― まずディスティニアのライヴが実現した経緯を教えてください。
若井:そもそもレコーディングをしている時からライヴをやれたらいいねという話は各メンバーと出ていましたし、やるつもりでもいました。発売後に反響も良くて、「ライヴをやらないのか?」と周りから聞かれることも多かったんです。段取りは早めから進んでいたのですが、スケジュールの調整が大変で2019年明けにやっと実現しました。
― アメリカと日本でメンバーの所在はバラバラですが、リハーサルはどのようにやったのですか。
若井:これがめちゃくちゃ大変でしたね。本番の数日前に集まってリハーサルをしたんですよ。ここからが非常にドラマチックでしたね。
― 具体的にどんなことがあったのでしょう。
若井:まず、ライヴというのは直前何が起こるかわからないという良い例なんですけど、トミーのフライトが遅れて、リハーサルは3日やる予定が、1日しかできなくなってしまいました。流石に痺れましたね。
なので、最初の2日はトミーがいない状態でのリハになってしまったんです。
― ドラムがいなくて、どうやってリハをやったのですか。ドラムって一番いないと困るパートじゃないですか。
若井:そうですね。そこはそんなこともあろうことかと、レコーディングしたパートを各パート書き出していたので何とか行うことが出来ました。何があるかわからないとは思ってましたから。しかし、ドラムの段取りが一番大事だったりしますからね。
― トミーがいない中でのリハーサルはどうだったのでしょう。わりと一発でバチっと合う感じだったのでしょうか。
若井:正直、この時点では苦労はなかったですね。ロニーはとても器用だし、彼はフロントマンとしてやるべきことを事前に頭に入れていたし。マルコは着いた時にはまだ曲をさらえていない感じだったんですけど、着いたその日にリハーサルをやりたいと。「リハは明日からだ」と伝えたんですけど、どうしてもと言うので、2人で個人練習で普通にStudio Noahに入って(笑)。まさかマルコ・メンドーサと2人でStudio Noahで個人練習するとは、思いもよりませんでしたよ。
― ついにトミーが到着して、その後はいかがでしたか。
若井:時間がないこともあり、かなりシリアスでピリッとした雰囲気のリハーサルが体験できました。時間が限られていたので、彼もとてもナーバスになっていたというのもあって。同期、いわゆるクリックを使ったんですけど、そのシステムが、彼がホワイトスネイクで使っているものと違ったので、そこに関して随分フラストレーションがあったみたいです。スタジオではスタッフに怒ってましたね。ドラム・スティックを持っていないと温厚なんですけど、リハーサル・モードに入った途端、細かいことについて色々と意見をしたり。マルコもあの笑顔を封印してトミーを気遣っていましたね。俺もリーダーですからその中で何をすべきか常に考えていました。逆境で苦しい反面、俺はなんて幸せなんだろうと思いましたよ(笑)これこそドラマだなって。その最中に立ってるんですから。
― それは1日のリハで解消されたのですか。
若井:そこはスタッフに感謝です。トミーもこれじゃ厳しいという感じだったのですが、スタッフは彼の希望を一つでも叶えようと頑張ってくれて。例えばトミーは、自分でカウントをコントロールしたいと。日本の中規模から大規模のコンサートにおいて同期は、ドラマーがコントロールしている人間に合図を出して、というやり方が多いのです。それが一番楽だし、やりやすいだろうと思っていたのですが、彼は自分でスタートを出したいと。
― 再生、停止のボタンを自分で押したいと?
