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ネージュ
(Alcest)
独占インタビュー

今回はAlcestの持つ
この世のものとは思えないような
ノスタルジックな夢をみるようなサイドへと
戻る必要があったんだ
これはとても重要なことさ

                                   

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文:川嶋未来 写真:Andy Julia

フランスのAlcestがニュー・アルバム『Les Chants de L’aurore』をリリース。と言うことで、リーダーのネージュに話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『Les Chants de L’aurore』がリリースになります。過去の作品と比較して、どのような仕上がりになっていると言えるでしょう。

 

ネージュ:『Kodama』(16年)と『Spiritual Instinct』(19年)という前2作は、Alcestの作品としてはかなりダークで、それ以前のものよりも少々ヘヴィだった。今回は、Alcestの持つこの世のものとは思えないような、ノスタルジックな、夢をみるようなサイドへと戻る必要があったんだ。これはとても重要なことさ。俺はそういうサウンドこそが真のAlcestだと考えているから。だから、ファースト・アルバムへ回帰したような感じと言える。だけど、今はあの頃よりもたくさんの経験、音楽に関する知識があるからね。ファースト・アルバムと同じアプローチを取ったとしても、今やればまったく違ったものになる。自分の過去に立ち戻るというのは、とても新鮮だったよ。今持っている知識をすべて使って、ファーストのような作品を作ったのだけど、もっとサウンドトラック的なサウンドにしたかった。さまざまなアレンジを施してね。みんなにはノスタルジアやメランコリーといった、とても美しいフィーリングを感じて欲しい。それに、ポジティヴなものを作りたかったというのもある。今の世界の状況はとても良くないよね?そのネガティヴさに圧倒されてしまう。だから人々を現実から逃避させ、ポジティヴに感じさせるものを作ることが重要なんだ。メタル・シーンというのは常に暗闇や憎しみを取り上げるけれど、俺はそういうものには興味がない。世界中のすべてのメタル・バンドが憎しみや暗闇を歌っているけれど、それは俺がやりたいことじゃない。俺の中にはそういう要素がないんだ。そういう感情を持っていないんだよ。俺には他に伝えたいことがある。それを気に入ってくれる人、気に入らない人もいるかもしれないけれど、バンドを始めた頃からずっと、人々に美しいフィーリングを感じさせるものを作ることが俺のゴールなんだ。

 

ー タイトルの『Les Chants de L’aurore』というのは、「夜明けの歌」、「オーロラの詠唱」など、いくつかの意味を持ちます。あなたとしては、どのような意図でこのタイトルをつけたのでしょう。

 

ネージュ:そうだね、色々な意味になるけれど、まず今回はフランス語のタイトルにしたいというのがあった。過去3作のタイトルは、フランス語ではなかったから。『Kodama』は日本語だったしね(笑)。このアルバムは、俺にとって再生、ルネッサンスという側面を持つもの。「夜明けのチャント」を歌うというのは、新しい始まり、新しい朝という感じ。新しいサイクルが始まるということ。それからシンセサイザーによるクワイヤにせよ、本物の人間の合唱にせよ、本作には過去の作品よりもたくさんのチャント、ヴォーカルが入っている。ヴォーカルが大きな位置を占めているというのも、このタイトルの参照するところ。それに、アートワークにもピッタリのタイトルだったからね。あのアートワークは、とても温かくて夢のよう。俺はAlcestを全体的に捉えているんだ。音楽だけではなく、ヴィジュアル面、歌詞、写真、ミュージック・ビデオなんかも含めて。音楽はその一部でしかないんだ。

 

ー そのアートワークについてもお聞きしようと思っていました。

 

ネージュ:あれはオーストラリアの『The Spirit of the Plains』という絵画が元になっている。俺のお気に入りの作品で、それをフランス人のアーティストに再解釈してもらったんだ。オリジナルの作品は横長で、カバーにはうまく収まらなかったから。それであれをリアレンジしてもらった。あれは見たままの油絵で、コンピューターは一切使われていない。多くのバンドがデジタルやAIを使ってアートワークやヴィジュアルを作っているけれど、俺はそういうのは好きじゃない。ああいうのは手抜きだし、真のアーティストに対する冒涜だよ。伝統的な絵画にしたのは、そういう風潮に対する「ファック・オフ」でもある。

 

 

ー 先ほど言われた通り、今回のタイトルはフランス語です。英語にする場合、日本語にする場合、それぞれ何か違いはあるのでしょうか。

 

