40年以上のキャリアを誇る超ベテラン、イギリスのDemonがニュー・アルバムをリリース!唯一のオリジナル・メンバーであるヴォーカリストのデイヴ・ヒルに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『Invincible』がリリースになります。長いバンドのキャリアの中で、このアルバムはどんな位置付けになる作品と言えるでしょう。
デイヴ:これは、そうだな、最近いくつかのレビューを読んだのだけれど、それによるとこのアルバムは初期のアルバムから『The Plague』、『Taking the World by Storm』のようなプログレッシヴな要素、それから後期の作品まで、あらゆる要素が入っていると言われている。俺としては、これは過去にやったことがすべて詰まった完全なるDemonのアルバムだと思っているよ。曲は俺とドラマーのニール・オグデンで書いた。コロナ中に書いていたから、みんなに「また疫病(Plague)に関するアルバムを作ったら」なんて言われたのだけれど、あの時はそんなもの誰も聴きたくなかっただろうからね。コロナに打ち勝って、それを祝うようなアルバムにしたいと。これは俺たち自身を祝福するもの、自分たちをリフレッシュするアルバム。さまざまな要素を鍋に突っ込んだと言えば良いのかな。それぞれの時期の素晴らしいものをね。
ー タイトルを『Invincible=無敵』としたのは何故でしょう。
デイヴ:これは45年に渡って活動してきたDemon自身のことだと思う。曲を書いていて、「Invincible」という曲もあるのだけれど、これはまた違う内容。まあ、このタイトルはDemonというバンドを総括するものだと思ったんだ。コロナ中は、他のバンド同様多くの仕事がキャンセルになった。あの時日本にも行くはずだったしね。それであの当時、チャンスというもの逃げてしまったと思ったのだけれど、突如またチャンスが現れ、自分たちは無敵だと感じたのさ。だからそれをアルバム・タイトルにしたんだ。
ー アートワークについてはいかがですか。タイトルと関係があるのでしょうか。
デイヴ:アートワークは俺たちの『フェイス・ザ・マスター』のビデオも作ってくれたアレックス・クーパーという若いアーティストによるもの。正直、これは彼が考えたアイデアなんだよ。何千年か前に地球にやってきた種の話がベースで、ちょっとその名前は忘れてしまったのだけれど、無敵の種なんだ。彼がアイデアを見せてくれた時、これだと思うと同時に、いつものDemonとは違うとも思った。これもコロナの時期から抜け出した新鮮さを表現しているというか。それでこれにしようと、すぐに決めたよ。この業界に長くいて、レコード店で働いていた経験もある身からすると、新たな注文が届いて箱を開けると、まず目に飛び込んでくるのはカバーで、その中にすぐに記憶に残るものがある。『Night of the Demon』は、間違いなくそういう作品だったとみんなに言われるよ。今回の作品も、他のアーティストとは違うものだから、覚えてもらえると思う。
ー 歌詞の内容はバラエティに富んでいますが、どのようなところからインスピレーションを得ているのでしょう。
デイヴ:俺はどこに行くにも必ずノートを持っていくんだ。そして気になったものをすべてメモしていく。生活の中で起こっていること、興味深いと思ったこと。そして曲作りをする時に、そのノートを振り返って、作品にピッタリハマるものを見つけるんだ。初期の頃からそうしているよ。『Night of the Demon』でももちろんそう。バンド名はDemon。そして、ステージで俺はラテックスのスーツを着て、墓から出てきていた。だから、アルバムのタイトルは『Night of the Demon』。『The Unexpected Guest』では、基本的にそれをもう少々推し進めた。人生において理解できないこととか。「Sign of a Madman」が、ジョン・レノンが撃たれたことについてだというのは、あまり知られていない。『The Plague』は、故Mal Spoonerと一緒に書いた。新聞で読んだことを元に書いていったんだ。
ー 「ゴースト・フロム・ザ・パスト」には「Creeping like a nun」というフレーズがありますが、これは「Lady Madonna」からの引用ですよね。