若井:ええ、しかも足で操作したいと。なかなか数時間で用意できるようなリクエストではなかったんですけど、ローディー・チームとスタッフがみんな走ってくれて、実現することができました。あと、ディスティニアは細かいキメや食いが多いので、そこには相当ナーバスになっていましたね。「これをこんな短いリハでやり切るのは厳しい、次は2週間リハをしよう」と言っていましたね。
― 超一流のミュージシャンとリハをやることで、何か学びはありましたか。
若井:例えばロニーは、リハーサルには多くを求めない。ローズ・オブ・ブラックでもそうでしたけど、来てパッと歌える絶対的な自信を持っている。だから、リハーサルに求めるものは殆どないんです。「俺はバッチリだよ」という状態で現れるから。それにメンタルがめちゃくちゃ強いんですよ。リハーサルにナーバスにならない。変な話、歌詞もうろ覚えでもバッチリこなしてしまうんです。そういう非常に強い人だというのは、リハーサルをやっていて感じました。マルコはミュージシャンとしてやや特殊で、音さえ鳴っていれば合わせられるタイプ。ジャズのミュージシャンに近いというか。細かいことを追いかけず、曲が頭の中で鳴ってれば問題なく弾ける。キメなど覚えて欲しいところは一回弾いて聞かせれば、大体、覚えてしまう。間違えていても、途中から合わせるのが超うまい。プロの技術として、そういうことができてしまう。それにステージを楽しむんだという気持ちも強い。トミーはそれとは180度違って、彼はできる限りのことをきちっと決めて、自分が納得するまでやりたいタイプ。自分がベストだと思うまで、ひたすら同じフレーズをやったりとか。とにかくストイック。三者三様ですね。それぞれがそれぞれのプロフェッショナルさを持っている感じでした。ライヴの前日も、トミーはホテルで練習をすると。自分にとってリハーサルが足りないと感じたんでしょうね。本当に誰よりもストイックでしたね。俺、マルコ、ロニーは食事に行ったりしたんですが、トミーはホテルに戻って練習すると。ギリギリまでそうやって調整していました。俺の事で言えば、さっき言ったこのメンバーでの本当にギリギリのシリアスな現場体験が、まさに学びですよ。それに俺はいつもの事ですが、デザインや制作など裏方も兼任するんで、全体のコントロールやアテンド一つとっても全てが勉強でしたね。
― 実際ライヴをやってみた感想はどうでしたか。
若井:お客さんの熱意が凄かったですし、「みんなこんなに待っててくれたんだ」というのを感じられましたね。感謝しかありません。ウリ・ジョン・ロートと同じ日にライヴが重なってしまったんですが、ソールドアウトに近かったし、嬉しかったです。あの空間がお客さんと一緒に作れたことがなにより最高でした。誰も見たことがないものをやれた訳だから。ロニーだって他のメンバーと会うのは初めてだったんですよ。世界で一日だけ、この一本だけの一期一会の瞬間を自分のコンサートで創り出せたというのが何よりも良かった。自分も運命的な瞬間を楽しむことができました。例えば、俺の後ろにいる人がランディ・ローズの後ろでも叩いてたんだなと思ったりね(笑)。みんなもトミーの「Over the Mountain」を聴けると思ってなかったでしょ(笑)。俺自身がきっかけとなって、そういう一瞬しかない空間、瞬間を創れたんですからね。もちろんトラブルもあったりで悔しい部分はあった。人との出逢いもそうだけどすべてが完璧な事はない。それも含めて運命だからね。
― なるほど。タイトルに「エンカウンター(=出会い)」という言葉が入っているのは、そういう訳なのですね。
若井:今回のライヴは、本当に一期一会。メンバーに、ファンに、敬意と思いを込めてこのタイトルになりました。今回、事前段階ではアジア・ツアーにする予定もあったんだけど、残念ながらスケジュールでダメだった。結果、東京で、それも一日だけ。それでも針の目を縫うようなスケジュールだった。そして、直接出会ってすぐに音を合わせて、お客さんの前でショーをする。音楽を通じてメンバーが出逢い、さらに会場でそれを待つ人と交差する瞬間がある、それにどこか「運命めいたもの」を感じたんです。運命はディスティニアや俺自身のコンセプトでもあるんですね。
― なるほど、メンバーと直接会ってみてどんな印象でしたか?
