない。ブラストビートすら常識の今、あれを聴いて「これは速い!」と興奮、感激する若者はいないだろう。だが、当時あんな速いアルバムは聴いたことがなかったものだ。初めて聴いたときは、あまりに速すぎて曲の区別がつかないと思ったほど。『Show No Mercy』が凄かったのは、アルバムすべてを速い曲で埋め尽くした点だ。それ以前のメタル・バンドは、アルバムの中にせいぜい1-2曲、速い曲を入れるだけだった。ヴェノムの「Witching Hour」しかり、アクセプトの「Fast as a Shark」しかり、ジューダス・プリーストの「Rapid Fire」しかり。それはそうだろう、アルバムにおいて緩急こそが大事だというのは、ごく普通の感覚である。だからスレイヤー以前のバンドは、速い曲のあとにはヘヴィなナンバーを配置したのである。だが、スレイヤーは速い曲だけでアルバムを作った。そしてそれがスラッシュ・メタルになったのだ。速い曲だけでアルバムを埋め尽くすという発想は、ハードコア・パンクから借用したものだろう。ジェフ・ハンネマンは大のハードコア・パンク・ファンだったのだ。一方、トム・アラヤの歌詞の乗せ方には、前述の「Rapid Fire」からの大きな影響が感じられる。つまり、ジューダス・プリーストとハードコア・パンクを掛け合わせることで、スレイヤーは『Show No Mercy』という革命にたどり着いたのだ。『Show No Mercy』がなかったら、スラッシュ・メタルというジャンルはなかった。そしてその『Show No Mercy』に輪をかけて速かった84年のライヴ盤『Live Undead』。(現在ではスタジオ・ライヴであったことが判明しているが。)ファーストからの4連発は、まさに『Live Undead』の記憶を蘇らせるもの。これを涙無しで聴けようか。(「Die by the Sword」の前に”They say the pen is mightier than the sword~”のMCがあったら完璧だったのだが。)ロサンゼルスという地元で最後を締めるあたり、スレイヤー自身も原点に返るという思いがあったのだろう。私にとってはこの4連発こそ、スレイヤー・ファイナルのハイライトであった。その後は「Temptation」(『Seasons in the Abyss』収録)や「Gemini」(収録)などレアめの曲を挟みつつも、通常セットへ。そうそう、トム・アラヤが着ていたTシャツが、弟との2ショットというデザインだったのだが、アラフィフのC級スラッシャーならここに反応しないはずがない。そう、トム・アラヤの弟言えばジョン・アラヤ。ジョン・アラヤと言えばブラッドカムだ!ブラッドカムはワイルド・ラグズというカルトすぎるレーベルから『Death by a Clothes Hanger』(88年)というアルバムを出していたスラッシュ・メタル・バンド。で、このバンド、ギタリストがジョン・アラヤ、ヴォーカリストがジョーイ・ハンネマンという名で、それぞれトムとジェフの兄弟だという触れ込みだったのだ。インターネットもなかった当時、これがネタなのか本当なのかわかりようもなかったのである。本当にスレイヤーの兄弟ならもうちょっと売れてても良さそうだけど、と子供心に思ったものだ。結局はジョンは本当にトムの弟、だけどジョーイはただのネタという複雑なオチだったのである。
そして迎えた最終日。ついにスレイヤーが解散してしまう。そんな1万人超のファンたちの悲しみが充満しているのか、会場の雰囲気はとにかく異様。非日常感が半端ない。オープニングのフィリップ・H・アンセルモ&ジ・イリーガルズのセットには、チャーリー・ベナンテやスコット・イアン、そして俳優のジェイソン・モモアが飛び入り参加。さらに非日常感を煽り立てる。バックステージには、カーク・ハメットまでいるではないか!そのカークを出迎えたのが、ゲイリー・ホルト。ご存じだとは思うが、カークはエクソダスの創設メンバーだ。そのカークがスレイヤーでギターを弾いているゲイリーと談笑しているのだ。現実なのか夢なのかわからなくなってくる。(そしてまたカークのセレブ感が凄まじい。)