デイヴ:(笑)。ニールは俺より少々若くてね、彼が言っていたんだ。「このフレーズは一体どういう意味なんだ?」って。俺は、「いや、これはこういう言い回しなんだ。誰が使ったと思う?ビートルズをチェックしてみな」って。俺はビートルズに大ファンなのさ。Pink Floydとかとともにね。ちなみに「ゴースト・フロム・ザ・パスト」というのはイギリスの言い回しなんだ。ずっと姿を見なかった誰か、あるいはまだ生きているのかわからないような誰かに突然出会った時に使う。
ー そもそもバンド名をDemonとしたのは何故だったのですか。
デイヴ:もともとはBig Demonという名前だったんだ。当時いくつか曲を書いていて、その中の一つが「Liar」だった。ファースト・シングルで、『Night of the Demon』にも収録された。その頃クレイ・レコードのマイク・ストーンと知り合った。彼は当時から俺たちのマネージャーで、もう40年来のつきあい。クレイ・レコードというのは、GBHやDischargeを出していたレーベルさ。彼はお店をやっていて、そこに行ったんだ。「君は何をしているの?」と聞かれたので、Big Demonというバンドをやっていると言ったら、聴かせてくれるかと。インディペンデント・レーベルを始めたらしく、当時としては面白いと思ったよ。それがクレイ・レコードさ。曲を聴かせると、「Liar」を録音しようと。オックスフォードシャーに車で向かい、マイクが前に座って、後ろには何かデカい奴が座っていた。到着後、俺がマイクに「後部座席にビッグ・デーモンがいたのか?」って聞いたら、「いや、後部座席には誰もいなかったよ。前にデーモンが座っていただけで」と。そして彼は突如、「Big DemonはやめてただDemonという名前にしたらどうか?」と言い出したんだ。それでオックスフォードシャーのスタジオに入って「Liar」を録音して、帰ろうとしたら、マイクが「B面はないのか?」と言い出した。俺はないと言ったのだけど、スタジオに戻って1曲やろうと。それで「Wild Woman」をやった。わずか2分ほどのね。初めてイギリスのRadio Oneで放送されたのが、あの曲だったよ。まあともかく、Demonという名はBig Demonから来たのさ。このバンド名だから、ファースト・アルバムのタイトルが『Night of the Demon』となったのも必然。これは50年代の映画のタイトルでもあるけれどね。そして、クレイ・レコードお抱えのアーティストがアートワークを手がけることになった。彼は曲も聴いたこともなかったのだけれど、あの不気味な写真を撮ってね。俺はそのことを知らず、事前にどんなジャケットなのか見ることもなかった。当時はそうだったんだよ。インターネットもなかったし、簡単に写真を送ることもできなかったから。マイクにアルバムのミックスができたと伝えたら、カバーはすでに頼んであって、とても良い出来だと。その後、マイクの店に行って、初めてカバーを見た。ショーケースに20枚ほどのアルバムが置いてあったから。思わず逃げ出しそうになったよ。オーマイゴッド、何ていうものを作ってしまったんだって。当時はそんなものさ。細かく計画されたものではなかったんだ。Demonというバンド名にふさわしいものを書こうと思って、それがファースト・アルバムだった。そして会ったこともない人間があのカバーを作って、その後はご存知の通り。オカルトや邪悪なイメージにどっぷりと浸かりたかった訳ではない。ただバンド名がDemonだったからね。マル・スプーナーと一緒に「Night of the Demon」を書いた時のことを覚えているよ。あれは10分ほどで書いた。45年も前のことさ。店の裏でね、俺が歌詞を書いて、マルは「これはいいね、デイヴ」と言っていた。「どうやって思いついた?」と聞かれたのだけど、わからなかった。ただ「There’s scream in the night, There’s death on the wind」って歌っていただけで。となると、次はそのテーマに沿っていくことになる。俺たちはDemon。アルバムは『Night of the Demon』。俺たちはずっとホラー映画が好きだった。ハマーホラーとかね。だから、次々とそういう曲を書いていった。コンセプトにピッタリだと思ったから。カバーがあれだから、次はそれをステージでやるということになる。俺たちはブラック・メタル・バンドというつもりはなくて、やっていたのはもっとずっとメロディックなものだった。