スウェーデンが生んだパワー・メタルの覇者、ハンマーフォールが2019年8月、最新アルバム『ドミニオン』を発表する。
盟友フレドリック・ノルドストローム(アーチ・エネミー、アット・ザ・ゲイツ他)をプロデューサーに迎えて、スウェーデンのハード・ロック/ヘヴィ・メタルの伝統を凝縮させた豊潤なサウンドは、パワーとメロディがさらに強化。第11作にしてハンマーフォールが新たなる高みに達したことを宣言している。
2019年9月14・15日にZEPP DIVERCITY TOKYOで開催されるライヴ・イベント“METAL WEEKEND 2019”の2日目にヘッドライナーとして出演することも決定。勢いに乗るハンマーフォールのヴォーカリスト、ヨアキム・カンスに、メタル界の“ドミニオン=制覇・覇権”について語ってもらった。
- ー 『ドミニオン』はハンマーフォールの歴史において、どんな位置を占めるアルバムですか?
これまで作ってきた中で、最も鮮度が高くて生命力に溢れるアルバムだ。すごく誇りにしているよ。時間をかけて作ったのに、ライヴ・フィーリングがあるんだ。アルバムの曲作りは2017年の夏に始めた。当初は今年(2019年)の初めにリリースする予定だったんだ。ただ前作『ビルト・トゥ・ラスト』(2016)の北米での反応がすごく良くて、2度目の北米ツアーをやることにした。それで新作の発売がズレて、スタジオでディテールにこだわる時間が出来たんだ。良いワインを寝かせておくことで芳香を増すように、しばらく時間を置いてから聴き直して「メロディのこの部分を直した方が良いかもな」とか、あらゆる可能性を試してみたよ。ツアー中にもオスカーがツアー・バスの後部にミニ・ホーム・スタジオを設置して、簡単なデモ・レコーディングをした。ライヴが終わると、ステージ上のアドレナリンをそのまま、汗も拭かずにギターを弾いていたね。
- ー 『ドミニオン』で新しい試みはありましたか?
自分たちの限界を超えようと、チャレンジを繰り返したよ。ソングライティングでも時間ギリギリまで、良い作品にしようとベストを尽くしたし、ツアー中に曲を書いたりもした。俺のヴォーカル・メロディでも大きな挑戦をしている。“自分の声域に合ったメロディ”ではなく、“曲にとってベストなメロディ”を歌うようにしたんだ。安全策は採らなかった。戦場には臆病者の居場所はないんだ。
- ー そんなチャレンジ精神を最も顕著に聴くことが出来るのは、どの曲でしょうか?
全曲だよ!バンド全員がベスト以上を尽くして、自分自身をプッシュした。ピアノ・バラード「セカンド・トゥ・ワン」もチャレンジだった。オスカーと俺でロサンゼルスに4日間行って、プロデューサーのジェームズ・マイケルと共作することにしたんだ。最悪の可能性は、ロサンゼルスの太陽の下で週末を過ごして、手ぶらでスウェーデンに帰国するというものだった。最高の可能性は、仕上がった曲を持ってスウェーデンに帰国するというものだ。失うものは何もなかった(笑)。結果として「セカンド・トゥ・ワン」が仕上がったから大成功だったよ。必殺の曲に仕上がったと信じている。
- ー アルバム作りにあまり時間をかけてしまうことで、生々しいフィーリングを失ってしまうリスクもあったでしょうか?
そうなってしまわないように気を付けた。時間はかけたけど、必要以上に曲のアレンジをいじらないようにしたんだ。すべてをキッチリ完璧に配置する必要はない。それよりハートの奥底から湧き上がる、正直なミックスを心がけたよ。ライヴのワン・テイクみたいにね。デフ・レパードの『ヒステリア』みたいにスタジオで作り込んだ作品は素晴らしいけど、彼らだから出来たことで、俺たちには向いていないと思う。
- ー 10作目となる『ビルト・トゥ・ラスト』を発表した後、初期2作『グローリー・トゥ・ザ・グレイヴ』『レガシー・オブ・キングス』の20周年アニヴァーサリー・エディションをリリースするなどしましたが、それはハンマーフォールのひとつの時代を締め括る時期だったのでしょうか?