若井:これは出会ってわかったんですが、みんなはレジェンド・ミュージシャンはなにか特別なことをやっているように感じるじゃないですか。俺もなんとなくそう思っていました。しかし、それは少し違ってどんなミュージシャンでもステージがあれば少なからず、緊張もあるし、不安もある。そして、同じくらい高揚や興奮もある。みんなと同じようにね。音を出せば本当に上も下もなくて、そこには音楽が生まれた。俺もトミーやロニー、マルコに言いたいことを言ったし、もちろん彼らも俺に遠慮はしなかったしね。リハーサルが始まってしまえば、言葉の壁も何も感じなかった。レジェンド達も自分と同じ様に、ただただひたすらに音楽が好きなミュージシャンだって事がわかりました。
― ライヴではアルバムの曲をすべて演奏しましたが、これはわりと珍しいことですよね。普通アルバムを作る時、「この曲はライヴでやれないだろうなあ」みたいなのがあると思うのですが、どの曲もライヴ前提で書いたのですか。
若井:いや、全然ですよ。そもそもこれをライヴでやることはないかもなあ、という気持ちで書いた曲もありましたよ。前のアルバムからもやろうかなと思ったんですが、スケジュール調整を重ねる内に今回はこれ一本になることが濃厚になって、全員多忙なので次いつやれるかわからない。そうなった時にせっかく録ったメンバーでやるのだから、やれる時にすべてやっておこうと。自分達でも結構挑戦的な曲もありましたけど、あえて全部やったんですよ。確かに「これは難しいかもなあ」という曲もあったんです。細かい食いやキメが難しかったりね。それに、アルバムを聴いてくれた人がどの曲が好きかはそれぞれ違うから。今回は極力、みんなの見たいという思いを叶えたかったんです。
― カヴァー曲は参加メンバーにまつわるものだったと思うのですが、どうやって選んだのでしょう。みんなで決めたのですか。
若井:まず俺自身が一人のハードロック/ヘヴィ・メタル狂であるので、ここでしか聴けない曲をやりたいし、自分も聴きたいというのがありました。なので、基本的には俺が考えました。もちろん自分で他のメンバーのアプルーヴをとりつつですが。まず俺はオジーが大好きだし、なんたってトミーがドラムだから、絶対オジーはやりたかったんですよね。それで「Over the Mountain」か「Crazy Train」のどちらかをやろうということになったんですけど、ロニーが「『Crazy Train』はヴォーカル・ラインがあまり面白くないからやりたくない」と(笑)。それで「Over the Mountain」になったんです。「Please Don’t Leave Me」は、俺がそもそもこのリズム隊を選んだ理由はジョン・サイクスだったんで選びました。ジョンが2004年、東京でやったライヴが「BAD BOY LIVE!」としてリリースされているんですけど、あれを見たときの事を思い出しながら、もう一度あの感覚をライヴで味わいたいと思って、あの時と同じヴァージョンと同じ尺でやったんです。なぜかギターソロが少し短いんですよね。トミーとマルコでこのヴァージョンをやることに意味があるという思いを込めて演奏しました。「Boys Are Back in Town」はマルコに決定してもらいましたね。「Chinatown」とどっちが良いかって。そしたら、「『Boys Are Back in Town』ならみんなでコーラスができるから、こっちにしよう」と。実際にスタジオでもコーラス分けをして、とても楽しかったですね。演奏は超シンプルなんですけど、意外とやってみると盛り上がるし面白かったです。マルコはこういう曲がハッピーでやっていて楽しいんだろうなあと。選曲にもそういうのが出るんですよね。「Fool for Your Loving」は、トミーがドラムを叩くなら、みんなホワイトスネイクを見たいだろうと。俺も間近で見てみたかったし(笑)。なんといっても横で弾いてみたかった。あれが一番自分のエゴで選んだのかもしれないかな。あれも、2人がホワイトスネイクにいた時のライヴのヴァージョンでやってますね。ちなみに、自分のライヴでレインボーをやらないのは、俺がリッチー本人が来るのを本気で待ってるからでもあります。
― トミーは選曲についてイエス、ノーは言わなかったのですか。
若井:いや、全然。過去の曲は、体が覚えてるみたいですね。いずれもOKという感じでした。トミーは「オジー・オズボーン叩くのは久しぶりだ」って言ってましたね。ステージ上でもリハでも、カヴァーセクションのトミーのドラムを聴くたび「ああ、これだ!」って何度も思いました(笑)。本番でもカヴァーセクションは、本編よりもずっとリラックスしてやれたみたいですし。本編はとても緊張感があって、みんなかなり大変だったんだと思います。難しい曲もあって、気にしなくちゃいけないことも多いですし。本編が終わって楽屋に帰って来た時も、みんなリラックスしていて、「アンコール、さあ行こうか」という感じで楽屋から出たんで、演奏も良い意味で緊張感が抜けて、アットホームで良い演奏ができたんじゃないですかね。