メロディックなものとああいう歌詞はうまくハマらない場合もあるだろうけれど、俺たちの場合はうまくいった。セカンド・アルバムでは、俺の哲学は基本的に同じものを2枚作らないということだった。俺はボウイやBeatles、Pink Floyd、Deep Purple、Sabbathなんかを聴いて育ったからね。彼らも同じアルバムを2回作ることはなかっただろう?『The Unexpected Guest』では、何だかはっきりとわからないものがテーマだった。「Don’t Break the Circle」は、パリでアレイスター・クロウリーが悪魔を召喚しようとしたことだし、さっき言ったジョン・レノンもある。「Strange Institution」は、パーキンソン病にかかってしまった父親についてだった。悲しい時期だったな。俺たちは他のタイプのものもやれると思ったし、『The Plague』では当時起こっていたことをテーマにした。俺にとって『The Plague』が素晴らしかったのは、アメリカではアトランティック・レコードから出たことさ。Led Zeppelinやオーティス・レディングとか、偉大なアーティストたちがアトランティックの所属だったからね。いずれにせよ、俺たちは『Night of the Demon』というオカルト色の強いものからスタートして、そこから進んでいったのさ。同じことを繰り返したくはなかったから。
ー 今言われたように、イメージの邪悪さと楽曲のキャッチーさというコントラストがバンドの魅力の一つだったと思うのですが、これは意識的なものだったということでしょうか。
デイヴ:もちろんそうさ。まあ、『Night of the Demon』が出た時に、レコード会社はそのイメージに合うものをやって欲しいという意向だったので、ラテックスのスーツを着てツノをつけてなんていうステージをやった。ヨーロッパのとても小さい会場で。あれはとてもうまく行ったよ。その後45年もバンドを続けてきているからね。NWOBHMの本を持っていて、それには150くらいのバンドが載っているけれど、俺もすべてのバンドを覚えている訳ではない。バンドというのは特別な何かと結び付けられるものだ。俺はDemonが『Night of the Demon』やNWOBHMに結び付けられることは別に構わない。長い時間をかけて進んで来た中で、多くのバンドはもう存在していない。でもDemonはまだ活動していて、初期とは違ったスタイルでわりと成功してきた。それでも『Night of the Demon』と結び付けられ、あのジャケットが今でも名作とされることに問題はないよ。ロックのジャケットベスト50みたいのがあると、あれはたいてい含まれている。今こうやって年を取って、振り返ってみると少々変えたいと思うことはある。振り返ってみると、Demonというバンド名が足枷になることもあったと思う。今でもニュー・アルバムを出すのはDemon名義。だけど、これまでに14枚のアルバムも出している訳で、みんな俺たちをDemonとして知っているのだからね。この名前の良さというものもあるよ。
ー 初期の頃はどのようなアーティストからインスピレーションを受けていたのでしょう。
デイヴ:俺はずっとロックが好きだった。ヘンドリックスは素晴らしかったし、Floyd、Purple、ボウイ。一方で、俺は良い曲というのも好きだった。これが俺たちが少々奇妙でユニークな、つまり歌詞はヘヴィであるにもかかわらず、コマーシャルなサウンドの理由だろう。最近のバンドでもいるよね。Ghostとか。彼らはヘヴィな内容を歌っているけれど、とてもコマーシャルで、ビッグなバンドだろう?Demonがやっていたのもそれさ。ああいう歌詞に合わせたデス・ロックみたいのはやらなかった。ヘヴィな内容とコマーシャルなもの。俺のコレクションには、あらゆる時代のロックのアルバムが揃っている。いつ聴いても興味深いもの。まあ初期のインスピレーションとなると、やっぱりPurple、Sabbath、Led Zeppelin、それからもちろんPink Floydだね。こういうものが俺の中にあるんだ。それからまだ幼い10代だった頃は、Beatles、そしてもちろんStones。彼らには何らかのマジックがあった。バンドを始めた頃、ああいうものを試したかった。伝統を付け加えようというのがDemonのやり方だったよ。
ー ヴォーカリストとしてのロールモデルはいましたか?