スレイヤーのラスト・ステージは、ファンへのインタビュー映像からスタート。さまざまなファンが、スレイヤーと出会い、いかに人生を変えられたかを語っていく。それだけでグっと来るものがある。その後スレイヤーの作品が時系列で映し出され、ついに「Delusions of Saviour」へ。ステージ横にはフィリップ・アンセルモ、スコット・イアン、そしてチャーリー・ベナンテらが陣取っている。みんなスレイヤーが大好き。その最後の雄姿を目に焼き付けようとしているのだ。
この日も「South of Heaven」からという変則スタート。定番の「Repentless」は2曲めに配置。どの曲もこれで聴き納めだと思うと、あまりに感慨深すぎる。横で見ているミュージシャンたちのはしゃぎっぷりも微笑ましい。フィルは拳を突き上げメロイック・サインを掲げ、トム・アラヤが近づいてくると、ひれ伏すマネまでやってみせる。普段はクールなチャーリー・ベナンテも、「Jesus Saves」には我慢ができなかったのか、前に乗り出してエアー・ドラムを開始。スコット・イアンもとにかくノリノリ。(まあ、彼にとってはこれが平常運転なのだが。)そういえば先日、突然「When the Stillness Comes」のイントロが弾けなくなってしまったケリー・キングだが、この日もイントロはプレイされず。この日はセットリスト上のサプライズというのは特になかったが、もう空間自体が特別。ラストの「Angel of Death」まで、一瞬たりとも見逃せない、聞き逃せないスペシャルな時間であった。
そしてついに、すべて曲が終わってしまった。メンバー達が抱き合い、お互いをたたえあう。クルーたちも登場し、超満員の観衆をバックに写真撮影。オーディエンスからは自然と「Thank you, Slayer」コールが。会場にいた多くのファンが涙していたことだろう。そして、トム・アラヤが最後のスピーチ。「ありがとう。本当にありがとう。時間というのは大切なもの。そんな大切な時間を俺たちとともに過ごしてくれて、ありがとう。寂しくなるな。でも、一番大切なことは、君たちが俺の人生の一部になってくれたことに感謝したいということ。おやすみ。気を付けて帰ってくれ。」日本におけるDOWNLOADのスピーチも感動的であったが、この日は本当に最後の最後。こうやって書き起こしていても、目頭が熱くなってくる。トムの目にも涙が光っていた。ケリー・キングがトレードマークであるチェーンをステージに置いていったのも感動的だった。
約40年前、スレイヤーがそのキャリアをスタートしたときに、本人たちも含め、誰がこんな感動的なエンディングを想像しただろう。スラッシュ・メタルというまったく新しい音楽をプレイしていた彼ら。おそらく初期にはオーディエンスが数十人ということもあっただろう。「こんなものは音楽ではない」という声もあったに違いない。80年代、スレイヤーは「凶悪」な存在だった。何しろ当時出回っていた写真は、目のまわりを黒く塗ったメンバーが血まみれの女性を生贄にしているものだったし、ライヴがあまりに暴力的なので、常に1ダースの救急車がライヴハウスの前に待機しているなんていう都市伝説も耳にしていた。そんなスレイヤーが、万を超えるファンの「Thank you」コールに送られ、その活動に終止符を打ったのだ。感動するなという方が無理である。スレイヤーのいなくなったスラッシュ・メタル界はどうなるのだろう。今後スレイヤー・クラスの人気を誇るスラッシュ・バンドが出てくることはあるのだろうか。スレイヤーの解散。あまりにも大きな損失である。
文 川嶋未来
発売中|ラスト作と目されるライヴ映像作品
スレイヤー『ザ・リペントレス・キロジー~ライヴ・アット・ザ・フォーラム』
通販限定 Blu-ray+2枚組CD+Tシャツセット 11,880円(税抜 10,800 円)
初回限定盤Blu-ray+2枚組CD 8,250円(税抜 7,500 円)
通常盤Blu-ray 6,050円(税抜 5,500 円)
通常盤2枚組CD 3,300円(税抜 3,000 円)
【日本語解説書封入/日本語字幕付き(映像のみ)】
【メンバー】
トム・アラヤ(ヴォーカル/ベース)
ケリー・キング(ギター)
ゲイリー・ホルト(ギター)
ポール・ボスタフ(ドラムス)
【Blu-ray収録内容】
《ザ・リペントレス・キロジー》
- ア・ローン・ベリアル