ネージュ:俺の耳にどう響くかがすべてなんだ。『Spiritual Instinct』は、フランス語にしてしまうと非常にダサいんだよ(笑)。だから英語にした。音楽と同じように、俺の耳に良く響くかどうかさ。

 

ー 歌詞の内容は、具体的にどのようなものですか。「木漏れ日」という非常に美しい日本語タイトルを持つものもあります。

 

ネージュ:俺がAlcestを始めた理由は、子供の頃、自分は別次元とつながりがあるように感じていたからなんだ。俺たちは今、人間としての人生を経験するためにこの地球にいるけれど、俺は俺たちみんなどこか別の場所から来たと信じている。俺たちの真の家はここではない。生まれ変わりを信じているし、俺たちは精神、魂として成長するために、何度も何度も生まれ変わるのだと思っている。それで、子供の頃は別の世界とつながっているように感じていたんだ。もしかしたら俺たちがやって来たところかもしれない。だけど俺は宗教的ではないし、宗教は信じていない。この考えは俺自身のものであり、誰かを説得しようとも思わない。だけど、そういう経験に大きなインパクトを受けたから、Alcestを始めたんだよ。生や死というものの見方を完全に変えられたから。死んだら家に帰ることがわかっているからね。俺の歌詞、作るヴィジュアルは、すべてこれについて。これこそがAlcestなのさ。Alcestの音楽は、どれも俺が自分の家から切り離され、どう感じているかについてさ。

 

ー 具体的に「木漏れ日」はどのような内容なのですか。

 

ネージュ:木漏れ日というのは、木々の葉を通じてさす太陽の光のことだよね?

 

ー その通りです。

 

ネージュ:俺は春という季節が大好きで、春に森へ行くと、葉の間から差す日の光にすっかり魅了されてしまう。日本語の「木漏れ日」は、俺にとってあの感じを表す完璧な言葉なのさ。「木漏れ日」という単語を英語やフランス語に訳すことは不可能だよ。日本にしかない、日本らしいコンセプト。そういう日本語って他にもあるよね。「旨味」とか。他の言語には訳せない、とても美しい言葉。「懐かしい」という単語も、ノスタルジアを表すのだろうけれど、それ以外の含みもある。日本語はとても美しい言語だと思うよ。俺の趣味は日本語を勉強することだからさ(笑)。(日本語で)シュミデス。

 

ー 「月の子」という曲もあります。

 

ネージュ:ハイ。もちろん、かぐや姫は知っているよね?かぐや姫というのはお話の中、あるいはタカハタサン(高畑勲監督)の映画の中で、月からやって来るだろ。そして彼女は自分の居場所は地球ではないと感じている。俺も同じように感じているということさ。生まれた時からずっと、俺はどこか違うところからやって来たと感じているんだ。

 

ー フランスの詩人、ギョーム・アポリネールの詩も引用されています。

 

ネージュ:ハイ。俺はフランスの詩が大好きなんだ。シャルル・ボードレール、ヴェルレーヌ、アポリネールとか。Alcestで忙しいので、なかなか時間がないから、詩はちょうど良いんだよ。短いから。それに詩からはさまざまな感情が感じられる。詩の構成は、曲の構成に似ている。詩にはリズム、メロディ、そしてたくさんの感情がある。俺もそうやって詩を書こうとしているよ。優れた詩人ぶるつもりはないし、当然達人たちに比べると劣るけれどね。だけど歌詞を書く時は、少々詩みたいに書こうとしているんだ。フランス語で歌詞を書くのは難しい。音楽に乗せると、時に不恰好に聴こえる言語だからね。なかなかピッタリの言葉が見つからないこともあって、たった1単語を決めるのに何日もかけることがあるよ(笑)。

 

 

ー アルバムには多くのゲストが参加しています。Gísli Gunnarssonはアイスランドのミュージシャンですよね。

 

ネージュ:そう、彼はアイスランドのミュージシャンで、アルバムのアレンジメントとヴォーカルを少々やってくれた。日本でも報道されたかわからないけれど、アイスランドで火山が爆発して、村がまるまる破壊されそうになったんだ。彼はその村に住んでいて、俺もレコーディングのためにそこへ行ったんだよ。その村は、今は火山に完全に破壊されてしまった。とても奇妙な体験だよ。

 

ー 彼はどのようなアレンジを担当したのですか。

 

ネージュ:アンビエントっぽいのやストリングス、クワイヤとか。インダストリアルっぽいサウンドも少々。色々とやってくれたよ。

 

ー Gregory Hoepffnerという人物も、アンレジャーとしてクレジットされていますね。

 

ネージュ:彼はエレクトロニックやポップスのフィールドの人物で、スウェーデン在住のフランス人。彼もアレンジをやってくれたけれど、ギズリーほど多くはないよ。

 

ー Elise Arangurenがゲスト・ヴォーカルとしてクレジットされていますが、彼女はツアー・マネージャーですよね?