デイヴ:素晴らしいヴォーカリストはたくさんいる。ディオは好きだったな。彼とはヨーロッパのフェスティヴァルで何度も共演した。彼は小さかったけれど、本当に素晴らしいヴォーカリストだった。スウェーデン・ロックやドイツで一緒にプレイした時、彼は本当にパワフルで、バーで話もしたな。小さいのにマイクロフォンが必要ないくらいのパワーだった。出番が彼の後でなくて良かったよ。プログレッシヴなものも好き。Jethro Tullとかね。それほど前のことではないけれど、イアン・アンダーソン、というかスウェーデンでJethro Tullを見た。この時も、出番が彼らの後でなくて良かったと思ったよ。本当に素晴らしかった。とにかく素晴らしいヴォーカリストはたくさんいるよ。カヴァーデイルももちろん素晴らしいし。俺は良い曲、良いメロディ、良いアレンジ、そしてクラシックなヴォーカルが好きなんだ。
ー 個人的にお気に入りのDemonのアルバムはどれですか。
デイヴ:これは難しい質問だな。例を挙げよう。あれはコロナの前で、2016年だったと思う。『Night of the Demon』と『The Unexpected Guest』の曲だけでライヴをやってくれと頼まれてね。まあラテックスのスーツを着て墓から出てくるというのはやらなかったけれど、ちょっとした芝居をやって、とても楽しかった。それから突然とあるドイツ人から、『Taking the World by Storm』をプレイしてくれと頼まれた。これは『The Plague』と他のプログレッシヴなアルバムとの中間みたいな、わりとうまくいったアルバムなんだ。ライヴでは「Remembrance Day」や「Time Has Come」はプレイしていたけれど、アルバム全部をプレイしたことはなかった。これをリハーサルしていたら、バンドが「ワオ、これはビッグで素晴らしいアルバムですね!』って。俺は毎日Demonのアルバムを聴いている訳ではないけれど、時々聴き直すと色々と記憶がよみがえってくる。そう、あのアルバムに関する逸話を一つ紹介するよ。当時リヴァプールのアマゾン・スタジオというところでレコーディングしていてね。あそこは2-3個部屋があって、俺たちはその中の一つで「What Do You Think About Hell?」という曲をミックスしていたんだ。ちょうどその時、別のミキシング・ルームで、トニー・アイオミと、亡くなってしまったドラマー、何ていう名前だっけ?『Headless Cross』で叩いていた。
ー コージー・パウウェル?
デイヴ:そう、コージー。彼らが『Headless Cross』のミックスをやっていたんだ。ところが途中で機械がストップしてしまった。デカい機械でね。フロッピーディスクを使うやつ。それで直しておくからまた翌朝来てくれと言われた。翌朝行ってみると、その機械のまわりにニンニクと十字架が置いてあった。スタジオの従業員に「どうなってるんだ?」って聞いてみたら、彼は「Black Sabbathがあっちで『Headless Cross』をミックスしているでしょう。ここではDemonが『What Do You Think About Hell?』をミックスしている。そしてお決まりの故障。となると安全策を取るしかないですよ」って。それで彼はニンニクと十字架を置いたんだ。そのせいか、次の日はきちんと作動したよ(笑)。ちょっと話が長くなりすぎたな。
ー では最後に日本のDemonファンへのメッセージをお願いします。
デイヴ:ハロー・ジャパン。まず、ニュー・アルバムが日本でもリリースされるとのことでとてもハッピーだ。ずっとサポートしてくれてありがとう。多くの人たちがアルバムを買い続けてくれていることを知っているよ。年を取ってくると、こういうことに感動するんだ。ニュー・アルバム、シングルを気に入ってくれるといいな。早くアルバムを聴いて欲しい。体に気をつけて。君たちの神が君たちと共にありますように。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- イントロ
- イン・マイ・ブラッド
- フェイス・ザ・マスター
- ゴースト・フロム・ザ・パスト
- ビヨンド・ザ・ダークサイド
- ホール・イン・ザ・スカイ
- ブレイク・ザ・スペル
- ライズ・アップ
- インヴィンシブル
- クレイドル・トゥ・ザ・グレイヴ
- ブレイキング・ザ・サイレンス
- フォーエヴァー・セヴンティーン
- フォーエヴァー・セヴンティーン (アコースティック・ヴァージョン《日本盤限定ボーナストラック》
【メンバー】
デイヴ・ヒル (ヴォーカル)
デイヴ・コッテリル (ギター/ヴォーカル)
ポール・ヒューム (ギター/ヴォーカル)
ポール”ファスカー”ジョンソン (ベース/ヴォーカル)
ニール・オグデン (ドラムス/ヴォーカル)
カール・ウェイ (キーボード)