元モ―ビッド・エンジェル、元メイヘム、そして現クリプトプシーという豪華すぎるメンバーが集結した新バンド、ウルティマス。ついにアルバム・デビューということで、ギタリストであるルネ・エリクソンに話を聞いてみた。
― ウルティマスは、もともとあなたのソロ・プロジェクトとして構想されたのでしょうか。
ルネ:いや、俺のソロ・プロジェクトというわけではなかった。デンマークの空港で友人にたまたま出会って、彼がこのバンドのアイデアをくれたんだ。確かメタル・マジック・フェスティヴァルの出演時だったと思う。メイヘムをやめてもう10年経つし、エクストリーム・メタル・バンドもずっとやっていない、ゲスト参加などはしているけど、俺自身のものと言えるものも何かやらなくてはと思い立ったんだ。それでアイデアを練って、リフなどを書き始めた。このバンドの基礎となる部分は、13年か14年には出来上がっていたのだけど、ふさわしいメンバーを見つけるのに、少し時間がかかってしまったんだ。最初のリフや音楽のアイデア、骨格が出来上がると、フロ(ムニエ)に連絡した。彼とは一緒にやったことがあったし、彼とプレイするとケミストリーを感じられたからね。そしたら彼もぜひ参加したいと。ヴォーカリストも見つけていたのだけど、あまりうまくいかなかったから、ベースとヴォーカルは探し続けていた。ある時家でワインを飲みながら、オールドスクールなデス・メタルを聴いていたんだ。それでモービッド・エンジェルが流れてね。そうだ、デイヴィッドがいいって。彼とは時々連絡を取り合っていたし。確か『Covenant』の曲だったと思う。それですぐにデイヴィッドに連絡をしたんだ。ちょうど彼がモービッド・エンジェルを抜けたというアナウンスをした直後でね、「もしお互いの時間が合えば、一緒に何かやりたいね」という感じで書いたのだけど、すぐに返事が来た(笑)。翌朝電話で話して、早速彼の参加が決まったんだよ(笑)。というわけなので、決してソロ・プロジェクトという意図はなかった。メイヘムの時に書いていた音楽の続きをやるという感じではあったけれど。俺の遺産をさらに強化してね。
― ウルティマスはプロジェクトではなく、パーマネントなバンドという認識で良いのですよね。
ルネ:その通りだよ。これはプロジェクトではない。ライヴやツアーもたくさんやる予定だし、すでに次のアルバム用に11−12曲のアイデアが出来上がっている。3人にとって、とても良いタイミングだったと思うんだ。確かにクリプトプシーはうまくやっていて、デイヴィッドもカントリーのバンドをやってるし、俺もAura NoirやEarth Electricをやっているけれど、みんなウルティマスのようなバンドをやる必要性を感じていたのさ。デイヴィッドは110%このバンドをやる気になっているし、3人誰にとってもこのバンドが最優先さ。証明しろと言われても困るけど(笑)、炎が燃え盛っている時には、110%全力を注ぐというのは重要なことさ。
― ウルティマスの曲は、すべてあなたの手によるものですか。
ルネ:俺が唯一のギタリストだからね。デイヴィッドはベースも弾いていないから、俺だけが弦楽器を弾くわけで、リフやメロディはすべて俺が書いているよ。だけど一方で、他の二人がいなければ、これらの曲が完成しなかったのも事実だ。フロからのドラムのインプットや彼の演奏力がなければ、いくつかのリフは思いつかなかっただろう。テニスみたいなものさ。相手が強ければ強いほど、実力が発揮できるみたいな(笑)。デイヴィッドはパズルを完成させるというか、曲の構成を仕上げるのがとても得意なんだよ。アレンジャーとしてね。だから、このアルバムは三人の共同作業の結果だと言える。ギタリストとしてリフを書いたのは俺だけど、二人からのインプットがなければ完成しなかったね。
― ベーシストのクレジットがありませんが、あなたが弾いたのですか。
ルネ:俺がすべて弾いてる。実はスタジオに入る前にアクシデントがあってね、デイヴィッドがガラガラヘビに手を噛まれてしまったんだよ。スタジオに入る、わずか4日くらい前にね。確か彼は俺たちよりも6−7日遅れてスタジオにやってきた。彼もここまで準備していたのだからキャンセルはしたくないということで。最初の1週間は、俺とフロとプロデューサーでスタジオにいたのだけど、その後現れたデイヴィッドは手に巨大な絆創膏を貼っていてさ(笑)。強力な毒だったらしく、ほとんど首にいたる部分までが腫れ上がっていた。当然、彼はベースに触ることすらできない状況だったんだ。まあ、俺はメイヘムでもよくベースをレコーディングしていたし、曲は俺が書いたものだからリフも完全に把握していたからね。自分でベースを弾くことに何の問題もなかったよ。不幸な出来事ではあったけど、これによってバンドの状況が変わったのも事実さ。というのも、デイヴィッドはステージでもベースを弾かないということになったんだ。ヴォーカルに専念にするのが夢だったようでね。ベースを弾きながらというのは、ステージで足かせになるというようなことを言っていたから。ヴォーカリストとしてやりたいことがやれないと。デイヴィッドは間違いなくエクストリーム・メタル界最高のフロントマンの一人だから、ベース無しでどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、とても楽しみだよ。