- ユー・アゲインスト・ユー
- リペントレス
- プライド・イン・プレジュダイス
- ザ・ハンド・ブラザーフッド
- プア・リチャード
- デイヴィッズ・ハート
- エリザベス
- ウィリアムズ・ウィンチ
- ジ・エンジェル
- ゼア・ユー・アー・ルーサー
- デイヌモン
- クレジッツ
《ライヴ・アット・ザ・フォーラム》
- ディリュージョンズ・オブ・セイヴィアー
- リペントレス
- ジ・アンチクライスト
- ディサイプル
- ポストモーテム
- ヘイト・ワールドワイド
- ウォー・アンサンブル
- ホエン・ザ・スティルネス・カムズ
- ユー・アゲインスト・ユー
- マンダトリー・スーサイド
- ハロウド・ポイント
- デッド・スキン・マスク
- ボーン・オブ・ファイア
- キャスト・ザ・ファースト・ストーン
- ブラッドライン
- シーズンズ・イン・ジ・アビス
- ヘル・アウェイツ
- サウス・オブ・ヘヴン
- レイニング・ブラッド
- ケミカル・ウォーフェアー
- エンジェル・オブ・デス
- エンド・クレジッツ
《ボーナス映像》
- リペントレス・アニメーション
【2枚組CD収録曲】
[CD1]- ディリュージョンズ・オブ・セイヴィアー
- リペントレス
- ジ・アンチクライスト
- ディサイプル
- ポストモーテム
- ヘイト・ワールドワイド
- ウォー・アンサンブル
- ホエン・ザ・スティルネス・カムズ
- ユー・アゲインスト・ユー
- マンダトリー・スーサイド
- ハロウド・ポイント
- デッド・スキン・マスク
[CD2]
- ボーン・オブ・ファイア
- キャスト・ザ・ファースト・ストーン
- ブラッドライン
- シーズンズ・イン・ジ・アビス
- ヘル・アウェイツ
- サウス・オブ・ヘヴン
- レイニング・ブラッド
- ケミカル・ウォーフェアー
- エンジェル・オブ・デス
スレイヤー、戦慄のライヴ・フィルム『THE REPENTLESS KILLOGY』一夜限りのライヴ絶響上映@Zepp東阪
原題|SLAYER:THE REPENTLESS KILLOGY
日程|2020年1月15日(水) Wednesday.15th.January.2020
会場|Zepp DiverCity (TOKYO)/Zepp Namba(OSAKA)
開場|6:30pm 開映|7:30pm
券種|①一般自由席(全席自由):3,500円(税込)|②スタンディング(立見):2,200円(税込)
【2019年|米国|130分|16:9 スクイーズビスタサイズ|2ch|BD|日本語字幕あり】
※一部過激な表現が含まれております。15歳未満は、ご入場いただけません。ご入場の際に、身分証明書を確認させていただく場合がございます。また、18歳以下の未成年の方は、必ず保護者の同意を得た上でチケットをご購入・ご来場ください。
※入場者特典付(先着での配布になります。配布はなくなり次第終了とさせていただきます)
※自由席及び、スタンディングは、見切れる場合がございます。
※当日券|500円増
※ご入場時に、別途ワンドリンク+600円をいただきます。
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▼プレイガイド先行受付(抽選)
3次先行|2019年12月11日(水)12:00[正午]~ 12月22日(日)23:59まで|チケットぴあ先行(プレリザーブ)
▼一般販売(先着)| 2019年12月25日(水)15:00~2020年1月14日(火)23:59 まで
※各社プレイガイドによって終了時間が異なります
※いずれも一般発売は先着順での受付となりますので、予定枚数に達し次第受付終了となります。
▼劇場での販売(先着)|2020年1月15日(水)~時間未定
当日券|前売り券の価格に、500円増(全席指定/税込)
※一般発売終了後残席のある場合のみの販売となります。
ライヴ最響上映 公式ホームページ|http://www.110107.com/zepp-de-zekk
企画・主催|(株)Zeppホールネットワーク、(株)ソニー・ミュージックダイレクト
協力|ワードレコーズ
©2019 NUCLEAR BLAST RECORDS