2020年2月、現代ギターの最高峰と呼ばれる名手、アル・ディ・メオラが来日公演を行った。
“パスト・プレゼント&フューチャー”と題されたワールド・ツアーの一環として実現した東京・大阪でのライヴ。2017年に名盤『エレガント・ジプシー』の40周年記念ライヴという“飛び道具”で大きな反響を得たアルだが、今回もそのギターの絶技を体感するべく、ほぼ満員といっていい盛況ぶりとなった。
歴代のアルバムのジャケット・アートをあしらった垂れ幕を背後に、アルがステージに上がる。気さくそうな笑顔で観客に手を振る彼だが、ギターを手にして椅子に座り、「アズーラ」を爪弾き始めると、場内に凜とした緊張感が漲った。
ファウスト・ベッカロッシ(アコーディオン)とケムエル・ロイグ(ピアノ)とのトリオ編成で行われた今回の公演は、もちろんアルが“主役”であることは揺るぎない事実ではあるものの、3人が織り成すスリリングなプレイの応酬が、昂ぶりをもたらしていく。
「15年ぶりぐらいに引っ張り出してきた」とアルが語るオヴェーションのギター1本でほぼ全編を通し、アコースティックとエレクトリックを切り替えながら多彩なサウンドで魅せるプレイは、まさに変幻自在だ。随所で超高速フルピッキングを披露しながらも、愛嬢エヴァに捧げる優しさをたたえた「エヴァズ・ドリーム・シークエンス・ララバイ」、メロディの中に焦燥感を煽り立てる「ブレイヴ・ニュー・ワールド」など、起伏に富んだ展開は、アルの心の旅路を辿っていくようだ。
「アストル・ピアソラ、ザ・ビートルズ、そして私自身の曲は、私のライヴの3つの重要な要素」とアルが語るとおり、ピアソラの「カフェ1930」をプレイ。アルバム『プレイズ・ピアソラ』(1996)ではバンドネオンをフィーチュアしていたが、この日はファウストのアコーディオンが情感溢れるプレイでサポートする。
ザ・ビートルズのナンバーは「ビコーズ」、そして「ヘイ・ジュード」が演奏された。後者のディ・メオラ・ヴァージョンは2020年3月発売の『アクロス・ザ・ユニヴァース』に収録されており、このライヴの時点ではまだ店頭に並んでいないが、音楽ファンだったらこの曲を知らないわけがない。ちょっと大人しめだった観客が自然発生的にコーラスを歌い始め、熱気を帯びた状態で、アルとバンドはいったんステージを後にした。
観客の声援は止まることがなく、3人には戻ってくる以外の選択肢はなかった。そうして アンコールで演奏されたのがお待ちかね「地中海の舞踏」だ。アルとパコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリンのスーパー・ギター・トリオでの名演で知られるこの曲だが、この日のライヴはアルとファウスト、ケムエルによる、申し分なく“スーパー”なトリオがバトルを繰り広げた。
1日2公演で行われた今回のツアーだが、気を抜く瞬間はまったくなし。約80分間、テクニックと叙情性に酔い痴れた夜だった。まだ公演が終わったばかりなのに、次の公演はいつか?どんな編成になるか?…などと早くも期待させる、そんなライヴだった。
文 山崎智之
写真 Masanori Naruse
【セットリスト】
2020.2.3(月)Billboard Live TOKYO 第一部
- Azzura
- Milonga Noctiva
- Mawazine
- Brave New World
- Ava’s Dream Sequence Lullaby
- Adore
- Double Concerto
- Because
- Cafe 1930
- Hey Jude
- Mediterranean Sundance
2020年3月13日 世界同時発売
ザ・ビートルズ・トリビュート・アルバム
アル・ディ・メオラ『アクロス・ザ・ユニバース』
【CD】GQCS-90868 / 2,750円(税抜 2,500 円)
【収録曲】
01. ヒア・カムズ・ザ・サン
02. ゴールデン・スランバー(スイート)
03. ディア・プルーデンス
04. ノルウェーの森
05. マザー・ネイチャーズ・サン
06. ストロベリー・フィールズ・フォーエバー
07. イエスタデイ
08. ユア・マザー・シュッド・ノウ
09. ヘイ・ジュード
10. アイル・フォロー・ザ・サン
11. ジュリア
12. ティル・ゼア・ウォズ・ユー
13. ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア
14. オクトパス・ガーデン