 

ネージュ:そう、彼女はWatainのツアー・マネージャーだから、フェスとかで会ったことがあるんじゃないかな。とても若いのだけれど、Mayhemとももう7年くらい仕事をしているはず。18歳の頃からMayhemとツアーしているから、おそらく業界で一番若いツアー・マネージャーじゃないかな(笑)。彼女はとても良い友達で、ヴォーカルで参加してもらったんだ。

 

ー ハルナ・ナカイエというのは誰なのでしょう。名前からすると日本人ですよね。

 

ネージュ:彼女はフランス在住の日本人。ヴィオラ・ダ・ガンバの先生なんだ。ピアノとヴィオラ・ダ・ガンバを教えている。「月の子」の最初で喋っているのが彼女だよ。ヴィオラ・ダ・ガンバもプレイしてくれている。

 

ー France Lafumatという人物もゲスト・ヴォーカルで参加しています。

 

ネージュ:彼女はいとこなんだ(笑)。

 

ー ミックスはクリス・エドリッチが手がけています。彼を起用した理由は何ですか。

 

ネージュ:彼はヨーロッパで一番のサウンド・ガイさ。デヴィン・タウンゼンドとか、多くの素晴らしいアーティストと仕事をしている。俺たちのライヴでもサウンドを担当してくれて、ヘルフェストのライヴ録音をミックスしてくれたも彼さ。その仕上がりがとても良かったから、アルバムも彼に頼もうと思ったんだ。レコーディングは自分たちでやったのだけれど、ミックスはクリスに頼んだ。

 

ー 非常にオーガニックなサウンドに仕上がっていますよね。

 

ネージュ:そう、ほとんどコンプレッションをかけていないんだ。マスタリングで音量を上げていないから、他のメタルのアルバムと比べると、ボリュームを相当あげなくちゃいけないよ。コンプレッションでディテールが失われるのが嫌だったから。すべてのダイナミクスを残したかったんだ。やたら音量をあげるマスタリングは好きじゃない。多くの感情が失われてしまうからね。

 

 

 

ー 最近はどんな音楽を聴いているのですか。

 

ネージュ:最近は、青葉市子がお気に入り。とても有名なフォーク・シンガーだよ。とても美しい音楽をやっているんだ。それからAphex Twinも大好きで、しょっちゅう聴いている。フランスのAIRも大好き。

 

ー 彼らは素晴らしいですよね。

 

ネージュ:そうなんだよ。実はメタルは全然聴いていない(笑)。フォークやテクノ、インディ・ロックばっかり聴いているよ(笑)。あと日本のシューゲイズ・バンド、For Tracy Hydeも大好き。

 

ー 日本語の勉強ははかどっていますか。

 

ネージュ:(ここからは日本語で)本当に難しい。毎日頑張っていますけど、本当に難しい。漢字を書くのが特に。

 

ー ひらがなとカタカナは全部覚えた?

 

ネージュ:はい、ひらがなとカタカナは大丈夫ですけど、漢字は本当に難しい。

 

ー 漢字はたくさんありますからね。

 

ネージュ:たくさんあります。日本人は多分2-3000くらいわかる?私は400だけ。

 

ー でも400わかれば、かなりのものを読めるんじゃないですか。

 

ネージュ:でも来年か2年後にはペラペラになりたいです。毎日頑張ります(笑)。

 

ー では最後に日本のファンにメッセージをお願いします。これも日本語で。

 

ネージュ:Alcestの日本のファン、本当にありがとうございます。もうすぐ日本に行きたいですけど、行けるかまだわからない。本当に日本に行きたいです。

 

文 川嶋未来

 


 

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2024年6月21日

Alcest

『Les Chants de l’Aurore』

CD

【CD収録曲】

  1. 木漏れ日
  2. ランヴォル
  3. アメジスト
  4. フラム・ジュメル
  5. レミニセンス
  6. ランファン・ドゥ・ラ・リュヌ
  7. ラデュー

 

【メンバー】
ネージュ (ヴォーカル/ギター/ベース/シンセ/ピアノ/グロッケンシュピール)
ヴィンターハルター (ドラムス/パーカッション)