― 若井さんがこうやってトミーやマルコ、ロニーといった超一流のミュージシャンとやっていることに対して、やっかむ人もいると思います。いわゆるアンチみたいな人たちのことについて、どう思いますか。
若井:全然気にしないですね。自分は自分が進む力に引っ張られて運命を進むだけです。やっかみも嫉妬も自分が一歩出ているから撃たれる名誉の証しですよ。嫉妬って、愛の裏返しじゃないですかね、気になってしょうがないんだから(笑)。それに同じくらい俺や俺の音楽を愛してくれる人が今は世界中にいるから、その人のためにも音楽を続けます。アンチということは、基本的に一回は作品を聴いてくれている訳でしょう?聴いた上で文句を言うのなら、それは仕方ない事。音楽が自分の手から離れたら、それはもう公共のものであり、聴いた人のものだと思っているので、それに対して誰かが何かを言うのは本当に自由。俺も表に出ている以上公人ですから、そういう声が上がるのも普通ですね。もし、自分もやりたいと思ってやっかむ人がいたら、まずやったら良いんじゃないかなと思うんです。アーティストなら誰でも一人でできることですから。曲や詞を書いて、ギターを弾いて、デザインをして、予算の段取りをして、交渉して、宣伝をして、ロックスターをする。自らの能力全てで表現する、自分の赴くままにね。いずれ日本のハードロック/ヘヴィーメタルが、他の国と同じように一般的になるように盛り上がればいいし、こうやって他の世界の人たちとやることも普通になれば良いと思う。2004年に俺がロブ・ロックを入れてアルバムを作ったりして以降、そういうことをやる人も以前より増えてきてる気がするしね。どんどんやって欲しい。俺も一人のハードロック/ヘヴィーメタル・ファンとしていい曲が聴ければ嬉しいね。
― 今後の活動の予定を教えてください。
若井:ディスティニアはご存知の通りみんな忙しくて、去年曲は書いたんですけど、ディスティニアとしてはレコーディングができていないんですね。それに、去年の事は話すと本当に長くなるんでまた別の機会に。まあ、ちょっとだけお伝えすると、ちょっとやったことがあって、近日中には発表できると思います。
― コロナが収まった際には、またこのようなライヴを期待できるでしょうか。
若井:トミーとは、次回リハーサルの時間ももっと長くとって、またやれたら素晴らしいねという話はしています。ロニーとも、Metal Weekend 2019で会った時に、「またやりたいね」という話をしたし、また実現できればいいなと思っていますよ。ただ、このご時世なので、現状どうなるかは何とも言えないのですけど。この作品を多くの人が見て、広めてくれて、知ってくれればチャンスは広がるんじゃないかな。運命のみぞ知るところだね。
― では最後に、『Tokyo Encounter』の見どころを教えてください。
若井:まずコロナ・ウイルスという前代未聞の出来事に巻き込まれて作品のリリースが遅れてしまって、本当にごめんなさい。この映像は、俺、ロニー、マルコ、トミーそして、あなた、一瞬、出会い、運命の巡り合わせというものが詰まった作品になっています。それらから生まれた熱意を感じてみてください。当日、会場にはそれが沢山詰まっていたと思うので。ライヴに来てくれた人は、この作品を通じて世界中、東京でそれもただ一日だけだったあの特別な出会いをもう一度、楽しんでもらえたら最高です。初めて見る方には、これが新たな出会いの始まりになれば幸せですね。最後になりますが、ここまでの運命に導いてくれたのは、応援してくれるみんなの力です。改めて感謝の思いを込めてこの作品を送ります。ありがとう。
【Blu-ray又はDVD/CD収録曲】
- メタル・ソウルズ
- レイン
- ジャッジメント・デイ
- プロミスド・ランド
- スティル・バーニング
- ドラム・ソロ
- レクイエム・フォー・ア・スクリーム
- テイク・ミー・ホーム
- レイズ・ユア・フィスト
- メタモルフォーシス
- ビー・ア・ヒーロー
- クロス・ザ・ライン
- ジ・エンド・オブ・ラヴ
- レディ・フォー・ロック
【ボーナスCD収録予定曲】
- ボーイズ・アー・バック・イン・タウン(シン・リジー カヴァー)
- プリーズ・ドント・リーヴ・ミー(ジョン・サイクス カヴァー)
- オーバー・ザ・マウンテン(オジー・オズボーン カヴァー)
- フール・フォー・ユア・ラヴィング(ホワイトスネイク カヴァー)
【メンバー】
若井 望(ギター)
ロニー・ロメロ(ヴォーカル/リッチー・ブラックモアズ・レインボー、ローズ・オブ・ブラック)
マルコ・メンドーサ(ベース/ザ・デッド・デイジーズ、シン・リジィ)
トミー・アルドリッジ(ドラムス/ホワイトスネイク、オジー・オズボーン・バンド)