うん、その通りだ。『ドミニオン』はハンマーフォールの“未来”が始まる瞬間だよ。このバンドには50歳を超えたメンバーもいるけど、新章に向かって突っ走っていく。キャリアの長いバンドだと、ライヴで盛り上がるのは初期の曲だったりする。でも俺たちは新曲でも勝負出来る。常にピークを更新し続けるんだ。
『ドミニオン』は間違いなく、バンドの歴史の頂点だ。次のアルバムで、さらなる高みへと昇り詰めていくのが俺たちの使命だけどね!今、バンドは最高の状態だ。もう次のアルバム向けの曲を書いているほどだよ。
- ー 『ドミニオン』=“制覇・覇権”というアルバム・タイトルには、どんな意味が込められているのですか?
ブックレットを見れば判るけど、アルバムの曲にはそれぞれキャッチフレーズが付けられている。「ドミニオン」のものは“地獄の首都、大混沌にようこそ”というものなんだ。つまりバンドのマスコット・キャラクターのヘクターが魔王になって、地獄に君臨するというイメージだよ。誤解がないように言っておくと、「ハンマーフォールがヘヴィ・メタル界の覇者だ」だなんて言うつもりはない。そんなデカい口を叩くつもりはないよ。俺たちはメタル・ワールドの大きなパズルの1ピースであることに満足している。
- ー あなたは4月にプロモーション来日を行いましたが、その時点で『ドミニオン』は完成していたのですか?
うん、アルバムを完成させて、娘との韓国旅行にタイミングを合わせて日本に行ったんだ。その時点でまだ『ドミニオン』のプロモーションは始まっていなかったけど、日本のファンに生存確認をしておきたかった。日本に行くのはいつだって楽しいし、あらゆる機会に行くようにしているんだ。
「ワン・アゲインスト・ザ・ワールド」オフィシャル・ライヴ・ビデオ
- ー ハンマーフォールの音楽は韓国でも聴かれていますか?韓国に行くのは初めてですか?
韓国は初めてだった。プライベートな旅行だったし、ファン・ミーティングなどはしなかったから、どれぐらいファンがいるかは判らなかったんだ。改めてツアーで行きたいね。うちの娘がK-POPのファンなんだ。音楽だけでなく食べ物やカルチャー全般が好きなんで、一緒に行くことにしたんだよ。娘はもう15歳だし、パパと旅行なんてこれが最後だろうしね(寂)。
- ー ヘヴィ・メタル・シンガーとして、お嬢さんにK-POPを禁じたりしないのですか?
ははは、そんなことを言っても無駄だよ。それに俺自身、好きな曲もあるしね。良いメロディを耳にすると、娘に「それ、何て曲?」と訊いたりするよ。俺はK-POPの対象年齢層ではないだろうけど、親子で同じ音楽を聴くことが出来るのは楽しいね。俺の親とは、そういう機会がなかった。十代の頃、ヘヴィ・ロードを聴きまくっていて、しょっちゅう「音を小さくしなさい!」と叱られていたよ。
- ー 前作発表後、ドラマーのデイヴ・ウォリンが脱退して、ツアー後に戻ってきましたが、どんな事情があったのですか?
デイヴは家族と一緒に過ごす時間を必要としていたんだ。でも彼は音楽と家族との関係のバランスを取って、戻ってくることになった。彼はキャリアの絶頂期にあるし、最高のプレイをしているよ。新作のドラムスを聴いてもらえば、デイヴが凄まじいパワーを持っていることが判るだろう。アルバム全体が凄まじいエネルギーに満ち溢れているのは、彼の貢献が大きいね。
- ー バック・ヴォーカルにマッツ・レヴィンが参加していますが、彼との交流は長いものでしょうか?
マッツはバンド全員と、10年以上前からの友人なんだ。彼はイングヴェイ・マルムスティーンやセリオン、キャンドルマスなどとの活動で有名だけど、気さくにコーラスを手伝ってくれるし、もう3作連続でバック・ヴォーカルをやってもらっている。彼はスウェーデンのハード・ロック/ヘヴィ・メタルの歴史を代表する重要なシンガーの1人だ。
- ー 共同プロデューサーのフレドリック・ノルドストロームは、どのような形でバンドの音楽性に関与していますか?
フレドリックは最高のドラム・サウンドを得るのが得意なんだ。どこにマイクを置くか、どう空気感を捉えるか…という技術面もそうだし、ドラマーからベスト・プレイを引き出すアドバイス面にも長けている。彼は最終的なミックスも得意としているし、世界で最も過小評価されているプロデューサーの1人だ。スウェーデンで、とかメタル・プロデューサーとしてではない。地球上で、あらゆる音楽のジャンルで、彼は最高峰のプロデューサーだよ。フレドリックはアット・ザ・ゲイツやイン・フレイムスなどの作品を手がけてきたし、ハンマーフォールの最初の2作『グローリー・トゥ・ザ・グレイヴ』『レガシー・オブ・ザ・キングス』でも一緒に作業した。彼はイエテボリ・サウンドの父だよ。
- ー ヴォーカルのプロデュースはジェームズ・マイケルが手がけていますが、彼との作業はどのようなものでしたか?