「プリヴァリダス」オフィシャル・トラック
「モノリリス」オフィシャル・トラック
― 先ほど音楽的にはメイヘム時代の遺産というお話がありましたが、モービッド・エンジェル的な要素も非常に強く感じました。もちろんデイヴィッドがヴォーカルですから、それだけでモ―ビッド・エンジェルっぽくなるのは当然ですが、そのあたり意識したのでしょうか。
ルネ:メイヘム時代の遺産と言ったのは、メイヘムの時代に俺が作り上げた遺産、作り上げたと言えるといいけど、つまりエクストリームなもの、と言っても音楽的なものに限らず、思想や考え方みたいなものということさ。初期のモービッド・エンジェルっぽい部分があるというのは、確かに俺は曲を書く時に、それを誰が歌うのかということを念頭に置いているからね。もちろんドラマーが誰かも意識をしている。だから、このアルバムの曲は、デイヴィッドが歌って、フロがドラムを叩くことを想像して書かれているんだ。そうなると、ダークスローンみたいなシンプルなリフにはならないだろ(笑)。もっとストレンジなものにならざるを得ない。この二人からのインスピレーションが、俺の中にあって、それがリフにも現れているのさ。それに、そもそも俺はオールドスクールなデス・メタルのファンだからね。モービッド・エンジェルのファースト、デスのファースト、オビチュアリーのファースト、昔のペスティレンスとかも大好きなんだ。だから、ウルティマスの音楽はオールドスクールなデス・メタルを今日的なやり方でやったものと、ブラック・メタルのハイブリッドと言えるね。
― 歌詞は全てデイヴィッドの手によるものとのことですが、あなたから何らかの指示は出したのでしょうか。
ルネ:いや、出していない。このバンドでは、みんなに自由に自己表現をしてもらいたいからね。音楽的には俺が曲を書いているから、俺が主導権を握っていると言える。しかし、俺はそもそも歌詞を書くタイプの人間でもないし、一方のデイヴィッドは長いこと歌詞を書いてきた経験がある。3人で行動するようになって、一緒に過ごしていると、お互いがよくわかるようになってくるのさ。そうなるとバンドの方向性も自然と見えてきて、お互い刺激し合うようになるんだよ。歌詞のコンセプトも、音楽にピッタリとあったものさ。本当にいろんなことについて話し合ったからね。時間をかけて、自然と全てのことが出来上がってきたのさ。だから、決して俺が指示をしたわけでなく、すべてがチームワークと言えるものだと思う。
「トータル・デストロイ!」オフィシャル・トラック
ー アートワークはとてもオカルティックなタッチですが。
ルネ:(アートワークを手掛けた)ビーラクには、音楽を送って、「どんなものが見える、どんなものが聞こえる?」と聞いたんだ。ウルティマスの曲を聞いて、歌詞を読んで、頭の中にどんなものが浮かぶかってね。そうしたら、彼は古代ローマについての話をし始めた。俺もデイヴィッドも古代ローマが大好きなんだ。それで、その方向性で行こうと。やはりアーティストには曲を聴かせて歌詞も見せないと、お互いの作品が無関係になってしまうからね。参加するものすべてが協力しないといけない。俺としては、これはとても黙示録的なアートワークだと思っているよ。細かくて混沌としていて、象徴的なものがたくさん散りばめられている。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ルネ:本当に本当に、日本をツアーしたいよ。ウルティマスのアルバムが日本でリリースされるのは、最高に嬉しい。日本には一度しか行ったことがないけれど、お気に入りの国だからね。07年だったかな、At the Gatesと一緒にプレイしたよ。美しい国だし、日本人のリスペクト、マナーは素晴らしい。早くまた日本に行きたいね。できれば今年中に。
「ディアボロス・エスト・サングィス」オフィシャル・リリックビデオ
取材・文 川嶋未来
写真クレジット:Pedro Almeida
2019年3月29日発売
ウルティマス『サムシング・ウィキッド・マーチズ・イン』
【CD】 GQCS-90695 / 4562387208968 / ¥2,500+税
【日本語解説書封入/歌詞対訳付き】
【CD収録予定曲】
- サムシング・ウィキッド・マーチズ・イン
- プリヴァリダス
- トータル・デストロイ!
- モノリリス
- トゥルース・アンド・コンセクエンス
- ラスト・ワンズ・アライヴ・ウィン・ナッシング
- エヴァーラスティング
- ディアボロス・エスト・サングィス
- マーチング・オン
【メンバー】
デイヴィッド・ヴィンセント (ヴォーカル)
ルネ”ブラスフィーマー”エリクセン (ギター)
フロ・ムニエ (ドラムス)
ウルティマス オフィシャルページ
https://wardrecords.com/products/detail4971.html