ジェームズは自らが素晴らしいシンガーで、シンガーが抱きがちなフラストレーションを熟知しているし、どうすればシンガーがベストな歌唱を出来るかも心得ているんだ。俺は彼の判断に全幅の信頼を置いているし、彼と口論したことは一度もないよ。シックス:A.M.の『ヘロイン・ダイアリーズ』での彼のヴォーアルは素晴らしい。ジェームズはシンガーとしてもソングライターとしてもプロデューサーとしても一流なんだ。
- ー アルバム発表後の2019年9月14・15日に開催されるライヴ・イベント“METAL WEEKEND 2019”の2日目にヘッドライナーとして出演しますが、どんなステージを期待出来るでしょうか?
『ドミニオン』ワールド・ツアーがスタートして、ドイツの“ヴァッケン・オープン・エアー”やスウェーデンの“スウェーデン・ロック”フェスなどに出演してから日本に行くんだ。全身が熱い状態で東京のステージに立つことになる。ハンマーフォールのファンが栄光に包まれる瞬間になるだろう。
- ー 初日(14日)のヘッドライナーがLOUDNESS、2日目(15日)がハンマーフォールという構成ですが、これまでLOUDNESSとの接点はありましたか?
LOUDNESSとヘッドライナーを分け合うことが出来るのは光栄だ。俺たちはみんな彼らのファンなんだ。『クリムゾン・サンダー』(2002)の日本盤ボーナス・トラックとして彼らの「CRAZY NIGHTS」をカヴァーしたほどだよ。彼らのライヴは見たことがあるけど、まだ直接会ったことはないから、ぜひこの機会に話してみたいね。ビースト・イン・ブラックは最近出てきたメタル・バンドでは最高の部類に入るし、最高にクールなライヴ・イベントになるよ。ニュー・アルバムからの「(ウィ・メイク)スウェーデン・ロック」は5月、メキシコ・シティで初めてプレイしたけど、すごい盛り上がりだった。日本のファンがクレイジーになるのも楽しみにしているよ。
「(ウィ・メイク) スウェーデン・ロック」オフィシャル・ライヴ・ビデオ
- ー ところで、ハンマーフォールがプロデュースするシャンパン“ハンマーフォール・テンプラ−・キュヴェ”について教えて下さい。
“テンプラ−・キュヴェ”はハンマーフォール・ブランドのアルコール飲料の最新シリーズだよ。これまでビールやウイスキーを出してきたけど、別の選択肢を提示したかったんだ。数ヶ月前にウォッカも売り出して、今回がシャンパンだ。酒は決して大量に飲む必要はない、飲酒の質を高めるべきだということを主張したかった。もちろんハンマーフォールの名前をつけるなら、最高でなければならない。“テンプラ−・キュヴェ”はヘヴィ・メタルのファンでなくとも「これは美味だ!」と納得する味わいだ。いずれハンマーフォール・ブランドの日本酒も出したいんだ。それにはまず、日本のあらゆるサケを味わってみないとね(笑)!
取材・文 山崎智之
写真:Robert Tuchi
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2019年8月16日 世界同時発売予定
ハンマーフォール『ドミニオン』
【100セット限定 直筆サインカード付CD】 ¥3,500+税
【CD】 GQCS-90732 / 4562387209729 / ¥2,500+税
【日本盤限定ボーナストラック収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き】
【CD収録予定曲】
- ネヴァー・フォーギヴ・ネヴァー・フォーゲット
- ドミニオン
- テスティファイ
- ワン・アゲインスト・ザ・ワールド
- (ウィ・メイク) スウェーデン・ロック
- セカンド・トゥ・ワン
- スカーズ・オブ・ア・ジェネレーション
- デッド・バイ・ドーン
- バトルウォーン
- ブラッドライン
- チェイン・オブ・コマンド
- アンド・イェット・アイ・スマイル
- ユー・ウィン・オア・ユー・ダイ《日本盤限定ボーナストラック》
【メンバー】
ヨアキム・カンス (ヴォーカル)
オスカー・ドロニャック (ギター)
ポンタス・ノルグレン (ギター)
フレドリック・ラーソン (ベース)
デイヴィッド・ウォリン (ドラムス)
ハンマーフォール『ドミニオン』 詳細はこちら